第454話 臨戦態勢を整えて
「というわけで、4日後に大量の魔物がクッケン湖にやって来るから」
エスカの話を聞いて、目が点になるミズーナ王女とメチル。何を言ってるのか分からないといった顔である。
「魔王と話をしてきたわ。近くに瘴気だまりができていて、魔王が抑え込んでも2年後には魔物が大量発生するらしいわ」
「それで理解したわ。私たちがいる間に、その瘴気だまりを処理しちゃおうってわけね」
ミズーナ王女が理解したようなので、親指を立てて腕を突き出すエスカである。
「そんなわけだから、学園側とバッサーシ辺境伯にも報告したいのよ。ミスミ教官がいらっしゃるから、彼女に話をすれば早いかしらね」
「ええ、学園と辺境伯、どちらにも話は通じますから」
エスカの話に納得がいったミズーナ王女とメチルは、現在のバッサーシ辺境伯の妹であるミスミ・バッサーシのところへと一緒に向かった。
ミスミ教官は、合宿の準備のために他の教官たちと話をしている真っ最中だった。
「ミスミ教官」
エスカが遠慮なく声を掛ける。
「うん、誰かと思えばエスカ・ミール王女殿下か。何の用だ」
さすがは王国騎士のミスミ・バッサーシである。エスカが話し掛けたところでまったく動じはしないし、対応も普段通り冷静沈着である。
「実はですね、学園と辺境伯の耳に入れておきたい事がありましてやって参りました」
「ほう……、なんだ」
くるりと体全体を向けて、エスカと面向かうミスミ教官。その後ろでは、やっとエスカに追いついたミズーナ王女とメチルが姿を現した。
「足、速すぎ……」
「本当にこの方、王女様なんですかね……」
思い切りクレームを言われているエスカだが、聞こえないふりをして話を続ける。
エスカはミスミ教官に向かって、単刀直入に話を始める。
「回りくどいのは面倒なので、ストレートに申し上げます。本日より4日後に、魔物氾濫がクッケン湖を襲います」
「なんだと?!」
さすがにミスミ教官は大きな声で反応する。
でっかい声だったが、エスカは怯むことなく説明を続ける。
「そういうわけですので、そのための備えをしておいてほしいのです」
「なるほどな。クッケン湖の北側に瘴気だまりができていて、いずれ魔物氾濫が起こるのは明白。だったら我々が居る今のうちに刺激して引き起こして始末しようというわけか」
説明をしっかりと理解しているミスミ教官である。だが、同時にその表情がなんだか楽しそうに笑い始めていたことが気になる。
「ふははは、教えてくれた事は感謝するぞ。すぐさま兄様にも伝えて態勢を整えさせておこう」
そういうと、ミスミ教官はすぐさま馬を駆って、領都テッテイへと向かってしまった。早いものだ。
「あ……、他の教官たちへの説明はどうしましょうか」
ミスミ教官が発ってしまったことで、学園の引率教官たちへの話が通らない。まったく、これだから血の気の多いバッサーシ辺境伯家の相手は大変なのだ。
ミスミ教官の姪であるサクラが比較的常識人だというのに、本当に困った一族である。
「……仕方ないわ。私が説明しておくから、二人は学生たちと合流してて」
そんなわけで、エスカは一人で教官たちのところへ向かったのだった。
それから4日後のこと、地鳴りが響き渡る。
「予定通りきたわね」
嬉しそうに飛び出していくエスカ。やれやれといった表情でついて行くミズーナ王女。もうどうとでもなれと諦めたメチル。
三者三葉の面持ちで魔物氾濫へと立ち向かう。
学園側も事態を聞いて把握しており、バッサーシ辺境伯の兵士たちとともに魔物を迎え撃つ。
特にミスミ・バッサーシは気合い十分であり、勢いよく飛び出してエスカたちと合流していた。
「ふははははっ、やっとこの腕を振るえる時が来たか。やはりバッサーシ領はこうでなくてはな!」
言ってる事も表情も、もう完全に危ない人である。エスカですら引くくらいだ。どれだけバッサーシ辺境伯の血筋が脳筋で戦いたがりなのかを思い知らされる光景である。
とはいえ、今回の魔物氾濫においては心強い味方だ。本当に敵でなくてよかったと思う。
学生たちの方は、リブロ王子とタミールの二人が中心となって落ち着かせている。
特に3年生は魔物との戦闘を経験しているはずなのだが、いざ戦うとなると及び腰になってしまうようだった。
「どうやら、学生の皆さんは戦力としてあてになりそうにないわね」
「普通は魔物との戦いなんて、単体でもめったにありませんよ。氾濫ともなればなおさらです」
エスカの非情な発言を、ミズーナ王女は諫めている。
「お説教は後ですよ。もうそこまで来ています、準備して下さい」
二人のやり取りを見て、メチルは大声で呼び掛ける。
「そうですね。エスカ、終わったらお説教ですからね」
「いいわよ。無事に終わったらいくらでも聞いてあげるから」
「やめて下さい。そういう不吉なフラグ立てるのは!」
ミズーナ王女の言葉に対して返したエスカの言い分に、メチルがツッコミを入れる。
そして、漫才を終えたミズーナ王女たちは、迫りくる魔物に対して戦闘態勢を取ったのだった。




