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51話 Kingdom of Astraldia エピローグⅢ

――アストラルディア王都。


夜。


戦勝と和平を祝う祭りは、最高潮を迎えていた。


大通りには無数の屋台。


色鮮やかな魔導灯。


広場では楽団が演奏し、人々が踊っている。


子ども達の笑い声。


酒場から響く乾杯。


異世界の戦争が終わったとは思えないほど――王都全体が、生きている熱気に包まれていた。


その喧騒の中。


王城正門から、総司達が姿を現す。


「うわぁ……凄いね」


美雪が、思わず目を輝かせた。


白銀の和装ミニドレス姿のまま、幻想的な街並みを見渡している。


総司も、小さく笑った。


「本当に祭りだ」


その横で。


永倉が、既に上機嫌で笑っている。


「だから言ったろ!?」


「王都全部使って騒いでるって!!」


土方が、呆れたように息を吐く。


「お前は飲み過ぎるなよ」


「今日は無礼講だろ土方さん!!」


「だからって限度がある」


そんなやり取りに、周囲から笑いが漏れる。


晋作も、街並みを見ながら感心したように呟いた。


「へぇ……」


「戦争終わって二日でここまで立て直すか」


その横で。


茜も、楽しそうに屋台を見渡していた。


「わぁ……!」


「晋作さん見て! あれ凄い!」


指差した先では、魔導光を使った巨大な噴水演出が広場中央を彩っている。


晋作が、ニヤリと笑った。


「おぉ、派手だな」


その時――。


「いたー!!」


広場側から、数人の子ども達が駆け寄ってきた。


その視線の先にいたのは――美雪だった。


「銀髪のお姉ちゃんだ!!」


「わぁぁ……綺麗!!」


「雪の姫様みたい!!」


「わっ……!?」


突然囲まれ、美雪が目を丸くする。


小さな女の子が、美雪の袖をきらきらした目で見上げていた。


「その服すごーい!」


「髪もキラキラしてる!!」


美雪が、少し照れながら笑う。


「え、えっと……ありがとう?」


すると今度は。


男の子が、総司の方を見上げた。


「ねぇねぇ!」


「白銀の剣士様なんでしょ!?」


総司が、少し困ったように笑う。


「そんな大したものじゃないよ」


だが。


別の子どもが、目を輝かせながら言った。


「でも怪物いっぱい倒してた!!」


「すっごく強かった!!」


「お姉ちゃん守ってたよね!!」


その言葉に。


美雪が、一気に顔を赤くする。


「ま、守っ……!?」


総司も、少し照れたように苦笑した。


「まぁ……守るのは当たり前だからね」


子ども達が、「おぉ〜!!」と歓声を上げる。


その様子を後ろから見ていた永倉が、豪快に笑った。


「はははっ!!」


「もう完全に出来上がってるじゃねぇか!!」


その横で。


藤堂が、どこか微笑ましそうに呟いた。


「……なんかさ」


総司と美雪を見る。


「将来、ほんとにあんな感じの夫婦になるのかもな」


その言葉に。


美雪の顔が、一気に真っ赤になる。


「へ、平助くんまで!?」


総司も、流石に苦笑するしかなかった。


その横で。


斎藤が、小さく口元を緩めた。


土方も、呆れたように息を吐きながら――。


どこか優しい目をしていた。


祭りの夜。


王都には、穏やかな笑い声が響き続けていた。


祭りの喧騒から少し離れた広場の一角。


総司達は、露店で買った酒や料理を片手に、近くへ設置されていた丸テーブルへ腰を下ろしていた。


周囲では、王都の民達が陽気に騒ぎ。


楽団の演奏が、夜風と共に流れてくる。


永倉が、大きく酒を煽った。


「っはぁ~~!!」


豪快に笑う。


「それにしても良いもんだな!」


杯を掲げながら、周囲を見渡した。


「異世界でもなけりゃ、こういう事は無かったぜ」


「源義経や織田信長だぞ?」


「歴史上のお伽話みてぇな連中と酒飲んでんだからな!!」


その言葉に。


土方も、小さく苦笑する。


「違いねぇ……」


祭りの灯りを見ながら呟いた。


「俺達が、どれだけ狭い世界で生きてたかって感じになってくる」


総司も、静かに頷く。


「確かにそうですよね……」


「神話の英雄達と肩並べて戦うなんて、最初は想像もしてませんでした」


その横で。


晋作が、ニヤリと笑った。


「総司とはもう結構一緒にいるが――」


杯を軽く回す。


「まさか、新選組と肩並べて酒飲む日が来るとは夢にも思わなかった」


永倉が、豪快に笑う。


「ははっ!!」


「こっちだって長州の志士と飲むなんざ想像した事ねぇよ!!」


その横で。


斎藤が、静かに酒を口へ運びながら返す。


「……それはお互い様だ」


「こちらも、高杉晋作と同じ戦場へ立つ日が来るとは思っていなかった」


晋作が、面白そうに笑う。


すると藤堂が、吹き出した。


「それが今じゃ普通に同じ卓囲んでるんだから、分からないもんだよねぇ」


土方も、呆れたように笑う。


「人生ってのは分からねぇもんだな」


その時――。


美雪が、静かに周囲を見渡した。


異世界。


時代を超えた英雄達。


祭りの灯り。


穏やかな笑い声。


そして――。


隣で静かに笑っている総司。


美雪は、小さく微笑む。


「……でも」


全員の視線が向いた。


「こういう出会いがあったのは、少し嬉しいかも」


夜風が吹き抜ける。


その言葉に。


誰も否定はしなかった。


時代も。


世界も。


本来なら、決して交わらないはずだった者達。


それでも今――。


同じ夜空の下で、笑い合っている。


その事実だけは、確かだった。


その時だった――。


シャン……。


鈴の音と共に。


数人の踊り子風の女性達が、総司達のテーブルへ近付いてきた。


露出の多い異国風衣装。


薄布越しに見える肌。


腰を揺らす度、金飾りが妖しく鳴る。


永倉が、思わず口笛を吹いた。


「おぉ〜……」


「王都の祭り、最高じゃねぇか」


先頭にいた女性が、優雅に微笑む。


だが――。


その視線は、真っ直ぐ総司と晋作へ向けられていた。


「あなた達が……」


艶のある声。


「世界を救った異世界の英雄様?」


女性が、そっと総司の肩へ触れようとする。


「白銀の剣士様、凄く素敵……」


総司が、少し困ったように苦笑した。


「え、いや……ありがとうございます」


だが。


踊り子は、さらに距離を詰める。


「そんなに謙遜しなくても……」


「祭りの夜くらい、楽しみません?」


その横では。


別の踊り子が、晋作の隣へ腰掛けていた。


「あなたも、随分格好良いのね?」


「危ない男って感じ」


晋作が、面白そうに笑う。


「そりゃどうも」


その瞬間――。


ピクリ。


美雪の眉が、僅かに動いた。


さらに。


茜も、じーっと踊り子を見ている。


総司は、やんわりと距離を取った。


「ごめんね」


柔らかく笑う。


「そういうのは、ちょっと……」


だが。


踊り子は引かない。


むしろ楽しそうに笑った。


「まぁ♪」


「照れてるんですか?」


さらに腕へ触れようとする。


「英雄様って、案外初心なんですね?」


「いや、そういう訳じゃ――」


総司が困り始めた、その時だった。


スッ――。


美雪が、総司の隣へぴったり座る。


笑顔。


だが。


目が笑っていない。


「総司くん?」


やたら優しい声。


「随分人気者だね?」


「美雪ちゃん、これは違――」


その横では。


茜も、じーっと晋作を見ていた。


「……晋作さん」


「楽しそうだね?」


晋作が、一瞬固まる。


永倉が、酒を吹き出した。


「ぶはっ!!」


藤堂も、肩を震わせて笑っている。


土方は、呆れたように煙管をくわえ直した。


「……修羅場になりかけてんな」


斎藤だけは、静かに酒を飲んでいた。


踊り子が、妖しく笑いながらさらに総司へ距離を詰める。


「英雄は色を好むって言うでしょ?」


細い指が、総司の肩へ触れそうになる。


「今からどう?」


その瞬間。


総司は、やんわりと一歩引いた。


困ったように苦笑する。


「ごめんけど――」


一拍。


「先日、祝言あげたばかりだから……」


その言葉に。


踊り子達が、一瞬目を丸くした。


「あら、そうだったの?」


だが――。


それでも女性は、楽しそうに笑う。


「でも今夜くらい――」


さらに詰め寄ろうとした、その時。


スゥ……。


空気が、静かに冷えた。


美雪が、総司の隣で静かに微笑んでいる。


笑顔。


だが。


明らかに怒っていた。


その横では。


晋作も、苦笑しながら肩をすくめる。


「悪いな」


「他当たってくれるか?」


だが。


別の踊り子が、不満そうに唇を尖らせた。


「えぇ〜?」


「せっかく誘ってるのに〜」


すると――。


茜が、ピクリと眉を動かす。


そして。


じろり、と踊り子達を見た。


「……断ってるんだから」


低い声。


「さっさとどっか行く」


場の空気が、一瞬止まる。


踊り子の一人が、少し顔をしかめた。


「何この女……」


その瞬間。


晋作が、スッと笑みを消した。


「おい」


低い声。


先程までの軽さが消える。


「俺の連れに、失礼な口利くな」


空気が、僅かに張り詰めた。


永倉が、「おっ」と目を丸くする。


踊り子達も、流石に空気を察したのか。


「あ、あら……」


「冗談じゃない……」


気まずそうに笑いながら距離を取った。


やがて――。


「じゃ、じゃあまた今度ね英雄様?」


そう言い残し。


踊り子達は、別のテーブルへ去っていく。


数秒。


沈黙。


総司が、恐る恐る隣を見る。


美雪は。


まだ少し頬を膨らませたままだった。


総司が、慌てたように言う。


「ちゃんと断ったでしょ!?」


美雪が、むぅっとしたまま視線を逸らす。


「まぁ、そうだけど……」


小さく呟く。


「私居なかったら、一緒に行ってたのかな……って」


その瞬間。


総司が、即答した。


「それはない!!」


周囲が、一瞬静まる。


総司は、珍しくかなり真面目な顔だった。


「断じて」


美雪が、ぱちりと目を瞬かせる。


その横では。


茜も、じーっと晋作を見ていた。


「……晋作さんも」


少し頬を膨らませる。


「私居なかったら、行ってた?」


晋作が、少しだけ苦笑する。


「それはねえよ……」


茜が、「ほんとに?」と言いたげな目を向ける。


晋作は、肩をすくめながら続けた。


「誘われたくらいでフラつくほど軽くねぇっての」


その言葉に。


茜の表情が、少しだけ柔らかくなる。


その様子を見ていた永倉が、ニヤニヤ笑い始めた。


「なんだお前ら!」


「しっかり尻に敷かれてんじゃねぇか!!」


「永倉さん」


「うるせぇ」


総司と晋作の声が、綺麗に重なった。


その瞬間――。


周囲から、一気に笑い声が広がった。


「俺達も混ぜてもらっていいか?」


どこか余裕のある声が、後ろから響いた。


総司達が振り返る。


そこに立っていたのは――。


真田幸村。


源義経。


そして。


騎士王アーサーだった。


三者三様の礼装姿。


だが、纏う空気はやはり只者ではない。


永倉が、思わず目を丸くする。


「おぉ!? 豪華な面子だな!!」


幸村が、口元を緩めながら笑う。


「なんか楽しそうじゃねぇか」


肩をすくめる。


「そんな盛り上がってるなら、流石に気になるだろ?」


その横で。


義経も、小さく笑みを浮かべる。


「戦場では、ゆっくり話す機会も少なかったからな」


そして――。


アーサーが、静かに総司達を見る。


「構わないだろうか?」


総司が、すぐに笑った。


「もちろんです」


「むしろ歓迎ですよ」


永倉が、豪快に笑いながら椅子を引く。


「ほらほら座れ!!」


「今日は無礼講だ!!」


土方が、呆れたように煙管をくわえ直す。


「お前が仕切るな」


その横で。


晋作が、ニヤリと笑った。


「しかしまぁ……」


幸村達を見渡す。


「こうして見ると、本当に時代も国もバラバラだな」


幸村が、酒を受け取りながら笑う。


「ほんとにな」


「戦国武将に、新選組に、騎士王――」


杯を軽く回す。


「時代跨いでこんな連中と酒飲むとか、流石に想像出来ねぇわ」


義経も、静かに頷いた。


「平安の武士としても、流石に想像出来なかったな」


そして。


アーサーが、静かに杯を持ち上げる。


「本来なら、決して同じ席へ着く事は無かった者達だ」


夜風が、静かに吹き抜ける。


その言葉には、どこか不思議な重みがあった。


だが――。


永倉が、豪快に笑い飛ばす。


「細けぇ事はいいんだよ!!」


酒を掲げる。


「今は同じ戦場生き残った仲間だろうが!!」


その瞬間。


幸村が、楽しそうに笑った。


「ははっ、違ぇねぇ」


義経も、小さく口元を緩める。


そして――。


アーサーですら、僅かに笑みを浮かべていた。


アーサー王が、静かに杯を揺らしながら口を開く。


「……だが」


周囲の喧騒とは対照的に、その声音は落ち着いていた。


「完全に終わった訳ではない」


夜風が、金の髪を揺らす。


「恐らく――」


一拍。


「次の侵攻もあるだろう」


静かな視線が、総司達へ向いた。


「世界蛇のな」


その言葉に。


先程までの賑やかな空気が、少しだけ静まる。


遠くでは祭りの音楽が流れている。


だが、この卓だけは僅かに空気が変わっていた。


美雪が、静かに目を伏せる。


「……それは、間違いないでしょうね」


小さく呟く。


「今回ので終わる相手には思えませんでした」


総司も、静かに頷いた。


「あれだけの規模で来たのに、本体じゃない可能性もあるんですよね……」


義経が、杯へ視線を落とす。


「世界そのものを喰らう存在――か」


「平安でも、そこまでの化け物は聞いた事が無い」


幸村が、苦笑混じりに笑った。


「流石に戦国でもスケールデカ過ぎだろ」


「城がどうとか国がどうとかって話じゃねぇ」


その横で。


土方が、静かに酒を口へ運ぶ。


「だが、だからって逃げる訳にもいかねぇ」


永倉も、豪快に笑った。


「おう!!」


「次来たら、またぶっ飛ばすだけだ!!」


斎藤が、静かに頷く。


「結局、やる事は変わらん」


その言葉に。


総司も、小さく笑った。


「確かに」


「考え過ぎても仕方ないですしね」


アーサー王が、静かに夜空を見上げる。


祭りの花火が、その横顔を淡く照らしていた。


「……問題が一つある」


その言葉に。


卓を囲む面々の視線が向く。


アーサー王は、静かに続けた。


「我らが元の世界――」


「それぞれの時代へ帰った時」


一拍。


「次は、あるのだろうか……」


夜風が吹き抜ける。


その言葉は。


“再び会えるのか”という意味でもあった。


先程まで賑やかだった空気が、少し静まる。


土方が、静かに酒を口へ運ぶ。


「……前回の時の記憶はある」


低い声。


「なら、おそらく」


煙管の煙を吐く。


「同じ奴らが呼ばれれば、あるいは――」


最後までは言わなかった。


だが。


その先は皆理解していた。


義経が、静かに目を伏せる。


「実際は、その時になってみないと分からない……か」


平安。


戦国。


幕末。


ブリテン。


本来なら交わらぬ時代。


それぞれが、別の場所へ帰る。


再会の保証など――どこにも無かった。


その時。


晋作が、ふっと笑った。


杯を軽く持ち上げる。


「まぁ――」


どこか余裕のある声音。


「その時は、またこうして酒を酌み交わしたいもんだな」


その言葉に。


空気が、少しだけ柔らかくなる。


永倉が、豪快に笑った。


「違ぇねぇ!!」


「次会った時も、まず酒だ!!」


幸村も、楽しそうに笑う。


「そん時ゃまた派手にやろうぜ」


義経も、小さく口元を緩めた。


そして――。


アーサー王も、静かに笑みを浮かべる。


「……あぁ」


短い言葉。


だが、その声音はどこか穏やかだった。


異世界の夜。


英雄達の宴は、静かに続いていく。


祭りの音楽が、夜風と共に流れていく。


花火の光が、時折広場を照らしていた。


その中で――。


藤堂が、ふと酒を置いた。


「……明日には帰るんだよね?」


その言葉に。


卓の空気が、少し静まる。


土方が、静かに頷いた。


「そのはずだ……」


低い声。


「王達の話じゃ、召喚陣の調整も終わるらしい」


総司が、小さく目を伏せる。


「……そっか」


少しだけ寂しそうに笑った。


「明日なんだ……」


異世界での戦い。


仲間達。


王都の景色。


祭りの喧騒。


それらが、もう終わろうとしている。


永倉が、そんな総司の背中をバシッと叩いた。


「いてっ」


「何辛気臭い顔してんだよ!!」


永倉が、豪快に笑う。


「別れなんざ今さらだろ!!」


「俺達ぁ元々、違う時代の人間なんだからよ!!」


その言葉に。


総司が、少し苦笑する。


「まぁ……そうなんですけどね」


永倉は、酒を煽りながら続けた。


「それによ!!」


「また呼ばれるかもしれねぇんだろ!?」


「だったら、その時また会えばいい!!」


単純。


だが――。


永倉らしい言葉だった。


その横で。


幸村も、口元を緩める。


「案外、またすぐ会ったりしてな」


晋作が、ニヤリと笑う。


「そりゃ勘弁して欲しい気もするがな」


「また世界滅亡寸前って事だろ?」


その瞬間。


卓から笑い声が漏れる。


重くなりかけた空気が、少しだけ和らいでいく。


総司も、その笑いにつられるように小さく笑った。


そして――。


隣を見る。


美雪も、静かに微笑んでいた。


今はまだ。


別れの時ではない。


だからこそ――。


この夜を、楽しもうとしていた。


義経が、静かに杯を持ち上げる。


祭りの灯りが、その横顔を淡く照らしていた。


「今を楽しもうではないか……」


穏やかな声。


だが、その言葉には不思議と重みがあった。


「次もあるかもしれん」


夜空を見上げる。


花火が、静かに咲いた。


「だが、今は今でしかない」


一拍。


「だから――存分に楽しもう」


その言葉に。


卓を囲む全員が、小さく笑った。


永倉が、真っ先に杯を掲げる。


「おう!!」


「だったら今日は朝まで飲むぞ!!」


「やめろ馬鹿」


土方が即座に突っ込む。


幸村が、楽しそうに笑った。


「ははっ、相変わらず騒がしいな新選組」


晋作も、酒を片手に肩をすくめる。


「まぁ、こういう馬鹿騒ぎも嫌いじゃねぇ」


その横で。


総司は、静かに周囲を見渡していた。


異世界の王都。


時代を超えた英雄達。


笑い声。


祭りの灯り。


そして――。


隣で笑う美雪。


総司は、小さく目を細める。


「……ほんと、不思議な夜ですね」


美雪も、優しく微笑んだ。


「うん」


その声は、とても穏やかだった。


夜は更けていく。


祭りの熱気は、深夜になっても衰える事はなく。


異世界の英雄達は。


最後になるかもしれない時間を、存分に楽しみ続けた――。




そして――翌朝。




アストラルディア王城。


静かな朝日が、王都を照らしていた。


昨夜までの喧騒が嘘のように。


城内には、どこか張り詰めた空気が流れていた。


今日は――。


英雄達が、それぞれの世界と時代へ帰還する日だった。


――アストラルディア王城・大転移広間。


巨大な魔法陣が、広間中央で淡く輝いていた。


幾重にも重なる術式。


浮かび上がる古代文字。


空間そのものが脈動しているかのような、強大な魔力が広間全体を包み込んでいる。


術式の調整を行っていたエルグランが、静かに顔を上げた。


「……準備は?」


その声に。


巨大術式端末を操作していたクロードが頷く。


「出来ておるよ……」


老魔導師の目が、魔法陣を見つめる。


「各世界、各時代への座標固定も完了した」


「後は起動のみじゃ」


その横で。


ミレーユが、静かに祈るように手を組んでいた。


「本当に……」


優しい声が、広間へ響く。


「異世界の英雄達には、感謝しかありません……」


その時――。


重い足音と共に、ガルディアスが広間へ入ってくる。


赤黒の騎士礼装。


相変わらず圧倒的な存在感だった。


ガルディアスが、腕を組みながら口を開く。


「今回を機に、日本国とは専用ゲートを作成した事で繋がった」


低い声。


「交流は、今後少なからずあるだろうさ……」


広間奥。


巨大転移魔法陣とは別方向には――。


日本へ繋がる、固定型ゲート装置が設置されていた。


淡い青白い光を放つ、恒久接続用ゲート。


こちらは帰還用転移術式とは別物。


アストラルディアと現代日本を繋ぐ、新たな“道”だった。


ヴァルディスも、静かに頷く。


「そうです」


宰相らしい落ち着いた声音。


「しかし、あのゲートが無ければ」


「向こうの“自衛隊”なる者達の援軍を受ける事も出来なかった」


異世界の戦争。


そこへ現れた現代兵器。


戦闘機。


輸送機。


ミサイル。


あの光景は、今でも各国へ強烈な印象を残している。


ミレーユが、小さく微笑んだ。


「ですが――」


静かな声。


「このゲートが完成した事で」


「もし、あちらの世界で何か起きた時は……」


その時。


広間入口側から、低い声が響く。


「その通りだ」


全員が振り返る。


そこへ現れたのは――。


レオニス国王。


リディア皇帝。


そして、レヴィン主席。


三国首脳だった。


ヴァルディスが、少し驚いたように目を見開く。


「国王……」


「それに、リディア皇帝とレヴィン主席まで」


リディア皇帝が、静かにマントを翻す。


「この世界を救ってくれた英雄達の帰還だ」


真っ直ぐ前を見る。


「我らも共に見送る」


レヴィン主席も、静かに頷いた。


「自分の世界でもない」


一拍。


「それでも命を懸けて戦ってくれた者達だ」


その表情は、真剣そのものだった。


「感謝してもしきれない」


広間に、静かな空気が流れる。


そして――。


その時だった。


広間入口から、次々と人影が現れ始める。


最初に現れたのは――織田軍。


信長を先頭に。


秀吉、利家、蘭丸達が姿を見せる。


続いて――。


源氏軍。


義経と弁慶。


さらに郎党達。


そして――。


円卓の騎士達。


アーサー王。


ランスロット。


ガウェイン。


騎士達が、静かに広間へ入ってくる。


真田軍と十勇士。


幸村を中心に、佐助や才蔵達も集まる。


さらに――。


奇兵隊。


新選組。


それぞれの時代。


それぞれの国。


本来なら交わる事の無かった英雄達が――。


最後の時を前に、再び一つの場所へ集結していた。


その時――。


広間入口側から、再び足音が響く。


総司達AX班。


そして、ジャンヌ達オルレアンの面々も広間へ姿を現した。


礼装姿から、既にそれぞれ戦闘時の装いへ戻っている。


帰還の時が近い。


その空気を、全員が理解していた。


坂本龍馬が、周囲を見渡しながら苦笑する。


「とりあえず、わしらは見送りじゃな」


その言葉に。


美雪が、少し目を瞬かせた。


「あ、そっか……」


固定ゲートの方を見る。


「船があるから、海じゃないと帰れないんだ」


海援隊。


そして現代側との専用ゲート。


彼らは、魔法陣ではなく別ルートで帰還する事になる。


その時――。


レオニス国王が、静かに前へ出た。


王としての威厳を纏いながら。


真っ直ぐ英雄達を見る。


「其方らには、感謝してもしきれぬ……」


広間が静まり返る。


「戻った後も」


「皆に栄光があるよう、祈っておる」


その言葉には。


王としてではなく、一人の人間としての感謝が込められていた。


やがて――。


信長が、静かに笑う。


「是非もなし」


黒金の陣羽織を翻しながら振り返る。


「して、猿よ」


秀吉へ視線を向けた。


「我らは戸次川だったな?」


秀吉が、すぐに頭を下げる。


「仰せの通りでございます、親方様」


信長が、ニヤリと笑った。


「では――参るかの」


次の瞬間。


広間全体へ響くように、高らかに叫ぶ。


「さらばだ!! 異国の者達よ!!」


圧倒的な覇気。


まるで戦場そのものを支配する声だった。


「この第六天魔王・織田信長の所業――」


不敵に笑う。


「後世まで語り継ぐが良い!!」


そして。


軍勢へ向け、堂々と命じた。


「我が軍よ!!」


「予定通り、戸次川へ参るぞ!!」


「「おぉぉぉぉっ!!!」」


織田軍が、一斉に応じる。


戦国最強軍団の咆哮が、広間を震わせた。


だが――。


転移魔法陣へ向かう直前。


信長が、ふと小さく笑う。


「……ではな」


その声音だけは、どこか穏やかだった。


そして――。


織田軍は、次々と転移魔法陣の中へ消えていく。


光が、静かに広間を照らした。


織田軍の姿が、転移光の中へ消えていく。


広間には、まだ淡い魔力の残光が漂っていた。


その余韻の中――。


今度は、源氏軍が前へ進み出る。


弁慶が、大きな薙刀を肩へ担ぎながら笑った。


「我らは、確か帰還途中でしたな」


豪快な声。


その横で。


義経が、静かに頷く。


「そうだ……」


一拍。


「兄上と会わねばならん」


その表情は穏やかだった。


だが、その瞳には確かな決意が宿っている。


平安の世。


壇ノ浦での勝利後だがまだ終わってはいない。


義経は、ゆっくり振り返った。


そして――。


源氏軍全体へ向け、凛とした声を響かせる。


「これより帰還する!!」


広間へ、静かな緊張が走る。


「鎌倉まで帰るぞ!!」


「「応ッ!!!」」


郎党達が、一斉に応じた。


武士達の声が、広間へ力強く響く。


その後――。


義経は、静かに総司達AX班を見る。


美雪。


総司。


晋作。


茜。


晴明。


セレナ達へ。


穏やかな笑みを浮かべた。


「再会する事があれば――」


静かな声。


「その時は、また共に語ろう」


夜の祭りとは違う。


別れの言葉だった。


そして――。


「さらばだ」


短く告げる。


そのまま義経は、郎党達の中へ歩いていく。


弁慶も、豪快に笑いながら続いた。


「はっはっは!!」


「次会う時も、酒を忘れるでないぞ!!」


やがて――。


源氏軍もまた、光の中へ消えていく。


平安の武士達の姿は。


静かに、元の時代へ帰っていった。


源氏軍の姿が、転移光の中へ消えていく。


広間には、再び静寂が訪れていた。


その時――。


甲冑の音が、静かに響く。


次に前へ進み出たのは――円卓の騎士達だった。


白銀の鎧。


王の風格。


そして、騎士達特有の張り詰めた気配。


アーサー王を先頭に。


ランスロット。


ガウェイン。


トリスタン。


騎士達が、静かに転移魔法陣前へ並ぶ。


アーサー王が、ゆっくりAX班達を見る。


「各時代の英雄達よ」


静かな声。


だが、不思議と広間全体へ響いた。


「貴公らと共に戦えた事――」


一拍。


「騎士王として、誇りに思う」


その言葉に。


総司達も、静かに表情を引き締める。


その横で。


ガウェインが、豪快に笑った。


「次があるなら、また共に剣を振るいたいものですな!!」


ランスロットも、小さく口元を緩める。


「その時は、今度こそ純粋な剣技勝負を願いたい」


視線が、総司や土方へ向く。


総司が、少し苦笑する。


「それ、かなり怖いんですけど……」


その空気に。


トリスタンが、静かに笑った。


「ですが」


竪琴を抱えながら目を閉じる。


「こうして別れを惜しめるという事は、きっと良き出会いだったのでしょう」


夜風が、広間へ吹き込む。


やがて――。


アーサー王が、静かに剣へ手を添えた。


「では、行こう」


その声に。


円卓の騎士達が、一斉に頷く。


そして――。


アーサー王が、最後に小さく笑みを浮かべた。


「また会おう」


その一言を残し。


円卓の騎士達は、静かに転移魔法陣の中へ消えていった。


白銀の光が、静かに揺らめく。


かつてブリテンを駆けた騎士達もまた――。


それぞれの時代へ帰還していった。


円卓の騎士達が、光の中へ消えていく。


その余韻が残る中――。


今度は、真田軍が前へ進み出た。


真紅の陣羽織。


六文銭。


戦国の熱を纏った軍勢。


幸村が、軽く肩を回しながら笑う。


「よし――帰るかね」


どこか余裕のある声音。


だが、その瞳は既に戦国の武将へ戻っていた。


「帰ったら即刻、大阪城だ」


小さく息を吐く。


「暑い時期だが……まぁ仕方ねぇ」


その横で。


猿飛佐助が、静かに頷く。


「御意」


忍びらしい鋭い目が、仲間達を見る。


「戻り次第、ルート安全確保の為に動きます」


そして――。


隣にいた才蔵へ視線を向けた。


「良いな、才蔵?」


才蔵が、ニヤリと笑う。


「問題ねぇよ」


だが、その直後――。


ふと、才蔵が振り返った。


視線の先には。


恒一と千代女。


才蔵が、少し口元を緩める。


「恒一」


静かな声。


「お前は、俺とは違って自由だ」


その目が、千代女を見る。


「そこの望月と、幸せになれ」


恒一が、少し目を見開く。


千代女も、静かに才蔵を見つめていた。


才蔵は、どこか照れ臭そうに笑う。


「未来の子孫に会って、酒まで飲むとかよ……」


肩をすくめる。


「流石に想像してなかった」


そして――。


真っ直ぐ恒一を見る。


「嬉しかったぞ」


一拍。


「絶対に忘れねぇ」


その言葉に。


恒一が、小さく笑った。


「……俺もです」


千代女も、柔らかく微笑む。


「また会えたら良いわね」


才蔵が、ニヤッと笑う。


「異世界なら、案外あり得るかもな」


その時――。


幸村が、楽しそうに声を上げた。


「おーい才蔵!!」


「置いてくぞ?」


「おっと」


才蔵が、軽く手を上げる。


「今行く」


そして――。


真田軍。


十勇士。


戦国を駆ける者達もまた、次々と転移魔法陣の中へ入っていく。


赤い光が、静かに揺らめく。


やがて――。


幸村達の姿も、光の中へ消えていった。


真田軍の姿が、転移光の中へ消えていく。


その後――。


今度は、奇兵隊の隊士達が前へ進み出た。


和装へ銃。


混成軍らしい独特の空気。


戦国や新選組とはまた違う、“時代の変革者”達の気配がそこにはあった。


隊士の一人が、真っ直ぐ晋作へ敬礼する。


「総督!!」


力強い声が、広間へ響く。


「では、これにて!!」


晋作が、ニヤリと笑った。


「あぁ!!」


軽く手を上げる。


「駆け付けてくれてありがとな!!」


「「はっ!!!」」


奇兵隊隊士達が、一斉に応じる。


その声には、絶対的な信頼が滲んでいた。


そして――。


最後に。


久坂玄瑞が、静かに前へ出る。


晋作と、茜を見る。


穏やかな笑みだった。


「高杉」


静かな声。


「茜さんと共に、未来へ歩め」


茜が、少し目を見開く。


久坂は、続けた。


「二人なら大丈夫だ」


その言葉には、迷いが無かった。


だが――。


次の瞬間。


その表情へ、ほんの僅かに影が差す。


「俺は、戻れば蛤御門の戦の最中だ……」


静かな空気が流れる。


禁門の変。


長州にとって、運命を大きく変える戦い。


久坂自身の運命もまた、そこへ繋がっている。


久坂は、小さく笑った。


「どうなるかは分からん」


だが、その目は真っ直ぐだった。


「それでも――」


晋作を見る。


「お前に会えて」


「こうして語れた事」


一拍。


「本当に良かったよ」


そして――。


「達者でな」


晋作が、静かに拳を握る。


「……久坂」


いつもの軽さではない。


真っ直ぐな声だった。


「お前は、俺の親友だ」


その言葉に。


久坂が、小さく目を細める。


晋作は、力強く続けた。


「健闘を祈る!!」


その横で。


茜も、深く頭を下げた。


「久坂さん!」


真っ直ぐ久坂を見る。


「ありがとうございました!!」


少しだけ照れながらも、しっかり言葉を続ける。


「認めていただけて……嬉しかったです!」


久坂は、その言葉を聞くと――。


ふっと笑みを浮かべた。


どこか安心したような。


穏やかな笑みだった。


「なら良かった」


そして――。


久坂は、静かに光の中へ歩いていく。


奇兵隊隊士達も、それへ続く。


やがて――。


長州を駆けた者達の姿も、転移光の中へ消えていった。


奇兵隊の姿が、静かに転移光の中へ消えていく。


そして――。


最後に前へ進み出たのは。


新選組だった。


浅葱色の羽織。


誠の旗。


隊士達が、整然と広間へ並ぶ。


その姿には――。


幕末最強の治安組織としての誇りが、確かにあった。


近藤勇が、一歩前へ出る。


局長としての威厳を纏いながら、隊士達を見渡した。


「良いか!!」


低く力強い声が、広間へ響く。


「我らは、これより帰還次第――」


一拍。


「通常の京都治安維持の任を再開する!!」


「「応ッ!!!!」」


隊士達の声が、一斉に響く。


誠。


その一文字を背負った男達の咆哮だった。


そして――。


隊士達が、次々と転移魔法陣へ入っていく。


浅葱色が、光の中へ消えていく。


だが。


その中で――。


まだ動かない者達がいた。


近藤。


土方。


斎藤。


永倉。


原田。


藤堂。


隊長達だった。


彼らは――。


総司と、美雪を見ていた。


静かな空気。


やがて。


近藤が、大きく笑う。


「総司!!」


優しく、それでいて頼もしい声。


「俺達が駆け抜けた後世で」


「誠を胸に生きていた事――本当に頼もしいぞ!!」


総司の目が、僅かに揺れる。


近藤は、美雪へも視線を向けた。


「美雪さん!!」


「総司と幸せにな!!」


その横で。


藤堂が、明るく笑った。


「そうそう!」


「かなり簡易的だったけどさ!」


「祝言、一緒に祝えて良かった!」


総司が、小さく唇を震わせる。


「……近藤さん」


その目には、既に涙が滲んでいた。


「皆んな……」


一拍。


「あなた達は、この後――」


その瞬間だった。


土方が、鋭く叫ぶ。


「それ以上言うなよ総司!!」


広間が、一気に静まり返る。


総司が、息を呑む。


土方は、真っ直ぐ総司を見据えていた。


「俺達がこの後どうなるか――」


低い声。


「それを知れば、お前達の世界が変わっちまう」


空気が張り詰める。


だが――。


次の瞬間。


土方の表情が、ふっと穏やかになる。


「だから、決して言うな」


静かな声だった。


「お前と美雪さんの未来を、俺達は皆祝福してる」


煙管を軽く回す。


「その未来を壊す可能性がある事を――言うな」


原田が、豪快に笑う。


「そうそう!」


永倉も、大きく頷いた。


「副長、いい事言うなぁ!!」


斎藤も、静かに口を開く。


「……その通りだ」


そして――。


土方が、ニヤリと笑った。


「沖田総司」


局中法度を言い渡す副長の顔だった。


「お前に対しての、新選組局中法度だ」


一拍。


「……いいな?」


総司の目から、涙が零れる。


それでも――。


しっかり頷いた。


「……はい!!」


その返事に。


近藤が、優しく笑う。


「総司」


「美雪さん」


二人を見る。


「時代は違っても――」


その声は、とても温かかった。


「俺達は、いつでもお前達についてる」


「大事な新選組の一員だからな」


美雪も、涙を浮かべながら聞いていた。


近藤は、静かに続ける。


「心の中で、必ず繋がっている」


「二人の中に、“誠”の旗が掲げられている限り」


一拍。


「俺達は共にある」


総司が、静かに拳を握る。


近藤は、最後に笑った。


「それを忘れないで欲しい」


その言葉に――。


美雪が、涙目のまま深く頭を下げた。


「……はい!!」


声が、少し震える。


「私の中に、“誠”の旗はあり続けます!!」


涙を拭いながら、しっかり前を見る。


「絶対に忘れません!!」


総司の隣へ並ぶ。


「一員として迎えてくれた事……本当に嬉しかったです!!」


そして――。


強く言い切った。


「これからも二人で支え合って」


「皆さんが駆け抜けた後の時代を歩んでいきます!!」


「本当に、ありがとうございました!!」


静寂。


だが次の瞬間――。


近藤。


土方。


隊長達全員が、穏やかに笑った。


誇らしそうに。


安心したように。


そして――。


浅葱色の男達は。


静かに転移光の中へ消えていく。


最後まで残っていた土方が。


ふっと小さく笑った。


「達者でな、総司」


光が弾ける。


その瞬間――。


新選組の姿は、全て消えていた。


広間には。


ただ静かに、“誠”の旗だけが心へ残っていた。


新選組の姿が、光の中へ消えていく。


静かな余韻が、広間へ残っていた。


その時――。


ルーが、静かにクー・フーリンを見る。


黄金の瞳。


神としての威厳を纏ったまま、ゆっくり口を開いた。


「セタンタよ」


低く響く声。


「お前はどうする?」


一拍。


「俺と共に、ティル・ナ・ノーグへ来るか?」


その横で。


オーディンも、静かに杖を鳴らす。


「決断の時じゃ……」


空気が、静かに張り詰める。


セレナ。


晴明。


そしてAX班の面々も、クー・フーリンへ視線を向けた。


クー・フーリンは、少しの間だけ黙り込む。


やがて――。


「そうだな……」


頭を掻きながら、小さく笑った。


「それも悪くねぇとは思う」


だが――。


その目が、セレナへ向く。


ニヤリと笑った。


「こっちには、跳ねっ返りのじゃじゃ馬娘も居るしな」


セレナの眉が、ピクリと動く。


「誰がじゃじゃ馬よ誰が」


即座に睨む。


「というか跳ねっ返りって何!?!?」


クー・フーリンが、楽しそうに笑う。


「そのまんまの意味だろ?」


「うるさい!!」


セレナが、思わず槍を出しかける。


晴明が、すぐ横で苦笑した。


「セレナ、落ち着いて」


その空気に。


クー・フーリンが、どこか楽しそうに肩をすくめる。


「まぁ――」


静かな声。


「もう少しだけ、こいつらと一緒にいるよ」


全員が、静かに耳を傾ける。


クー・フーリンは、魔槍を肩へ担いだ。


「どうせ、俺は帰れねぇんだ」


だが、その表情に悲壮感は無い。


むしろ――どこか吹っ切れていた。


「だったら」


セレナを見る。


「この魔槍の継承者が、何を選ぶのか見届けるってのも悪くねぇ」


セレナが、少し目を見開く。


クー・フーリンは、ニヤリと笑った。


「まぁ、飽きたらティル・ナ・ノーグ行くさ」


「軽っ!?」


セレナが、即座に突っ込む。


そのやり取りに。


ルーが、ふっと笑みを浮かべた。


「……それがお前の決断なのだな」


クー・フーリンが、静かに頷く。


「あぁ」


短い返事。


だが、迷いは無かった。


その時――。


松平が、一歩前へ出る。


「決まりだな」


低く落ち着いた声。


真っ直ぐクー・フーリンを見る。


「AX班は、君を迎えよう」


クー・フーリンが、少しだけ目を丸くする。


だが次の瞬間――。


ふっと笑った。


「……相変わらず変な連中だな、お前ら」


その横で。


オーディンが、静かに杖を鳴らした。


広間へ、神々しい空気が広がる。


「想いを繋げる力の持ち主達よ――」


重く、優しい声。


「お前達には、この先も幾多の困難が待ち受けておる」


その片目が、AX班を見据える。


「だが」


夜空のように深い声音。


「互いを想う心――」


「それこそが、行く先を照らすであろう」


静かな風が吹き抜ける。


「ヴァルハラより、見守っておるぞ」


その言葉に――。


総司達が、しっかり頷いた。


「はい!!」


「ありがとうございます!」


「えぇ!」


声が重なる。


オーディンが、静かに満足そうに頷いた。


そして――。


「では行くかの、トールよ」


その呼び掛けに。


巨大な雷神トールが、豪快に笑う。


「おう!!」


ミョルニルを肩へ担ぎながら歩き出す。


やがて――。


北欧の神々。


ケルトの神。


彼らもまた、それぞれのいるべき場所へ帰っていく。


神々しい光が、広間を包み込む。


そして最後に――。


オーディンが、小さく笑った。


「さらばじゃ」


次の瞬間。


神々の姿は、静かに光の中へ消えていった。


神々の姿が、静かに消えていく。


広間には、淡い光だけが残っていた。


その中で――。


松平が、静かに口を開く。


「……我々も行くか」


低く落ち着いた声。


その視線が、AX班。


そして、オルレアンの面々へ向けられる。


晋作が、小さく笑った。


「そうだな……戻るか」


茜も、明るく頷く。


「うん!」


その時――。


ガルディアスが、静かに総司達へ歩み寄った。


数秒。


沈黙。


やがて――。


「初めて会った時は、悪かったな……」


少し不器用な声だった。


総司が、すぐに苦笑する。


「いや」


小さく肩をすくめる。


「どこの誰か分からない人間に対してなら、正当な反応だと思うよ」


晋作も、ニヤリと笑った。


「あぁ、違いねぇ」


その言葉に。


ガルディアスが、ふっと笑う。


短い笑み。


だが、それだけで十分だった。


続いて――。


レオニス国王が、静かに前へ出る。


「其方らには、終始助けられてばかりであった……」


王としてではなく。


一人の人間としての声音だった。


「このゲートは、いつでも其方らの世界へ繋がるようになっている」


広間奥。


青白い光を放つ、日本へ繋がる固定ゲートが静かに輝いている。


レオニスは、真っ直ぐ総司達を見る。


「有事の際は、真っ先に駆け付けよう」


晴明が、穏やかに微笑んだ。


「また会える事を、楽しみにしています」


ジャンヌも、柔らかく一礼する。


「こちらの世界へ来た際は――」


小さく笑う。


「是非、フランスにもお立ち寄りください」


その横で。


ラファエルも、肩をすくめながら笑った。


「観光なら案内するよ」


セレナが、くすっと笑う。


「まぁ――」


腕を組む。


「またすぐ会う事になる気もするけどね」


千代女も、楽しそうに笑った。


「ゲートあるしね!」


その空気に。


広間へ、小さな笑い声が広がる。


やがて――。


松平が、静かに歩き出した。


「では、行くとするか……」


総司。


美雪。


晋作。


茜。


晴明。


セレナ。


千代女。


恒一。


オルレアン。


そして――。


クー・フーリンもまた、その列へ加わる。


セレナが、横を歩きながら視線を向けた。


「本当に良かったの?」


少し真面目な声。


「こっちに来て」


クー・フーリンが、ニヤリと笑う。


「少なからず戦いはありそうだしな」


肩へ魔槍を担ぐ。


「そうなると、退屈しねぇ」


そして――。


どこか意味深に笑った。


「それに、“影の国”にも用がある」


その言葉に。


晴明が、小さく目を細める。


「なるほど……」


静かに頷いた。


「納得できました」


セレナだけは、少し嫌そうな顔をする。


「……スカサハ関連?」


クー・フーリンが、露骨に視線を逸らした。


「ノーコメントだ」


「絶対そうじゃない!!」


再び笑い声が広がる。


そして――。


AX班。


オルレアン。


ヴァルキリーズ。


クー・フーリン。


全員が並びながら、日本へ繋がるゲートへ向かって歩いていく。


異世界アストラルディア。


世界を懸けた戦い。


時代を超えた英雄達。


数え切れない出会い。


そして――新たな繋がり。


その全てを胸に。


彼らは、再び“未来”へ帰っていく。


青白いゲートの光が、静かに輝いた。


51話 完









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