第407話 真・婚約者決戦(当人たち)
時間は、決勝戦開始前まで戻る。
会場のど真ん中では、サクラとタンが模擬剣を構えてお互いを睨み合っている。
婚約者同士とはいえ、今は剣術大会の真っ只中。お互い優勝を目指すライバルなのである。すっぱりと割り切っているのか、二人の表情は実に険しいものだった。
「手加減は一切なしですよ、タン様」
「分かっているよ。出し惜しみをしていては、君に勝てるわけがないからね」
声の調子自体は穏やかではあるものの、その表情は実に険しいものだ。
お互いの覚悟の確認が終わると、審判を務めるミスミ教官の口角が上がる。
「それでは、楽しい勝負を見せてもらうとしようじゃないか」
実に戦闘狂らしい言葉がかけられると、サクラとタンもこくりと頷いている。
ゲームの中では脳筋設定の二人なのだが、それは現実となった上にアンマリアによって掻き乱されても変わりはなかった。
「始め!」
そして、決勝戦の火ぶたが切って落とされる。
サクラもタンも、一直線にぶつかり合いに行く。
二人が踏み込んだ地面は、石畳だというのにかすかに抉れたように見える。
刃の潰された模擬剣とはいえ、この二人が扱えば、とんでもない音を響かせてしまう。これが王国一の戦闘狂バッサーシ家の人間とその婚約者なのである。
「さすがは女性が相手とはいえ、サクラが相手では簡単にはいかないな。アンマリア嬢といい、本当にとんでもない女性が周りに集まっているな」
「嫌ですわ、タン様。そんな事を言われては、まるで淑女ではないと言っているようなものですよ」
剣を押し合いながら、そんな悠長な会話を繰り広げる二人。この二人にかかれば、真剣な戦いの中でも会話をする余裕があるのである。
それにしてもその剣が互角に押し合っている時点で、サクラは普通ではない。
タン自体も学生の中ではトップクラスの実力の持ち主だ。そんな人物を相手にまったく引けを取らないサクラ。さすがはバッサーシの一族の人間である。
しばらく押し合っていたサクラとタンだが、埒が明かないと見ると互いに剣を弾いて距離を取る。その押し合うタイミングがぴったり一緒だったので、さすがは婚約者同士といったところだ。
そこからのサクラとタンの動きは、先程とは違う激しい剣の打ち合いになる。
お互いに片手で剣を持って打ち合うその姿は、まるで踊っているかのようにも見える。
だが、辺り一帯に響き渡る金属音が、優雅さとはかけ離れた現実を叩きつけている。
「さすがはタン様。すっかり腕を上げてらっしゃいますね」
「おいおい、それはこっちのセリフだ。なんで片手で俺の攻撃を捌けるんだよ。本当にバッサーシの人間は恐ろしい連中ばかりだな」
「あら嫌ですわ、タン様。私と結婚しますと、タン様もその中に入ることになるんですからね?」
「……そういえばそうだった」
嫌味のはずが、現実を叩きつけられて苦笑いをするタンである。
この激しい打ち合いをしている中でも会話ができるあたり、本当に二人揃って人間離れしている。
周りからしてみれば、おそらく二人がそんな会話をしているなんて信じられないだろう。
「さすがに打ち合いは飽きてきましたね、タン様」
「ああ、そろそろ決着をつけようか」
申し合わせたかのように互いに協力一撃を放ち、その衝撃で再び距離を取る二人。まったく試合だからとはいえ、とんでもない芸当を決めてくれるものである。
会場はあまりの打ち合いの激しさに静まり返っている。そして、揃って大きく深呼吸をすると、再び剣を構えた。
その姿を見て、会場の誰もが直感した。これで決着がつくと。
今まで沸き立ったような歓声が飛び交っていた闘技場内が一気に静まり返る。誰もが息を飲んで見守っているのだ、決勝戦の決着の瞬間を。
ざりっという、地面を踏みしめる音が響き渡る。
次の瞬間、サクラとタンが同時に動いた。
「はあああああっ!!」
二人の気合いの入った叫び声が響き渡る。
そして、二人の振り下ろした剣がぶつかり合う。
その光景に、誰もが目を疑った。
何かが宙を舞い、二人の後方の地面に突き刺さる。それは、二人の持っていた剣の刃の部分だった。
なんと、ぶつかり合った時の衝撃が激しすぎて、模擬剣が折れてしまったのである。
その時、会場内の時間が止まったかのように、誰もが動きすら止めてしまった。
「あっと……、これはどう判定したらいいんだろうかね」
そんな中、困惑した声をこぼしたのはミスミ教官だった。
剣術大会は長い歴史を持っているとはいえ、実に珍しい現象だったからだ。片方の剣が折れた事はあっても、双方同時に剣が折れたのは、地味に初めての事例だったからだ。
「とりあえずしばらく待っていてくれ。無理やり審判をやったからといっても、これを勝手に判断してはいけないと思うからね」
そういって、ミスミ教官は会場から姿を消す。
前代未聞の事態に、剣術大会の会場にはどよめきが起きている。
はたして、この結果はどうなるというのだろうか。全員がミスミ教官が戻ってくるのを待ち続けていた。




