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強面傭兵と願いの奏者 6

 夕刻過ぎに顔を合わせて会話をする事となった、虎獣人のグリスン。自分の知らない世界からやって来た事、自らの姿を目視できる存在に頼りに来た事。その他話された範囲内の事情を、ギラムはしばし考えていた。


 その晩、ギラムは夕食と風呂を済ませベットの上で仰向(あおむ)けになり天井を見ていた。ベットサイドにある照明器具を付けたままぼんやりしており、考え事をしている様だった。

『俺を頼って来てくれたのに、追い返しちまって良かったのかな・・・』

 シャワー後の下着姿にズボンを纏っている状態で、彼は1人静かな環境で考えていた。その日のやり取りの前から、自分に干渉しようとしていた1人の存在を追い返してしまった事。 嘘ではなく事実を話すも、今まで自分を気にして発言に気を使っていた事。優しい眼差しの奥にある彼の心が、自分を必要としていると訴えてくる事。

 その他彼の行動と会話を思い出しながら、ギラムは身体を動かしベットから降りベランダへと向かって行った。


 日が沈んで大分時間が経った外は暗く、街灯と建物の中にある照明器具によるほのかな明かりがあるだけの空間。その日は少し雲が浮かんで星空は見えにくいものの、外気が澄んでいる様子でちらほらと星が見えていた。優しい夜風が彼の元へとやってくると、静かに髪と衣服を靡いき肌に触れた。涼しい風が身体に触れると、ギラムは軽く空気を吸いながら息を吐いた。

『・・・まだ、何処かに居ると良いな。 アイツ。』

 その後もう一度会いたいと思いつつ、ベランダのガラス戸を締めつつ彼は床に就くのだった。





 翌日、朝日が昇ると同時にギラムは朝食を済ませ外へと飛び出した。その日は予定もなく施設へ行くまでの時間を、彼の捜索時間に当てようと決めたようだ。すぐさま行動へと移したギラムは、思い当たる彼の居場所を探し出した。


 まず彼が向かった先は、彼と初めて出会ったアパート周辺の公園だった。目視出来ない相手であっても、自分はすでに見て取れる事が続いている事を祈りつつ、彼は公園へと足を踏み入れた。その後周囲を見渡し花壇に目をやるが、そこにはあの虎獣人の姿は無く朝方のジョギングを楽しむ大人数人が居る光景が広がっていた。

『ココじゃないか・・・ よし、次だ。』

 宛てが外れた事を確認し終えると、ギラムは次の場所へと向かって行った。


 次に彼が向かったのは、アリンとの待ち合わせに使用した都市内にある駅前の公園。先ほどよりも大きな園内のため捜索に時間がかかるだろうと思ったが、彼の心配はさほど気にする事無く終わった。虎獣人の姿は無かったものの、その日は園内の清掃活動が行われており立ち入りが制限されていた。

 企業とボランティアによる清掃だが、清掃中にわざとゴミを置いて行く輩もいるため大がかりではあるがそのような行動を取っていたのだ。 無論ギラムも部外者の為入れないが、そんな忙しい場所に彼が居るとは思わなかったのだ。

『清掃中か。 ・・・となると、ココにもいないな。』

 そんな取り締まり中の園内を軽く覗いた後、彼は再び走り出した。


その後思い当るところを手当たり次第に彼は探していた。



 昨日出会った場所を全て探し、昼食を食べる際に立ち寄るレストランも彼は1つ1つチェックした。入る際の口実は適当に考え彼が言うと、店員はさほど気にする事無く彼の行動を見た後好きにさせていた。建物内の捜索を終えると、それからは自分が歩いた場所を再度辿りアパートへと向かって行った。しかし道中にも彼の姿は無く、捜索を行ってから大分時間が経っていた。

 仕方なく彼は施設へ行くことを決め、バイクの鍵を取り出しエンジンをかけた。 その後数分間バイクを温めている間に身体を動かし、ストレッチをした後彼は施設へと向かって行くのだった。





パァーンッ! パンッ!!


「・・・」

 施設へと到着すると、彼はその日の課題である『射撃訓練』を行っていた。長銃による射撃訓練ではなく、その日は短銃による室内の練習だった。練習とはいえ使用する物は実物であり、弾丸も本物を使用していた。数十メートル離れた場所にある的を狙い、彼は両手で銃を構え弾丸を放っていた。

『・・・フフ、今日も好調ね。』

 そんな彼の後ろには長官であるサインナが付いており、撃ち出した弾丸の命中した場所を1つ1つメモしていた。大体の成績は弾丸の当たった場所で評価が変わり、銃の持ち方も軽く指導し正しい撃ち方をしているかも検査項目として含まれていた。時々慣れていないのにも関わらず両手に銃を持ち放つ者もいるが、練習の為そんな事をしたら彼女の爽快な一撃が待っている。

 それを悟らせるかのように彼女の近くには1本のハリセンが置いてあり、彼女の威力を知る輩は決してサボる事は無かった。その時も怖いが、後も怖いのだ。

『・・・グリスン。 もう俺には見えないのかもしれないな・・・ 奴が諦めたら、目視出来ないって事もあるかもしれない。』

 練習ではあるが熱心に訓練を行いつつ、ギラムは的を見つめながらも頭は別の事を考えていた。今朝から時間を使って捜索したのにも関わらず彼の姿を見る事も出来なかったため、今何処で何をしているのかが気になってしょうがない。

 彼等の様な存在の生活リズム等々を知らない事もあるが、自分と同じであればもしかしたら何処かで『腹を空かせている』のかもしれない。追い払った罪悪感もあるが、いろいろと知らない存在からの干渉は彼の頭を悩ませている様だった。

すると、



バスッ!


「・・・あっ」

「?」

 何時しか考えに頭が集中してしまい、手元がずれ的の外へと弾丸が当たってしまった。迂闊だったと彼は軽く声を漏らすと、その声を耳にしたサインナは静かに彼の横へと立った。その後的を見て、彼が声を上げた理由をなんとなく悟った。

「・・・珍しいわね。 貴方が的を外すなんて・・・」

 持っていたファイルを閉じながら、彼女はギラムに声をかけた。一度銃を降ろし的を見ていた彼を見て、意外そうにサインナは言ったもののそれ以上は何も言わなかった。

「すまない・・・ ・・・訓練中に考え事をするなんて、俺らしくねぇな。」

「考え事・・・?」

 その声に彼は返事を返しつつ、考え事をしていて手元がずれてしまった事を詫びた。彼から告げられた理由に再度彼女は驚くも、頭が上の空であった事を知りファイルに先ほどの弾丸の記録をした。その後ファイルを閉じ、彼を見た。

「今日はこれくらいにして、少し休憩しましょ。 コーヒーでも飲まない?」

「あ、ああ・・・ ・・・そうだな。」

 軽く何かを悟らせるように彼女は言うと、訓練を止めて少し休憩でもしたらいいと提案した。その提案に、ギラムは言葉に迷いつつも受け入れ、銃を元の場所へと戻しつつ彼女と共にその場を後にした。


 説教される事を解ったうえでの理由だったのだが、それでも彼女は何も言わず彼と共に施設内にある喫茶スペースへと向かって行った。射撃訓練を行っていた1階から上層階へとクラスメントで移動し、2人はお茶が出来る部屋へと向かって行った。

 そこは施設内で唯一食事が出来る場所であり、今は訓練によって隊員達は全員出払っている状態だった。そのため今は2人の貸切状態となっており、厨房に居る調理師に彼女は声をかけコーヒーを頼んだ。お金は彼女が支払うと言い、ギラムは何も言わず彼女の好きにさせていた。

 その後用意されたコーヒーを手にした彼女は1つをギラムに手渡し、部屋の窓際の席に行こうと提案した。 提案を聞いたギラムは軽く頷き、その場所へと向かい席に着いた。

「・・・」

「・・・貴方が何かを悩むなんて、珍しいんじゃないかしら。 何かあった?」

 席に着きコーヒーを口にすると、サインナは遠慮しつつも気になる事を彼に問いかけた。それは先ほどの射撃訓練での成績であり、彼が的を外して弾丸を当てる事はまずなかった。それだけの成績を誇っていた彼が、ちょっとした悩みで手元がずれるとは彼女は思わないのだろう。よほどの悩みがあると踏んだ様子で、彼に質問していた。しかし彼はすぐには何も言わず、コーヒーをテーブルに置きつつ目を横へとずらし何から話そうか悩んでいた。

「まぁ、私に言えるほどの悩みでなければ別に良いんだけど。 今後も少し続く様子なら、私も何か策を練らないといけないから。 もし女性の私でも話を聞けるのなら、聞かせてくれない。」

「・・・話せる事は話せるんだが、ちょっとおかしな話に聞こえちまうって思えてな。 悪い。」

「了解よ。 ・・・じゃあ、話せるところで構わないわ。 教えて。」

「解った。」

 軽く押しに負けている様子ではあったが、彼なりに考え話せるところを探していた。今の彼が抱えている悩みは簡単に話せる事ではなく、ましてや黙視できない相手からしたらおとぎ話の様に聞こえても不思議ではない無い様だ。その事を事前に断ると、彼女は再度そういい話せる所だけで良いと頼み込むのだった。彼女の真剣なまなざしを見て、彼は仕方なく話す事にしたのだった。


「一昨日からなんだが、ちょっと変わった奴を見かけてな・・・ そいつと昨日の夕方に話す機会があって、話をしたんだ。 名前は『グリスン』っていうやつだ。 知ってるか?」

 出会った日と話をしたことをギラムは話し、名前を知っているかと彼女に問いかけた。しかし彼女は少し考えた後に首を横に振り、聞いた事が無い名前だと告げた。

「隊員達の名前はちゃんとチェックするけど、多分私達の同士ではないわ。」

彼女も仕事柄隊員達の名前を覚えなければならない立ち位置におり、普段から担当する人もそうでない人の名前も把握していた。


 自分の上に立つ上長官の名前はもちろん、同士の長官達にその部下達の名前を彼女はほぼ全て覚えていた。とはいえ新米としてまだ入って間もない輩は問題行為が無い限りすぐにはインプットされず、覚えるのに2,3か月かかる事も少なくなかった。しかしそんな名前を把握している彼女でも聞いたことが無い名前だと言い、おそらく自分達と同じ仕事をしている人の名前ではないだろうと言った。

「そうか・・・ ・・・それで、そいつが俺に何かを頼みたくてその日はやって来たって言ってたんだが。 俺、断っちまってな・・・ 突拍子もない話だったし、何か裏が見え隠れしててすぐには返事が出来なかったんだ。」

「悪徳商法でも持ちかけられたの?」

「ぁ、いや。 そういう犯罪紛いな話題じゃないんだけどな。 ちょっとおとぎ話に近い話だったんだ。」

 それを聞いたギラムは再度話を続け、自分に何か頼みたい事があると言い接触してきた事を話した。もちろんその後に頼みごとを断った事も告げると、彼女は何処からともなくハリセンを取り出し軽く怒りながらそう言った。慌てたギラムは宥めるように両手を彼女の前にだし、犯罪行為に手を染めるような話題ではないと補足した。それを聞いた彼女は安心した様子でハリセンをしまい、再びコーヒーを口にした。

 砂糖とミルクが入った程よい甘さのコーヒーは、彼女のお気に入りでもあった。彼は何もいれずにそのまま飲んでいるが、その苦味が好きなようだった。

「・・・で、そいつの話題に疑いの目を向けてたら。 とうとう、そいつが本音を話してな・・・」

「本音?」

 話を一時止めコーヒーを口にした後、ギラムは続けて悩みとなる前の事を話した。それは話題の後に彼が真剣な目で告げたことであり、今の彼の悩みの種となっている事柄だった。何を言われたのだろうと気になり、彼女は持っていたコーヒーを一度テーブルの上に置き彼を見ていた。

「『俺を利用するためではなく、純粋に俺と行動出来たら何かを変えられるんじゃないかって思ってる』って言われてな。 俺を本当に頼って来てくれたんだって知って、ちょっと後悔しちまってるんだ。」

「ギラムを頼って来た・・・ね。 ちょっと上手い話に聞こえなくはないけれど、貴方からみてその子の言った事は本音に思ったのよね?」

「ああ。 俺が呆れ混じりに嘘をつかないと駄目な相手に見えるかって言ったら、アイツ急に態度を変えて一生懸命に俺に言ってくれてな。 もちろんそれで今まで言い繕ってきた事が、嘘に変わった時でもあったんだが。 ちょっと嬉しくてな・・・」

 いつの間にか普段の笑顔とは違った顔になっているギラムを見て、サインナは意外そうに見つめながら話を聞いていた。彼に告げられた言葉を聞いて上手い話し方に聞こえなくないと補足し、彼の優しい所を弱みに付け込んだ輩の仕業かどうかを彼女は確認してみた。

 主に彼が感じた心境をそのまま分析するのが彼女のやり方であり、もともと嘘などをつく事が無い彼の意見はとても分析しやすいと彼女は思っていた。その後彼の言葉から告げられた話を聞き、彼女は数回頷いた後コーヒーを口にした。


 そして、彼女は質問を数個投げかけた。



「その子って、貴方から見て結構幼い感じに見えた?」

「・・・あぁ、まぁな。 見た目の割には子供っぽい気がしたぜ。 顔もな。」

「出会った後の話し方と、その話題を振られた時の話し方。 何か差があった?」

「差って言う差はねぇが。 しいて言えば、不安な気持ちが無くなったみたいな気がしたな。 フォローもあったからなのかはわからないが。」

 彼女からの質問に対し彼は答えを述べ、話し方や容姿に関する事柄を問われた。口答による解りやすい反応からの分別もそうだが、当の本人が誰なのかはわからないが彼女からしたら一番気がかりな点だったのだろう。確信を付ける部分を彼から聞きだし、その後彼女は最終的な結論を述べた。



「・・・じゃあ、きっと貴方の感じた感想に間違いはなさそうね。 その子の話、多分事実よ。」

 長官としての分析もそうだが、彼の話し方や経緯全てを聞いたうえで彼女はそう告げた。それを聞いたギラムは再び溜息を付き、棒に振ってしまった事を後悔していた。そんな彼を見たサインナは軽く元気を出すよう告げた後、コーヒーを口にした。

「・・・また会えたら、ちゃんと話を聞いてやりたいんだが・・・ 今朝から居そうな場所をかたっぱしから探したんだが、見つからなくてな。」

「大丈夫よ。 貴方なら。」

「え?」

 悩みながら話すギラムの言葉を聞いて、サインナは何かを感じている様子でそう言った。その言葉を聞いて、彼は驚きながら彼女を見た。

「貴方って、結構縁とかが強い方だから。 干渉する事は苦手なのは解ってるけど、きっと会えるわ。 その子に。」

「・・・そうか。 そう言ってくれると、なんか励みになるぜ。 ありがとう、サインナ。」

「別に良いわよ、これくらいね。」

 驚く原因となった言葉の理由をサインナは話すと、ギラムは少し笑みを取り戻し嬉しそうにそう言った。自分を気にかけて相談に乗ってくれた事もそうだが、彼女なりに分析して自分の不安を取り除こうとしてくれた事。自然と感じるその事柄全てに礼を言うと、彼女はいつも通りの表情でそう言いコーヒーを飲み干した。

 会話の後、その日の彼のメニューを全て後日に回す事にすると言い、彼女はギラムを早々に外の世界へと帰すのだった。悩みを引きずるくらいなら早々に行動し、その結果が彼の励みになればいい。彼女はそう考えている事を彼は悟ると、再度礼を言い部屋を後にした。



 その後施設内の駐輪場に止めたバイクに跨り、施設を後にしたギラム。喫茶スペースの部屋の窓からその様子を見ていたサインナはルージュの引いた唇を少し上げ、軽く微笑みながらコーヒーを口にした。

『フフッ。 そう・・・ 彼もまた、私と同じ運命を辿る人になるのね。』

 元気を取り戻したかのような彼の様子を目にし喜んでいる様子で、彼女は心の中でそう呟きながら後方を見た。するとそこには1人の影が浮かんでおり、彼女の元へと近づき軽く頷いた。影の行動を見るとサインナも頷き、彼の行動の行く末を見守るのだった。


 急遽その日の練習メニューを後日に回してもらう事となった彼は、早々にバイクに跨り施設を後にした。 門番である兵隊に違和感を覚えられたものの、丁度入ったサインナからの電話に特別許可を貰って彼は外へと飛び出した。何処に居るのかも分からない探し人を探して、彼はリーヴァリィの街へと戻るのだった。


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