鶏肉のマレンゴ風(ザリガニ抜き)
メドック産の赤ワインを飲みながら、
眼前に開いた巨大な穴をみつめている。
超大型貫通弾ですとレムが説明してくれた。
...ペイガンはペイガンということか、と僕は思った。
アカーシャの中心にある神殿で結婚式が始まったと同時に、地球上の全て地域で真実が伝えられ、世界はそれに対して強烈な拒絶反応を示した。
最初の一発目は、予定通りに受け止めた。
被害はアカーシャの天井部分に大きな穴があいただけだ。
折角、レムが僕のために用意してくれた景色が少しだけダメになった。
エル字型の黄色いソファーに腰掛けながら、
グラスを口に運ぼうとすると、
「ダメですよ、子供なんですから」
と白いドレスの節子が笑う。
霊子を使って分解できるから、
前よりもアルコールなどには強くなっているけれども、
僕はグラスをローテーブルにおいて周囲を見渡した。
菜の花畑に黒い穴が空いている。
空は断続的に、真っ白に光る。
レムは伝えてくる。
まるで花火大会ですよ。
世界中の核弾頭が殺到しています。
その割には、
彩にかけてるね。
調整いたしますか?
12色くらいでしたら可能ですが。
やめとく...。それよりも、お腹がすいた。
かしこまりました。少々、お待ちを。
直後、
向こうから特徴的なアスプレイのカクテルワゴンに何かが乗ってくる。
この辺、さすがに僕の代理人ソフト。僕以上に僕のことを理解し、行動するのは僕より早い。
ワゴンのデザインに合わせたのか、
1920年代風、
要するに戦後風のくびれのないワンピースを着た若い女性が押してくる。
「えーと、なんていわたんでしたっけ」
「老鶏のマレンゴ風だよ」
「えぇ、そのとおり」
「らしいね、もう戦後だから、ゆっくり食事を、という配慮らしい」
「どういう意味ですか?」
「まぁ、意味のない蘊蓄だから、次にレムにあったら訊いてみて。きっと、喜ぶと思うよ」
節子は二人で鶏肉を取りわて、
ローテーブルにおいた。
トマトの赤が動脈から出た血液のようだ。
僕はフォークで鶏肉を刺して訊く。
「君、ノーラだよね」




