第447話 建国祭の後夜祭
建国祭の締めは、城でのダンスパーティーだった。こういう世界ではこれがないとお祭りは締まらないのである。
この日ばかりはメイド服に身を包んでいるメチルも、令嬢の一人としてしっかりめかし込んでいる。
「いいのでしょうか。私がこのような服を着ても……」
「いいのよ。あれの相手をしなきゃいけないんだから、この日ばかりは令嬢に戻らなきゃね」
心配そうに言うメチルだが、エスカはなんともとんでもないことを言っている。仮にも自分の兄であるアーサリーを『あれ』呼ばわりである。
エスカ自身も十分とんでもないお姫様ではあるものの、兄であるアーサリーもどこか頼りない王子なのだ。こうなるのもしょうがないのかもしれない。
メチルの頭の上のアルーもめかし込んでいるが、人がたくさんいる状況なのであまり表に出ないように言われて不満そうにしていた。
「失礼ね。本当は私がメチル・コールなのに」
アルーはぷんぷんと怒っている。
「アルー、令嬢というのなら、その言葉遣いをどうにかしなきゃ……」
「なによう」
メチルが宥めようとするが失敗に終わってしまった。
「まあまあ、それだったら私と一緒にいましょう。ミズーナみたいにうるさくしないからね」
「もう、しょうがないわね」
というわけで、アルーはエスカの肩に座っていた。
「なんかくすぐったいわね」
「しかたないわよ。こう見えても羽があるんだもの」
「まっ、そのくらいなら我慢かしらね。自分の髪の毛が当たってもそうなるわけだし」
珍しくポニーテールにしているエスカは、そんなことを言って気にしないことにした。
さて、肝心のパーティーはというと、エスカとミズーナ王女は王族というということで後からの入場なのだが、メチルは子爵令嬢なので先に入場することになってしまった。
「ごめんなさいね、メチル。どうやら決まりみたいだから、先に会場に行ってて」
ミズーナ王女に本気で謝られてしまうメチルである。
「しょうがないわね。知り合いを一人つけておくから、壁際でのんびりしておいてちょうだい。バカ兄貴のけつを蹴っ飛ばしてでも行かせるから」
「王女がそんな言葉使わないの!」
エスカの言葉遣いに本気でツッコミを入れるミズーナ王女である。
「本当ならミズーナとお兄様を結婚させる方がいいんでしょうけど、あのお兄様にミズーナはもったいないのよね」
「おかげで私は独り身のまま学園卒業になりそうですけれどね」
頭の後ろで手を組みながらぼやくエスカ。それに対して苦笑いを浮かべているミズーナ王女である。
「まあ、まだ半年あるわよ。おそらくベジタリウス国内でもあちらの王妃様が婚約者探しをしているでしょうしね」
エスカはそういいながら、侍女を呼んでいる。そして、近付いてきた侍女に言伝をすると、侍女はそのまますぐに部屋を出ていった。
「何を頼んだの?」
「まぁ、気にするほどの事じゃないわ」
ミズーナ王女の質問にとぼけるエスカ。首を傾げるミズーナ王女ではあったものの、その答えは意外とすぐ分かった。
「お呼びでございますでしょうか、エスカ王女殿下」
一人の女性騎士が部屋へとやって来た。そして、ミズーナ王女とメチルの姿を見ると、びしっと敬礼をしていた。
「これは、ベジタリウス王国のミズーナ王女とお見受け致します。わたくし、ミール王国騎士団のシイラ・サルモンと申す者でございます」
赤髪の中にちょこちょこと暗めのメッシュが目立つ女性だった。
「ちょっと事情がありましてね。私たちが会場に登場するまでの間、そちらの令嬢のお相手をお願いしたいのですよ」
シイラに対してお願いをするエスカである。王女らしい丁寧な言葉遣いに、思わず身震いをするミズーナ王女。それに対して、失礼じゃないのといわんばかりの視線を向けるエスカである。
そして、ひとつ咳払いをして、シイラに改めて声を掛ける。
「実はですね、そちらの令嬢をお兄様にと思いましてね。それで、お兄様を押しつ……じゃなかった、お兄様と踊って頂こうと思いまして、顔合わせするまでの間、お相手を頼もうかと思います」
シイラは眉を歪めている。
「彼女は元々はベジタリウス王国内の貴族ですよ。事情あってそんな姿にはなっておりますけれどもね」
「ふむふむ、なるほど……。事情はよく分かりませんが、アーサリー殿下が来るまで彼女を護衛していればよいというわけですね。承知致しました」
エスカの説明で事情を理解したシイラは、快く引き受けてくれた。
「それでは、お名前を伺ってもよろしいでしょうか。さすがに名を知らなくては対応に困ることもございますでしょうから」
「は、はい。メチル・コール子爵令嬢でございます。本日はよろしくお願い致します、シイラ様」
緊張からか、少し震えているメチル。メチルに対して、優しく微笑むシイラである。
「エスカ王女殿下の頼みでございます。しっかりとお守り致しましょう」
メチルにしっかりと跪くシイラである。さすが騎士、仕事とあればしっかりと弁えてくれるようだ。
こうして話がまとまったことで、建国祭の締めとなるダンスパーティーが始まろうとしていた。




