(続)お正月は餃子の日
「麻布十番、登龍の餃子でございます」
「おーーー!!」
僕は歓声をあげてしまった。
「さすがレム」
「すべて、再現してあります」
なんだ、そのすごい自信。
それを昼間、みせてくれれば僕はこんな疲れなかったんだけどな。
レムが凄く愉しそうにBGさんや節子に餃子を自慢している。
「コウさん、すごいですよ。これ、本当に登竜の餃子そのものです」
「そうでしょう、苦労しました」
うーん、こいつ、まさか餃子作るのに忙しくて僕に肩代わりさせたのか?
「レム、これ、すごく美味しいけど、いつ、作ったの?」
「はい、主様。それは新鮮さが命ですから、皮も具もお昼につくりました。わたしの手作りですよ」
「ほーーーーー」
「えっ??」
「僕が戦っている間、レムは餃子の具をこねて、皮をひいていたわけね」
「いえ、それだけやってたわけでは、ちゃんと霊子ネットワークを全開にしてですね」
「へーーーーー」
「具体的に言いますと、このアカーシャの周囲に裸の特異点を出現させてですね、核爆発のエネルギーを回避していて、あの、それだけでも大変なことなんですよ」
「よくわからない」
僕はBGさんにいう。
「代理人ソフトって、わずか数日でこれだけの誤差がでるってことは、結果的には失敗だったんじゃないかな?」
「そうですね。主さまが冷凍保存されている間は、正常に動いていたはずなのですが、やはり、同一時空に完全に同じ人格と知性は共存できない、というのが正しいようです」
「まあ、そうだよね」
レムが心配そうな顔をしてこちらを見ている。
それにしても、この美少年というか美少女風の肉体は、誰が選んだんだ。
「ねぇ、レムの外見て、BGさんの趣味?」
「いえ、主さまの記憶から再現したはずですが、えー、ちょっとお待ちください」
霊子ネットワークを検索しているようだ。
「オカシイですね。肉体生成に使用したデータが一昨日付で消去されています」
「僕が目覚めたタイミングで?」
「はい」
BGさんが何か言いたそうだったけれど、
「まぁ、いいよ」
と僕は終わりにした。
「レム、ありがとう。皮も具も、とっても美味しいよ」
本当に綺麗な顔を輝かせて、
「まだまだ、一杯ありますから、どんどんたべてください!」
と餃子を取りに行った。
僕はこんなに献身的だったかな? と思っていると節子がきた。
「そっくりですね」
「そうかな? ところで、言い出しっぺのノーラはどこに行ったの?」
「あそこに」
と指差した。
ダイニングからキッチンに入るところで、
なぜか隠れてこちらをのぞいている、
あきらかに不審なノーラがいた。
「餃子、作ってるんじゃなかったっけ?」
「そうなんですけど、どうも、レムが気になるらしくて」
「なぜ?」
「その鈍感さは相変わらずですか」
金髪碧眼で、父親が中国系だから、少しアジア風な顔立ちで中肉中背。
それがおあずけをくらった猫のようにこちらを覗き込んでいる姿に気づかないレムと僕の方がおかしいです、
と節子に怒られた。
「初めてのデートも、私が誘わなければ、ただの飲み歩きで終わってましたよね?」
「多分」
「レムもあなたの分身だけあって、同じなのでしょうね」
そのレムが餃子が一杯乗っているワゴンを押してきた。
「見るに堪えません」
節子がノーラに何事か囁いている。
「今度は、ニラと木クラゲ炒め入りソバも作ってみました!」
本当に綺麗な顔で嬉しそうにして、
華奢な指でソバを取り分けるレムのところへ、
節子がノーラを連れきた。
二言三言挨拶を交わして、
ノーラがレムの手伝いをしながら、
それなりに会話になっているようだ。
安心したように節子は戻ってきた。
「良かったです」
「レム、大丈夫かな?」
「レムの心配はいいんです。ノーラです。これであなたにちょっかいを出すこともないでしょうから、安心して居候させられます」
「僕は九歳の体で、ノーラは十八歳だよ、確か。ありえないよ」
「あなたは私よりも九歳、年下だったんですよ」
と真顔で僕を見下ろて言った。
「そして、今はその倍です」




