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寝ているだけで代理人が世界征服してしまった話  作者: ルリア
第3章 自殺俱楽部編
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誓約と覚醒5

一月前のアカーシャ。


2001年宇宙の旅のラストに出てきたような白い部屋に、

椅子に腰掛けた少女とソファーに腰掛けたBGさんいる。


薬師(やくし)えつこさん」


身長147センチ。髪がショートボブで前髪に両目が隠れ、

目にはすごいつけ睫毛。

唇はパール系の赤。

肌は日本でいう肌色。


「身体に損傷はなし。

ただし、

心に外傷あり」


BGは脳内に送られてくるデータを発語して確認していく。

老人として、前世紀からの習慣だった。


今に慣れている者なら、

データをイメージとして共同認識して終わり。

言葉が音声化されることは少ない。


「これから君は、

君の中に入っていき、

そこでこれからの人生で決して<しない>と誓うなにかを探してもらいます」


少女は無反応だった。


「君は君の全てを移し替えた<君の世界>で暮らします。

そこでは、

君を傷つけた人たちをやっつけてもいいですし、

何もしなくてもいい」


「殺してもいいの?」

と、初めて喋った声は、

高く細い強く残る声だ。


「自由です」


少女の細い首が蠕動する。


「ただし、誓約をみつけなければ永遠に<君の世界>で暮らすことになりますから、

まあ、

それも最悪の選択肢ではないでしょうが」


少女のひらいた手のひらが閉じる。


「君が再び、

明日の自分を望むのならば、

自分が決してしないと誓えるなにかをみつけだすことです」


BGは少女をマイナス79の世界に閉じ込め、

彼女は昨日までの彼女の全てを具象化した世界へと旅立った。


暮らしていた街や自分の部屋が細部まで再現された霊子の世界で、

彼女は自らの記憶に在る人々と対面する。


大好きな人も、

大嫌いな人も、

自分をこんなに痛めつけた人も、

自分が傷つけた人にも、

再び、

あの時間の全てを経験できる。


街は何層にも重なり、

上から下へと時間を遡る。

今日の街からエレベーターに乗れば、

一つ下は昨日の街だ。


そして、

最下層までたどり着けば、そこにあるのは生まれる前の世界だ。


まるで無限ミルフィーユのように重なった世界を、

薬師えつこは訪れる。


そこでは何をしても自由だ。


好きだった人に告白しても、

憎い人を殺しても、

自殺しても(死ぬ前に戻ってしまうから死ねないけど)、

遊び尽くそうとも、

時間は無限に在るし、

お金に限りもない。


その暮らしの中で、

自分が絶対にしたくない、

決してしない、

という「誓約」を見つけ出した時、

彼女の傷は癒え、

前よりもはるかにつよくなる。


誰かに傷つけられる、

誰かに喜ばされる、

誰かに食べさせてもう、

誰かに世話をしてもらう、

そんな自分ではない、

自分に覚醒(もど)る。


処置が終わると、

外で眺めていた僕のところへ、

彼が説明をしにきてくれた。


BGさんの話をききながら、

僕は思った。


節子、

業の深すぎるペイガンの始まり。

彼女のたてた誓約。


「誰かの物にならなければ、

僕に出会えない」

と、僕はいった。


「ご存知でしたか」

と、BGさんがいった。


「それが、

節子さんの選んだ世界です」


「BGさんは?」


彼は老いた顔の皺をよせて笑顔をつくり、

「それは、

(ぬし)さまの願いを叶えることですな」

と、いった。


「それは誓約じゃなくて、

目標だね」


彼は微笑んだ。


「自殺倶楽部っていうのは刺激的な名前だよね」


「そうですか? 過去の自分(トラウマ)を殺すための愛好者の集まり、

としては適切ではないかと思ったのですが」


「なるほどね、過去の自分を殺すから、

自殺倶楽部か」


僕にも彼の言いたいことがよく理解(わか)った瞬間だ。

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