68 話 思惑が交差する蓬莱編Ⅹ
巨大なサマエルを、十三人は見上げていた。
六枚の黒翼を広げたサマエルは、その巨体から地上の彼らを見下ろし、嘲笑う。
サマエル「下等生物共がここまで抗ったこと、褒めてやろう! だが! ここまでだ!」
晋作「お前に褒められても、なんにも嬉しくねぇんだよ!」
セレナ「その言葉には同意ね!」
海斗「この地……ニライカナイを必ず…!」
サマエルは巨大な腕を前方へ突き出す。掌の前に魔法陣が展開され、凄まじい量のエネルギーが収束していった。
さらに、周囲にも次々と転移魔法陣が開き、その中から異形の魔物たちが姿を現す。
サマエル「ならば、見せてみろ!」
茜「来る!」
サマエルが収束させたエネルギーを解き放つ。
放たれた光線が、十三人めがけて一直線に迫った。
茜は素早く弓を構え、霊力を込めた矢を放つ。それに合わせ、晋作も霊力を込めた弾丸を撃ち込んだ。
だが、矢も弾丸も、サマエルの光線に飲み込まれてしまう。
サマエル「笑止! そんな攻撃で止められるとでも思ったか!?」
次の瞬間、光線の内部から眩い光が迸った。
光線そのものが内側から打ち消され、跡形もなく消滅する。
サマエル「何っ!? 打ち消された!?」
茜「浄化……よ!」
晋作「やっぱり浄化は効くみたいだな! 藤原広嗣にも効いてたから、同じだと思ったが……大当たりだ!」
サマエル「貴様ら……!」
サマエルの表情から、余裕が消えた。
やがて、その口元に再び不気味な笑みが浮かぶ。
サマエル「ならば、お前らの動きを封じてやろう! お前らの援軍である地上部隊にも、同じ攻撃を放つと言ったらどうだ?」
そう言って、サマエルは腕を地上部隊の拠点へと向けた。
総司「くっ……人質か!?」
恒一「平川のいる拠点が……!」
サマエル「仲間? 絆? それがどうした! すべてを守るなどできるはずがない! お前らの弱点は、その数とも言える!」
その時だった。
戦場全体に、重々しい角笛の音が響き渡った。
美雪「この音は……」
晴明「まさか……!?」
総司「そのまさかだね!」
◇
――ISEA自衛隊・オルレアン部隊拠点――
平川「真後ろから角笛だと!?」
振り返った平川の目に、巨大な異界の門が映った。
門の向こうから、次々と兵士たちが姿を現す。
その先頭に立つのは、アストラルディア王国の騎士団総長ガルディアスだった。
エルグラン「何とか間に合ったわい……! ギリギリだったが、あの盾も完成させた。あとは頼むぞ、騎士団総長!」
リディア皇帝「リディア兵、アストラルディア兵、ディスタル共和国兵士に告ぐ! この地にて、日本国を含む世界の連合軍を援護せよ! 重装兵は盾を構え、最前線を固めるのだ!」
号令とともに、大盾を構えた重装兵たちが前へ進み出る。
その後方では、魔術師隊と魔術機械装備兵が戦闘態勢を整えていた。
レヴィン主席「魔術師隊および魔術機械装備兵は、重装兵の後方で待機! 今回は、我らの世界を救った英雄たちへの援軍である! 我らが最前線を維持し、敵を一匹たりとも通すな!」
レオニス国王「必ず生きて全員帰還する! 我らも、この世界の者たちも、一人の犠牲者も出すな!」
全軍「「応!!」」
兵士たちの鬨の声が、戦場に響き渡った。
◇
その光景を目にしたサマエルは、怒りに顔を歪めた。
サマエル「人間共! まだ増えるか!! よほど死にたいらしい!」
サマエルは拠点へ向けた腕の魔法陣に、収束させていたエネルギーを解き放った。
セレナ「まずい! アストラルディア連合を狙っているわ!」
放たれた巨大な光線が拠点へ直撃し、轟音とともに大爆発を引き起こした。
サマエル「ハハハハ! せっかく来たというのにな! すぐに消し飛んだわ! 所詮は人間……下等生物よ!」
だが、立ち上る砂煙が晴れ始めた時、サマエルの表情が一変した。
サマエル「なぜだ!? なぜ消し飛んでいない! 何だ、その光の盾は!?」
重装兵たちが構える大盾から、巨大な光のシールドが展開されていた。
盾には、それぞれアストラルディア王国、リディア帝国、ディスタル共和国の紋章が浮かび上がっている。
三国の兵士たちは陣形を崩すことなく、サマエルの攻撃を真正面から受け止めていた。
エルグラン「うまくいったようじゃな! 新兵器の盾は!」
レオニス国王「シールドを展開したまま、全友軍とともに最前線を押し返せ! ……頼んだぞ。我が国最強の騎士団総長よ……!」
号令が下り、三国の連合軍が一斉に前進を開始する。
光の盾を維持した重装兵たちが魔物の攻撃を受け止め、その後方から魔術師隊と各国の兵士たちが反撃を仕掛けていく。
サマエル「俺の攻撃を防いだ……だと?」
その時、頭上から声が響いた。
ガルディアス「魔剣解放! インフェルノ・レーヴァテイン・オーバーロード!」
直後、サマエルの頭上から凄まじい爆炎が降り注いだ。
ドガァァァン!!
轟音とともに炎が弾け、サマエルの巨体を包み込む。
サマエル「ぐうぅぅ……人間……風情が……!」
炎の中から、ガルディアスが姿を現した。
ガルディアス「まだ焼きが足りなかったか?」
総司「ガルディアス! 来てくれたんだね!」
ガルディアス「当たり前だ! お前らがピンチだって聞いてな? 居ても立ってもいられないってもんよ!」
晋作「フッ、最初の頃とはえらい違いだな!」
ガルディアス「そう言うな……今じゃ、あの時の態度を後悔している。改めて、アストラルディア王国、リディア帝国、ディスタル共和国の三国連合は加勢させてもらうぜ! ま、ダメだと言われても勝手にやらせてもらうがな!」
セレナは微笑んだ。
セレナ「そういうところは変わっていないわね!」
美雪「だけど……頼もしい!」
その時、サマエルが全身から怨念の気を放った。
黒い波動が周囲へと広がり、燃え盛る炎を吹き散らす。
サマエル「何人増えようが同じこと……!」
総司「違うね! これは、俺たちがこれまで出会った人たちと繋がってきた証だ!」
美雪「そうね! 私たちがこれまで関わってきた人たちが、今、助けてくれているの!」
晴明「それはLINKで繋がった者たちだけではない。世界が異なっていても、想いは繋がるということだ!」
セレナ「私たちが紡いできた絆よ!」
晋作「お前にはない力だよ!」
茜「互いに助け合い、足りないものを補いながら、困難に立ち向かう……それが人の心よ!」
総司「そして、新たな強い繋がりがここにもある!」
総司が視線を向けた先には、海鈴と海斗がいた。
海斗「ああ、確かにそうだ!」
海斗は海尊ノ剣を構える。
海鈴「ええ! 私たちも皆さんと一緒に戦います!」
海鈴も潮望の杖を握り直した。
サマエル「我は不死だぞ! もはや、どうにもできまい!」
その言葉に、海尊ノ剣からアマミキヨの声が響く。
アマミキヨ『不死だと? 笑わせるな! 海斗よ、この剣は不老不死を打ち消すことができる!』
海斗「本当かよ!?」
アマミキヨ『ああ! だが、そのためには、まずお前が攻撃を叩き込む隙を作らねばならぬ!』
千代女「そうね! ミズチ、イカヅチ、いける?」
ミズチ「ええ!」
イカヅチ「まったく、水神と雷神の使いが今回は荒いなぁ! だが……悪くない。乗れ、小僧!!」
恒一「はい! イカヅチ様!」
恒一はイカヅチの背に乗り、武器を構えた。
晋作「茜、俺たちは空から行くぞ! ヴァルキリーズの援護も兼ねてな!」
茜「うん、分かった!」
茜は腰のポーチに手を伸ばす。
茜「シン、出番よ! 力を貸して!」
待ってましたと言わんばかりに、シンがポーチから飛び出した。
赤い光がシンの身体を包み込む。光が弾けた時、そこには本来の姿を取り戻したレッドドラゴンがいた。
晋作と茜はその背に飛び乗ると、シンとともに大空へと舞い上がった。
クー・フーリン「晴明! 青龍を少し借りていいか?」
晴明「構わない!」
クー・フーリン「合図したら、俺を真上に飛ばしてくれ! 考えがある!」
そう言うと、クー・フーリンは素早く青龍の背へ飛び乗った。
クー・フーリン「今だ、晴明!!」
その合図とともに、青龍が力強く身を翻す。
するとクー・フーリンの身体が青龍の背から高く跳ね上がり、すごい勢いで直上へ跳躍するとヴァルキリー5のコックピットの上に着地した。
ガコン!!
如月美咲「何!? もしかして被弾した!?」
突然、機体に衝撃が走り、美咲は操縦桿を握り直した。だが、警告音は鳴らず、計器にも異常は見られない。
美咲「……被弾じゃない? いったい何が……」
すると、機体の上方から聞き覚えのある声が響いた。
クー・フーリン「よう!」
美咲「……は?」
思わず顔を上げた美咲は、目を丸くした。
そこには、信じられないことに戦闘機の機体上部にしがみつくクー・フーリンの姿があった。
美咲「ちょっっ!? クー・フーリン!? あんた、そんなところで何やってんの!? ここ、高速で飛んでる戦闘機の上よ!? なんでそんなところに乗れるのよ!」
クー・フーリン「まぁ、いいじゃねぇか! それより、残弾はどうなってる?」
美咲「よくないわよ!! ……はぁ、もう! ミサイルは残り一発、バルカンはまだ十分にあるわ!」
クー・フーリン「分かった! タイミングを見て、あのデカブツに大穴を開ける! いいな、俺の言う通りにしろ!」
美咲「……なるほど。何か考えがあるってことね!」
驚きは残っていたものの、美咲はすぐに気持ちを切り替えた。
美咲「いいわ! どうすればいい?」
クー・フーリン「そのまま合図するまで、周りの魔物を片付けるぞ! チャンスが来たら、俺が合図する!」
美咲「了解! 振り落とされても知らないわよ!」
クー・フーリン「ハハッ! 心配すんな! そう簡単に落ちる俺様じゃねぇよ!」
美咲は操縦桿を握り直し、再び機体を旋回させた。
クー・フーリン「よし、行くぜ!」
戦闘機は再び魔物の群れへと突入していく。
クー・フーリンは機体上部で風を切りながら、巨大なサマエルを鋭い眼差しで見据えていた。
――地上――
美雪は潮風を受けながら、サマエルを見据え、静かに詠唱を始めた。
美雪「天に霜華、地に氷獄――。
白銀の世界より目覚めし、気高き氷の御霊よ。我が声に応え、その威光を示しなさい。氷龍――!」
総司と美雪のLINKが共鳴し、二人の身体から蒼白の光が溢れ出す。
その光は大気を駆け巡り、周囲の気温を一気に低下させた。吹雪が巻き起こり、無数の氷晶が渦を描く。その中心から、白銀の鱗を輝かせた巨大な神龍が姿を現した。
長い髭をたなびかせ、鋭い眼光を放つ氷龍。その威容は、まさに東洋の神龍そのものだった。
美雪「総司くん!」
氷龍の頭上に乗った美雪が、総司へと手を伸ばす。
総司はその手をしっかりと握り、氷龍の頭へと飛び乗った。
総司「よし! 行こう、美雪ちゃん!」
美雪「うん!」
二人を乗せた氷龍は、咆哮とともに大空へと舞い上がる。その巨体から冷気を放ちながら、サマエルへと一直線に迫った。
美雪が片手を掲げると、周囲の氷晶が一斉に集まり、無数の氷柱状の槍を形成する。
美雪「貫きなさい!」
放たれた氷槍が、サマエルへと一斉に襲いかかった。
サマエルは巨大な左腕を掲げ、迫り来る氷槍を受け止める。
サマエル「その程度か?」
美雪「それはどうかしら?」
次の瞬間――。
晋作「霊刃・飛天!」
ジャンヌ「ホーリースラッシュ!」
二つの斬撃が、サマエルの左腕を瞬く間に切り裂いた。
サマエル「この程度で図に乗るなぁ!!」
晋作「そうかぁ? 焦り始めてるぞ?」
サマエル「ちょこざいな……! 叩き落としてくれる!」
サマエルの背中から、怨念の力を帯びた無数の触手が伸びた。
六枚の黒翼の隙間から現れた触手は、まるで意思を持つ生き物のようにうねり、空を飛ぶ総司たちへと襲いかかる。叩き落とそうと振り下ろされるもの、身体を貫こうと鋭く伸びるものが、四方から彼らに迫った。
ラファエル「させるか!」
ラファエルは大剣に魔力を集中させ、迫り来る触手へと鋭く斬り込んだ。
刀身から迸る魔力が青白い光の刃となり、四方から襲いかかる触手を次々と迎え撃つ。重厚な剣撃が空気を震わせ、斬り裂かれた触手が黒い飛沫を散らしながら弾け飛んだ。
さらに踏み込んだラファエルは、最後の一本を大剣で力強く薙ぎ払う。
ラファエル「その程度で、俺たちを止められると思うなよ!」
サマエル「低級どもとは違い、この程度では無理か! 不本意だが認めよう! 下等生物ながら、ここまで抗えることを!」
サマエルの身体から、さらに濃密な怨念が噴き上がる。
サマエル「だがな、ここからは別だ! 貴様らが龍などを使うなら、こちらも相応の対処をするまで! 召喚術式、起動……!」
次の瞬間、サマエルの頭上に巨大な魔法陣が展開された。
複雑な紋様が幾重にも重なり、戦場全体を覆うほどの魔力が収束していく。
ルシウス「おいおい、まだ増えるのか!!」
サマエル「低級の奴らとは違う! 今回は貴様らを薙ぎ払うための奴らよ! 目覚めよ! 我が敵となる者を滅せよ!」
サマエルが両腕を広げ、召喚の名を叫ぶ。
サマエル「堕天獣王ヴァルグリム・ビースト!! リヴァイアサン!! 堕天不死鳥ノクス・フェニックス! 堕天竜王アザルヴェイン! そして、黙示録の竜!!」
サマエルの呼び声に応じ、戦場を覆う闇が激しく渦巻いた。
大地を震わせながら、黒き巨獣ヴァルグリム・ビーストが姿を現す。その鋭い牙と爪には、神獣の霊力すら喰らう禍々しい力が宿っていた。
続いて、空間を引き裂くように巨大な海蛇リヴァイアサンが出現する。荒れ狂う水流をまとったその巨体が、戦場を見下ろした。
天高く舞い上がったのは、黒紅の炎を纏うノクス・フェニックス。羽ばたくたびに不吉な火の粉が降り注ぎ、周囲を侵食するように闇の炎が広がっていく。
さらに、六枚の翼を広げた堕天竜王アザルヴェインが咆哮を轟かせた。砕けた光輪を背負い、黒紫色の魔力を全身から噴き上げている。
そして最後に、空を覆い尽くすほどの巨大な竜が姿を現した。
幾つもの首をうねらせ、深紅の眼光で戦場を睥睨する――黙示録の竜。
五体の超越存在が並び立ち、その圧倒的な威圧感が戦場を支配した。
セレナ「四神に対応するように、ぶつけてきたの!?」
サマエル「これが俺にできる最大の召喚よ!」
ヴァルグリム・ビーストの前に白虎が立ちはだかり、互いに鋭い殺気を放つ。
リヴァイアサンと玄武が対峙し、荒れ狂う水流が周囲を呑み込んでいく。
ノクス・フェニックスと朱雀が大空で睨み合い、紅蓮の炎が激突する。
アザルヴェインの前に青龍が浮かび、蒼き神気と黒紫の魔力が激しくぶつかり合った。
そして、四神を見下ろすように、黙示録の竜が戦場を覆う巨大な影を広げる。
海斗「本当に……ニライカナイを滅ぼす気か!!」
晴明「まずいね……。いくらLINKの力があるとはいえ、西洋のほぼ同格の神獣や霊獣級が相手だ。それに、黙示録の竜まで……!」
総司「晴明! 俺たちは氷龍と、あの真ん中のデカいのを相手にする!」
晴明「待て! あれは名前の通りなら、黙示録に記された多頭竜……。あれは私とセレナで相対するよ。総司と美雪は、ほかのメンバーとサマエルに集中してくれ! 残る四体も四神で対処する!」
総司「晴明がそう言うなら、信じて任せるよ!」
セレナ「何か秘策でもあるの? 私と貴方なら、キツイけどできなくはない気はするけど…」
晴明「取っておきがあるのは確かだ……。四神の中央に位置する者が…ね」
セレナ「四神の中央?」
セレナが問いかけるも、晴明は答えず、静かに印を結んだ。
晴明「青龍、朱雀、白虎、玄武――四方の守護をもって、中央の理を開け」
晴明の詠唱に呼応し、青龍、朱雀、白虎、玄武がそれぞれ咆哮を上げた。
青、朱、白、黒――四つの霊力が天へと立ち昇り、戦場の中央へと集束していく。
大地が低く鳴動し、四神の力が交わる場所から黄金の光が溢れ出した。
その光は周囲へと広がり、荒れ狂う魔力さえも押し返すほどの神聖な気配を放っていく。
晴明「五行の中心を司りし、至高の神龍よ……今こそ、その御姿を現せ!」
直後、黄金の光を突き破り、一体の巨大な龍が天へと昇った。
全身を輝く金色の鱗に覆われ、長い髭をたなびかせる神龍。その威容は四神にも劣らず、全身から溢れる霊力が大地と天空を満たしていく。
晴明「五行の中心を司る神獣…黄龍、顕現――!」
黄龍が天を震わせる咆哮を放った。
その瞬間、青龍、朱雀、白虎、玄武の霊力が黄龍へと集束する。五体の神獣が共鳴し、戦場を包み込む巨大な霊的結界が形成されていった。
五行の巡りが整い、四神の力が黄龍を中心に一つの大きな循環を生み出す。
その光景を見つめていたセレナは、驚きに目を見開いた。
セレナ「これが……黄龍!? 貴方の取っておき…」
晴明「ああ。四神が揃った今だからこそ、顕現できる存在だ。黄龍が加われば、五行の均衡もさらに強固になる!」
セレナ「なるほどね……」
二人は黄龍の頭へと飛び乗った。
黄龍は二人を乗せると、黄金の光を全身から放ちながら、黙示録の竜へと鋭い眼差しを向ける。
その巨大な竜もまた、幾つもの首をうねらせ、黄龍を睨み返した。
神聖な黄金の霊力と、世界を終焉へ導くかのような禍々しい魔力。
二つの巨大な存在が対峙したことで、周囲の空気が激しく震え始める。
晴明「セレナ、行くぞ!」
セレナ「ええ!相手にとって不足はないわ!!」
黄龍が力強く咆哮し、黄金の光をまとって飛翔する。
晴明とセレナを乗せた黄龍は、黙示録の竜へと真っ向から向かっていった。
黄龍が咆哮し、黄金の霊力が全身を駆け巡る。
その頭上で、晴明は陰陽術を展開。五行の気を操り、黙示録の竜の動きを封じようとする。
晴明「五行の理よ、我が意に従え!」
黄金の光が敵の巨体を包み込む。だが、黙示録の竜は複数の頭をもたげ、黒紫の魔力を一斉に放った。
黄龍が身を翻して攻撃をかわす。すさまじい魔力が周囲の雲を吹き散らし、空間そのものを震わせた。
セレナ「晴明、魔力の流れを読んで!」
晴明「分かってる!」
晴明は陰陽術で魔力の流れを見極め、その源を捉える。セレナも天の逆鉾を構え、流れを反転させる機をうかがった。
セレナ「――天の理よ、邪なる流れを覆せ! 神座返し!」
天の逆鉾が神威を放つ。
黒紫の魔力が激しく揺らぎ、流れそのものが反転。放たれた攻撃は勢いを失い、黙示録の竜へと逆流していく。
自らの魔力に呑まれまいと、竜は咆哮を上げて翼を広げた。その隙を、晴明は見逃さない。
晴明「今だ、セレナ!」
セレナ「ええ!」
晴明が五行の気を黄龍へと集め、セレナもLINKを通じて五行の力を重ねる。黄金の霊力が膨れ上がり、黄龍の全身を包み込んだ。
黄龍が大きく口を開き、黄金の光を解き放つ。
強烈な一撃が黙示録の竜を直撃。黒紫の魔力を打ち破り、その巨体を大きく後退させた。
晴明「まだ終わりじゃない!」
セレナ「当然よ。ここから一気に押し切るわ!」
二人の意志に応えるように、黄龍が再び咆哮する。黄金の輝きが戦場を照らし、黙示録の竜との激闘はさらに激しさを増していった。
一方、サマエルとの戦場。
氷龍の頭上では、総司と美雪がサマエルの動きを警戒していた。
総司「セレナと晴明さんがあっちを相手してくれてる間に、サマエルを何とかしないと……」
美雪「うん。サマエルを倒せれば、魔力の供給が途切れて、召喚された五体も弱まるか、消滅するかもしれない」
そこへ、レッドドラゴンのシンに乗った晋作と茜が合流する。
晋作「どうするよ……。浄化した部分は再生が遅くなってるが、決定打にはなってねぇ」
総司「やっぱり、海斗の海尊ノ剣が鍵を握ってるんだろうね」
茜「だったら、海斗君がサマエルに近づけるよう、道を作るのが先決じゃない?」
美雪「そうね……」
その時、地上から声が響いた。
海鈴「総司さん、美雪さん、晋作さん、茜さん!」
四人が海鈴たちのもとへ向かおうとした瞬間、サマエルが翼を大きく広げた。
サマエル「作戦会議か? させると思うか!?」
黒い翼から無数の羽が舞い落ちる。羽は空中で静止したかと思うと、サマエルの意志に従って動き始めた。
晋作「総司、美雪! あれは俺たちが食い止める! 海鈴のところへ行って策を練ってくれ!」
総司「……頼んだよ!」
晋作「ああ、任せろ!」
総司と美雪は氷龍を操り、地上へと降下していく。
残った晋作と茜を、無数の羽が取り囲んだ。
茜「この羽、もしかしてオールレンジ攻撃なんじゃ!?」
晋作「な、何だ? オール……レンチン?」
茜「あーもう! 羽をレンチンしてどうするの!! オールレンジ! 全方位からの攻撃ってこと!」
晋作「だったらそう言え! いきなり横文字を使われると……!?」
言い終える前に、鋭利な羽が全方位から襲いかかる。
茜「ほら、やっぱりぃぃ! って、多すぎ! これじゃ避けきれない!」
シンは翼を大きく広げ、急旋回を繰り返しながら羽の嵐をかわしていく。
晋作「シン、考えがある! 青龍のいる方向へ飛べ!」
シンは唸り声を上げ、青龍のもとへ向かって急加速する。羽も軌道を変え、その後を追った。
晋作「まだだ……まだ引きつけろ……」
茜「晋作さん、何をするつもり?」
晋作「今だ! 真上に急上昇しろ!」
シンは急角度で上昇。追尾する羽も、その後を追って高度を上げていく。
晋作「そのままだ! 合図したら、あの敵の竜に炎弾をぶち込め! 撃ったらギリギリで横を抜けろ!」
シンは意図を理解したように唸った。
晋作「今だ!」
シンが放った炎弾が、堕天竜王アザルヴェインに直撃。爆炎がその巨体を包み込む。
直後、シンは爆発のすぐ脇をすり抜けた。追尾していた羽は軌道を変えきれず、煙の中のアザルヴェインへと殺到する。
晋作「よし、うまくいったな!」
シンはそのまま敵の間を縫うように飛翔し、次の攻撃に備えた。
一方、サマエルの羽は地上の総司たちにも襲いかかっていた。
鋭い羽が目前に迫った、その瞬間――。
海鈴は潮望の杖を構え、祈るように唱えた。
海鈴「土と風の加護よ……我らを守り、悪しきものを遠ざけて!」
地面から土壁がせり上がり、飛来した羽を弾き返す。さらに強風が巻き起こり、空中の羽を次々と地面へ叩き落とした。
海鈴「良かった……ちゃんと使えた」
美雪「すごいよ、海鈴ちゃん!」
海鈴「まだまだですよ……。加護も杖の力も、まだ使いこなせていませんから」
海斗「それは俺も同じだ……。海尊ノ剣の力を、どう使えばいいのか……」
海尊ノ剣から声が響いた。
アマミキヨ「今度の使い手は慎重だな……。まぁ、悪くない」
総司「サマエルの不死を打ち消すには、どうすればいいのかな?」
アマミキヨ「この剣を奴の怨念の力の源に突き刺すか、斬りつけるのが一番だ。だが、あの巨体では難しいだろうな……その付近でも構わん」
海斗「その力の源はどこに!?」
アマミキヨ「分からん。心臓か、頭か……」
美雪「多分だけど……角じゃないかな? 三本の角!」
一同「角!?」
美雪「うん。サマエルが蘇我入鹿を乗っ取った時、角が三本になったの。それに、攻撃する時も角に魔力を集めて撃ち出していたでしょ? だから、もしかしたら……って。確証はないけど」
その時、SDからクー・フーリンの声が割り込んだ。
クー・フーリン「場所が分からねぇんだろ? なら、心臓の方は俺に任せな!」
海斗「出来るのか!?」
クー・フーリン「ああ! やれなくはねぇ!」
千代女「なら、私たちはサマエルの動きを封じる方ね!ただ、順番はクー・フーリン、私たち、その次がいいかも……」
そこへ、晋作からも通信が入る。
晋作「なら、海斗は俺と茜がタイミングを見て連れていくぜ! 総司、美雪、ジャンヌ、ラファエルは援護を頼む! 不死が解けたら、総攻撃だ!」
ジャンヌ「分かりました! 狙うは二箇所、総力戦ですね!」
ミズチ「でも、足止めってどうするの?」
イカヅチ「痺れさせるか?」
千代女「二人には、この辺りに敵を近づけさせないようにしてほしいな」
恒一「なら、どうやって……」
千代女「あんな巨体を相手にできるのって、一つしかいないわよ〜」
恒一「って、まさか……また大蛇8匹を!?」
千代女「近いけど、今回は本物を呼び出すつもり!」
ミズチとイカヅチが目を見開いた。
イカヅチ「待て待て! あの八岐大蛇か!?」
ミズチ「いくら何でも制御できるはずない! 私たち以上の力を持つ、蛇の頂点ともいえる存在よ!」
千代女「LINKの力が働いてるから、できなくはない気がするけど……」
ミズチ「バクチもいいところよ!」
千代女「前に八岐大蛇もどきを口寄せした後、伊吹童子が来たんだよね…その時に話したのよ。次はもどきじゃなく、本物を口寄せしてみろって」
恒一「伊吹童子が……?そんな事聞いてない…」
千代女「だから、やってみるつもり。恒一君ともLINKで繋がってるし、何とかなるかなって!」
ミズチ「伊吹童子がそこまで言ったのなら……見届けるわよ!」
イカヅチ「恒一、事が丸く収まったら、お前とも正式に契約してやろう! その時は認めてやる!」
千代女「頑張らないとね、恒一君! 私を頼むね!」
恒一「こりゃ否定できないな……。必ず!」
再びSDからクー・フーリンの声が響いた。
クー・フーリン「そろそろいいか? セレナと晴明に負担をかけてる! サマエルの体に大穴が空いたら作戦開始だ!」
クー・フーリンは機体の上で膝をつき、投擲の構えを取った。
クー・フーリン「如月! そのままサマエルに突撃しろ!」
美咲「はぁ!? 本当に言ってんの!?」
クー・フーリン「まだミサイルが一発残ってんだろ? 小物はバルカンで片付けながら向かってくれ! なぁに、俺も魔術は使える。強化と露払いくらいはやってやるから、心配すんな!」
美咲「分かったわよ! どうなっても知らないんだから! 行くわよぉ!!」
ヴァルキリー5が急加速。旋回しながらバルカンを撃ち、進路を塞ぐ敵を次々と撃ち落としていく。
機体上のクー・フーリンもルーンを発動。左右から迫る悪魔を爆発させ、進路を切り開いた。
クー・フーリン「ミサイルはサマエルにぶつけろ!」
美咲「了解! 敵を目視で確認、ターゲットロック完了!」
ラプター1のノアから通信が入る。
ノア「風の精霊に誘導させ、必中させます! よろしいですね!」
美咲「願ったり叶ったりよ! いつでも撃てるわ!」
クー・フーリン「まだだ……!」
コックピットの警報が鳴り響く。美咲は左右に機体を振り、敵の攻撃をかわしながらも、一直線にサマエルへと迫っていく。
そして――。
クー・フーリン「今だ! 発射!!」
ミサイルが放たれた。同時にクー・フーリンはゲイ・ボルグに魔力とルーンを込める。
クー・フーリン「ドゥーム・オブ・ダーナぁぁ!!」
渾身の力で投擲された赤い槍が、ミサイルの後を追う。
ミサイルがサマエルに着弾し、巨大な爆発が巻き起こった。その煙を突き破り、ルーンを刻まれた赤い槍が飛翔。サマエルの心臓付近を貫いた。
槍の勢いは衰えず、巨体に大穴を穿つ。
サマエル「き、貴様らぁぁぁ!!」
千代女「今ね!」
千代女は両手を広げ、口寄せの術を発動させる。
千代女「常世の底に眠りし、八つの頭を持つ荒ぶる神よ。幾千の歳月を越え、今一度この世にその威を示せ――我が呼び声に応え、顕現せよ! 口寄せの秘術――八岐大蛇!」
千代女の足元から、黒紅色の紋様が八方へと走る。紋様の交点で空間が裂け、古代の神代文字が宙を舞った。
裂け目の向こうから、八つの巨大な頭がゆっくりと姿を現す。黄金の瞳がそれぞれ獲物を捉え、長大な胴体が戦場を覆い尽くしていった。
それは召喚された獣というより、長き封印から目覚めた古き災厄そのものだった。
八岐大蛇は八つの頭をもたげ、千代女を見下ろす。
次の瞬間、千代女の身体から力が抜けた。彼女はその場に膝をつき、俯いたまま動かなくなる。
ミズチ「千代女!!」
イカヅチ「……やはりか」
恒一「……」
恒一はそっと千代女の肩を抱いた。
――千代女の精神世界。
果てしない闇の中、千代女は誰かの声に呼び起こされた。
???「起きろ、蛇の呪いを持つ者よ……」
千代女「……」
八岐大蛇「よもや、この八岐大蛇を呼び出すとはな! 前回は八匹の大蛇を合わせ、我を模倣したな? そんなに力が欲しいか!!」
八つの頭が千代女を取り囲み、黄金の瞳が一斉に睨みつける。
八岐大蛇「蛇の呪いを受けしその身、今すぐ八つ裂きにして喰ろうてやろうか!」
???「そうはさせない!」
千代女「恒一君!? どうしてここに!?」
現れた恒一は、そっと千代女の肩を抱き寄せた。
恒一「どうしても八つ裂きにするっていうなら……抵抗させてもらう。食われる時は俺も一緒にだ」
その瞬間、二人のネックレスが強く輝き始める。
八岐大蛇「その力……!は何だ!」
恒一「これは俺たちの絆の力だ!」
八岐大蛇「ならば、二人をその力もろとも喰らってやる!」
八つの頭が一斉に二人へと伸びる。
???「そのくらいで良いんじゃないですかね? 父上」
八岐大蛇「……伊吹か」
八岐大蛇の動きが止まる。二人の前に現れたのは、伊吹童子だった。
伊吹童子「私は、この二人の行く末を見届けたい。蛇の呪いを受けし者と、その運命を共にしようとする者……その歩みをね」
千代女「伊吹童子……あなたは、なぜ?」
伊吹童子「なぜ、か……。その呪いは、平安の世から代々受け継がれてきたものだろう?実はその呪いを施したのは、私だからだ!とは言っても、魂の片割れだがな!」
千代女「……酒呑童子!」
伊吹童子「そう!大江山の酒呑童子…だが奴は今、法師陰陽師の傀儡となっている」
千代女「まさか、この呪いは蘆屋道満が……?」
伊吹童子「そうだ」
恒一「ちょっと待った。呪いって、どういうことだ?」
千代女「……隠していてごめん。私がいろんな蛇を口寄せできるのは、この呪いが関係しているの。望月家に代々受け継がれてきた……蛇との契約…そして死の呪いよ」
恒一「そんなものが……!」
千代女「前に話した時は、そんなものはないって言ったけど……実は本当なの」
恒一は言葉を失い、千代女の肩を抱く手に力を込めた。
伊吹童子「父上に会うよう勧めたのは私だ。その呪いにある『死』という概念を、何とかできないか…とな。いずれ高天原との関係も深まるだろうし……」
伊吹童子は八岐大蛇へと向き直った。
伊吹童子「父上。ここは俺の顔に免じて、この者たちを受け入れてくれ!」
八岐大蛇「……人間など、我にとっては食い物でしかなかったが?」
伊吹童子「確かに神話の時代はそうだ…だがこの者は時を超え現代に至る。この時代でどう生き抜くかを見てみたい。それに…そろそろ表舞台へ出ても良い頃だとは思うので…我らが生きた後の世、この国を他国の異能者達に攻められるのを黙って見てるのは…とね。世界を震撼させた神話の八岐大蛇此処に有り!と見せつける絶好の機会!」
八岐大蛇はしばし二人を見据え、やがて大きく息を吐いた。
八岐大蛇「とりあえず、お前たちを元の場所へ戻す。話は目の前の敵を片付けてからだ! 今からの戦いで見定めてやる。良いか!ダメだと判断した時には二人とも八つ裂きだ!」
伊吹童子「チャンスはくれたってことか……。しっかりな、お二人さん!」
千代女「ちょっと待って! 高天原って、どういうこと!? まだ聞きたいことが――!」
問いかけを終える前に、千代女と恒一の身体がまばゆい光に包まれた。
一方、サマエルとの戦場。
千代女はゆっくりと目を開けた。目の前には、八つの首をもたげる八岐大蛇。そして、すぐそばには心配そうに自分を見つめる恒一の姿があった。
千代女「戻ってきた!?」
恒一「千代女さん……大丈夫?」
千代女「ええ、なんとか……って、出遅れた!」
千代女は慌てて立ち上がり、戦況を確認する。サマエルを拘束するための作戦は、すでに予定より遅れていた。
千代女「ごめん! タイミング、めちゃくちゃになっちゃった!」
晋作「あんなデカブツを呼び出したんだ。そんなこともあるって」
いつの間にか合流していた晋作が、苦笑交じりに答える。その視線の先では、八岐大蛇がサマエルを見下ろしていた。
千代女「今からサマエルの身動きを封じるわよ!」
恒一は千代女の耳元に顔を寄せ、静かに告げた。
恒一「千代女さん、ここからは八岐大蛇の試練だ。一緒に乗り越えるよ!」
千代女「やっぱり、さっきのはあなたも一緒だったのね……! 精一杯やるだけよ!」
恒一「ああ!」
千代女は意を決して八岐大蛇を見上げた。
千代女「八岐大蛇! あなたの力でサマエルの動きを封じて!」
八岐大蛇「目覚めていきなりか……。まぁ、良かろう! 見定めるにはちょうど良い!」
八岐大蛇は八つの首を大きく広げ、サマエルを囲むように長大な胴体を巻きつけた。巨体を締め上げられたサマエルは、胸の大穴から黒い魔力を漏らしながらも、なおも余裕の笑みを浮かべている。
サマエル「フン……東方の神話に名を連ねる大蛇風情が、俺を拘束した程度で勝ち誇るとはな。所詮、異なる神話に生まれた存在……我ら高位の者たちと同列に並べると思うな!」
その言葉に、八岐大蛇の黄金の瞳が細められた。
八岐大蛇「ほう……神話が異なるというだけで、己が上だと言い張るか。随分と傲慢な堕天使よな」
サマエル「傲慢だと? 格の違いを述べているに過ぎぬ! 貴様ら東方の神々がいかに古き時代を生きようと、我らの前では辺境の神獣に過ぎん!」
八岐大蛇「ククク……ならば、その辺境の神獣に縛られている己の姿を、よく見るがよい!」
八つの首が一斉に動き、サマエルの身体をさらに強く締め上げた。巨体が軋み、サマエルの顔から一瞬だけ笑みが消える。
サマエル「ぐっ……! この程度で、俺を封じたつもりになるな!」
八岐大蛇「我を格下と侮るのは勝手だ。だが、今この場でそなたの自由を奪っているのは、その格下とやらだぞ?」
サマエルは黒い魔力を噴き上げ、拘束を振りほどこうとする。しかし、心臓付近に穿たれた大穴から力が漏れ続け、八岐大蛇の締めつけを破れない。
八岐大蛇「さあ、異国の堕天使よ。己の言う格の違いとやらを、我の拘束を破って証明してみせよ!」
千代女「今よ!」
晋作「分かった! この隙を無駄にはしない! 行くぞ、海斗!」
海斗「ああ! 頼む!」
シンは三人を背に乗せ、力強く翼を羽ばたかせた。晋作が進路を見定め、茜が周囲の敵を警戒する。その間に、海斗は海尊ノ剣を強く握り直した。
茜「シン、まだいける?」
シンは力強い雄叫びを返すと、サマエルへ向かって一気に加速した。
総司「俺たちもだ……美雪ちゃん!」
美雪「ええ! 行こうか、海鈴ちゃん!」
海鈴「私も?」
美雪「あなたの力も、海斗君を守りたいんでしょ?」
美雪が優しく手を差し伸べる。海鈴は一瞬戸惑ったものの、その手を取って氷龍の頭上へと乗り移った。
ジャンヌ「周りは私とラファエルで固めますから、安心してください!」
ラファエル「心配すんな。任せとけ!」
ジャンヌ「もう、言い方がきついですよ! 本当にラファエルは真面目すぎるんですから……」
緊迫した状況の中で交わされた二人のやり取りに、海鈴の表情もわずかに和らいだ。
氷龍はシンを追うように飛翔し、ジャンヌとラファエルも左右から二人を守るように飛び立つ。サマエルへ向かう道は、いよいよ最後の局面を迎えようとしていた。
サマエル「忌々しい!! 東洋の神話の存在どもと人間どもめがぁ……!」
八岐大蛇「ほお? 大したものだ! これだけ縛られていながら、まだ動こうとするとは……」
八岐大蛇はサマエルの抵抗を楽しむように、さらに力を込めた。
八岐大蛇「堕天使よ、お前に引導を渡す者が来るぞ!」
海斗「ニライカナイを戦場にしたことも、皆を苦しめたことも……長の一人として、そして海尊ノ剣の担い手として、俺はお前を決して許さない!」
海斗の叫びに、サマエルは嘲るような笑みを浮かべる。
サマエル「人間如きが図に乗るな! 許さないならどうする!?」
サマエルの身体から無数の触手が伸び、海斗へと襲いかかった。
しかし、触手が届く直前、美雪の放った冷気がそれらを凍りつかせる。氷に閉ざされた触手は、次々と砕け散った。
美雪「海斗君には、指一本触れさせない!」
サマエルは舌打ちし、今度は触手だけでなく黒い羽を周囲に展開する。さらに三本の角が輝き、魔力の光線が海斗たちへと放たれた。
晋作は刀に破魔の気をまとわせ、迫る触手を斬り裂く。茜も次々と矢を放ち、浄化の力で触手を消し去った。ラファエルは魔法剣を振るい、飛来する羽を撃ち落としていく。
そして、光線が迫る中、海鈴は潮望の杖を高く掲げた。
海鈴「自然の加護よ、私たちを守って!」
大地から立ち上る力と、渦巻く風が光線を包み込む。魔力の輝きは次第に薄れ、海斗たちへ届く前に霧散した。
サマエル「醜い人間どもがぁ!!」
千代女「八岐大蛇! 巻き込まれないように、そこから離れて!」
八岐大蛇「承知した!」
八岐大蛇はサマエルの拘束を解き、素早くその場を離れた。
その時、遠方から晴明の詠唱が響き渡る。黙示録の竜と戦っていたはずの晴明が、黄龍の頭上からサマエルへ向けて術を放とうとしていた。
晴明「忿怒の尊よ、明王の御威光をもって、諸悪を焼き払い、邪なるものを浄めたまえ! 煩悩を断ち、魔障を滅する不動の炎よ、今ここに!」
黄龍の周囲に黄金の霊力が渦巻き、晴明の術に応じて炎が燃え上がる。
晴明「――ノウマク・サンマンダ・バザラダン・カン! 不動明王火界呪!!」
直後、サマエルの巨体が猛火に包まれた。黒い羽は炎に呑まれ、次々と焼け落ちていく。
サマエル「俺は不死だ! 何度斬られようと、何度砕かれようと、何度焼かれようと再生する! 俺を滅ぼすことなどできん!」
炎の中で叫ぶサマエルに、海尊ノ剣からアマミキヨの声が響いた。
アマミキヨ「海尊ノ剣を甘く見るなよ! 不死に死を与えることができる神器だ! 行け、海斗! お前の守ると言った志を、ここで示せ!」
海斗はシンの背から飛び降りた。吹きつける風の中、海尊ノ剣を両手で握り、サマエルを見据える。
海斗「往生際が悪い堕天使が! 人間を……俺たちを下に見下すなぁぁぁ!!」
渾身の力で剣を振り下ろす。
剣から放たれた斬撃は、荒れ狂う大波を思わせる勢いでサマエルへと飛翔し、額にそびえる三本の角をまとめて切り裂いた。
海斗はそのままサマエルの額へ飛び移ると、角があった場所の中心に海尊ノ剣を深々と突き立てた。
瞬間、剣から溢れた神威がサマエルの全身を駆け巡る。
サマエル「邪神の力が……怨念の力が……消えていく!?」
不死を支えていた力が失われ、サマエルの巨体が大きく揺らいだ。
ジャンヌ「今ですね!」
ジャンヌは聖剣を構え、六枚の翼を大きく広げる。その姿から神聖な光が溢れ、剣へと集束していった。
ジャンヌ「天啓を受けるジャンヌ・ダルクが、今この時、堕天使サマエルを裁きます……! ディバイン・ジャッジメント!!」
放たれた神々しい斬撃が、サマエルの胴体を深々と切り裂いた。傷口から聖なる光が広がり、全身を巡る邪気を浄化していく。
巨体は急速に縮み、サマエルは力を失って落下し始めた。
サマエル「ぐぅ……不死の力を……失った……! だが、せめて……!」
サマエルは最後の抵抗とばかりに掌へ魔力を集める。縮んだ身体から、なおも膨大な魔力が溢れ出した。
総司「あの技はマズい!!」
総司は咄嗟に氷龍から飛び降り、落下するサマエルへと向かった。
サマエルの目に、迫り来る総司の姿が映る。
サマエル「道連れに……! ルイン・ノヴァァァ!!」
凝縮された魔力が解き放たれる、その寸前――。
総司「雪華……!」
総司の一刀目が魔力の塊を斬り裂き、同時に冷気がその力を凍結させる。爆発を目前にしていた魔力は、氷の中へと封じ込められた。
総司「三段突き……!」
続く一瞬、総司はサマエルを追い越す刹那に雪華三段突きを叩き込んだ。
サマエルの身体は氷に覆われながらそのまま地上へと落下していく。
サマエル「人間……などに……!」
最後の言葉を残し、サマエルは地面へと叩きつけられた。
総司は地上に着地し、刀を構えたまま静かに振り返る。そして、落下したサマエルを見届け刀身についた血を払うように一振りして鞘に納めた。
サマエルの身体から黒い魔力が消え、戦場を覆っていた重苦しい気配が薄れていく。
力を失ったサマエルは、地面に倒れ伏していた。彼が召喚した堕天神獣たちも、黙示録の竜も、主の敗北とともに姿を消していく。
晴明「終わったようだね!」
セレナ「その様ね!」
総司は倒れたサマエルを見据え、静かに息を吐いた。ようやく戦いが終わったのだと実感した、その時――。
美雪「総司くん!」
氷龍から降りた美雪が、真っ先に総司のもとへ駆け寄った。
総司「美雪ちゃん。また同じことで心配かけちゃったね」
美雪「本当よ! ……でも、無事でよかった。あの時、総司くんが飛び降りていなかったら、皆も巻き込まれていたもの……」
美雪は総司の顔を確かめるように見つめた。傷がないことを確認して、ようやく安堵の表情を浮かべる。
総司が優しく微笑むと、美雪も小さく頷いた。
その近くでは、晋作が愛刀を収めながら、倒れたサマエルを見下ろしていた。
晋作「ったく、とんでもねぇ相手だったな。最後までしぶとい野郎だぜ」
茜「でも、皆で勝ったんだね! 晋作さん!」
茜の顔にも、ようやく明るい笑顔が戻る。
一方、海斗は手にした海尊ノ剣へと目を落としていた。激しい戦いを終えた剣は、静かにその輝きを保っている。
海鈴「海斗!」
声に顔を上げると、海鈴が駆け寄ってきた。
海斗「姉さん……俺たち、やったんだな」
海鈴「うん、そうだね……!」
海鈴は弟の無事を確かめると、ほっと胸を撫で下ろした。
黄龍の背から地上を見渡していたセレナも、仲間たちの姿を一人ずつ確認していく。誰も欠けていない。その事実に、彼女は安堵の息をついた。
セレナ「晴明、みんな無事みたいね……良かった。誰一人欠けることなく、この戦いを乗り越えられたんだもの」
晴明も頷き、地上に倒れたサマエルへと目を向けた。
ラファエル「ジャンヌ、これで決着だろうか?」
ジャンヌ「ええ。今は、そう信じましょう」
ジャンヌは剣を手にしたまま、仲間たちを見渡した。
世界も、出自も、戦う理由も異なる者たち。それでも彼らは互いを信じ、力を合わせて強大な敵に立ち向かった。その絆が、今この戦場で確かな形となったのだった。
戦場に安堵が広がる中、地上部隊には新たな指示が飛ぶ。
平川「本部より各部隊へ! 敵の掃討に移行する! この地を必ず守り抜け!!」
号令を受け、各地の地上部隊が残存する敵へ向けて前進を開始した。
レオニス国王「アストラルディア兵も続け!」
リディア皇帝「リディア帝国兵もだ! よいな!」
レヴィン主席「共和国の兵も協力して事に当たれ!」
異なる世界から集まった兵士たちが、それぞれの指揮官のもとで動き出す。
空でも戦闘終結を受け、各機に帰投の指示が出されていた。
神崎「ヴァルキリー1より各機へ! 敵の殲滅を確認。これより帰投する!」
エミリー「ラプター1よりヴァルキリー各機へ! 空母ロナルド・レーガンへの帰投許可が下りました。各機、帰投してください!」
ノア「終わったな……。一時はどうなるかと思ったが、やれやれだ……」
エミリー「そうね! 少しは貢献できたかしら?」
ノア「そう思いたいね!」
一方、ヴァルキリー5の機体上では、クー・フーリンがようやく肩の力を抜いていた。
クー・フーリン「やっと終わったか……長かったな……」
美咲「あんたはどうする? 私はこのまま空母に着艦する予定だけど……降りるなら降下するわよ?」
クー・フーリン「このまま帰っていいぞ! 今はこの風が心地良い!」
美咲「この風って……飛行中の戦闘機の上に生身でいるのよ? 普通なら吹き飛ばされてるし、そんなふうに座っていられるのも不思議なんだけど……」
クー・フーリン「まぁ、いいじゃねぇか! それにしても、お前の操縦は凄かったぜ!」
美咲「それは嬉しいけど……そんな歯の浮くようなことを言うなら、こうだ!」
美咲は操縦桿を引き、機体を急上昇させた。続けて反転し、旋回を繰り返しながらヴァルキリーの編隊へと戻っていく。
激しい機動にもかかわらず、クー・フーリンは余裕の笑みを浮かべていた。
クー・フーリン「まだ余裕だな……」
その様子を、地上の総司たちは呆れ半分、感心半分といった様子で見つめていた。
そこへ、インフェルノ・レーヴァテインを手にしたガルディアスが歩み寄ってくる。大剣を置き、総司たちに笑顔を向けた。
ガルディアス「これで少しは借りを返せたかね?」
総司「ああ、十分だよ!」
晋作「それにしても、まさか援軍として異世界から来てくれるとはな。あの新しい盾まで携えてよ」
ガルディアス「あれはエルグランを筆頭に、アストラルディアと共和国、リディア帝国の三国が作り上げた結晶だ。初陣が、ぶっつけ本番でお前らの救援になるとは思わなかったがな」
ガルディアスは、三国の兵士たちが戦場を進む様子を振り返った。
ガルディアス「ゲートは日本と繋がっていたから、その座標を変更して軍が通れるようにしただけさ。……でも、間に合って良かったよ!」
そこへ四神が集まり、黄龍からセレナと晴明が降りてきた。
ガルディアス「お! ご帰還だな!」
セレナ「救援ありがとね! それにしても、本当に角笛が吹かれて、あなたたちがゲートから出てきた時は驚いたわよ!」
晴明「戦友と再会できるのは嬉しいよ。しかも、今度はこちらで一緒に戦えるなんてね」
ガルディアス「この繋がりは、お前たちから始まったんだ。俺を含めて、今じゃ互いに助け合える仲間だと思ってるよ!」
晋作「頼もしいじゃねぇか!」
そこへ、ルシウスも合流してきた。
ルシウス「やれやれだぜ……サマエルの野郎、しぶとかったな……」
晋作「夜の帝国の騎士団長様が、それを言うか?」
ルシウス「確かにそうだが……目的が同じだったからな。頼もしかったぜ! この調子なら、その先の目的も同じな気がするな!」
その言葉に、皆の表情がわずかに和らいだ。
まだ解決すべき問題は残されている。それでも、今回の戦いを通じて生まれた繋がりが、これから先の道を切り開いていく。そんな予感が、その場にいる者たちの胸に芽生えていた。
セレナ「あれ? 千代女と恒一は?」
晋作「そう言えば、姿が見えないな……」
周囲を見渡すと、二人は八岐大蛇の前に立っていた。巨大な蛇神を前に、千代女と恒一は静かに向き合っている。
晋作「あれ……なんかヤバくないか?」
セレナが駆け寄ろうとしたところを、晴明がそっと制した。
晴明「見届けよう。動くのは、あの二人が身構えてからだ……」
セレナは少し心配そうに二人を見つめ、それから静かに頷いた。
八岐大蛇が八つの首をもたげ、千代女と恒一を見下ろす。
八岐大蛇「答えを出す時だ……」
二人は息を呑んだ。精神世界で告げられた言葉が、千代女の脳裏をよぎる。
八岐大蛇「当初は八つ裂きにするつもりだったが……伊吹の見立てもある。及第点としてやろう!」
千代女「え? じゃあ……!」
八岐大蛇「他の神話の者どもとの戦い、血が湧き立ち、高揚したのも事実! 須佐男との対峙以来よ……。伊吹の言うように、この時代で我らの存在を轟かせるのも悪くない。退屈しのぎにはちょうど良いだろう」
そこへ、ミズチとイカヅチも近づいてきた。二柱は八岐大蛇の言葉を聞き、千代女の様子を見守る。
八岐大蛇「そこの水神と雷神とも契約しているのだろう? ならば、我も力を貸すのはやぶさかではない!」
千代女「本当に……?」
八岐大蛇「契約だ! だが、おいそれと呼び出すなよ?」
千代女「そうそう、あなたを呼び出すような相手が現れるのは、こっちから願い下げよ……」
千代女が苦笑すると、八岐大蛇は巨大な頭を彼女の前へ差し出した。口を開き、契約の儀式を促す。
八岐大蛇「血を一滴、垂らせ」
千代女は苦無で親指をわずかに傷つけ、その血を一滴、八岐大蛇の口元へ落とした。
千代女「これで契約成立ね!」
八岐大蛇「もう一つ。お前の蛇の呪いがあってこその契約だ。死の概念については、何とか封じておく。だが、根本的に解くには、伊吹の片割れである酒呑を何とかせねばならぬ。そのことを忘れるな……ではな」
八岐大蛇はそう告げると、地中へ沈むように姿を消していった。
千代女「酒呑童子……ね……」
恒一「何とかなって良かった……けど、新たな問題が一つ増えたな」
千代女「そうね! それはおいおい考えましょ! それよりも……イカヅチ、約束覚えてる?」
イカヅチ「おうよ! 忘れるわけがなかろう。さっき千代女がやったように、血を一滴垂らせ!」
イカヅチが大きく口を開けると、恒一は苦無で指先をわずかに傷つけ、その血を一滴落とした。
イカヅチ「契約成立だな!」
ミズチ「私はしないわよ? 千代女との契約で十分だわ」
千代女「ふふふ、そういうところ、本当に変わらないわねぇ、ミズチ……」
そこへ、黒羽、紅蓮、水織の三人がやってきた。
千代女「あなたたちもご苦労様!」
黒羽「いえ、当然のことです。そして、ご報告ですが、そろそろ掃討が完了いたします」
紅蓮「自衛隊を含めた各部隊は、これから復興支援に入るとのことです!」
水織「松平様からも、被災した方々への復興支援を丁重に行うよう指示がありました。私たちも、この地に留まるつもりです」
千代女「そう……分かったわ! そろそろ皆のところに戻るわよー。あなたたち三人もね!」
三人が頷き、千代女と恒一も仲間たちのもとへ歩き出す。
ニライカナイ、別名蓬莱島での戦いはようやく終わりを迎えた。
セレナ「皆、揃ったわね! 新顔もちらほらいるし、一名はどこかへ飛んでいっちゃったけど……」
セレナは集まった面々を見渡し、最後に空を見上げた。そこでは、ヴァルキリー5の上に乗ったままのクー・フーリンが、悠々と風を楽しんでいる。
海斗「皆、本当にありがとう!」
海鈴「私も二度にわたって皆様に助けていただきました……。何とお礼を申し上げればいいのか……」
二人は改めて、集まった仲間たちへ深々と頭を下げた。
総司「そんなにかしこまらなくていいよ! いつもの二人でいてくれればいいんだからさ」
美雪「そうそう。そんなに丁寧にされると、こっちまでかしこまっちゃうわ」
海鈴「皆さん……」
美雪の柔らかな笑顔に、海鈴の表情も少しずつ和らいでいく。
セレナ「それに、夜の帝国……と言っても、今回の件はほとんどあの堕天使の身勝手な願望だったけど。目的が同じだったこともあるから……ね?」
セレナはチラッとルシウスを見る。
ルシウス「そんな感じでチラッと見るなよ…」
晴明「ルシウスは今は味方だけど、概ねセレナの言う通りだ。そういうことにしておいてもらえると、こちらとしても助かるかな」
茜「うんうん! 細かいことは気にしない、ってことで!」
晋作「お前ら、ずいぶん都合のいい解釈をするじゃねぇか」
晴明「ふふっ。こういう時くらい、いいだろう?」
晋作は呆れたように肩をすくめたものの、口元には笑みが浮かんでいた。
海斗「あ、晋作さん。これ……本当にありがとうございました」
海斗はそう言って、手にしていた刀を晋作へ差し出した。
サマエルとの戦いの中で、海斗が借り受けた刀だ。幾度も敵の攻撃を受け止め、海尊ノ剣を手にするまでの戦いを支えてくれた大切な一本だった。
ところが、晋作は刀を受け取ろうとしなかった。
晋作「その刀、お前にやるよ!」
海斗「えっ……?」
晋作「何かあった時、いきなり神器を使うわけにもいかねぇだろ? 普通の刀も一本くらい持っておいた方がいい」
海斗「でも……これ、大切なものなんじゃ……」
晋作「ああ、確かにな。昔の友人が残してくれた置き土産だ。……まあ、再会した時にもらったもんだけどよ」
その言葉を聞き、茜はそっと晋作へ視線を向けた。
茜(萩で出会った時の……久坂さんが残した刀……)
晋作にとって、決して軽い意味を持つ刀ではない。それを知っているからこそ、海斗は受け取ることをためらった。
海斗「やっぱり、そんな大切なものは受け取れないよ!」
晋作「おいおい。そいつを使ってみて、どうだった?」
海斗「どうって……」
晋作「俺から見たら、ずいぶん手に馴染んできてたように感じたぜ。刀ってのは、ただ振り回せばいいもんじゃねぇ。使い手の手に馴染んでこそ、意味がある」
晋作は海斗の手元に視線を落とし、それから真っ直ぐに彼を見据えた。
晋作「刀は武士の魂……なんて言うが、まあ、海斗は武士じゃねぇけどよ。それでも、お前が使うのにふさわしいと思ったんだ。受け取って、使ってくれ」
茜「って、カッコいいことを言ってるけど、要するに海斗君のことを認めてるってことよ! ……ね、晋作さん?」
晋作「ったく……全部言うんじゃねぇよ!」
茜の言葉に、晋作は照れ隠しのように顔を背けた。
海斗「晋作さん……」
海斗は手元の刀を見つめたあと、ゆっくりと顔を上げた。
海斗「……分かった! 大切に使うよ!」
晋作「おう!」
海斗は刀を両手で握り直し、深く頷いた。
晋作「だがな、一つだけ覚えておけ。刀なんざ、結局は相手を斬るための道具にすぎねぇ。使わずに済むなら、それに越したことはねぇんだ。お前がそいつを振るう必要のない日々を送れるなら、それが一番いい」
海斗「……ああ。忘れないよ」
海斗の返事を聞き、晋作は満足そうに頷いた。
その時、皆のもとへ神楽が歩み寄ってきた。
神楽「皆さん、お揃いですね? 少しよろしいでしょうか?」
美雪「あっ、神楽さん! 無事だったんですね。良かった……!」
神楽「はい。私は戦闘では皆様のお役に立てませんでしたので、負傷された方々の応急処置に回っておりました」
美雪「そうだったんですね……。怪我をされた方々は大丈夫ですか?」
神楽「ええ。まだ処置が必要な方はいらっしゃいますが、各部隊の方々も協力してくださっています。ひとまず、こちらへ来ることができました」
神楽はそう答えると、海斗と海鈴の方へ向き直った。
神楽「それで、皆様にお会いしていただきたい方がいらっしゃいます。海斗、海鈴……海尊ノ剣と潮望の杖を、少し貸してもらえますか?」
海斗「俺たちの神器を?」
海鈴「構いませんけど……何をするんですか?」
神楽「詳しいことは、私から説明するよりも、実際に見ていただいた方がよいでしょう」
神楽の真剣な表情に、二人は顔を見合わせた。
やがて海斗が海尊ノ剣を、海鈴が潮望の杖を、それぞれ神楽へと手渡す。
神楽は二つの神器を大切に受け取ると、静かに目を閉じた。
すると――。
海尊ノ剣と潮望の杖が、ほぼ同時に淡い光を放ち始めた。
海斗「これは……!」
海鈴「神器が、光ってる……?」
二つの光は次第に強さを増し、互いに呼応するように輝きを重ねていく。海尊ノ剣から溢れる神聖な光と、潮望の杖を包む柔らかな光が絡み合い、周囲をまばゆく照らし出した。
その場にいた者たちも、ただならぬ気配を感じ取り、自然と二つの神器へ視線を集める。
やがて光は大きく膨らみ、二つの神器を包み込んだ。
そして、その輝きの中心から――。
一人の女性が、ゆっくりと姿を現した。
68話 完




