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49話 Kingdom of Astraldia エピローグⅠ

――二日後。


アストラルディア王都。


世界大戦とも呼ぶべき激戦を乗り越えた王都は――今、かつてない熱狂に包まれていた。


石造りの大通り。


王城へ続く巨大街道。


噴水広場。


時計塔。


その全てが、人、人、人で埋め尽くされている。


王国民。


皇国民。


共和国民。


さらに、前線から帰還した兵士達まで。


誰もが今日という日を待ち望んでいた。


街中へ、巨大な王国旗が掲げられている。


黄金の皇国旗。


深紅の共和国旗。


そして――。


戦場で共に戦った各軍の旗もまた、王都の空に力強く翻っていた。


子供達が、目を輝かせながら叫ぶ。


「まだかな!?」


「英雄様達、もう来る!?」


母親達も、笑いながら頷く。


老人達は、静かに空を見上げていた。


「あの地獄から……本当に帰って来たのか……」


誰もが知っている。


この戦争が、どれほど絶望的だったかを。


空は裂け。


異形が溢れ。


巨大世界蛇が現れた。


あの日。


世界は、確かに滅びかけていた。


だが――。


それでも、人類は抗った。


世界を越えて集った英雄達と共に。


そして今。


その英雄達が、王都へ凱旋する。


王都全体が、その瞬間を待っていた。


その時だった。


ドォォォォォンッ――!!!


轟音。


白煙。


城壁上から、祝砲が撃ち放たれる。


一発。


二発。


三発。


王都中へ響き渡る祝砲の音に。


民衆が、一斉に歓声を上げた。


「始まるぞォォォッ!!」


「凱旋だァァァァ!!」


王都正門。


巨大な門が、ゆっくりと開いていく。


ギギギギギギ……


重厚な音が響く。


そして――。


最初に姿を現したのは。


アストラルディア王国軍だった。


銀鎧の騎士達。


槍兵。


剣士。


重装騎馬。


その誰もが、傷を負っている。


鎧は砕け。


剣には無数の傷。


だが――。


誰一人として俯いていない。


誇り高く。


胸を張り。


堂々と王都へ帰還していた。


民衆から、大歓声が上がる。


「王国軍だァァァ!!」


「生きて帰って来た!!」


「騎士様ァァァ!!」


騎士達の中には、涙を浮かべる者もいた。


守れたのだ。


国を。


家族を。


世界を。


その先頭。


巨大な黒鉄の大剣を背負い、騎馬を進める男。


王国騎士団総長――ガルディアス。


全身傷だらけ。


鎧は焼け焦げ。


マントは裂けている。


それでも。


その背中には、圧倒的な威厳があった。


民衆が、熱狂する。


「総長ォォォォッ!!!」


「ガルディアス様ァァァ!!」


「英雄万歳ッ!!」


ガルディアスは、静かに民衆を見渡した。


そして――。


ゆっくりと、大剣を掲げる。


ドォォォォッ!!!


それだけで、王都の熱気が爆発した。


騎士達も、一斉に剣を掲げる。


勝利。


生還。


その歓喜が、王都を震わせていた。


続いて現れたのは――。


黄金旗を掲げた、リディア皇国軍。


重厚な黄金鎧。


巨大盾。


圧倒的威圧感を放つ重装騎士団。


整然と進軍するその姿は、まさに“皇国最強軍”そのものだった。


「リディア軍だ!!」


「皇帝陛下万歳ッ!!」


黄金騎馬の上。


リディア皇帝が、静かに民へ手を上げる。


王者の風格。


その姿へ、皇国民達が涙を流しながら歓声を上げた。


さらに――。


ディスタル共和国軍。


深紅と黒を基調とした外套。


軽量化された魔導鎧。


結晶魔鉱を組み込んだ杖槍。


長弓。


細剣。


共和国独自の装備を纏った兵士達が、整然と王都へ進軍していく。


王国騎士のような重厚さとも。


皇国軍の豪奢さとも違う。


実戦性と機能性を徹底的に追求した軍装。


それが、ディスタル共和国軍だった。


外套の裾には共和国紋章。


武器には、淡い魔導光が脈動している。


魔導師部隊は、複数の浮遊魔法陣を展開しながら行進していた。


その後方では。


魔獣騎兵達が、巨大な黒狼へ騎乗して進んでいく。


鋭い眼光。


統率された足並み。


共和国軍特有の冷徹な精鋭感が、王都の民へ強烈な印象を与えていた。


共和国民達が、涙を流しながら叫ぶ。


「共和国軍だ!!」


「生きて帰って来た!!」


「レヴィン主席!!」


レヴィン主席は、静かに民衆を見渡す。


疲労は濃い。


だが、その目には確かな誇りが宿っていた。


共和国もまた。


この世界を守り抜いたのだ。


そして――。


低く鳴り響く陣太鼓。


ドン、ドン、ドン――。


空気が、再び変わる。


正門の先。


黒き軍勢が現れた。


織田木瓜の旗。


織田軍だった。


黒甲冑。


長槍。


鉄砲。


戦国最強と謳われた軍勢が、王都へ姿を現す。


先頭を進むのは――織田信長。


漆黒の陣羽織を翻しながら、堂々と馬を進めていた。


その威圧感へ。


異世界の民達が、思わず息を呑む。


「あれが……」


「異世界の英雄……!」


「まるで覇王だ……!」


信長は、歓声すら当然のように受け流しながら進む。


その背後では。


羽柴秀吉が、豪快に笑っていた。


「がははははッ!!」


「ええ歓迎ぶりじゃのぉ!!」


前田利家も、槍を肩へ担ぎながら笑う。


「当然だろ」


「世界救ったんだからよ!!」


鉄砲隊が整然と続く光景へ、王都の兵士達も驚愕する。


「なんだあの統率……!」


「歩兵なのに騎士団並だぞ……!」


織田軍が通り過ぎるだけで。


空気そのものが張り詰める。


まさに、“天下布武”の軍勢だった。


そして――。


空気が変わる。


ざわめき。


どよめき。


期待。


熱狂。


王都中の視線が、正門へ集まった。


「これが……」


「異世界の英雄達……!」


最初に現れたのは――浅葱色。


新選組。


近藤勇を先頭に、隊士達が堂々と進んでくる。


異世界の民達が、驚愕する。


「なんだあの服装……!」


「だが、凄まじい迫力だ……!」


近藤が、大声で笑った。


「はっはっはっはッ!!」


「歓迎感謝するぞォォォ!!」


隊士達も、大きく手を振る。


その空気は、まるで祭りそのものだった。


続いて。


白旗。


源氏軍。


義経。


弁慶。


歴戦の武者達が、堂々と馬を進める。


さらに――。


赤備え。


真田軍。


六文銭の旗が、夕陽を背に大きく翻った。


幸村の鋭い眼差しへ、民衆が歓声を上げる。


海援隊の坂本は、既に騒いでいた。


「おぉぉい!!」


「宴の準備しとけよォォォ!!」


民衆から、大きな笑いが起こる。


そして――。


空気が、一変した。


白銀の鎧。


聖剣。


円卓の騎士達。


アーサー王を先頭に。


ランスロット。


ガウェイン。


モードレッド。


神話級の騎士達が、静かに王都へ入ってくる。


その神々しい光景へ。


王都中が、息を呑んだ。


「綺麗……」


「神話の騎士様みたい……」


アーサー王は、静かに微笑む。


その姿だけで、人々は安心していた。


世界は守られたのだと。


そして――。


次の瞬間。


王都の熱狂が、完全に爆発した。


「AX班だァァァァァッ!!!!」


「異世界の英雄達!!」


「世界を救った人達だァァァァ!!」


歓声が、王都を揺らす。


総司。


美雪。


セレナ。


晴明。


晋作。


茜。


千代女。


恒一。


そして。


ジャンヌとラファエル。


十人が、ゆっくりと王都へ姿を現した。


その瞬間。


空気が変わる。


まるで。


本当に“英雄譚”の主人公達が現れたかのように。


歓声。


拍手。


涙。


誰もが、彼らへ熱狂していた。


「白銀の剣士様!!」


「吹雪の姫だ!!」


「神槍の英雄!!」


「札使いの賢者様!!」


美雪が、目を丸くする。


「す、凄い歓迎……」


総司も、苦笑していた。


「ちょっと想像以上かも」


セレナは、ニヤリと笑う。


「当然でしょ」


ゲイ・ボルグを肩へ担ぐ。


「世界救ったんだから」


晋作は、大声で笑っている。


「はははははッ!!」


「最高じゃねぇか!!」


茜は、顔を赤くしながら民衆へ手を振る。


「こ、こんにちは……!」


子供達が、嬉しそうに駆け回る。


「弓のお姉ちゃんだ!!」


「可愛い!!」


「龍いた人だ!!」


茜が、さらに赤くなった。


その横では。


晴明へ向け、王国魔導師達が畏敬の視線を向けていた。


「なんだあの術式……」


「札だけで魔法を……」


「別系統の魔導か……!?」


晴明は、静かに会釈するだけ。


だが、その所作一つですら洗練されていた。


ジャンヌとラファエルへも、王都民達から歓声が飛ぶ。


「聖騎士様だ!!」


「光の騎士様!!」


ジャンヌが、優しく微笑む。


そして――。


王都正門前。


突如として、空気が変わった。


ザワッ……


民衆のどよめき。


騎士達ですら、思わず空を見上げる。


空気そのものが、重くなる。


圧。


威圧。


まるで、“神”が近付いて来るような感覚。


その時だった。


ドォン――……


低い雷鳴が、空に響く。


雲一つない青空。


だが。


王都上空へ、黄金雷光が走った。


「なっ……!?」


「雷……!?」


民衆が、ざわめく。


そして――。


王都正門から現れた二人の姿に。


空気が、完全に止まった。


最初に現れたのは。


巨大な戦槍グングニルを携えた、隻眼の老戦士。


オーディン。


漆黒の神衣。


片目だけで全てを見通すような鋭い眼光。


ただ歩くだけで。


周囲の兵士達が、本能的に道を開けていく。


その後方。


雷神トール。


圧倒的巨躯。


肩へ担がれた大槌ミョルニル。


歩く度に、大地が僅かに揺れた。


異世界の民達が、完全に息を呑む。


「な、なんだあの二人は……」


「騎士じゃない……」


「まるで神話……」


実際――神だった。


王都中へ、静かな緊張が走る。


ガルディアスですら、無意識に息を呑む。


リディア皇帝も、目を細めていた。


レヴィン主席が、小さく呟く。


「……規格外だな」


オーディンは、周囲の熱狂にも一切興味を示さない。


ただ静かに。


王城を見据えて歩く。


その姿は。


まるで長い戦いを終えた“戦神”そのものだった。


だが――。


その横で。


トールが、豪快に笑った。


「ガハハハハハッ!!!」


腹へ響くような笑い声。


民衆が、思わずビクリと肩を震わせる。


トールは、周囲を見渡しながら笑った。


「良い歓声だ!!」


「勝った戦の後ってのは、こうでなくちゃなァ!!」


その豪快さに。


逆に空気が少し和らぐ。


子供達が、目を輝かせ始めた。


「大きい!!」


「すげぇぇぇ!!」


「ハンマー持ってる!!」


トールが、それに気付いてニヤリと笑う。


「おう!!」


ミョルニルを軽く掲げる。


バチィッ――!!


雷光が走った。


「うおおおおおッ!!」


子供達が、大歓声を上げる。


セレナが、呆れ半分で笑った。


「……馴染むの早いわね、あの雷神」


晋作も、吹き出している。


「完全に祭り参加してんじゃねぇか」


その横で。


オーディンが、小さく鼻を鳴らした。


「騒がしい男だ」


トールが、大笑いする。


「勝ったんだ!!」


「少しくらい騒いでもいいだろうが!!」


オーディンは答えない。


だが――。


その口元は、僅かに緩んでいた。


総司が、その姿を見ながら小さく笑う。


「……なんだかんだ、二人とも楽しそうだね」


美雪も、クスッと笑った。


「うん」


その時だった。


王都民の誰かが、震える声で呟く。


「まさか……」


「本当に“神”まで戦ってたのか……?」


その言葉が、周囲へ広がっていく。


異世界の英雄。


戦国武将。


聖騎士。


そして――北欧神話の神々。


この戦争が、どれほど異常だったのか。


民衆は、改めて理解していた。


だが同時に。


誰もが確信していた。


だからこそ――勝てたのだと。

 

 全員が揃ったその時だった。


ドォォォォォォンッ――!!!


再び祝砲。


城壁上。


レオニス王が姿を現した。


王都中が、一気に静まり返る。


王が、前へ出る。


その威厳だけで、空気が変わった。


レオニス王が、高らかに声を響かせる。


「聞け!! アストラルディアの民よ!!」


王の声が、王都全体へ広がる。


「世界は、滅びかけた」


重い言葉。


誰もが、静かに耳を傾ける。


「空は裂け」


「異形が溢れ」


「我らは、絶望の淵へ立たされた」


その光景を。


誰もが覚えている。


だが――。


王の声が、強くなる。


「それでも!!」


その視線が、英雄達へ向いた。


「我らは生き残った!!」


瞬間――。


王都中が、歓声で揺れた。


レオニス王が、さらに続ける。


「王国!!」


「皇国!!」


「共和国!!」


「そして――異世界より現れし英雄達!!」


その視線は。


AX班だけではない。


織田軍。


新選組。


源氏軍。


真田軍。


海援隊。


円卓の騎士達。


全てへ向いていた。


「全ての者達が共に戦い!!」


「この世界を守り抜いたのだァァァァッ!!」


ドォォォォォォォォォッ――!!!


割れんばかりの歓声。


拍手。


咆哮。


王都そのものが、震えていた。


その中心で――。


総司達は、静かに空を見上げていた。


戦いは終わった。


世界は守られた。


だが。


ここから始まるのは――。


新しい時代。


新しい世界。


その確かな鼓動が。


今、この王都で鳴り始めていた。


歓声。


拍手。


音楽。


まるで世界そのものが祭りへ包まれているかのようだった。


その中で――。


総司が、ふと思い出したように周囲を見回す。


「そういえば――」


その声に、美雪達が視線を向けた。


総司は、小さく首を傾げる。


「戦艦大和の人達と、自衛隊のヴァルキリーズの人達は?」


その言葉に。


坂本が、「あぁ」と思い出したように頷いた。


「大和の連中なら、もう帰ったらしいぜよ」


「え?」


茜が、少し驚いた顔をする。


坂本は、苦笑しながら肩をすくめた。


「なんでも、“本来の任務途中”だったとかでのぉ」


「世界を救った後だってのに、そのまますぐ元の時代へ戻ったらしい」


晋作が、思わず吹き出す。


「相変わらずクソ真面目だなぁ海軍ってのは」


坂本も、大笑いした。


「全くだ!!」


「最後までカッチリしちょる!!」


総司も、少し苦笑する。


「でも、あの人達らしいかも」


戦艦大和。


異世界の海で。


最後まで戦線を支え続けた巨大戦艦。


その存在感は、あまりにも圧倒的だった。


美雪が、小さく呟く。


「ちゃんと帰れたなら良かった……」


その横で。


セレナも、思い出したように口を開く。


「ヴァルキリーズは、別任務があるとかって話だったわね」


「別任務?」


ラファエルが、僅かに眉を上げる。


セレナが頷いた。


「なんか、松平から直接指示が来てたみたい」


「“すぐ戻れ”って」


晴明が、静かに目を細める。


「……あの人らしいですね」

 

 


――日本。


北海道。


航空自衛隊・千歳基地。


快晴。


滑走路の向こう。


青と白の機体が、陽光を反射していた。


航空自衛隊アクロバット飛行隊――ブルーインパルス。


その機体群を前に。


ヴァルキリーズのパイロット達が、並んで立っていた。


F-15Jとは違う。


だが。


空を魅せるために作られた“特別な翼”。


基地内にも、どこか独特の緊張感が漂っていた。


その時――。


通信モニターへ、松平の姿が映る。


全員が、一斉に姿勢を正した。


松平が、静かに口を開く。


『ヴァルキリーズ』


低く落ち着いた声。


『アストラルディア側にて、和平調印式及び戦勝祝賀式典が執り行われる』


『その上空警備、並びに祝賀飛行を実施する』


ヴァルキリー1が頷く。


「了解」


だが――。


次の言葉に。


全員の顔が、少し変わった。


『今回の祝賀飛行は、ブルーインパルス機を使用しろ』


数秒。


沈黙。


そして。


「……は?」


ヴァルキリー4が、素で固まった。


ヴァルキリー2も、目を丸くする。


「え、俺らが?」


「ブルーを?」


松平は、淡々と続けた。


『異世界側への政治的演出だ』


『単なる戦闘機編隊より、“空を舞う象徴”の方が効果的と判断した』


『加えて――』


一拍。


『お前達は既に、“異世界を守った英雄”として認識されている』


『ならば、最後まで飛べ』


待機室が、静まり返る。


ヴァルキリー5が、小さく吹き出した。


「いや待て待て待て」


「異世界でブルーとか前代未聞だぞ」


ヴァルキリー3も、頭を抱える。


「絶対歴史教科書に残るだろこれ……」


すると。


格納庫側から、ブルーインパルスの隊員達が歩いてきた。


その先頭にいた隊員が、ニヤリと笑う。


「聞いたぞ」


「今日はお前らが“ブルー”だってな」


ヴァルキリー4が、苦笑する。


「マジでやるんすか?」


ブルーの隊員は、肩をすくめた。


「異世界飛んで帰って来た奴らに、今さら無理とか言わねぇよ」


周囲から、小さな笑い。


その時。


ヴァルキリー1が、静かにブルーの機体を見る。


青空を映す蒼い機体。


戦うためではない。


魅せるための翼。


だが――。


その意味を、誰より理解していた。


戦争が終わったからこそ。


空を、“恐怖”ではなく“希望”として見せる必要がある。


ヴァルキリー1が、小さく息を吐いた。


「……了解しました」


その言葉に。


他のメンバー達も、苦笑しながら頷く。


ヴァルキリー2。


「まぁ、一生に一回あるかないかだな」


ヴァルキリー4。


「異世界でアクロバット飛行とか誰が想像すんだよ……」


ヴァルキリー5。


「でもまぁ――」


青い機体を見上げる。


「悪くねぇか」


格納庫内。


整備員達が、ブルーインパルス機の最終調整を進めている。


その横では。


ヴァルキリーズ仕様へ簡易調整されたヘルメットが並んでいた。


そして――。


基地上空。


ゴォォォォォ……


突如。


空間が、僅かに歪み始める。


基地警報が鳴る。


『次元ゲート反応確認!!』


『座標固定開始!!』


管制室が、一気に慌ただしくなる。


ヴァルキリー1が、静かにヘルメットを被った。


「行くぞ」


その声に。


全員の表情が変わる。


戦闘ではない。


だが――。


これは、“世界を繋ぐ飛行”だった。


ヴァルキリー2が、不敵に笑う。


「異世界相手にブルーインパルス披露とか」


「日本史でも前代未聞だな」


ヴァルキリー4も、笑う。


「向こうの王様、腰抜かすぞ絶対」


ヴァルキリー5が、親指を立てた。


「じゃあ派手に飛ぶか」


次の瞬間――。


パイロット達が、一斉に機体へ駆け出した。


青空の下。


蒼き翼が、ゆっくりと始動音を響かせ始める。


そして――。


異世界アストラルディアへ向けた、“祝福の飛行”が始まろうとしていた。


――アストラルディア王城。


巨大屋外広間。


王城正面へ設けられた特設壇上には。


三国の旗が並んでいた。


アストラルディア王国。


リディア皇国。


ディスタル共和国。


その前には、無数の民衆。


兵士達。


各国貴族。


魔導師達。


そして――。


世界を救った英雄達。


誰もが、この瞬間を見届けようとしていた。


空は快晴。


戦争の傷跡が嘘のような、穏やかな青空だった。


その中央。


レオニス王が、ゆっくりと前へ出る。


王の威厳だけで、広場の空気が静まり返った。


レオニス王が、高らかに口を開く。


「リディア皇帝――」


黄金の視線が向く。


「レヴィン主席――」


二人が、静かに前へ進み出た。


黄金鎧を纏うリディア皇帝。


深紅の外套を纏うレヴィン主席。


三国首脳が並び立つ光景へ。


民衆が息を呑む。


レオニス王が、広場全体へ向け声を響かせた。


「今日――」


力強い声。


「記念すべき勝利の日に、もう一つ重大な報告がある!!」


民衆が、静まり返る。


レオニス王は続けた。


「これまで国境付近にて争いを続けてきた三国は――」


一拍。


「今回の戦いを経て」


「恒久的和平を結ぶ事となった!!」


その瞬間――。


広場中が、大きくざわめいた。


「和平……!?」


「本当に……!?」


「戦争が終わるのか……!?」


レオニス王の声が、さらに強くなる。


「王国!!」


「皇国!!」


「共和国!!」


「今後は同盟国として協力し!!」


「より豊かな世界を築くための礎となる!!」


その眼差しは、真っ直ぐ未来を見据えていた。


「そして!!」


王が、大きく手を広げる。


「他国の先駆けとなるであろう!!」


歓声。


拍手。


涙。


広場全体が揺れる。


その中で。


レオニス王が、ゆっくりと巻物へ手を添えた。


「この場をもって――」


厳かに告げる。


「三国による正式調印を行う!!」


その視線が、英雄達へ向く。


「異世界の戦士諸君にも」


「証人として立ち会っていただく」


総司達が、静かに頷いた。


AX班。


織田軍。


新選組。


源氏軍。


真田軍。


海援隊。


円卓の騎士達。


そして。


オーディンとトール。


世界を救った英雄達が、その場へ立つ。


まず――。


リディア皇帝が前へ出た。


静かに羽ペンを持つ。


そして。


約定書へ、力強く署名する。


サラサラ――。


その瞬間。


民衆から、大きな拍手が巻き起こった。


続いて。


レヴィン主席。


深く息を吐き。


静かに署名する。


共和国紋章入りの印章が押される。


そして最後に――。


レオニス王。


王が羽ペンを握り締めた。


静寂。


誰もが、その瞬間を見守っていた。


やがて――。


最後の署名が記される。


サラッ――。


調印完了。


その瞬間。


レオニス王が、約定書を高々と掲げた。


「ここに――!!」


王の声が、王都中へ響く。


「三国同盟、並びに恒久和平の成立を宣言する!!!」


ドォォォォォォォォォッ――!!!!


割れんばかりの歓声。


拍手。


咆哮。


広場が震える。


兵士達が、武器を掲げる。


民衆が、涙を流す。


長く続いた争い。


その歴史が、今――終わったのだ。


その時だった。


ズズズズズズズ……


突如。


空が歪み始める。


「!?」


「な、なんだ!?」


広場が、一気にざわつく。


巨大な次元ゲートが、王都上空へ展開された。


騎士達が、反射的に武器を構える。


だが――。


総司達だけは、驚いていなかった。


セレナが、ニヤリと笑う。


「来たわね」


晋作も、口元を吊り上げる。


「なるほど」


「これが“別任務”か」


次の瞬間――。


ゴォォォォォォォォッ!!!!


轟音。


青と白の機影が、ゲートから飛び出した。


「「「おおおおおおッ!?」」」


民衆が、一斉に空を見上げる。


青い機体。


白いスモーク。


五機編隊。


蒼き翼が、王都上空へ舞い上がった。


「鉄の鳥だァァァ!!」


「空を飛んでる!!」


「なんだあれは!?」


ブルーインパルス。


異世界アストラルディアの空へ。


日本のアクロバット飛行隊が現れた。


上空。


ヴァルキリー1が、静かに笑う。


『視界良好』


『異世界の空とは思えんな』


ヴァルキリー2が、笑った。


『下の歓声ヤバくないか?』


ヴァルキリー4。


『王様まで見上げてるぞ』


ヴァルキリー5が、楽しそうに笑う。


『よし――』


『派手に行こうぜ』


次の瞬間。


五機が、一斉に加速。


シュバァァァァァッ――!!!


白煙を引きながら。


王都上空へ巨大な弧を描く。


民衆が、完全に息を呑んだ。


「す、すごい……!!」


「空に絵を描いてる……!?」


五機が、超低空で交差。


ギュォォォォォォッ――!!!


轟音。


疾風。


その迫力に、子供達が歓声を上げる。


さらに――。


編隊が縦一列へ変形。


急上昇。


白いスモークが、青空へ巨大な光線を描き出した。


茜が、思わず目を輝かせる。


「綺麗……!!」


美雪も、完全に見入っていた。


「空で踊ってるみたい……」


その横で。


トールが、大笑いする。


「ガハハハハッ!!」


「面白ぇぇぇぇ!!」


オーディンですら、静かに空を見上げていた。


その片目が、僅かに細まる。


「……空を魅せる技術か」


「戦だけではない、か」


アーサー王も、小さく微笑む。


「美しい飛行だ」


ガルディアスは、完全に圧倒されていた。


「これが……」


「異世界の空の騎士……」


さらに――。


五機が、一斉に散開。


クロス。


背面飛行。


高速旋回。


人間離れした機動が、次々と空へ描かれていく。


民衆は、もう歓声を止められなかった。


「すげぇぇぇぇぇ!!」


「空の祝祭だ!!」


「世界が祝ってるみたいだ!!」


上空。


ヴァルキリー1が、静かに通信を開く。


『各機』


『最後だ』


ヴァルキリー2が、笑う。


『了解』


ヴァルキリー5。


『決めるぞ』


次の瞬間――。


五機が、一斉に急上昇。


そして。


巨大な白煙軌道が。


王都上空へ描かれていく。


それは――。


三つの円。


アストラルディア王国。


リディア皇国。


ディスタル共和国。


三国を象徴するような、巨大な三連円だった。


広場が、静まり返る。


誰もが空を見上げる。


そして――。


完成した瞬間。


ドォォォォォォォォォッ――!!!!


王都中が、今日最大の歓声へ包まれた。


和平。


勝利。


未来。


全てを祝福するように。


蒼き翼達は、異世界の空を翔け抜けていた。


巨大な三連円を描き切ったブルーインパルス編隊は。


ゆっくりと高度を上げていく。


白いスモークが、青空へ長く残っていた。


その下では――。


民衆達が、なお歓声を上げ続けている。


「すごかった……!」


「空の奇跡だ……!」


「異世界の英雄達の仲間なのか……!」


子供達が、空へ向かって手を振る。


兵士達も、武器を掲げ続けていた。


その光景を。


上空のコックピットから、ヴァルキリーズは静かに見下ろしていた。


ヴァルキリー4が、小さく笑う。


『……大歓声だな』


ヴァルキリー2も、苦笑混じりに答えた。


『そりゃあんな反応されたら悪い気しないだろ』


ヴァルキリー5が、少し嬉しそうに言う。


『異世界で航空ショーとか、人生何があるか分かんねぇな』


その時――。


前方。


空間が、再び歪み始める。


ズズズズズズズ……


帰還用ゲート。


日本へ繋がる次元通路が、静かに開いていく。


青白い光が、空へ広がった。


ヴァルキリー1は。


最後にもう一度だけ、王都を見下ろした。


和平を喜ぶ民衆。


武器を掲げる兵士達。


そして――。


こちらを見上げるAX班達。


総司が、小さく手を振る。


セレナも、ニヤリと笑っていた。


ヴァルキリー1が、静かに口を開く。


『……全機』


その声に。


編隊全機が応答する。


『2、了解』


『4、了解』


『5、了解』


『6、了解』


ヴァルキリー1が、真っ直ぐゲートを見据える。


『ゲートを潜り――』


一拍。


『全機帰投する』


その命令に。


全機が、力強く答えた。


『『『了解!!』』』


次の瞬間――。


ブルーインパルス編隊が、一斉に加速した。


ゴォォォォォォォォッ――!!!


蒼き機影が、白い尾を引きながら一直線に飛ぶ。


先頭。


ヴァルキリー1が、光の中へ突入。


続けて。


二番機。


三番機。


四番機。


五番機。


次々と、ゲートへ消えていく。


そして最後に――。


最後尾機が、翼を軽く傾けた。


まるで。


異世界へ別れを告げるように。


そのまま――。


機体は、光の中へ消える。


直後。


ズズズズズズ……


巨大ゲートが、ゆっくり収縮を始めた。


青白い光が、小さくなっていく。


やがて――。


空間の歪みは、完全に閉じた。


異世界の空へ残ったのは。


白いスモークの軌跡だけだった。


民衆達は、しばらく空を見上げ続けていた。


誰もが理解していた。


あの“蒼き翼”達もまた――。


世界を救った英雄だったのだと。


静寂。


蒼き翼達が消えた空を。


誰もが、しばらく見上げていた。


風が吹く。


王都中へ響いていた歓声も、少しずつ落ち着きを取り戻していく。


その時――。


レオニス国王が、ゆっくりと前へ出た。


王の威厳。


だがその表情には、確かな安堵と誇りが浮かんでいる。


「……見事であったな」


低く響く声。


その言葉に。


民衆達も、兵士達も再び国王へ視線を向けた。


レオニス王は、空を見上げながら続ける。


「異世界の英雄達」


「そして、この世界を守るため立ち上がった全ての者達」


一拍。


「其方らが居たからこそ――我々は今日を迎えられた」


大きな拍手が巻き起こった。


その隣へ。


リディア皇帝が進み出る。


黄金の外套を翻しながら。


堂々と民衆を見渡した。


「リディア皇国は」


力強い声。


「これまで武力によって威光を示してきた」


民衆が静まる。


だが。


皇帝は、静かに笑った。


「だが今回、余は知った」


視線を、アストラルディアとディスタルの兵達へ向ける。


「真に強き国とは――共に戦える国だ」


その言葉に。


リディア兵達が、大きく武器を掲げた。


「皇帝陛下万歳!!」


歓声が響く。


続いて――。


レヴィン主席が、静かに前へ出た。


共和国特有の深緑の礼装。


その姿は、軍人というより“民の代表”そのものだった。


「ディスタル共和国は」


落ち着いた声が響く。


「長く、“疑う事”で生き残ってきた国家だ」


兵士達が、静かに耳を傾ける。


「だが――」


その目が、民衆を見る。


「この戦いで理解した」


一拍。


「違う思想を持とうと」


「違う文化を持とうと」


「世界を守りたいという想いは、同じだという事をな」


共和国兵達が、拳を掲げた。


「主席!!」


「共和国万歳!!」


レヴィン主席は、小さく笑いながら頷いた。


そして――。


最後に。


レオニス国王が、再び一歩前へ出る。


その瞬間。


広場全体が静まり返った。


王は。


調印された三国盟約書を、高く掲げる。


夕陽が、その羊皮紙を照らした。


「今日――」


その声が、王都全域へ響き渡る。


「我らは勝利した!!」


民衆が、再び歓声を上げる。


だが。


レオニス王は続けた。


「だが、それ以上に――」


一拍。


「未来を掴み取ったのだ!!」


その言葉に。


兵士達が、武器を掲げる。


「アストラルディア!!」


「リディア皇国!!」


「ディスタル共和国!!」


「そして異世界の英雄達!!」


王の声が、力強く響く。


「この絆を持って!!」


「我らは新たな時代を築く!!」


大歓声。


割れんばかりの拍手。


涙を流す者達。


抱き合う兵士達。


誰もが、歴史の瞬間を理解していた。


そして――。


レオニス王が、大きく腕を広げる。


「これにて!!」


高らかに宣言した。


「凱旋パレード及び、三国和平調印式を終了する!!」


歓声。


拍手。


勝鬨。


それら全てが、王都を揺らした。


だが――。


王は、そこで終わらない。


ニヤリと笑う。


「なお!!」


民衆が、一斉に静まる。


「夕刻より、王城にて!!」


その声が、さらに大きくなる。


「異世界の英雄達を交えた祝賀会を開催する!!」


一気に歓声が爆発した。


「おおおおおおおッ!!」


「宴だぁぁぁぁッ!!」


「異世界の英雄達も参加するのか!?」


さらに――。


「そして!!」


レオニス王が、王都全域を見渡した。


「街全体にて記念祭を開催する!!」


民衆が、さらに沸き立つ。


楽師達。


商人達。


兵士達。


誰もが歓喜していた。


レオニス王が、最後に高らかに告げる。


「皆!!」


その顔に、王としてではなく。


一人の“勝者”としての笑みを浮かべた。


「今日は存分に楽しめ!!」


「「「おおおおおおおおおおおッ!!!!」」」


王都全体が。


祝福と歓声に包まれた。


戦争を乗り越えた世界は――。


今、新たな時代への第一歩を踏み出そうとしていた。


49話 完

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