42話 Kingdom of Astraldia Ⅶ
ドォォォォォンッ!!!
第一防衛ライン。
織田軍による三段撃ちが、なおも続いていた。
火縄銃の轟音。
立ち込める硝煙。
放たれる無数の鉛弾。
押し寄せる次元イーターたちが、次々に撃ち抜かれていく。
一列目が撃つ。
即座に後退。
二列目が前へ。
装填済みの火縄銃が、一斉に火を噴く。
さらに三列目。
交代。
装填。
発射。
流れるような連携。
それはまさしく――。
史実、長篠の戦い。
織田信長が完成させた鉄砲運用の再現だった。
アストラルディア兵たちは、呆然とその光景を見ている。
「止まらない……」
「ずっと撃ち続けている……!」
「こんな運用法が……!」
だが――。
その中心に立つ信長だけは、静かだった。
硝煙の向こう。
押し寄せる次元イーターたちを見据えながら、小さく呟く。
「……長篠の時と、一点だけ異なるか」
その横で。
秀吉が、扇を揺らしながら笑う。
「分かりますぞ、親方様」
信長が、目だけを向けた。
「ほぉ?」
秀吉が、前方を見る。
「用意しておる騎馬を出せんことでしょう?」
「大方当たりだ」
信長が、不敵に笑った。
「敵が、“鉄砲”に怯んでおらん」
一拍。
「音にも」
「硝煙にも」
その目が鋭く細まる。
「長篠の時、武田の兵は鉄砲に怯む」
「音が鳴れば死ぬ」
「次にあの音がしたら――」
静かな声。
「そういう恐怖が、動きを鈍らせる」
秀吉も、真顔になる。
信長は続けた。
「そこへ騎馬が突っ込む」
「それが長篠じゃ」
だが――。
信長の目が、次元イーターたちを見る。
「この敵は違う」
火縄銃で仲間が吹き飛ばされても。
なお真っ直ぐ突っ込んでくる。
止まらない。
怯まない。
「恐怖そのものを感じておらん」
一拍。
「……いや」
信長が、小さく鼻を鳴らした。
「感情が無いと言った方が正しいか」
その言葉に。
周囲の空気が、少し重くなる。
秀吉も、敵群を見ながら静かに呟く。
「まるで“生き物”っちゅうより……」
「災害ですな」
信長が、不敵に笑った。
「だから面白い」
その目が、戦場を見据える。
「人の戦で通じぬ…か」
火縄銃を構える兵たちを見る。
そして――。
再び信長が、右手を振り上げた。
「撃てぇぇぇぇッ!!!」
ドォォォォォンッ!!!!
織田軍三千丁が、再び火を噴いた。
次元イーターの群れを見据えながら。
信長は、静かに口元を歪めた。
「……ならば」
低い声。
「人の戦ではない形で仕留めるまでよ」
その直後。
信長が、鋭く叫ぶ。
「猿!!」
秀吉が、即座に振り返った。
「はっ!!」
信長は、前方を睨んだまま命じる。
「犬と役割を交代せよ」
一拍。
「そして――」
その目が細まる。
「望月の用意した材料を使い、“美濃”の再現をやってのけぃ」
秀吉の表情が変わる。
だが次の瞬間。
ニヤリと笑った。
「なるほど……!」
扇を閉じる。
「この相手、やはり長丁場になりますな」
信長が、不敵に笑う。
「そういうことじゃ」
静かな声。
「ただ撃ち続けるだけでは、いずれ押し潰される」
秀吉が、深く頭を下げた。
「この羽柴秀吉に、お任せを!!」
その時。
別方向から、力強い声が響く。
「はっ!!」
前田利家だった。
槍を肩へ担ぎながら前へ出る。
「仰せのままに!!」
信長が、小さく頷く。
「犬!!」
「聞こえたな!!」
利家が、力強く槍を掲げた。
「無論!!」
その目が、防衛ライン右翼を見る。
「右方鉄砲隊、前田利家が引き継ぎまする!!」
そして――。
信長は、さらに振り返った。
「蘭丸」
森蘭丸が、即座に跪く。
「御意」
信長が命じる。
「三河の松平へ伝令じゃ」
一拍。
「前田の後任となり、左方鉄砲隊の指揮を執れとな」
蘭丸が、静かに頷く。
「承知いたしました」
そのまま駆け出していく。
秀吉は、既に別の隊へ指示を飛ばし始めていた。
「木材運べぇ!!」
「後方の森じゃ!!」
「城をつくるぞ!!」
その怒号が、防衛ライン全体へ響き渡る。
ガルディアスが、その様子を見て呆然と呟いた。
「戦場の中で……」
一拍。
「戦術そのものを変えているのか……」
晴明が、静かに目を細める。
「彼は、自らを“第六天魔王”と称した男です」
その視線が、信長へ向く。
「常識の外側で戦を組み立てることに長けている」
信長が、迫り続ける次元イーターの群れを見据える。
火縄銃の轟音は、なお止まらない。
だが――。
信長の目は冷静だった。
「とは言ったものの……」
静かな声。
「このままでは、弾も弾薬も足りなくなる」
硝煙の向こうを見る。
「いずれ押され始めるか……」
その時だった。
左方崖上。
そこから戦場を見下ろしていた武者たちが動く。
白旗。
源氏軍。
先頭へ立つのは――。
源義経。
義経が、静かに太刀を抜いた。
「皆の者!!」
その声だけで、空気が変わる。
「まずは我らが出る!!」
一拍。
「良いか!!」
武者たちが、一斉に雄叫びを上げた。
「「「うぉおぉぉぉッ!!!」」」
「義経様と共に!!」
「源氏の名に懸けて!!」
歓声が、崖上へ響き渡る。
その横で。
弁慶が、薙刀を担ぎながら笑った。
「いよいよですな、義経様!!」
義経が、不敵に笑う。
「行くぞ、弁慶!!」
弁慶が、力強く頷いた。
「はっ!!」
次の瞬間。
義経が、太刀を前へ突き出す。
「源氏軍――」
その目が、戦場を射抜く。
「出る!!」
白旗が翻る。
「我に続けぇぇぇぇッ!!!!」
地面が震えた。
次の瞬間――。
源義経率いる源氏軍騎馬隊が、一斉に崖を駆け降り始めた。
ガルディアスたちアストラルディア側が、目を見開く。
「なっ……!?」
「本当に降りるのか!?」
急斜面。
普通なら、馬ごと転落してもおかしくない。
だが――。
源氏軍は止まらない。
馬を操り。
崖を滑るように駆け降りていく。
義経が、前方を見据えながら呟いた。
「この作戦を考案した者……」
一拍。
「我らが何をやったか、熟知しているようだな」
その目が、崖を見る。
「でなければ、普通の者はこんな崖を馬で駆け降りようとは考えん」
弁慶が、豪快に笑う。
「本当に未来の者なのでしょうな!!」
薙刀を構える。
「しかし、この構図……」
少し懐かしそうに目を細めた。
「壇ノ浦を思い出しますな!!」
義経も、小さく笑う。
「あの時も、こんな形の奇襲だったな」
海。
崖。
挟撃。
まるで、あの日の再現。
弁慶が、敵群を睨む。
「奇襲として通じるかは分かりませぬが」
その目が鋭くなる。
「今回は、織田軍へ向かう敵数を減らす役割」
薙刀を振り上げる。
「果たしましょうぞ!!」
そして――。
白旗を翻しながら。
源氏軍が、次元イーターの側面へ突撃した。
崖を駆け降りた勢いそのままに――。
源氏軍騎馬隊が、次元イーターの側面へ突っ込んだ。
ドォォォォォッ!!
馬の蹄が大地を叩く。
白旗が翻る。
その突撃は、まさしく“雪崩”だった。
「押し込めぇぇぇぇッ!!!」
武者たちの怒号が響く。
次元イーターたちが、側面から襲いかかってきた騎馬隊へ対応しきれない。
そこへ――。
義経が飛び込む。
白き馬が、戦場を駆け抜けた。
義経の太刀が、一閃。
ズバァァァッ!!
次元イーターの身体が、真っ二つに裂ける。
止まらない。
そのまま次の敵へ。
さらに一閃。
最小限の動き。
だが。
恐ろしいほど正確。
まるで敵の急所だけを斬り抜いているかのようだった。
弁慶が、豪快に笑う。
「流石ですなぁ義経様!!」
巨大な薙刀を振るう。
ゴォォォォォッ!!
横薙ぎの一撃。
数体まとめて吹き飛ばされる。
さらに――。
踏み込む。
振り下ろす。
地面ごと敵を叩き潰した。
「まだまだぁぁぁぁッ!!!」
源氏軍武者たちも続く。
馬上からの槍。
太刀。
弓。
その全てが、正確に敵を貫いていく。
義経が、敵陣を駆け抜けながら叫ぶ。
「止まるな!!」
太刀を振るう。
「勢いを殺せば呑まれるぞ!!」
その声に、武者たちが応える。
「「「応ッ!!!」」」
次元イーターたちが、源氏軍へ向き始める。
だが。
それこそが狙いだった。
義経が、不敵に笑う。
「そうだ」
敵を見る。
「こちらを見ろ」
その瞬間。
義経の馬が、大きく跳躍する。
敵の頭上を飛び越えた。
「なっ……!?」
アストラルディア兵たちが、目を見開く。
着地と同時。
義経が回転するように太刀を振るった。
銀閃。
周囲の次元イーターたちが、一斉に崩れ落ちる。
弁慶が、豪快に笑う。
「はっはっは!!」
薙刀を振り回しながら突き進む。
「壇ノ浦を思い出しますなぁ!!」
義経が、小さく笑った。
「戦場の空気は、変わらぬものだ」
一拍。
「ならば――」
敵を見る。
「我らも変わらず、斬るだけだ!!」
その時だった。
次元イーターの群れが、源氏軍へ集中し始める。
防衛ラインへ向かっていた流れが、明らかに逸れた。
織田軍側。
秀吉が、その様子を見て笑う。
「ほぉ……!!」
扇を広げる。
「見事に敵を引きつけおる!!」
信長も、不敵に笑った。
「流石は源九郎義経」
その目が細まる。
「戦場の流れを読むか」
義経は、なおも敵陣中央を駆け抜ける。
その背へ、白旗が翻る。
まるで――。
平安の戦神、そのものだった。
その戦いぶりを――。
崖上から、円卓の騎士たちも見ていた。
黄金の軍旗。
白銀鎧。
風を受けながら、彼らは静かに戦場を観察している。
眼下では。
源氏軍が、次元イーターの群れを翻弄し続けていた。
ガウェインが、感心したように呟く。
「馬で敵の頭上を飛び越えるとは……」
その目が細まる。
「なかなかの腕ですな」
ランスロットも、小さく息を吐く。
「全く」
静かな声。
「このような者たちもいるとは」
義経たちを見る。
「世界は広い」
アーサー王は、腕を組んだまま戦場を見下ろしていた。
その黄金の瞳が、義経を追う。
「……戦場を知り尽くしているというより」
一拍。
「敵を翻弄する術を知っている、と言うべきか」
その時。
トリスタンが、静かに口を開く。
「一見、力任せの突撃に見える」
竪琴騎士の瞳が、鋭く細まる。
「ですが違う」
義経を見る。
「大将自らが敵を翻弄し、鮮やかに斬る」
さらに視線を動かす。
「そして敵が怯んだ瞬間を、あの大男の薙刀と後続兵が叩く」
弁慶が、敵を吹き飛ばしていく。
「見事な連携です」
一拍。
「統制されている……いや」
小さく首を振る。
「互いに信頼しているからこそ可能な戦い方」
その時だった。
モードレッドが、剣へ手をかける。
「父上」
その目が、戦場を見据える。
「我らも打って出ましょう!!」
不敵に笑う。
「円卓の力、見せつける時では?」
だが――。
アーサー王は、静かに首を振った。
「まだだ」
モードレッドが、少し不満そうに眉を寄せる。
アーサー王は、戦場を見つめたまま続ける。
「今、彼らは攻勢へ出ている」
義経たちを見る。
「ならば、我らが不用意に動けば――」
一拍。
「彼らの“引き際”を潰すことになる」
その言葉に。
ガウェインが、静かに頷いた。
「なるほど……」
ランスロットも、小さく笑う。
「既に戦場全体を見ておられるか」
アーサー王は、静かに聖剣へ手を添えた。
「円卓が出るべき時は」
黄金の瞳が細まる。
「彼らの勢いが落ち始めた時だ」
その瞬間まで――。
円卓の騎士たちは、静かに戦況を見守り続けていた。
――王城。
召喚準備は、なお続いていた。
巨大な召喚陣。
大量の魔術師たち。
王城全体が、まるで巨大な魔導施設のようになっている。
その中で。
千代女が、戦況図を見つめながら呟いた。
「……多分、この分だと」
一拍。
「火薬と鉛玉が足りなくなるかもしれない」
エルグランが、眉をひそめる。
「“火薬”なる物は、この国には……」
静かな声。
「というより、この世界には存在せぬ」
千代女が、小さく息を吐いた。
「なら、呼び出すしかないわね」
リストをめくる。
「そういうの作れる人」
指を止める。
「あれ?」
「リストに“パラケルスス”って人いなかった?」
クロードが、羊皮紙を確認する。
「……名前はある」
一拍。
「この者かね?」
千代女が、すぐ頷いた。
「そう、その人!」
その目が少し鋭くなる。
「錬金術師よ」
エルグランが、興味深そうに聞き返す。
「錬金術とは?」
千代女が、少し考えてから答える。
「簡単に言えば、“金を作ろう”として研究してた人たちのこと」
肩をすくめる。
「まぁ実際は、不老不死とか、薬とか、色々研究してた感じかな」
一拍。
「その中の一つが“化学”」
その目が、戦況図を見る。
「火薬なんかも、その延長線上」
クロードが、少し驚いたように目を細める。
「魔術とは違うのか?」
「違うわね」
千代女が頷く。
「私たちの世界って、魔術より“科学”が発展した世界だから」
その時。
クロードが、ふと思い出したように口を開いた。
「では……」
一拍。
「あの安倍晴明という者は、魔術師ではないのか?」
千代女が、少し苦笑した。
「あー……」
肩をすくめる。
「あの人は例外かな」
その目が、どこか遠くを見る。
「陰陽師」
静かな声。
「私たちの国で、伝説級に有名な過去の偉人よ」
エルグランたちが、静かに聞き入る。
「昔、まだ科学が発展してなかった頃」
「霊的存在とか妖怪とか……」
少し考える。
「あなたたちの言葉で言えば、“悪魔”みたいな存在を祓うことを生業にしてた人たち」
クロードが、小さく頷いた。
「なるほど……」
千代女が続ける。
「元々は、星読みとか占い師みたいな感じだったんだけどね」
一拍。
「まぁ、とりあえず」
紙を指差す。
「パラケルスス」
そして。
苦笑する。
「本名は――」
息を吸う。
「フィリップス・アウレオルス・テオフラストゥス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム」
沈黙。
エルグランとクロードが固まる。
千代女が、即座に手を振った。
「長いから“パラケルスス”でいいと思う!」
そのまま、真顔へ戻る。
「この人、呼び出して」
エルグランが、苦笑しながら頷いた。
「……相分かった」
その目が、再びリストへ向く。
「他には?」
千代女が、戦況図を見る。
「色々いるけど……」
少し険しい顔になる。
「今の戦況からすると、海側が心細いわねぇ……」
一拍。
「海援隊だけじゃ、正直厳しそう」
リストをめくる。
そして――。
「戦艦大和、かぁ……」
苦笑する。
「こんなの呼んだら、あなたたち魔力切れ起こしそうだし……」
エルグランが、思わず顔を引きつらせる。
「“戦艦”というのは、そんなに大きいのか……?」
千代女が、静かに頷く。
「城みたいなものよ」
クロードが、絶句する。
「海に……城……?」
千代女は、そのまま戦況図へ視線を戻した。
「……そろそろ松平さんから、何か一報あっても良い頃合いなんだけど」
小さく息を吐く。
「それまでは耐えるしかないわね」
その時。
顔を上げる。
「第二防衛ラインは?」
「術者、もう派遣してる?」
エルグランが頷いた。
「既に二百名ほどは向かわせておる」
一拍。
「現在は待機、休息中じゃ」
千代女が、小さく頷いた。
「分かった」
そして。
再びリストを見る。
「なら――」
その目が鋭くなる。
「真田幸村と十勇士を召喚して」
クロードが、少し驚く。
「また遊撃戦力ですか?」
「えぇ」
千代女が笑う。
「特別遊撃隊ってところね」
そして――。
静かに口元を緩めた。
「そこに、私も一緒に出るとするわ」
クロードが、目を見開く。
「望月殿も行くのですか?」
千代女が、当然のように頷いた。
「仲間が奮戦してるのに」
その目が、真っ直ぐ前を見る。
「自分だけ行かないっていうのもね……」
一拍。
「性に合わない」
そして。
腰の短刀へ、そっと触れる。
「状況に応じて、次に召喚する人たちも連絡入れるわ」
エルグランが、静かに頷いた。
「よかろう」
杖を握り直す。
「なら、そのパラケルススと真田十勇士とやらを急ぎ呼び出すとするかな」
――第一防衛ライン前方戦域。
源義経率いる源氏軍の突入により。
防衛ラインへ押し寄せていた次元イーターの流れが、大きく乱れていた。
織田軍へ到達する敵数が減る。
その結果――。
三段撃ちの猛威が、さらに加速した。
ドォォォォォンッ!!
千丁の火縄銃が、一斉に火を噴く。
硝煙。
爆炎。
次元イーターたちが、前線で次々と崩れ落ちていった。
まさに鉄壁。
比類なき防衛線だった。
だが――。
源氏軍側は違う。
敵陣深くへ突入したことで。
徐々に、その勢いが削がれ始めていた。
義経が、敵を斬り伏せながら眉をひそめる。
「数が多い……!」
弁慶も、薙刀を振るいながら叫ぶ。
「流石に押し返しきれませぬな!!」
周囲では。
源氏軍武者たちが、次々と敵に囲まれ始めていた。
勢いによる突破力は凄まじい。
だが。
終わりの見えぬ物量が、少しずつ源氏軍を押し込み始める。
その時だった。
右方崖上。
アーサー王が、静かに聖剣エクスカリバーを抜いた。
膨大な魔力が、周囲へ広がる。
「円卓の騎士たちよ」
低く。
だが、よく通る声。
全騎士の空気が変わる。
アーサー王が、戦場を見下ろした。
「出るぞ」
一拍。
「約束しよう」
エクスカリバーを掲げる。
「この聖剣が共にある限り――」
その目が鋭くなる。
「我らが勝利すると!!」
円卓の騎士たちが、一斉に武器を構える。
ランスロットが、漆黒の長剣を抜く。
重厚な騎士剣としての威圧感があった。
ガウェインは、太陽の剣ガラティーンを担ぐ。
刀身から、熱気のような圧が漏れ出している。
トリスタンは、銀装飾の長弓へ矢を番える。
静かな殺気が周囲へ広がった。
モードレッドもまた、大剣クラレントを抜き放つ。
刀身へ、膨大な魔力を纏わせる。
アーサー王が、剣を前へ向ける。
「駆け降りるぞ!!」
黄金の軍旗が翻る。
「続けぇぇぇぇッ!!!」
直後――。
円卓の騎士たちが、一斉に崖を駆け降り始めた。
白銀鎧が、太陽光を反射する。
まるで、光そのものが戦場へ降りてくるかのようだった。
ガルディアスたちアストラルディア兵が、息を呑む。
「また降りるのか……!?」
「今度は反対側から……!!」
その速度は、源氏軍にも劣らない。
むしろ――。
重装騎士とは思えぬほど速かった。
最初に飛び込んだのは、モードレッド。
「どけぇぇぇぇぇッ!!!」
クラレントが唸りを上げる。
振るわれた一撃が、次元イーターたちをまとめて吹き飛ばした。
続けて。
ランスロットが敵陣中央へ突入する。
鋭い剣閃。
一瞬で数体が斬り裂かれる。
さらに。
トリスタンが、後方から矢を放つ。
放たれた矢が、音もなく敵の急所を射抜いていく。
ガウェインが、豪快に笑う。
「はっはぁぁぁッ!!」
ガラティーンを振るう。
凄まじい衝撃が走り、敵をまとめて吹き飛ばした。
その中心。
アーサー王が、エクスカリバーを振るった。
膨大な魔力を纏った斬撃。
ドォォォォォッ!!!
一直線に敵群が消し飛ぶ。
戦場の空気が、一気に変わった。
義経が、その様子を見て小さく笑う。
「なるほど……」
太刀を振るう。
「これが円卓の騎士か」
弁慶も、感嘆したように笑う。
「まるで神兵ですな!!」
一時的に。
源氏軍と円卓が、同じ戦場で共闘する形となる。
白旗。
黄金旗。
二つの軍勢が、次元イーターを挟み込むように暴れ回った。
その光景は、まさに伝説同士の激突だった。
だが――。
アーサー王は、戦場全体を見ていた。
源氏軍の疲弊。
騎馬の消耗。
包囲の兆候。
その全てを理解している。
アーサー王が、義経へ向けて声を張った。
「源九郎義経!!」
義経が、敵を斬りながら視線を向ける。
アーサー王が、静かに告げる。
「ここからは我らが受け持つ!!」
一拍。
「貴軍は一度退け!!」
義経が、目を細めた。
その意味を即座に理解する。
「……なるほど」
小さく笑う。
「騎馬の消耗を見ておられたか」
アーサー王が、エクスカリバーを構える。
「戦場で無駄死にはさせん」
義経が、不敵に笑った。
「感謝する、騎士王」
そして――。
太刀を掲げる。
「源氏軍!!」
白旗が翻る。
「一旦退くぞ!!」
武者たちが、一斉に馬首を返した。
その退却を守るように。
円卓の騎士たちが前へ出る。
黄金の軍勢が。
次元イーターの大群へ、真正面から立ち塞がった。
退却しながら。
弁慶が、後方の戦場を振り返る。
円卓の騎士たちが、なおも前線で次元イーターを押し留めていた。
弁慶が、感嘆したように呟く。
「……あれが騎士王ですか」
義経もまた、静かに戦場を見つめている。
「あぁ」
小さく頷く。
「戦況」
「兵の状態」
「馬の疲弊」
一拍。
「全てを見ている」
その目が細まる。
「それに、騎士たちも洗練されている」
ランスロットたちを見る。
「仮に我らと相対する事になれば……分からんな」
弁慶が、思わず笑った。
「義経様がそこまで言われますか」
義経は、すぐ表情を引き締める。
「それより」
馬を走らせながら叫ぶ。
「退却を急ぎ、兵と馬を休ませる!!」
一拍。
「騎士王の配慮を無駄にするでないぞ!!」
弁慶が、大きく頷いた。
「ははぁっ!!」
薙刀を掲げる。
「皆の者!!」
「退却を急げぇぇぇぇッ!!!」
白旗が翻り。
源氏軍は、防衛ライン後方へ戻っていった。
――前線。
騎士王アーサーを筆頭に。
円卓の騎士たちが、なおも奮戦していた。
エクスカリバー。
ガラティーン。
クラレント。
長弓。
騎士たちの猛攻により、並の次元イーターでは太刀打ちできない。
ランスロットが、敵を斬り伏せながら呟く。
「各個体は、大したことはないな」
その横で。
モードレッドが、次々と敵を吹き飛ばしながら叫ぶ。
「だが、物量が多すぎる!!」
さらに後方。
ガウェインも、大剣を振るいながら眉をひそめた。
「このままでは、こちらが疲弊するばかりですな」
アーサー王は、戦場全体を見据えていた。
「もう少し粘るぞ」
静かな声。
だが、揺るがない。
「そして、一度織田軍へ任せる」
その目が騎士たちを見る。
「しばしの辛抱と心得よ」
円卓の騎士たちが、一斉に応える。
「「「はっ!!」」」
その頃――。
源氏軍と円卓軍による遊撃のおかげで。
織田軍は、一時的な小休止を取っていた。
火縄銃の再装填。
弾薬補充。
兵の交代。
防衛ライン後方では、慌ただしく準備が進められている。
前田利家が、信長の元へ歩み寄った。
「親方様」
その表情は険しい。
「このまま続けておると、弾薬が足りませぬ」
信長は、静かに敵群を見据えている。
利家は続けた。
「おそらく、次の防衛中……」
一拍。
「あるいは、次の源氏軍突入まで持つか否か」
信長が、小さく頷いた。
「うむ」
静かな声。
「是非もなし……」
その目が、防衛ラインを見る。
「弾薬が尽き次第」
「長槍で対処する他あるまいて」
その時だった。
空が、ゆっくり赤く染まり始める。
太陽が沈み始めていた。
夕刻。
だが――。
この時。
戦場は、大きく動き始める。
ゲート。
その巨大な裂け目の奥から。
“何か”が覗いた。
巨大な目。
あまりにも巨大な眼球が、裂け目の奥から戦場を見下ろしていた。
その異様な気配に。
全員が気づく。
アーサー王が、目を見開いた。
「あれは……!!」
義経も、息を呑む。
「あんなものが、後ろに控えておるのか!?」
信長ですら、表情を険しくする。
「あれが出てくれば……まずいのぅ」
その瞬間だった。
ゲートの奥から。
奇声にも似た、“何か”が発せられる。
ギィィィィィィィィッ――――!!
戦場全体が震えた。
すると――。
今まで暴れ狂っていた次元イーターたちが、一斉に動きを止める。
そして。
まるで命令されたかのように。
反転。
ゲート方向へ戻り始めた。
アストラルディア兵たちが、目を見開く。
「なっ……!?」
「退いていく……!?」
弁慶が、思わず声を上げた。
「もしや、勝利したのでは!?」
その言葉に。
周囲の兵たちが歓声を上げようとする。
だが――。
義経が、鋭く制した。
「まだ早い!!」
戦場が静まる。
義経は、ゲートを睨み続けた。
「勝鬨は」
一拍。
「あの裂け目が完全に消えてからだ」
その緊張感は、すぐに伝令によって防衛ライン各所へ伝わっていく。
――AX班・オルレアン側。
ジャンヌが、空を見上げた。
「勝利……ですか?」
セレナは、鋭くゲートを見つめたまま答える。
「だと良いけど……」
その目が細まる。
「この展開、異様よね」
晋作も、苦々しく呟く。
「というか……」
敵群を見る。
「前はもっと苦戦してなかったか?」
晴明が、静かに頷いた。
「あぁ」
一拍。
「おそらく、地形が有利に働いている」
さらに。
「加えて」
その目が、防衛ライン全体を見る。
「今回の作戦が、上手く機能し過ぎている」
総司が、ゲート方向を見つめながら静かに口を開く。
「これは……」
一拍。
「一度引いた、と見るべきだろうね」
晴明も、小さく頷いた。
「私もそう思う」
その横で。
茜が、不安そうに空を見上げる。
「でも……」
少し眉をひそめた。
「前は、こんなこと無かったじゃん」
一拍。
「一度引くなんて……」
美雪が、静かに考え込む。
「もしかして……」
その目が細まる。
「相手も、学習してる?」
茜が、思わず振り返る。
「え?」
「学習?」
セレナが、腕を組みながら頷いた。
「可能性はあるわ」
静かな声。
「前回、私たちが参加した戦いを学習して――」
ゲートを見る。
「“物量で押すだけじゃ効率が悪い”って判断してもおかしくない」
ラファエルが、険しい顔になる。
「俺たちが兵を失わないよう連携を取るのと同じように、か?」
「そういうこと」
セレナが頷く。
晴明も、静かに続けた。
「どうやって勝つか」
一拍。
「そういう思考を持っている可能性がある」
その目が、巨大なゲートを見る。
「奴らの世界侵攻には、明確な目的があるということだろう」
静かな声。
「世界そのものを“養分”としているのか」
「あるいは、滅ぼした世界の何かを利用しているのか」
小さく首を振る。
「そこまでは分からない」
一拍。
「現状は、その可能性があると言うしかないな」
戦場の空気が、さらに重くなる。
その時。
晋作が、大きく息を吐いた。
「まぁ……」
肩を回す。
「一旦引いたなら、全体で休息は取れそうだな」
周囲を見る。
「野宿になるが」
茜が、苦笑する。
「まぁ、この状況じゃ仕方ないよね……」
そんな話をしていた時だった。
防衛ライン後方から、一人の伝令兵が駆けてくる。
「伝令!!」
「織田軍より伝令です!!」
全員の視線が向く。
伝令兵が、息を整えながら告げた。
「拠点となる城を三つ建築完了!!」
晋作が、目を見開く。
「はぁ!?」
伝令兵は続ける。
「その内、中間地点に築かれた城へ――」
一拍。
「各将、中枢となる者は集まるようにとのことです!!」
その言葉を聞いた瞬間。
晋作が、思わず吹き出した。
「もしかして……!」
苦笑しながら頭を押さえる。
「今回もか!!」
ニヤリと笑う。
「かの有名な“一夜城”!!」
周囲を見回す。
「まぁ、夜じゃねぇがな!!」
総司も、驚きを隠せなかった。
「それに三つも!?」
晋作が、大笑いする。
「ありがたいじゃねぇか!!」
ガルディアスたちアストラルディア側は、完全に理解が追いついていない。
「城を……」
「短時間で三つ……?」
信長たちの異常性に、もはや言葉を失っていた。
その時。
クー・フーリンが、魔槍を肩へ担ぎながら歩き出す。
「行くか」
短い言葉。
だが。
その目は、既に次の戦いを見据えていた。
そして――。
各軍の将たちは。
新たに築かれた“城”へ向けて動き始める。
指定された場所へ到着すると。
そこには、既に各軍の将たちが集結していた。
アーサー王。
円卓の騎士たち。
源義経。
武蔵坊弁慶。
織田信長。
羽柴秀吉。
前田利家。
坂本龍馬。
近藤勇。
土方歳三。
まさに――。
時代も国も超えた英雄たちの軍議だった。
そして。
彼らが立っていたのは、“城”だった。
急造とは思えぬ規模。
木造防壁。
見張り櫓。
防衛柵。
完全に“戦場拠点”として機能している。
総司が、思わず周囲を見回す。
「……本当に作ったんだ」
晋作も、苦笑する。
「相変わらず無茶苦茶だな……」
その時。
秀吉が、笑いながら前へ出た。
「皆の者!!」
両手を広げる。
「よう集まってくれた!!」
その背後には、慌ただしく動き回る織田兵たち。
秀吉は続けた。
「建築した城は三つ!!」
指を立てる。
「自由に使ってくれて構わん!!」
そして。
今いる城を指差した。
「この中間の城は、軍議を含めた中枢用じゃ!!」
ニヤリと笑う。
「各々、好きに使ってくれ!!」
晋作が、呆れ半分で笑った。
「しかし、すげぇな……」
周囲を見回す。
「どっから材料持ってきたんだ?」
その時。
恒一が、小さく手を挙げた。
「……千代女さんですよ」
総司たちが振り返る。
恒一は続けた。
「宰相へ話を通して、事前に千代女さんが準備させてました」
美雪が、ハッとする。
「あ……!」
目を見開く。
「あの時のメモ!!」
恒一が、静かに頷いた。
「はい」
総司が、少し安心したように笑った。
「無事で良かった」
その空気の中。
信長が、静かに前へ出る。
戦場を知る者の目だった。
「して――」
全員を見渡す。
「皆の者、この状況どう見る?」
空気が変わる。
最初に口を開いたのは、アーサー王だった。
「一度引いた、と見るべきだろう」
義経も、小さく頷く。
「私も同意見だ」
晴明が、静かに続けた。
「相手は“学習”している可能性があります」
その言葉に。
前回を知る者たちの表情が変わる。
晴明は続ける。
「前回の戦いを知る者なら、この違いは分かるでしょう」
静かな声。
「今回の動きは、明らかに異質です」
信長が、小さく鼻を鳴らした。
「やはりそう見るか、安倍晴明」
その目が、戦場方向を向く。
「だが、こちらとしては助かった」
一拍。
「このままでは、弾薬が底を尽きるところだった」
その時だった。
不意に。
後方から声が響く。
「その心配なら、もう無くなったわよ」
全員が振り返る。
そこに立っていたのは――。
千代女。
その背後には、大量の木箱を運ぶ兵士たち。
千代女が、不敵に笑った。
「火薬と鉛玉」
木箱を軽く叩く。
「今、どんどん作ってるから」
秀吉が、目を見開く。
「なんじゃと!?」
千代女が、肩をすくめる。
「とりあえず、今あるのはこれだけだけど」
その目が鋭くなる。
「これから、どんどん届くわ」
前田利家が、運び込まれていく木箱を見ながら口元を緩めた。
「なら――」
槍を肩へ担ぐ。
「明日からも、心配入りませぬな。親方様」
信長が、小さく頷く。
「あぁ」
静かな声。
「これで、明日からも鉄砲で防衛線を維持できる」
秀吉も、安堵したように笑った。
「これでしばらくは持ちこたえられますな!」
だが――。
義経が、静かに口を開く。
「……だが」
その場の空気が、少し引き締まる。
義経は、戦場方向を見据えた。
「今日と同じであれば、だ」
一拍。
「あの巨大な目の主」
「あるいは上級種が、いきなり前へ出てくれば……」
静かな声。
「そうもいかん」
その言葉に。
誰も反論しなかった。
アーサー王も、静かに頷く。
「確かに」
エクスカリバーへ手を添える。
「今日はこちらの作戦が上手く機能した」
その目が細まる。
「だが、相手が対応を変えてきた時――」
一拍。
「戦況は、一気に崩れる可能性がある」
晴明も、静かに続けた。
「故に、警戒は解くべきではありません」
その時。
総司が、小さく息を吐いた。
「とりあえず――」
周囲を見回す。
「今日は各自休む、って感じかな」
近藤が、頷く。
「あぁ」
その目が、新選組隊士たちを見る。
「休める時に休まねば、長丁場には耐えられん」
坂本龍馬も、壁へ寄りかかりながら笑う。
「戦っちゅうんは、休むんも仕事じゃきのぉ」
ラファエルが、苦笑する。
「本当に異世界の英雄たちって感じだな……」
モードレッドが、大剣を肩へ担ぎながら笑った。
「だが、嫌いじゃないぜ」
その空気の中。
信長が、最後に静かに言った。
「ただし――」
全員の視線が向く。
「警戒は続けよ」
一拍。
「敵はまだ、終わっておらん」
その言葉に。
全員が、静かに頷いた。
戦いは、まだ終わっていない。
それを。
誰もが理解していた。
42話 完




