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36話 Kingdom of Astraldia Ⅰプロローグ

――アストラルディア王国・王都ルクスフィール。


ゴゴゴゴゴ……ッ――。


低い地鳴りが、大地を揺らしていた。


石畳が震える。


建物の窓が、ガタガタと音を立てる。


市場では悲鳴が上がり、人々が慌てて避難していく。


「また地震だ……!」


「最近多すぎるぞ……!」


「神の怒りじゃないのか……!?」


不安が、王都全体へ広がっていた。


しかも異変は地震だけではない。


数日前には真夏に雪が降った。


逆に北方では猛暑。


海では巨大渦潮。


空には赤い雷。


魔物の異常発生。


世界そのものが、少しずつ壊れ始めているようだった。


そして――。


王城・アルスグランデ。


重厚な扉が開かれる。


王国の重鎮たちが、円卓へ集っていた。


玉座に座るのは――


アストラルディア王国国王。


レオニス・アストラルディア。


金髪混じりの白髪。


威厳ある壮年の王。


鋭い眼光を持ちながらも、その顔には疲労が滲んでいた。


円卓には、


宰相ヴァルディス・ローエン。


王国騎士団総長ガルディアス・レーヴェ。


大神官ミレーユ・ファルナ。


魔導学院長クロード・アルヴェイン。


そして――


王国最高魔導師。


魔導師長エルグラン・メルセディウス。


王国中枢の人間たちが揃っている。


重苦しい沈黙。


その中で。


レオニス王が、低く口を開いた。


「……各地の被害報告は聞いている」


一拍。


「状況は、もはや看過できん」


重い声だった。


騎士団総長ガルディアスが、拳を握る。


「北方砦では地割れと共に魔獣が大量出現しております」


「騎士団だけでは抑えきれません」


クロード学院長も険しい顔で続ける。


「魔導学院でも原因究明を急いでいますが……」


一拍。


「自然現象とは到底思えません」


「魔力流動そのものが乱れています」


大神官ミレーユが静かに言う。


「教会の結界にも異常反応が出始めています」


空気が、さらに重くなる。


そして――。


宰相ヴァルディスが、静かに視線を向けた。


「……エルグラン殿」


一拍。


「例の古文書について、説明を」


その言葉に。


場の空気が変わる。


エルグランが、ゆっくり立ち上がった。


長い白銀の髪。


深い蒼の法衣。


老齢ながら、その瞳には強い知性が宿っている。


彼は静かに杖を掲げた。


すると――。


空中へ魔法陣が展開される。


淡い光。


そして、一冊の古びた書物が浮かび上がった。


ボロボロの装丁。


古代文字。


場の全員が息を呑む。


エルグランが静かに語り始める。


「これは、王家地下書庫最深部より発見された古代文書――」


「“終焉の預言書”です」


一拍。


「そこには、このように記されていました」


魔力が流れる。


古文書の文字が、空中へ投影される。


――地震と異常気象が頻発する時。


――地表に“次元の裂け目”が現れる。


――数日の後。


――異界より現れし異形は、世界を喰らい尽くす。


静寂。


誰も口を開かない。


エルグランが続ける。


「さらに古文書には、対抗策も記されていました」


杖が、ゆっくり動く。


次の瞬間。


巨大な古代魔法陣が空中へ浮かび上がる。


幾重にも重なる紋様。


見たこともない術式。


「この古代召喚陣です」


クロードが目を細める。


「……異世界召喚術式」


「はい」


エルグランが頷く。


「異界より“力ある戦士”を強制召喚し」


「世界を救うための戦力とする」


一拍。


「それが、古代人の残した最後の手段です」


その瞬間。


騎士団総長ガルディアスが立ち上がった。


「馬鹿げている!」


怒声。


「異世界など本当に存在するのか!?」


「しかも召喚だと!?」


「そんな得体の知れん力に国運を賭けろと言うのか!」


だが――。


エルグランは静かだった。


「既に観測されています」


低い声。


「空間歪曲」


「未知の魔力波長」


「次元振動」


一拍。


「そして昨日――」


その目が鋭くなる。


「西部領域で、“裂け目”が確認されました」


空気が凍る。


全員の顔色が変わる。


レオニス王が、ゆっくり立ち上がった。


「……本当に現れたのか」


エルグランが、静かに頷く。


「はい」


「まだ小規模ですが、確実に」


沈黙。


重い沈黙。


誰も軽々しく言葉を出せない。


やがて――。


宰相ヴァルディスが、低く呟く。


「……時間がないな」


大神官ミレーユも目を伏せる。


「このままでは、王国だけでは済まないでしょう」


騎士団総長ガルディアスが、悔しげに歯を食いしばる。


「……っ」


「だが!」


「異世界の者など信用できる保証は――」


その時だった。


レオニス王が、静かに口を開く。


「保証などない」


低い声。


だが、王としての重みがあった。


「だが」


一拍。


「何もしなければ、この世界は滅ぶ」


沈黙。


王は、ゆっくりと玉座から降りる。


そして。


巨大な召喚陣を見上げながら言った。


「我らに残された選択肢は少ない」


一拍。


「ならば掴むしかあるまい」


その目が、真っ直ぐ前を向く。


「たとえ異界の力であろうと」


「世界を守れる可能性があるならば」


そして――。


王は、静かに命じた。


「魔導師長エルグラン」


「召喚術式の準備を始めよ」


空気が震える。


エルグランが深く頭を下げた。


「……御意」


――王城・大広間。


豪奢な赤絨毯が敷かれた巨大空間。


高い天井には巨大なシャンデリア。


白銀の柱。


壁には歴代王の肖像画。


本来であれば、舞踏会や謁見に使われる王城最大の広間だった。


だが今、その中央には――。


巨大な古代召喚陣が展開されていた。


床一面へ広がる幾重もの魔法陣。


複雑に絡み合う紋様。


淡い蒼光を放つ古代文字。


空気そのものが震えている。


周囲には、王国最高位の魔導師たちが並んでいた。


全員が緊張した表情を浮かべている。


未知の術式。


未知の異世界。


そして――未知の来訪者。


レオニス王は、王座の前で静かに立っていた。


その隣には宰相ヴァルディス。


騎士団総長ガルディアス。


大神官ミレーユ。


魔導学院長クロード。


王国の重鎮たちが勢揃いしている。


ガルディアスが低く呟く。


「……本当に呼ぶのか」


その声には、未だ警戒が滲んでいた。


だが。


レオニス王は視線を逸らさない。


「迎える以上」


一拍。


「我らは王国として礼を尽くす」


静かな声。


「彼らは兵器ではない」


「世界を救うために呼ぶ客人だ」


その言葉に。


大神官ミレーユが小さく頷いた。


「……ええ」


「少なくとも、我らはそうあるべきでしょう」


その時。


中央へ進み出たエルグランが、杖を掲げる。


「術式起動を開始する」


低く響く声。


次の瞬間――。


ゴォォォォッ!!


巨大魔法陣が、一斉に発光した。


空気が震える。


シャンデリアが揺れる。


床を走る光が、幾何学模様を描きながら広間全体へ広がっていく。


周囲の魔導師たちが、一斉に詠唱を開始した。


古代語。


重なる声。


膨大な魔力が、召喚陣へ流れ込んでいく。


「次元接続開始」


エルグランが詠唱を続ける。


「異界座標固定」


「魂波長検索」


術式が、さらに加速する。


魔法陣中央に、巨大な光の渦が生まれ始めた。


空間が歪む。


まるで水面のように揺らぐ。


その瞬間――。


ドゴォォンッ!!


王城全体が激しく揺れた。


「っ!?」


空気が張り詰める。


だが。


召喚陣は止まらない。


むしろ輝きを増していく。


エルグランが叫ぶ。


「術式維持!!」


「止めるな!!」


魔導師たちが、一斉に魔力を注ぎ込む。


光の渦が、さらに巨大化する。


そして――。


召喚陣の中心から、無数の光柱が立ち上がった。


ドォォォォォッ!!


広間を埋め尽くす閃光。


猛烈な魔力の奔流。


風圧で赤絨毯が揺れ、窓が激しく軋む。


誰も目を開けていられない。


そして――。


光が、ゆっくりと収束していく。


静寂。


重い沈黙。


やがて。


召喚陣の中央に――。


複数の人影が、静かに浮かび上がっていた。


眩い光が、ゆっくりと収束していく。


王城・大広間。


張り詰めた静寂の中――。


召喚陣の中央に現れた複数の人影が、ゆっくりと輪郭を持ち始める。


最初に。


総司が、そっと目を開けた。


ぼやけていた視界が、徐々に鮮明になる。


豪奢な広間。


巨大なシャンデリア。


ずらりと並ぶ武装兵。


そして――剣と杖を構える騎士と魔導師たち。


「……」


総司の目が、静かに細くなる。


その横で。


「ここは……?」


茜が、戸惑ったように周囲を見回す。


目の前には、完全武装の兵士たち。


さらに、魔導師らしき者たちまで並んでいた。


明らかな警戒態勢。


晋作が、小さく鼻で笑う。


「予想は当たったみたいだな……」


セレナが腕を組む。


「歓迎ムードってわけではなさそうな気もするわね……」


晴明も、静かに周囲を観察していた。


「何が起きても即座に対応できるようにしておきましょう」


低い声。


既に空気の流れを読んでいる。


ジャンヌが、周囲を見ながら呟く。


「これって……もしかして、さっきの話の?」


「間違いなさそうだ」


ラファエルが、低く返した。


千代女が、少し呆れたように周囲を見る。


「こんな感じでいきなりなの!?」


その横で。


鷹宮が、静かに周囲を観察していた。


「……あちらは警戒体制」


一拍。


「特に騎士たちは」


そのまま、腰のサバイバルナイフへ手をかける。


「ならこちらも」


美雪が、小さく苦笑した。


「また来ちゃったかな?」


総司も、静かに息を吐く。


「どうやらそうらしいね……」


その時だった。


前方。


王国騎士団総長ガルディアス・レーヴェが、一歩前へ出る。


重厚な鎧。


巨大な剣。


鋭い視線が、召喚された十人を睨みつけていた。


そして――。


「こいつらが異界からの応援?」


鼻で笑う。


露骨な侮蔑。


「痩せた男に、女ばっかの集団が?」


周囲の騎士たちもざわつく。


ガルディアスが、さらに続けた。


「笑いしか出んな」


その視線が、王へ向く。


「陛下」


「本当に、こんな奴らの力を借りるおつもりですか?」


空気が張り詰める。


だが――。


晋作が、ふっと笑った。


「勝手に呼び出しといて」


一拍。


「いきなり罵声を浴びせられるとはなぁ」


視線を上げる。


その目が、鋭く細まる。


「この世界の騎士ってのは、礼儀もなってないらしい」


その瞬間。


空気が変わった。


騎士たちが、一斉に殺気立つ。


ガルディアスの額に、青筋が浮かぶ。


「あぁ?」


低い声。


「騎士を侮辱するか?」


一歩踏み出す。


「即刻排除してやろうか?」


だが。


晋作は笑ったままだった。


「ほぉ?」


肩を回す。


「やってやるよ」


その目が、獰猛に細まる。


「負けて吠え面かくなよ?」


次の瞬間――。


ガキィンッ!!


ガルディアスが剣を抜き放った。


凄まじい速度。


そのまま、真正面から晋作へ斬りかかる。


「晋作さん!」


茜が叫ぶ。


晋作も即座にSDブレスレットへ手をかざす。


だが――。


それより速く。


一つの影が、間へ割って入った。


ギィィィンッ!!


鋭い金属音。


火花が散る。


ガルディアスの大剣を受け止めていたのは――。


総司だった。


菊一文字が、騎士団長の剣を真正面から止めている。


総司は静かに目を細める。


「こちらの意思確認もなしに勝手に呼び出して」


一拍。


「罵声を浴びせた挙句、いきなり斬りかかるって――」


その目が、冷たく細まる。


「礼儀も何もなってないね」


次の瞬間。


総司が、菊一文字を払い上げる。


ガルディアスの大剣が弾かれる。


そして。


総司は静かに刀を構え直した。


広間の空気が、一気に張り詰める。


ガルディアスが、総司の刀を睨みつける。


「何だ? その剣は……」


侮蔑を含んだ声。


「片刃?」


一拍。


「しかも細身だと?」


騎士たちの間からも、ざわめきが漏れる。


この世界の剣とは、明らかに形状が違う。


ガルディアスは鼻で笑った。


「そんなもんで、この俺を止められるとでも?」


だが――。


総司は、まったく表情を変えない。


静かなまま。


ただ、菊一文字を構えている。


「……やってみる?」


穏やかな声だった。


だが、その奥にある鋭さは隠れていない。


その瞬間。


ガルディアスの額に青筋が浮かんだ。


「なめんじゃねぇぞ、テメェ!!」


ドォンッ!!


石床を砕きながら、ガルディアスが一気に踏み込む。


巨大な体躯。


だが速い。


重厚な鎧を纏っているとは思えない速度で、総司へ迫る。


「総司くん!?」


美雪が声を上げる。


振り下ろされる大剣。


空気を叩き潰すような一撃。


だが――。


総司は動じない。


ほんの半歩。


身体をずらす。


ゴォッ!!


大剣が空を裂いた。


そのまま総司は滑るように懐へ入り込む。


「っ!?」


ガルディアスの目が見開かれる。


速い。


いや――見えなかった。


次の瞬間。


総司の身体が、さらに一歩踏み込む。


白銀の軌跡。


菊一文字が、静かに走った。


そして――。


「そこまで!!!」


大広間へ、鋭い声が響き渡る。


空気が止まった。


総司の刃が、ぴたりと止まる。


その切っ先は――。


ガルディアスの首元へ、寸前まで迫っていた。


あと数ミリ。


ほんの少しでも動けば、首が飛んでいた距離。


ガルディアスの目が、大きく見開かれる。


頬を、一筋の汗が流れた。


完全に。


反応できていなかった。


総司は静かに視線だけを動かす。


その先。


玉座から立ち上がっていたのは――。


アストラルディア国王。


レオニス・アストラルディアだった。


王の鋭い視線が、広間全体を貫いている。


「……双方、剣を収めよ」


低く。


だが絶対的な声。


広間が静まり返る。


騎士たちも、誰一人動けない。


その中で。


総司は、静かに菊一文字を引いた。


カチリ――。


納刀の音が響く。


一方で。


ガルディアスだけは、未だに目を見開いたままだった。


信じられない。


そんな表情。


自分が――。


あと一歩で斬られていたという現実を、まだ理解しきれていない。


晋作が、その様子を見て口元を歪める。


「おいおい」


肩をすくめる。


「さっきまで随分威勢良かったじゃねぇか」


セレナも、小さく息を吐いた。


「……だから言ったのに」


晴明は静かに目を細める。


「先入観で判断するべきではありませんね」


ジャンヌとラファエルも、改めて総司を見る。


そして――。


王レオニスは、静かに口を開いた。


「……どうやら」


その視線が、総司たちへ向く。


「本当に、“異界の戦士”であるようだな」


セレナも、一歩前へ出た。


長い金髪が揺れる。


現代的な私服姿のまま。


だが、その存在感は騎士たちすら圧倒していた。


「……見たところ」


静かな声。


「あなたが国王みたいだけど」


その瞳が、真っ直ぐ王を射抜く。


「いきなり呼び出しておいて、この仕打ち?」


一拍。


「部下の躾、なってないんじゃない?」


その瞬間――。


「貴様ァ!!」


兵士の一人が怒鳴った。


「国王陛下に向かって何という口の利き方だ!!」


だが。


セレナは一切怯まない。


「私たちの王でも何でもないわ」


低い声。


「突然こんな場所に連れてこられて、歓迎どころか剣向けられてるのよ?」


一拍。


「これくらい当然でしょ」


さらに視線を細める。


「それに、止めるのも遅いんじゃない?」


「女が……!」


別の兵士が吐き捨てる。


「いけしゃあしゃあと……!」


その瞬間。


「黙れ!!」


国王の怒声が響いた。


広間が震える。


兵士たちは一瞬で口を閉ざした。


レオニス王は、ゆっくりと総司たちを見る。


そして――。


「……其方らの言う通りだ」


低い声。


「異界より無理矢理呼び出しておきながら、礼を尽くさぬとは王国の恥」


そのまま――。


王が、頭を下げた。


広間がどよめく。


「陛下が頭を!?」


「国王陛下が……!?」


騎士たちの顔にも驚愕が走る。


ジャンヌが、小さく息を吐く。


「……国王は、話が通じる相手かもしれませんね」


晴明が、一歩前へ出た。


「国王直々の謝罪、受け入れましょう」


一拍。


「その上で、お聞かせ願いたい」


静かな声。


「我々は、何故この地へ呼ばれたのです?」


その時――。


一人の老人が前へ出る。


長い白髪。


深い紺色の魔導衣。


杖を持った老魔導師。


王国最高魔導師――エルグラン・メルセディウス。


「……その説明は」


静かな声。


「私がしよう」


エルグランが、静かに杖を床へ突いた。


コン――。


乾いた音が、大広間へ響く。


次の瞬間。


足元へ巨大な魔法陣が展開される。


青白い光。


複雑な紋様。


それは、この世界の魔法文明の高さを感じさせる術式だった。


そして――。


魔法陣の中央へ、巨大な立体映像が浮かび上がる。


アストラルディア王国を中心とした大陸地図。


山脈。


都市。


海。


その各地へ、赤い光点が点滅していた。


「アストラルディア王国……いや」


エルグランが、静かに語り始める。


「この世界全体で、近年異常事態が発生している」


映像が切り替わる。


崩落する山。


荒れ狂う海。


空を覆う異常な黒雲。


街を襲う大地震。


吹雪。


干ばつ。


巨大な雷嵐。


「最初は、単なる自然災害だと思われていた」


一拍。


「だが、頻度が異常だった」


エルグランの声が、わずかに重くなる。


「地震」


「異常気象」


「魔力流動の乱れ」


「結界の不安定化」


「空間震」


一つずつ、空中へ文字が浮かび上がる。


「しかも、それらは世界各地で同時多発的に起き始めた」


騎士たちの空気が重くなる。


これはもう、王国上層部では周知の事実なのだろう。


そして――。


エルグランが、杖をゆっくり掲げた。


映像が変わる。


そこへ映し出されたのは――。


空間そのものが裂けたような巨大な亀裂。


漆黒。


不気味な揺らぎ。


まるで世界に開いた“傷口”。


ジャンヌが、息を呑む。


「これは……」


エルグランが低く言った。


「“次元の裂け目”」


広間の空気が、一気に冷える。


「数ヶ月前より、世界各地で観測され始めた」


映像の中。


黒い裂け目が空中へ浮かび、不安定に揺らいでいる。


だが――。


まだ何も出てきてはいない。


「現在のところ」


エルグランが続ける。


「裂け目から何かが現れたわけではない」


「しかし」


その目が鋭くなる。


「裂け目周辺では、必ず異常気象と大地震が発生している」


一拍。


「我々は、これを偶然とは判断しなかった」


晴明が静かに目を細める。


「空間そのものが不安定化している……」


「ええ」


エルグランが頷く。


「そして、その調査を進める中で――我々は、ある古文書を発見した」


杖を振る。


次の瞬間。


空中へ、古びた文字が浮かび上がった。


劣化した羊皮紙。


かすれた古代文字。


『地震と天変地異が頻発する時』


『世界の境界は揺らぎ』


『地表に次元の裂け目が現れる』


広間が静まり返る。


『やがて異界の災厄が訪れ』


『国は滅び』


『世界は喰らい尽くされるだろう』


茜が、思わず息を呑む。


「……っ」


エルグランが、さらに続けた。


『それを防ぐ術は一つ』


『異界より戦士と勇士を召喚し』


『その力を借りよ』


『世界を超えし者こそ』


『災厄へ抗う鍵となる』


静寂。


重い空気が、大広間を包み込む。


そして――。


エルグランが、ゆっくりと総司たちを見る。


「我々は、この古文書の警告を無視できなかった」


一拍。


「だからこそ」


その声が、静かに響く。


「異界召喚術式を起動した」


レオニス王が、重々しく続ける。


「世界を守るために」


「異界の戦士たちの力を借りるためにな」


そして。


王とエルグランの視線が、総司たち十人へ向けられる。


「その結果、現れたのが――」


「君たちだ」


美雪「やっぱり……次元イーター……」


静かな声だった。


だが、その一言で空気が変わる。


総司も、ゆっくりと目を細める。


「……間違いないね」


低く、確信を持った声。


エルグランが眉をひそめた。


「其方たち……これが何であるかを知っておるのか?」


その問いに。


晴明が、一歩前へ出る。


「……私たちは」


静かに、口を開く。


「かつて、同様に“次元イーター”に侵食されつつあった世界へ」


「今回と同じような形で、強制召喚されたことがあります」


その言葉に。


王座の間がどよめいた。


「なっ……!?」


「異界召喚経験者だと……!?」


騎士や魔術師たちの空気が変わる。


エルグランも目を見開いた。


「まさか……」


晴明は続ける。


「その時も、最初は天変地異から始まった」


「地震」


「異常気象」


「空間の歪み」


「そして――次元の裂け目」


静かな声。


だが。


その場にいる誰もが、その重みに息を呑んでいた。


「状況は酷似しています」


「……いえ」


一拍。


「同じと言っても過言ではないでしょう」


沈黙。


王城の大広間に、重苦しい空気が広がる。


その中で。


ジャンヌが、小さく息を吐いた。


「……本当に、あの時の話と同じなんですね……」


ラファエルも腕を組みながら眉をひそめる。


「話だけでも十分異常だと思ってたが……」


「実際に目の当たりにすると、洒落にならんな」


千代女も、静かに目を細めた。


「“裂け目”っていうのも、本当に存在するのね……」


鷹宮は周囲の兵士たちを見ながら、小さく息を吐く。


「……なるほど」


「だから、これほど警戒していたわけですか」


一方で。


王国側は完全に動揺していた。


「まさか本当に……」


「古文書の予言が……」


「異界の戦士……」


騎士たちのざわめきが広がる。


その空気の中。


エルグランが、ゆっくりと口を開いた。


「……詳しく、聞かせてもらおう」


その目は真剣だった。


「其方たちは」


「“次元イーター”と戦ったことがあるのだな?」


総司が、静かに頷く。


「うん」


一拍。


「俺たちは、実際にあれと戦った」


美雪が胸元を軽く押さえる。


まるで、あの戦場を思い出すように。


「……本当に、地獄みたいだった」


ぽつりと零す。


その声には、わずかな震えが混じっていた。


セレナが、静かに前へ出る。


「空が裂けて」


「化け物みたいに湧いてくる」


「街も、人も、国も関係ない」


一拍。


「ただ全部を喰い潰す」


静かな声。


だが、その場の全員が息を呑む。


晋作が、小さく鼻で笑った。


「しかもタチ悪ぃのがよ」


「倒しても倒してもキリがねぇ」


「まるで無限湧きだ」


茜も、小さく頷く。


「でも……」


「その時、いろんな時代とか世界から召喚された人たちと一緒に戦ったんです」


王国側の視線が集まる。


茜は続けた。


「新選組」


「真田十勇士」


「アーサー王と円卓の騎士」


「源義経と弁慶」


「他にも、いろんな人たちがいました」


「……なんだと……」


カルディアスでさえ、思わず呟く。


信じられない。


そんな顔だった。


晴明が、静かに締める。


「そして――」


「我々は、その世界で次元イーターを退けた」


一拍。


「だからこそ断言できます」


空気が張り詰める。


「この現象を放置すれば」


「いずれ、この世界にも“奴ら”は現れる」


静寂。


誰も言葉を発しない。


王座の間にいる全員が。


今ようやく、“何が起ころうとしているのか”を理解し始めていた。


そして――。


国王レオニス・アストラルディアが、ゆっくりと立ち上がる。


重い沈黙の中。


真っ直ぐに、AX班たちを見る。


「……ならば」


低く、だが確かな声。


「其方たちは」


「この世界にとって、希望となる存在なのかもしれぬな」


その言葉が。


静かに、大広間へ響いた。


晋作が、腕を組みながら静かに口を開く。


「……で?」


「この世界の“対抗できうる戦力”はどのくらいだ?」


視線が、国王たちへ向く。


「一国のみなら、戦力不足だ」


その言葉に。


王国側の空気がわずかに張る。


セレナも続けた。


「さっき言ったでしょ?」


「次元イーターは、一国程度でどうにかなる相手じゃない」


静かな声。


だが、重い。


「異なる時代」


「異なる世界」


「それも、多くの英雄や戦士たちが集まって」


「ようやく退けた程度よ」


一拍。


「私たち六人だけでも無理だった」


「私たちの世界でも、各時代の“英雄”って呼ばれる人たちが集まって――」


視線が少し鋭くなる。


「それでやっとだった」


王座の間に沈黙が落ちる。


だが、その空気を断ち切るように――。


「……笑わせるな」


低い声。


ガルディアスだった。


騎士団長は、不愉快そうにAX班たちを睨みつける。


「貴様らの話に、どれほどの信憑性がある?」


「異世界?」


「英雄?」


「次元を喰らう怪物?」


鼻で笑う。


「絵空事も大概にしろ」


「過去に経験しているだと?」


「そんな与太話、信じるに値せん」


空気が張る。


「ガルディアス!」


国王レオニスが鋭く声を上げた。


「黙れ!」


「客人に対して失礼だ!」


だが。


ガルディアスは引かない。


「お言葉ですが陛下!」


強く言い返す。


「私は、この者たちを信用できません!」


「得体の知れぬ異界人を頼るなど言語道断!」


一歩、前へ出る。


「それでも頼るというのであれば――」


視線が、総司たちへ向く。


「力を示してもらわねば納得できません」


そして。


露骨に、美雪、茜、セレナ、ジャンヌへ目を向けた。


「特に女どもの話など、信憑性も薄い」


その瞬間。


空気が、変わる。


セレナの目が細まる。


美雪も、静かに目を細めた。


茜が「……は?」と小さく呟く。


ジャンヌも、表情を引き締める。


一方で。


晋作が、ふっと笑った。


「はっ」


肩を震わせながら総司を見る。


「奴さん、お前にご執心みてぇだな?」


「俺が相手してたら、今度は俺だったかもだが」


総司が苦笑する。


「晋作が相手してたら、たぶん銃抜いてたでしょ?」


「かもな」


晋作がニヤッと笑う。


「でもよ」


総司が、静かにガルディアスを見る。


「あの人、騎士としての信念は本物っぽい」


一拍。


「武士と似てるよ」


「そういう人って、“銃は卑怯だ”とか普通に言いそうだし」


「……俺も武士なんだけどなぁ」


晋作がぼやく。


その横で。


セレナが、一歩前へ出た。


「私たちが“戦えそうにない”ですって?」


静かな声。


だが、その奥には確かな怒気がある。


「いいわ」


腕を組み、真っ直ぐガルディアスを見る。


「そこまで言うなら――」


「力、示してあげる」


空気が張り詰める。


ガルディアスは、口元を歪めた。


「……ほぉ?」


「ならば、嘘を証明してやろう」


含み笑い。


「こちらで十人用意する」


「俺も出る」


一拍。


「泣いて喚いても容赦はせん」


「死んでも文句を言うなよ?」


視線が、セレナたちへ向く。


「お嬢さん方」


その瞬間。


美雪の周囲に、小さな氷片が浮かぶ。


茜の目も、静かに細まった。


ジャンヌもまた、穏やかな笑みを消している。


ガルディアスは背を向けた。


「準備ができたら来い」


「決闘場で待っている」


そのまま。


騎士たちを連れ、大広間を去っていく。


重い扉が閉まる。


静寂。


そして――。


国王が、深く息を吐いた。


「……すまない」


苦い表情だった。


「あのような者だったとは……」


「いつもは、あそこまでではないのだが」


晴明が、静かに目を細める。


「異物を信用できないのでしょう」


「騎士団長としては、当然の反応とも言えます」


一拍。


「……さて」


小さく息を吐く。


「まともに取り合うべきかどうか」


すると。


「やるわよ」


即答だった。


セレナである。


その目には、完全に火がついていた。


「ねぇ?」


振り返る。


「美雪」


「茜」


「ジャンヌ」


ニヤッと笑う。


「言われっぱなしとか、ムカつくでしょ?」


「……うん」


美雪が静かに頷く。


その目は、完全に据わっていた。


「ちょっと、頭冷やしてあげたいかも」


「私もです」


茜が笑顔で答える。


だが、その笑顔が逆に怖い。


「女性を舐めすぎですよね?」


ジャンヌも、小さく息を吐いた。


「……正直、少し腹が立ちました」


静かな声。


だが、その背後に聖女の圧が見える。


その様子を見て。


総司が苦笑する。


「……あーあ」


晋作が肩をすくめた。


「騎士団長さん、地雷踏んだな」


張り詰めた空気の中。


静かに口を開いたのは――大神官ミレーユだった。


「……決闘などしている余裕は、本来ないと思うのですけれど」


柔らかな声。


だが、その表情にははっきりとした憂いが浮かんでいる。


その隣で。


魔導学院長クロード・アルヴェインが、小さくため息を吐いた。


「それは同感だ」


眼鏡の位置を直しながら続ける。


「だが、ああなったガルディアスは人の話を聞かん」


「納得するまで止まらないだろうな」


国王レオニスも、苦々しい表情を浮かべていた。


「……すまぬ」


静かな声。


「其方らには迷惑をかける」


一拍。


「だが」


真っ直ぐ、AX班たちを見る。


「あやつに、少し付き合ってはもらえぬだろうか?」


その言葉に。


セレナが、小さく肩をすくめた。


「そのつもりよ」


即答だった。


「国王様や、あなたたちのせいじゃない」


「だから気にしないで」


真っ直ぐな言葉。


その声に、国王はゆっくり頷いた。


「……感謝する」


静かに頭を下げる。


そして。


「ミレーユ大神官」


視線を向ける。


「皆を案内してやってくれ」


「はい、国王様」


ミレーユが、静かに一礼した。


そして。


改めてAX班たちへ向き直る。


「皆様」


柔らかな微笑み。


「改めまして」


「大神官を務めております、ミレーユ・ファルナと申します」


一拍。


「闘技場までご案内いたします」


そのまま、一行はミレーユの後について歩き始める。


――王城内部。


長い石造りの廊下。


赤い絨毯。


窓の外には、巨大な城下町が広がっている。


異世界。


その実感が、少しずつ強くなっていく。


歩きながら。


ミレーユが、少し申し訳なさそうに口を開いた。


「……こちらへ呼ばれてすぐに、このようなことになってしまい」


小さく息を吐く。


「本当に申し訳ありません」


その言葉に。


「まあ」


総司が、苦笑する。


「いきなり斬りかかられるのは予想外だったけどね」


「でも、ああいう人いるよ」


肩をすくめる。


「武士でも」


晋作も鼻で笑った。


「むしろ分かりやすいタイプだろ」


「“力で証明しろ”って奴だ」


「面倒だけどな」


「でも」


茜が、少しだけ笑う。


「本気で国を守ろうとしてる感じはしました」


「ええ」


ジャンヌも静かに頷く。


「少なくとも、無責任な方ではないのでしょう」


セレナは、ふっと目を細めた。


「だから余計に厄介なのよね」


「信念が強いタイプって」


晴明が静かに続ける。


「自分が正しいと思っているからこそ、簡単には折れない」


「ですが」


一拍。


「敵ではなく、守護者としての振る舞いではあります」


鷹宮も、小さく頷いた。


「兵を率いる者としては理解できます」


「未知の存在を、即座に信用するわけにはいかない」


千代女が、ふっと笑う。


「だからって斬りかかっていい理由にはならないけどね?」


「違いない」


ラファエルが苦笑した。


そのやり取りに。


ミレーユが、少しだけ安心したように微笑む。


「……ありがとうございます」


「皆様が冷静でいてくださって助かります」


美雪が、窓の外を見ながらぽつりと呟く。


「でも、本当に綺麗な街……」


石造りの建物。


行き交う人々。


遠くに見える尖塔。


まるで物語の中みたいな景色だった。


「王道ファンタジーって感じね」


セレナが小さく笑う。


「……なのに」


視線を細める。


「その裏で、次元イーターの気配がある」


その言葉に。


空気が少し静かになる。


ミレーユもまた、表情を曇らせた。


「……最近は、毎日のように地震が起きています」


「空の色も、おかしくなる日が増えました」


「民も、不安を抱えています」


静かな声。


「だからこそ」


「国王様も、古文書の予言へ縋るしかなかったのです」


誰も、軽々しく言葉を返せなかった。


彼女たちは知っている。


この前兆の先に何があるのかを。


やがて――。


巨大な扉の前へ辿り着く。


ミレーユが立ち止まった。


「……こちらです」


重厚な扉が、ゆっくりと開かれる。


その先。


広大な円形の空間。


石造りの観客席。


中央に広がる巨大な闘技場。


すでに。


騎士たちが集まり始めていた。


中央では――。


ガルディアスが腕を組み、こちらを待っている。


ミレーユが、小さく息を吐く。


「ここが、王国闘技場です」


そして。


静かに一礼した。


「……皆様、ご武運を」


ガルディアス「遅かったな!怖くなって逃げたかと思ったぞ」


不気味に笑う。


総司「逃げないよ」


静かな声だった。


総司が、周囲へ視線を向ける。


「皆んな……準備しよう」


その言葉と同時に。


全員がSDへ手をかざす。


光が走る。


次の瞬間――。


それぞれが戦闘服へ切り替わった。


総司は浅葱色の羽織を翻し。


晋作は黒を基調とした和装へ。


美雪は白銀を基調とした戦装束。


茜は巫女装束を戦闘用へ変化させる。


晴明は陰陽師装束へ。


千代女は忍装束へ。


鷹宮もまた、戦術装備へ切り替わる。


セレナは双槍を携え。


ジャンヌは白銀の鎧姿へ。


ラファエルも騎士装備へ変化していた。


その瞬間。


闘技場の空気が、変わる。


先ほどまでの“異邦人”ではない。


全員が、一瞬で“戦士”へ変わった。


ガルディアスが、AX班の姿を見ながら眉をひそめた。


「……騎士の真似事をしている奴らは分かる」


セレナ、ジャンヌ、ラファエルを見る。


「だが、なんだその服装は?」


総司、晋作、美雪、茜、晴明、千代女、鷹宮へ視線を向ける。


「動きにくそうだな」


晋作が、やれやれと肩をすくめた。


「羽織や袴、着物って服装を知らねぇらしいな」


晴明も静かに口を開く。


「それぞれの戦闘様式だ」


「そちらも魔術師はローブを纏っているでしょう?」


「同じようなものですよ」


ガルディアスは鼻を鳴らす。


すると――。


周囲へ、武装した者たちが現れる。


剣士。


槍兵。


重装騎士。


そして、後衛には魔術師。


合計十人。


それぞれが武器を構え、AX班を取り囲む。


総司が、静かに目を細めた。


「……一対一じゃないの?」


ガルディアスが、不敵に笑う。


「お前らの言う敵は“大勢”なんだろ?」


「なら乱戦の方が都合がいいだろうが」


一歩前へ出る。


「リンチになっても知らねぇぞ?」


「やめるなら今だ」


総司は、小さく息を吐いた。


そして――。


静かに菊一文字へ手を添える。


「分かった」


「なら、こちらも相応の対応をしよう」


その瞬間。


セレナが、一歩前へ出た。


双槍を回転させながら笑う。


「皆んな、連携を取るわよ!」


「いいわね?」


「当然だ」


晋作が笑う。


「ええ」


晴明も静かに頷く。


「はい!」


茜が弓を構える。


美雪の周囲へ、冷気が漂い始める。


千代女は低く姿勢を落とし。


鷹宮は静かにナイフへ手を添えた。


ジャンヌとラファエルも、剣を構える。


そして――。


次の瞬間。


ドンッ!!


地面を砕く勢いで。


ガルディアスが、一気に踏み込んだ。


巨大な剣が、総司へ振り下ろされる。


だが――。


キィィィン!!


抜刀と同時。


総司の菊一文字が、その剣撃を真正面から受け止めた。


衝撃が、闘技場へ響き渡る。


ガルディアスの目が見開かれる。


総司は、静かに笑った。


「――始めようか」


36話 完



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