金閣寺
僕たちが転送されたのは、
京都、上七軒にある一軒家だった。
部屋から部屋へと、
転送されたわけだが、
何とも便利な世の中だ。
成層圏に浮かんでいたアカーシャから京都まで、
一体、何万キロを瞬間移動したのだろうか。
これも霊子の力だ。
玄関をあけると、
そこは石畳。
雪がうっすらと白く染めいた。
「すべりますからね」
節子は部屋に用意されていた着物を、
さっと着ていた。
白地に梅模様。帯は笹。
それに縞模様の道行と時雨草履。
七宝の帯留めがちらっとみえた。
それに対して、
不釣り合いにもほどがあるけれども、
こちらは子供だ。
フード付きのダウンジャケットにブーツ。
それでも、
節子は僕の手を握って、
「あなた、いきましょ」
と笑っている。
「冷たいから手袋をした方がいいよ」
「いいえ、このままで」
「でも」
「それでは、片方だけ」
僕は左手、節子は右手だけ、手袋をした。
通りを北野天満宮へ向かって歩く。
神社には入らず、突き当りを左へと折れる。
神社沿いに左回りに行く。
昔、よく散歩した道だ。
多分、
金閣寺までは30分くらいだ。
「やみました」
「うん」
「一度、お正月の京都に来たかったんです」
「はじめて?」
「はい」
節子は僕の髪の毛にのった雪をはらいつつ、
「やっと、かないました」
と笑窪を深くした。
京都の町並みは、
百年前とそれほど変わらないように思えた。
金閣寺までいって、入場料を、と思ってハッとした。
僕はお金もってない...。
それを察して、
「大丈夫ですよ。今はこうすればいいんです」
と、
入り口に手をかざした。
「これで私だとわかってくれて、自動で課金されるんです」
池の向こうで、
屋根に雪をかぶって、金色に輝く姿は、
百年経っても変わらずに綺麗だった。
観光客の人混みも相変わらずだ。
僕が想像していたより、
地上の生活は変化していなかったようだ。
それも、
僕たちの計画の副産物らしいが。
でも、
こうしていると、
冷凍睡眠に入る前、
節子と一緒に過ごしていた時と、
寸分変わらない日々が蘇った気さえする。
左下から、
節子の顔をみつめていると、
「あなた」
そう、呼ばれるような気がした。
節子は僕が知っている「節子」とかわりないと、
こうして半刻を過ごしただけで、
僕は確信した。
意を決して、
「白拍子、また、みたいね」
と訊いた。
節子は一瞬、
遠慮したように顎をひいてから、
一拍おいて、
「ええ」
と呟いた。
大覚寺大沢池に浮かぶ小舟で舞う白拍子をみたのを僕らは覚えている。
「節子?」
「はい」
僕の顔に雫が垂れた。
「泣いているの?」
「いいえ、髪についた雪が...」
節子は刹那、顔を僕から隠して、握った指先、特に紅指し指に力を込めてから、
「あなた」
と言う。
両手で僕の顔にあてながら、
腰を下ろした節子の顔が僕と同じ高さになった。
「ふにふに」
僕の子供らしく柔らかい頬を弄びながら、
「このお子様が、あのあなたに育つと思うと、育て甲斐があります」
と突然、真顔で言うので、
「ほっぺたで遊ばないで」
と返していたら、
まるで母子の微笑ましい戯れにみえらたく、
周りの観光客に笑いが広がった。
「お部屋に帰ったら、一杯、ふにふにしますからね」
節子は僕に額をこすりつけながら、
囁いた。




