第429話 漂う残り香
ミズーナ王女たちから放たれた光が、魔法使いたちの居る部屋の中を満たしていく。
しばらくすると、あれだけ暴れまわっていた魔力が次第に治まっていった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、助かりました……」
アンマリアが声を掛けると、魔法使いが頭を押さえながら答えていた。
「それにしても、一体何があったのですか。魔力が暴走していたようですが」
ミズーナ王女が問い掛ける。原因は予想できているものの、一応魔法使いたちに確認する。
「はい、あの布切れを解析しようとしたら、我々の魔力を吸って暴走を始めたのです」
「おかげで私たちも気が狂いそうになりまして……。本当に助かりました」
魔力の強力な渦に巻き込まれていた魔法使いたちは、全員が疲弊していてその場に座り込んでいる。
あのまま魔力の暴走が続いていたのなら、命の危険性もあっただろう。魔法使いたちは本気でミズーナ王女たちに感謝していた。
ひとまず落ち着いたことで、ミズーナ王女たちは部屋の中へと入っていく。
魔法使いたちがいる場所の真ん中には、ボロボロになった黒っぽい布切れが置かれている。
「呪いを感じますね」
布切れを見るなり、サキがそう呟いている。
「本当ですね。しかもかなり強力な呪いだわ」
アンマリアも横から覗き込みながら呟いている。
「やっぱりそうなのですね」
魔法使いの一人が、眉間にしわを寄せながら反応している。
「ええ、分かりやすくしてみましょうかね」
サキはそう言いながら、布切れに自分の魔力をまとわせていく。すると、神聖な魔力に反発するようにどす黒い魔力が視覚的にはっきりと見えるようになっていた。
「なんと……禍々しい……」
あまりにどす黒い魔力に、魔法使いたちは当然ながら、その場に居合わせた兵士たちも腰が引けてしまうほどだった。
「これって、私たち魔族の魔力と似ていますね」
「メチル?」
そこへひょこっと顔を出すメチルである。
「どうしてここにいるのですか。部屋の掃除をしているはずなのでは?」
あまりにも急に現れたものだから、ミズーナ王女は驚きを隠せずにいた。
「魔族っぽい魔力を感知したので、慌ててきたんです。でも、おかしいですね。魔王様と四天王の私たちしか魔族は復活していませんのに」
メチルはボロボロの布切れを見ながら、気になる事を呟いていた。
「魔族……。本当に存在していたのか……」
魔法使いの一人がぶつぶつと喋っている。
「はい、存在しています。今目の前にも一人、私も魔族ですからね。元人間ではありますけれど」
「なんと!?」
魔法使いは驚きで声が裏返っていた。
「でも、さっきも言いましたけれど、魔族は私以外には魔王様と、四天王の残りであるサンカリー、テリア、テトロだけしかこの世界にはいないんですよ。なので、魔族っぽい魔力としか言えないんですよね」
両肩をがっしり掴まれたメチルは、怯えたような顔をしながら説明をしていた。
「この子の言っている事は事実ですよ。他に魔族はいませんから」
メチルが困っているので、アルーが突然現れて間に挟まってきた。
「あ、アルー……」
突然のアルーの出現に、メチルが困惑している。だが、アルーはそれに構わず話に挟まり続ける。
「私の両親であるコール子爵夫妻にも言えた事なのですけれど、おそらくは何らかの魔道具、おそらくは呪具を手に入れたのではないでしょうかね。それなら魔族の魔力をまとっている事の説明もつきますから」
「そっか……。テール様とロートント男爵の件だわ」
アルーの話に、アンマリアはすぐに1年半前のロートント男爵親子の事件を思い出した。
あの時は呪具が原因でとんでもない事になったがゆえに、今もしっかりと印象に残っているのだ。
「でも、その布切れは呪具ではないですね。おそらくはただ羽織っていただけのローブだと思われます」
アルーの言葉を信用するとなると、目の前のローブにこびりついている呪いの魔力の大元である呪具は、まだ野放しになっているということになる。となると、それは大事件に発展する可能性があるということになるのだ。
「ど、どう致しましょうか?!」
魔法使いも兵士も揃いも揃って困惑している。
となれば、ここは当然こういう流れになる。
「私たちが調査しましょう」
ででんと前に出るアンマリアたちである。揃いも揃って光魔法が使えるし、サキとメチルにいたっては聖女の称号持ちである。呪具に対しては、この上ない特効パーティーである。
しかし、ミズーナ王女とメチルは他国の人物。アンマリアとサキは自国の王子の婚約者である。危険としか言いようのない調査に行かせるわけにはいかないのだった。
「いけません。もし向かわれるのであるのなら、陛下の許可が下りませんと……」
兵士たちは必死にアンマリアたちを止めようとしていた。万が一があればとんでもない大損失なのだから、それは必死になるというものだった。
ところが、そんな説得にやすやすと応じるミズーナ王女たちではなかった。
言い分に納得すると、早速国王へと会いに行ってしまったのであった。




