第478話 常日頃は大事ですよ?
学園祭を終えて秋が深まっていく。収穫祭の時期を迎えたのだ。
サーロイン王国の各地で実りを収穫する姿が見られるようになっている。柑橘系の栽培が主なファッティ領でも柑橘以外の収穫が行われている。
そうして収穫された作物は王都へと集められ、一大展覧会のようなお祭りが始まるのである。
ミズーナ王女やエスカたち前世持ちからしてみれば、お祭りの縁日のようなものだ。それがゆえに参加したくてうずうずしているというわけである。
「はあ、こういう時って王女の肩書が邪魔だわね。ミズーナもそう思わないかしら」
「私はそうは思いませんけれどね」
エスカの愚痴に、ミズーナ王女は淡々とした反応を示している。
「ミズーナ王女殿下、ただいま戻りました」
メチルがミズーナ王女の部屋に戻ってくる。エスカがいることは知っていたので、『ミズーナ王女殿下』と名前も呼んでいるのだ。
「あら、メチル。どうでしたかしら」
にこやかな表情でメチルを出迎えるミズーナ王女。ミズーナ王女の呼び掛けに、にこやかに淡々とメチルは答える。
「はい、ミズーナ王女殿下は外出の許可が下りました。ですが、私以外にも数名の同行人を伴うという条件でございます。アンマリア様とサキ様もご一緒ですので、かなりの大所帯が予想されますね」
「そうですか。それは仕方ありませんね。メチル、ご苦労様です」
「ありがとうございます、ミズーナ王女殿下」
ぺこりと頭を下げるメチルは、ミズーナ王女の隣までやってくる。
「あら、紅茶がなくなっているようですね。すぐお持ち致します」
「はい、お願いしますね」
紅茶のおかわりを用意しに、メチルはミズーナ王女の部屋を出ていく。それを確認すると、エスカがミズーナ王女に勢いよく迫る。
「どういうことよ、ミズーナ」
「どういうことって、さっきのメチルの報告の通りよ」
エスカが急に迫ってくるものだから、ミズーナ王女も少々不機嫌そうな声色で淡々とエスカに言葉を返している。
「今の話だと私は含まれていないっぽいんだけど?」
「その通りよ」
エスカが嫌味っぽく言うと、あっけらかんとした表情で即答するミズーナ王女である。これにはエスカもあんぐりである。
収穫祭に参加できないと聞いて、エスカは急にだだをこね始める。これが今年15歳になる王女の姿である。なんとも頭の痛い光景だった。
「まったく、エスカはその落ち着きのなさが問題なのよ。ちゃんとおとなしくしてるっていうのなら、私からも頼んでみるわよ。護衛する兵士たちだって面倒は嫌だからね?」
「わ、分かったわよ」
ミズーナ王女に言い返されて、エスカはぐっと押し黙ってしまった。
まったく、これが前世営業職をしていた人間の姿かと思うと頭が痛い。ミール王国の前身は海賊だったこともあり、国柄としてはかなり自由な感じだ。アーサリーを見ても分かる通り、王族も自由な気風。そのために、エスカの人格はだいぶそっちに引っ張られていたのだ。
「はあ、中間試験がそこそこよかったので、私が交渉に行ってきます。エスカはとにかくおとなしくしておいて下さい。メチルが戻ってきたら相手をお願いしますよ」
「オッケー」
ハンドサインを作りながら返事をするエスカを見て、ミズーナ王女は再びため息をつきながら部屋を出ていった。
ミズーナ王女が部屋を出ていってしばらくすると、紅茶を持ってメチルが戻ってくる。
「あら、ミズーナ王女殿下はどちらに?」
「私のことでちょっと出ていってもらってるのよ。すぐに戻るわ」
きょろきょろと部屋を見回すメチルに、エスカがくつろぎながら答えている。だが、ここはミズーナ王女の部屋である。よく他人の部屋でくつろげるものだ。
「はあ、収穫祭に行きたいとか頼んだのですね、分かりますよ」
「なんで分かるのよ」
「同じ転生者です。それにどれだけの付き合いがあると思っているのですか。あなたの考えていることくらい、すぐに分かりますよ」
驚くエスカに怒るメチル。メチルにもあっさり見抜かれるくらいにはエスカも分かりやすいというわけなのだ。
「あら、メチルってば何をしてるのですか」
しばらくするとミズーナ王女が戻ってくる。その声に、メチルはすぐさまメイドとしての反応を示す。
「いえ、なんでもございません」
すました表情でごまかすメチルである。
何だろうかと思ったミズーナ王女だが、エスカの態度を見ておおよそのできごとを察してしまった。まあいつものことである。
「まったく、メチルも少しは加減してあげて下さいね」
「申し訳ございません、ミズーナ王女殿下」
ミズーナ王女に窘められて、淡々と謝罪するメチルである。
「それで、収穫祭の件ですけれども」
ひとまず話を切り替えるミズーナ王女。その切り出しされた話題にエスカは緊張を持ってじっと座って待機している。
「外出の許可が下りました。よかったですね、エスカ」
「はあ、よかった~……」
ミズーナ王女からの報告に、心の底からほっとするエスカである。
「その代わり、勝手なことをしないように監視がたくさんつきますから、そのつもりでいて下さいね」
「げげん」
相当信用されていないという事実を突きつけられて、エスカは呆然と力なくソファーにもたれ掛かったのだった。
やはり、日頃の行いというのが大きいのである。




