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39 話 Kingdom of Astraldia Ⅳ


――アストラルディア王国・中央会議室。


重苦しい空気が、室内を包んでいた。


先ほどの東門襲撃。


そして――。


世界各地で起き続ける異常現象。


空気は完全に、“戦時”へ変わっていた。


この場にいるのは――。


セレナ。


晴明。


千代女。


恒一。


ジャンヌ。


ラファエル。


そして松平。


レオニス王が、ゆっくりと口を開いた。


「東門の件も気にはなる」


低い声。


「だが――まずは次元イーター対策の協議を始めたい」


一拍。


真っ直ぐ、セレナたちを見る。


「良いかな?」


セレナが、静かに頷いた。


「えぇ」


腕を組む。


「こちら側は構わないわ」


その言葉に。


エルグランが、ゆっくりと前へ身を乗り出した。


老魔導師の目は真剣そのものだった。


「では、まず改めて」


杖を握る。


「次元イーターとは、どのような存在なのか」


一拍。


「我々へ、ご教授願えるかな?」


静寂。


その空気の中で――。


晴明が、静かに口を開いた。


「……我々が知る限りのことを、お話ししましょう」


会議室の空気が、さらに引き締まる。


晴明は続けた。


「まず、次元イーターとは」


一拍。


「異世界からの侵略者、と表現するのが最も適切でしょう」


クロードが、わずかに目を細める。


晴明の声は静かだった。


だが。


その内容は重い。


「以前、我々がそれぞれ召喚された世界では」


「既に、いくつもの世界が次元イーターの侵略によって滅ぼされていました」


その言葉に。


王国側の空気が凍る。


「滅んだ世界……だと……?」


ヴァルディアスが、低く呟く。


晴明は静かに頷いた。


「その世界にも、同じ危機が迫っていた」


「そして対抗策として」


一拍。


「次元イーターと戦える者たちを、別世界から召喚したのです」


「世界も」


「時代も」


「年代も問わず」


「戦える者を集めた」


静かな声。


「無論」


「私を含め」


「今回、あなた方によって召喚された――」


その視線が仲間たちへ向く。


「セレナ・マクリアス」


「沖田総司」


「雪城美雪」


「高杉晋作」


「弓月茜」


「我々六名も、その時の召喚者の一人でした」


ヴァルディアス宰相が、息を呑む。


「……他にも、多くの人物がいたのか」


その問いに。


セレナが、静かに頷いた。


「えぇ」


一拍。


「私たちの世界からも」


「何百年も前」


「あるいは千年以上前の英雄たちが召喚されていた」


その目に、過去の戦場が映る。


「しかも、当時率いていた軍ごと来ていた者までいたわ」


クロードが目を見開く。


「軍ごと……!?」


「そう」


セレナが頷く。


「しかも、来ていたのは私たちの世界だけじゃない」


「他の異世界から来た連中もいた」


一拍。


「まぁ、他世界の人間については正直よく分からないけどね」


「本当に色んなのがいたわ」


ラファエルが、小さく腕を組む。


「以前話していた、“光の剣”や“光線銃”の者たちか」


「そうそう」


セレナが苦笑する。


「本当にカオスだったわよ」


だが――。


クロードの表情は重かった。


「……そこまでしなければ」


「対抗できない存在だということかね?」


その問いへ。


晴明が、静かに目を伏せる。


「その時の戦闘は」


一拍。


「熾烈の極み、と言えるものでした」


空気が変わる。


「なんせ」


「無限とも思えるほど地表へ開いた裂け目――」


「我々は“ゲート”と呼称していましたが」


その瞳が鋭くなる。


「そこから、延々と湧き続けるのです」


「まずは人型サイズの歩兵種」


「続いて、若干大型の個体」


「それが大半でした」


一拍。


「ですが、その後」


「大型上級種」


「さらに、その上位個体まで出現した」


エルグランが、思わず呟く。


「上級種……」


晴明は頷く。


「そして、あれは」


静かな声。


「倒した、というより――」


「追い返したに過ぎません」


会議室が静まり返る。


レオニス王が、ゆっくりと問いかけた。


「……戦闘は、どの程度続いた?」


晴明が答える。


「四日から五日」


その瞬間。


ヴァルディアスが、思わず声を上げた。


「たった五日かね!?」


空気が揺れる。


だが――。


「たった?」


セレナの声だった。


その目が、鋭く細まる。


「冗談じゃない」


静かな怒気。


「無限とも思えるほどの物量よ」


拳を握る。


「斬っても斬ってもキリがない」


「終わりがない」


「交代でしか休めない」


一拍。


「そんな地獄みたいな状況で」


「異世界召喚による増援が増えていって」


「ようやく押し返し始めたのが四日目くらい」


その目には、明確な疲弊の記憶が残っていた。


「物量が違う」


「何万ってレベルじゃない」


低い声。


「もっとよ」


「敵の数は」


誰も、軽々しく言葉を返せなかった。


レオニス王が、重々しく問いかける。


「……では」


「どのように撃退したのだ?」


セレナが、静かに息を吐く。


「上級種が何体も出てきた」


「それを総力戦で対峙した」


一拍。


「そして最後」


その目が、わずかに揺れる。


「次元の裂け目から、さらに巨大な“何か”が覗いてきた」


会議室の空気が凍った。


「そこへ」


「全員で攻撃を集中したの」


「世界中の戦力全部でね」


静かな声。


「それで、やっと撃退できた」


沈黙。


誰も動けない。


ミレーユが、恐る恐る問いかける。


「……戦死者は?」


その言葉に。


セレナが、ゆっくり目を伏せた。


「……分からない」


静かな声だった。


「途中から完全な乱戦だったもの」


「そこまで確認できてない」


重い沈黙。


エルグランが、小さく息を吐く。


「……それほどまでとは」


老魔導師の顔には、明確な危機感が浮かんでいた。


「この古文書にも」


「恐らくは記されているのだろうが……」


机へ置かれた古文書を見る。


「まだ解読できておらぬ部分が多い」


「なんせ古代文字じゃからな」


一拍。


「解読できたのは、敵の危険性」


「そして、其方らを呼び寄せる魔法陣程度じゃ」


その時だった。


セレナが、ふと古文書へ視線を向ける。


「……その古文書」


一拍。


「もしかして」


「前回の戦闘参加者が書き残したものじゃないかしら?」


全員の視線が向く。


晴明が、静かに目を細めた。


「……その仮説」


一拍。


「可能性はありそうですね」


古文書を見る。


「でなければ」


「知り得ない内容です」


晴明が、静かに古文書へ視線を向けた。


「おそらく――」


一拍。


「我々が知り得ていない人物」


「この世界から見れば古代にあたる時代の人物が」


「以前、召喚され戦った」


静かな声。


「そして、その経験を書き残した――」


古文書へ目を細める。


「そう考えれば、辻褄は合います」


王国側がざわめいた。


「過去にも召喚が……?」


「古代の英雄たちが……」


「そんなことが本当に……」


だが。


セレナは、静かに腕を組んだまま言う。


「問題はそこじゃないわ」


全員の視線が向く。


セレナの目は真剣だった。


「敵は“物量”よ」


一拍。


「こちらも、それ相応の物量が必要になる」


空気が重くなる。


「あるいは」


静かな声。


「大量破壊兵器を何発も用意するくらいじゃないと、撃退は無理」


その言葉に。


エルグランが、険しい顔で頷いた。


「広域殲滅魔法なら存在する」


一拍。


「だが、そう易々と放てるものではない……」


「王国級の魔力と術者が必要じゃ」


その時だった。


松平のSD通信から、低い声が響く。


『こちらから部隊や兵器を送ることは、その召喚魔法陣で可能なのか?』


全員の視線が、ホログラムへ向く。


松平は続けた。


『織田軍や豊臣軍、源氏軍が召喚されていたのであれば』


『理論上は可能に思えるが』


エルグランが、深く息を吐いた。


「……やってみねば分からぬ」


杖を握る。


「だが、王国中の魔術師を集めて、ようやく成立する規模じゃろう」


一拍。


「その場合」


「術者の多くは戦闘参加できなくなる可能性が高い」


クロードも、険しい顔になる。


「魔力を召喚維持へ回す必要があるからな……」


エルグランが、静かに続けた。


「何を取捨選択するか――」


「そこが問題になる」


その言葉を最後に。


会議室が静まり返った。


誰も、簡単には答えを出せない。


その時だった。


ゴゴゴゴゴゴゴッ――!!


再び、大きな地震。


会議室が激しく揺れる。


机が軋み。


シャンデリアが大きく揺れた。


ミレーユが思わず机へ手をつく。


数秒後。


揺れは収まる。


だが――。


空気は、さらに重くなっていた。


ヴァルディアスが、険しい顔で立ち上がる。


「今のはまた大きかったな……」


すぐに衛兵を見る。


「城下の被害確認を急げ!!」


「はっ!!」


衛兵が駆け出していく。


松平が、静かに口を開いた。


『時間は無いな』


一拍。


『こちらも準備を進める』


『私は幕僚長へ掛け合う』


低い声。


『あとは、そちらの決断次第だ』


その時だった。


ピピッ――!!


突然、松平との通信へ割り込みが入る。


全員が反応した。


『――協議中ごめん!!』


茜の声だった。


セレナが即座に反応する。


「茜!?」


茜の声は切迫していた。


『緊急報告!!』


『東門のさらに北東方面!!』


『森を抜けた荒野に、大きな次元の裂け目を確認!!』


会議室の空気が凍る。


『そこからの次元イーター出現も確認!!』


レオニス王が立ち上がった。


「何!?」


「規模は!?」


その直後。


別回線で晋作の声が入る。


『数体だ!!』


『おそらく先遣隊だろう!!』


一拍。


『森の中へ入っていくのが見えた!!』


さらに。


『地震と共に裂け目は大きくなってる』


『あれはおそらく、“ゲート”だ』


王国側の顔色が変わる。


その時。


総司の声も入った。


『今、美雪ちゃんの雪豹を森へ向かわせて偵察させてる』


『可能なら先遣隊へ攻撃して、数を減らす予定』


静かな声。


だが、緊迫感がある。


『俺たちと騎士団総長は、一旦そっちへ帰投中』


一拍。


『開戦まで、猶予はあまり無いかも』


沈黙。


その重さを最初に破ったのは、セレナだった。


「分かったわ」


静かな声。


「とりあえず、無事に戻ってきて」


『『了解!!』』


通信が切れる。


会議室へ、重苦しい静寂が落ちた。


セレナが、ゆっくりと全員を見渡す。


「今の報告通りよ」


その目が鋭くなる。


「私たちに、準備時間の猶予は無い」


ジャンヌが、静かに口を開いた。


「私たちは、もちろん前線へ出ます」


一拍。


「ですが、それ以外をどうするか……」


ラファエルも腕を組む。


「最低限、方針を決める必要があるな」


「召喚するなら、誰を呼ぶのか」


「どの戦力を優先するのか」


その時。


千代女が、静かに口を開いた。


「それに関しては、こちらでリストアップするくらいじゃない?」


全員の視線が向く。


「他世界の英雄は分からない」


一拍。


「でも、私たちの世界の英雄なら選定できる」


静かな声。


「それと」


松平を見る。


「自衛隊派遣が可能かどうか、そこも大きい」


松平が、低く頷く。


『そちらは少し時間を要する』


『だが、すぐ取り掛かる』


国王レオニスが、千代女へ視線を向けた。


「……その“リスト”の者たちは、信用できるのか?」


千代女が、ふっと笑う。


「そういう人物しか選ばないわよ」


一拍。


「松永久秀なんて呼んだら、いつ裏切るか分からないし」


その言葉に。


晋作がいれば笑っていただろう空気が、一瞬だけ生まれた。


だが、今は誰も笑えない。


レオニス王が、ゆっくり立ち上がる。


「……もはや」


低い声。


「その方向しか手立てはあるまい」


そして――。


「エルグラン」


「クロード」


「召喚準備へ入れ」


「早急に、だ」


エルグランが立ち上がる。


「かしこまりました」


そしてクロードを見る。


「クロード殿、助力を願えるかな?」


クロードも即座に頷いた。


「もちろん、そのつもりだ」


レオニス王が、強く言い放つ。


「準備が整い次第」


「大広間にて、異世界の英雄たちを迎える」


その声が、会議室へ響く。


「それまで、一旦解散だ」


世界を守るための準備が――。


今、始まろうとしていた。


千代女が、紙へ文字を書き込みながら口を開いた。


「有名どころで言えば――やっぱり織田軍よね」


静かな声。


「鉄砲三千丁による弾幕の嵐」


一拍。


「正直、“新時代”って感じだったわ」


その言葉に。


茜が、ハッとした顔になる。


「そっか!」


「千代女さんって、完全に同じ時代……というか武田側だから知ってるんだ!」


目を輝かせる。


「長篠の戦い!」


千代女が、ふっと懐かしそうに目を細めた。


「えぇ」


静かな声。


「間近で見てたわよ」


部屋の空気が、少し変わる。


“歴史”として語られる戦い。


だが彼女にとっては、実際に見た現実だった。


セレナが、腕を組みながら頷く。


「やっぱり前回同様、織田軍がいると最終防衛ライン維持にはもってこいね」


一拍。


「逆に、前線維持の意味でも打って付け」


その目が、少し険しくなる。


「まぁ……織田信長本人には色々問題あるけど」


総司が苦笑する。


「まぁ、否定はできないかな」


セレナが続ける。


「豊臣秀吉と組み合わさると、あれはもう手がつけられないのよね……」


ラファエルが、少し興味深そうに聞き返す。


「そんなにか?」


晋作が、即答した。


「洒落にならねぇぞ」


「戦国時代の化け物二人だ」


その直後。


セレナが、ふと顔を上げた。


「ねぇ、この国の地図ってある?」


ガルディアスが、すぐに腰の筒を取り出した。


「地図ならこれだ」


そう言って机へ広げる。


セレナが、小さく笑う。


「ありがと!」


ガルディアスが、腕を組みながら答える。


「さっき宰相から渡された」


「必要になるかもしれんから、とな」


一同が、机へ集まる。


地図には、王都周辺の地形が細かく記されていた。


セレナが、指を差す。


「ゲートがあった場所は?」


そして。


「ていうか、この城どこよ!!」


ガルディアスが、地図を指でなぞる。


「この城がここだ」


「そして東門がここ」


さらに、北東へ指を動かす。


「その奥の森を抜けた先」


「そこが、ゲートがあった場所だ」


一拍。


「荒野ではなく、実際は“谷”だな」


「広いから荒野にも見えるが」


位置関係を聞きながら。


セレナが、静かに目を細める。


「なるほど……」


「ここ、谷状になってるのね?」


さらに奥を見る。


「その先のここは?」


ガルディアスが答える。


「海だ」


その瞬間。


美雪が、小さく呟いた。


「海……かぁ……」


だが。


晋作が、ピクリと反応する。


「……ん?」


顔を上げる。


「海!?」


ニヤリと笑う。


「なら、呼びたい奴と部隊がいる」


千代女が、顔を上げた。


「ん? 誰?」


晋作が、即答する。


「日本初の蒸気船を使った海軍」


一拍。


「海援隊の創設者――坂本龍馬」


セレナが、少し首を傾げる。


「でも海って逆方向よ?」


晋作が、地図を指差した。


「そこ、谷なんだろ?」


千代女が、ハッとする。


「……あ!」


地図を見る。


「そうか!!」


指を走らせる。


「森を抜けたこの地点へ馬防柵を展開」


「そこへ織田軍三千を並べて、交代で鉄砲弾幕を張る」


さらに逆側を指差す。


「反対側――海側からは蒸気船の大砲と銃撃で挟撃!」


晋作が、ニヤリと笑った。


「あぁ!」


「これなら、こっち側の防衛線は維持できる」


地図を叩く。


「しかも逆側は海だ!」


「沖合に蒸気船を置けば、大砲で一方的に撃てる」


一拍。


「敵は簡単には泳いで来れねぇ」


ラファエルが、感心したように目を細めた。


「なるほど……挟撃陣形か」


千代女が、すぐに紙へ書き込む。


「海援隊と織田軍、追加っと」


そして顔を上げる。


「他には?」


少しの沈黙。


その空気を破ったのは――。


総司だった。


「……一つ、良いかな?」


少しだけ言い淀む。


「俺のわがままなのは分かってる」


一拍。


「でも、出来るなら……」


言葉が止まる。


だが。


美雪が、優しく笑った。


「新選組、でしょ?」


総司が、目を丸くする。


そして――。


静かに頷いた。


セレナが、即答する。


「良いんじゃない?」


紙を叩く。


「はい、追加!」


総司が、思わず聞き返した。


「そ、そんな簡単で良いの!?」


セレナが苦笑する。


「前回もいてもらって助かったし」


「一人一人、剣の腕前は本当にすごいからね」


総司が、小さく笑った。


「……ありがとう」


その横で。


晋作がニヤリと笑う。


「なら俺も」


「奇兵隊の連中呼びてぇな」


セレナが即答する。


「分かった」


「奇兵隊も追加!」


千代女が、次々書き込んでいく。


そして。


「他には?」


その時。


晴明が、静かに口を開いた。


「……これは一つの案なのですが」


千代女が頷く。


「うん、言ってみて」


晴明が、静かにセレナを見る。


「セレナに関係する人物でもある」


一拍。


「あくまで案ですが――」


「クー・フーリン」


その瞬間。


セレナの表情が変わった。


晴明が続ける。


「セレナの持つゲイ・ボルグ」


「その本来の持ち主です」


静かな声。


「決めるのは、セレナ自身が良いでしょう」


沈黙。


セレナは、少しだけ目を伏せた。


だが――。


やがて顔を上げる。


「私は……」


一拍。


「うん」


強く頷いた。


「シノゴの言ってらんないわね」


「リストに加えて!」


千代女が、少し驚く。


「良いの?」


セレナが、小さく笑った。


「うん」


胸元へ触れる。


「もし会えるなら」


「どうして呪いの槍になったのか」


「それを、どう使ってたのか」


静かな声。


「見たいし、聞きたい」


その目が真っ直ぐになる。


「それに」


「必ず戦力になると思うから」


千代女が頷いた。


「分かった」


紙へ書き込む。


「クー・フーリン、追加」


そして顔を上げる。


「他には?」


「戦車とか戦闘機、地上部隊は松平さん待ちとして――」


ペンを構える。


「出せる案、全部出しちゃいましょう!」


「思いついたの、どんどん言って!」


その時だった。


千代女が、別の紙を取り出す。


そして。


「恒一くん」


鷹宮へ差し出した。


「この紙、宰相に渡して」


「この国の大工でも何でもいい」


「総動員で材料を作らせて欲しいの」


柔らかい声。


だが、恋人へ頼むような自然さがあった。


恒一が、静かに受け取る。


「分かった」


「渡してくる」


千代女が、ふっと微笑む。


「ありがとう」


そのやり取りを見て。


晋作が、ニヤニヤしながら呟いた。


「……なんか見せつけられた感じだなぁ」


茜が吹き出す。


「分かる」


だが晋作は、すぐ真顔へ戻る。


「で?」


「何渡したんだ?」


千代女が、意味深に笑った。


「ちょっとした秘策よ」


一拍。


「まだ内緒だけどね」


そうこうしているうちに。


召喚候補リストは完成していく。


千代女が、その紙をエルグランへ渡した。


エルグランが、内容を見て目を見開く。


「こんなにか!?」


クロードも横から覗き込み、眉をひそめる。


「……だが」


「これだけ居ても、足りるかどうかというところなのだろう?」


晋作が、地図を指差した。


「だから、地の利も利用する」


一拍。


「配置戦術で防ぐ」


エルグランが、静かに目を閉じる。


「……やるしかなかろう」


その時だった。


ゴゴゴゴゴゴゴッ――!!


再び大地震。


部屋全体が揺れる。


机の上の紙が跳ねた。


数秒後。


揺れが収まる。


ジャンヌが、不安そうに呟く。


「今回のも、一段と大きいですね……」


その時。


美雪が、ぼーっと一点を見つめていた。


総司が、声をかける。


「美雪ちゃん?」


美雪が、ゆっくり瞬きをする。


「……今」


「雪豹の眼を借りて確認してた」


全員の視線が向く。


「ゲート、やっぱり少し大きくなってる」


空気が張り詰める。


だが。


美雪が、少しだけホッとしたように続けた。


「あ!」


「次元イーターだけど、二十体くらい森の中で倒したみたい!」


茜が目を見開く。


「ほんと!?」


「うん」


美雪が頷く。


「その後も索敵続けてるけど、今のところもう居なさそう」


晋作が、即座に反応した。


「なら準備のチャンスだ!」


地図を叩く。


「馬防柵、防衛ラインの構築を急ぐぞ!」


エルグランも頷いた。


「既に国中から資材は集まり始めておる」


一拍。


「これを転移させる」


その目が、ガルディアスを見る。


「現地設置の指揮を部下の兵士たちに頼めるか?」


現地――ゲートから一キロ地点の防衛ラインへ転移するから」


「設置指揮を頼めるか?」


ガルディアスが、即座に立ち上がった。


「分かった」


重厚な鎧が鳴る。


「すぐに人員を集めよう」


そのまま部屋を出ようとした時だった。


「――待って」


総司が、静かに声をかけた。


ガルディアスが振り返る。


総司は、地図を見ながら言った。


「ガルディアスさんには残ってほしい」


一拍。


「作戦を打ち合わせたい」


その言葉に。


ガルディアスが、わずかに目を細める。


「……俺に?」


晋作が、地図を指で叩いた。


「この国の地形を一番理解してるのは、アンタだろ」


「兵の動かし方も分かってる」


「だったら必要だ」


ガルディアスは数秒黙り――。


やがて、小さく息を吐いた。


「……分かった」


だが、その時。


セレナが口を開く。


「だったら、ここじゃなくて会議室でやりましょう」


全員の視線が向く。


セレナは続けた。


「どうせなら国王たちにも共有した方がいい」


一拍。


「これ、もう現場だけの話じゃないもの」


晴明も静かに頷いた。


「同意です」


「防衛戦規模になりますからね」


千代女も頷く。


「資材、人員、召喚、地形利用」


「全部国家規模で動く話だもの」


ラファエルが腕を組む。


「なら王国側指揮官も含めるべきだな」


ジャンヌも続けた。


「兵站や避難計画も必要になると思います」


その言葉に。


ガルディアスが、小さく頷く。


「……確かに」


総司も笑った。


「じゃあ決まりだね」


「会議室戻ろう」


その直後。


ガルディアスが、副官へ向けて短く指示を飛ばす。


「全騎士団へ伝令!!」


空気が張り詰める。


「ゲート地点より一キロ手前!!」


地図を指差す。


「谷の狭窄部へ第一防衛ラインを構築させろ!!」


副官が即座に反応する。


「はっ!!」


ガルディアスは続ける。


「馬防柵!」


「杭!」


「木盾!」


「防壁用資材を優先搬入!!」


一拍。


「さらに、東門周辺住民の避難も急げ!!」


副官が敬礼する。


「了解しました!!」


駆け出していく。


その様子を見ながら。


晋作が、ニヤリと笑った。


「完全に戦だな」


ガルディアスも、静かに前を見る。


「……あぁ」


低い声。


「世界を懸けた、防衛戦だ」


そして――。


一同は再び、中央会議室へ向かい始めた。


本格的な防衛作戦会議を始めるために。


――中央会議室。


巨大な円卓。


その周囲には、既にアストラルディア王国の重役たちが集まっていた。


レオニス王。


ヴァルディアス宰相。


エルグラン。


クロード。


ミレーユ。


そして騎士団幹部たち。


部屋の中央には、大型の地図が広げられている。


空気は張り詰めていた。


その中で――。


セレナが、一歩前へ出る。


「作戦を説明するわ!」


その声に、全員の視線が集まる。


セレナは、地図の一点を指差した。


「まず」


「ゲート地点から一キロ、東門側へ第一防衛ラインを形成!」


指が、谷の狭窄部をなぞる。


「ここに、召喚した織田軍三千を配置する」


騎士たちがざわつく。


セレナは続けた。


「反対側――海側には」


「海上射撃用として、坂本龍馬率いる海援隊の船を配置!」


さらに地図を叩く。


「この二隊で防衛を行う!」


一拍。


「場所が谷だからこそ、有効と考えた作戦よ」


その目が鋭くなる。


「地の利を活かす」


ヴァルディアスが、地図を見つめながら呟く。


「……なるほど」


「進軍路を限定するわけか」


「そういうこと」


セレナが頷く。


その時。


晴明が、静かに口を開いた。


「基本は、防衛ライン維持」


一拍。


「ですが、もう一つあります」


ミレーユが視線を向ける。


「もう一つ、とは?」


すると――。


晋作が、ニヤリと笑った。


「崖だ」


会議室の空気が変わる。


晋作が、地図の両側を指差す。


「召喚候補の中に、円卓の騎士と源氏軍ってあったろ?」


レオニス王が、小さく頷く。


「うむ」


晋作は続ける。


「この二隊は、基本“遊撃隊”だ」


指が、谷の崖沿いをなぞる。


「防衛ラインへ敵が近づきすぎたら――」


ニヤリと笑う。


「両側の崖から、馬で一気に駆け降りてもらう」


王国側が、一斉に目を見開いた。


「なっ……!?」


「崖を馬で!?」


晋作は構わず続ける。


「そのまま敵陣を横薙ぎにする」


「そうすることで、防衛ラインへ到達する敵数を少しでも減らす」


地図を叩く。


「序盤は、この繰り返しだ」


ヴァルディアスが、思わず立ち上がる。


「崖だぞ!?」


「傾斜もかなりある!!」


「そこを馬で駆け降りるなど――!」


総司が、小さく苦笑した。


「……それが出来るんですよ」


静かな声。


「この二隊なら」


ヴァルディアスが、絶句する。


「考えられんな……」


だが――。


ガルディアスだけは、静かに地図を見ていた。


彼は、東門の戦いを見ている。


“常識”で測る相手ではない。


そう理解し始めていた。


セレナが、さらに口を開く。


「あと、新選組と奇兵隊ね」


全員の視線が向く。


「この二隊は、到着次第援軍要員」


総司が、地図を指差す。


「突破個体への即応」


「防衛ライン崩壊箇所への穴埋め」


晋作も続ける。


「奇兵隊は遊撃も出来る」


「銃と機動力で、状況に応じて動かす」


クロードが、小さく息を吐く。


「……恐ろしいな」


「これだけの戦力を、一点集中させるのか」


晴明が、静かに頷いた。


「次元イーター相手には、それでも足りるか分かりません」


静かな声。


「だからこそ」


「こちらも全力をぶつける必要がある」


会議室の空気が、さらに張り詰める。


世界を懸けた防衛戦。


その輪郭が、少しずつ形になり始めていた。


その時。


エルグランが、地図から顔を上げた。


「……その他の召喚候補の者たちは?」


その問いに。


セレナが、静かに頷く。


「あくまで、作戦に出した候補者は“最優先”よ!」


腕を組む。


「でも、それ以外の候補メンバーも随時召喚して!」


その目が、真っ直ぐ王国側を見る。


「戦力は、多い方がいい」


静かな声。


「次元イーター戦は長期戦になる可能性が高いの」


一拍。


「疲弊するし、交代で防衛し続ける方が圧倒的に効果的よ」


晴明も続ける。


「特に前衛は消耗が激しい」


「交代要員の有無で、生存率も大きく変わります」


レオニス王が、ゆっくり頷いた。


「……分かった」


重い声。


「その作戦通りに進めよう」


そして――。


王は、ガルディアスを見る。


「して」


「我が王国騎士団は、どのように配置する?」


その問いへ。


ジャンヌが、静かに口を開いた。


「基本的には」


地図を指差す。


「織田軍防衛ラインの両サイドへ展開してください」


「左右の崩壊防止と、突破個体への対処をお願いしたいです」


一拍。


「乱戦には極力しない形を取ります」


その目が、真っ直ぐ騎士団幹部たちを見る。


「ですが」


「乱戦になる可能性も、当然あります」


静かな声。


「その時に備えた準備をお願いします」


ガルディアスが、小さく頷いた。


「……了解した」


その後。


騎士団長の視線が、総司たちへ向く。


「お前たちは、どう動く?」


総司が、地図へ視線を落としたまま答える。


「俺たちは」


一拍。


「どちらかというと、“押され始めた場所”へ突っ込む役割かな」


その目が、静かに細まる。


「崩れかけた戦線を立て直す」


「言わば――Hit & Runの役割」


クロードが、少し驚いた顔をする。


「機動遊撃か」


「そんな感じです」


総司が頷く。


その横で。


晋作が、ニヤリと笑った。


「空と地上」


地図を指差す。


「両方で“流れを変える役割”ってわけだ」


一拍。


「当然、ガルディアスにもその部隊を率いてもらう」


ガルディアスが目を細める。


晋作は続けた。


「アンタには、アストラルディア軍全体の把握と指揮もある」


「だから前に出る回数は少なくする予定だ」


その目が、鋭くなる。


「だが、いざって時に騎士団総長が突っ込んで来るってのは」


ニヤリと笑う。


「兵士の士気に関わる」


ガルディアスが、少しだけ口元を歪めた。


「……言うようになったな」


晋作が肩をすくめる。


「戦って分かったんだよ」


「アンタ、現場向きだろ」


その言葉に。


ガルディアスは数秒黙り――。


やがて、小さく鼻を鳴らした。


「否定はせん」


その空気の中。


セレナが、再び地図へ視線を落とした。


「次!」


指が、防衛ラインからさらに後方をなぞる。


「第一防衛ラインから、さらに二キロ後方へ第二防衛ラインを設置!」


王国側が、地図へ身を乗り出す。


セレナは続けた。


「ここには、アストラルディア軍の遠距離魔法部隊を配置する」


エルグランが、わずかに目を細める。


「後衛火力か」


「そう」


セレナが頷く。


「第一防衛ラインが突破される前提でも考える」


静かな声。


「第一が押された場合、織田軍たちは一旦後退」


「その間を、遠距離魔法部隊で援護射撃して避難させる」


クロードが、地図を見ながら呟く。


「なるほど……」


「段階的後退戦術か」


「えぇ」


セレナが頷く。


「真正面から潰し合うより、削り続ける方がいい」


その目が、鋭く細まる。


「なんなら――」


ニヤリと笑う。


「ゲート付近に、どでかい魔法ぶち込んでもいいわ!」


エルグランが、思わず吹き出しかけた。


「ほっほ……」


「簡単に言ってくれるのぉ……」


だが。


その目は、真剣だった。


ミレーユも、小さく頷く。


「ですが……」


「ゲート出現直後の集中砲撃は有効かもしれません」


晴明も静かに続ける。


「出現数を減らせれば、防衛成功率も大きく変わる」


ラファエルが腕を組む。


「問題は、魔力消耗か」


「そうね」


セレナが頷く。


「だからこそ第二防衛ラインは、“魔法砲台”として使う」


その言葉に。


王国側の空気が、さらに戦時色を強めていった。


その時だった。


騎士団幹部の一人が、地図を見ながら口を開く。


「……ならば」


一拍。


「最初から魔法部隊を第一防衛ラインへ配置した方が良いのではないか?」


会議室の空気が、わずかに変わる。


「確かに……」


「火力を集中できる」


「前線維持もしやすくなるのでは?」


だが――。


晴明が、静かに首を振った。


「それも、初めは考えました」


全員の視線が向く。


晴明は続ける。


「しかし」


「あなた方の魔法使いたちは、“召喚”も行うはず」


エルグランとクロードが、静かに頷く。


晴明の目が、真っ直ぐ王国側を見る。


「そう考えると」


「第二防衛ラインで休息を取りつつ、魔力回復へ努めてもらう方が良い」


静かな声。


「そして、万全の状態で戦場へ投入する」


クロードが、小さく息を吐いた。


「……なるほど」


「召喚と戦闘を両立するわけか」


「えぇ」


晴明が頷く。


その時。


晋作が、ニヤリと笑った。


「それにな」


地図を叩く。


「第一防衛ラインは、簡単には抜かれねぇ」


ガルディアスが、わずかに目を細める。


晋作は続けた。


「仮に、押し止められてるなら――」


「その時は魔法部隊にも第一へ上がってもらう」


一拍。


「そして、一気に攻勢をかける」


その目が鋭くなる。


「そのための第二防衛ラインって意味もある」


ラファエルが、小さく頷く。


「状況対応型か」


「そういうこった」


晋作が笑う。


「判断は、その時の状況次第だ」


クロードが、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえば」


視線がセレナへ向く。


「其方らの国の“自衛隊”なる戦力はどうなっている?」


その問いに。


セレナが、小さく息を吐いた。


「それについては、まだ連絡待ち」


腕を組む。


「でも、多分いくらかは送れると思う」


一拍。


「ただ――」


その目が鋭くなる。


「そっちは、次に出てくる“上級大型”へ当てるつもりよ」


会議室の空気が、さらに張り詰める。


セレナは、全員を見渡した。


「一通りの説明はしたわ」


静かな声。


「何か質問は?」


沈黙。


誰も口を開かない。


王国重鎮たちの表情には、不安と覚悟が入り混じっていた。


やがて――。


レオニス王が、ゆっくり立ち上がる。


「……分かった」


重い声。


「其方らの策に従おう!!」


その声が、会議室へ響く。


「各員!!」


「直ちに準備へかかれ!!」


一拍。


「事態は急を要する!!」


その言葉を最後に。


一同が、一斉に立ち上がった。


騎士。


魔導師。


大神官。


それぞれが、持ち場へ動き始める。


その中で――。


千代女が、静かにヴァルディアスへ近づいた。


「……例の件、どうなってる?」


ヴァルディアスが、小さく頷く。


「材料は、既に急ピッチで作らせている」


一拍。


「木材加工も含めてな」


千代女が、満足そうに頷いた。


「なら良し」


静かな声。


「多分、どこかの時点で使うことになる」


その目が細まる。


「準備、お願い」


ヴァルディアスも、静かに頷いた。


その時だった。


バンッ!!


会議室の扉が勢いよく開く。


「伝令!!」


「伝令!!」


兵士が、息を切らせながら飛び込んできた。


レオニス王が、鋭く声を上げる。


「何事だ!!」


「申せ!!」


伝令兵が、叫ぶ。


「防衛ライン建設中の物見より報告!!」


息を呑む。


「例の裂け目より、多数の異形出現!!」


会議室の空気が凍る。


「その数――」


「徐々に膨れ上がってきております!!」


ミレーユが、思わず顔を曇らせた。


「まだ……」


「準備が整っていないというのに……」


その瞬間。


AX班の面々が、同時に反応した。


「――始まった」


39話 完

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