第400話 精一杯戦いました
タンと私との戦いは、こう着状態に入り始めた。ヒットアンドアウェイの私と受け流しを行うタンでは、互いにダメージが入れられなかったのだ。
しかし、このまま長引けば私の方が圧倒的に不利になる。
なぜなら、私は激しく動き回っているのだから。このままの状態が続けば、私の体力が明らかに先に尽きてしまう。魔法が一切使えない戦いなんだからね。
こういう時に男女の間にある絶対的な差っていうのは恨めしいわね。
とはいえ、タン相手とは負けたくはないわね。
「はははっ、どうしたアンマリア嬢。動きが鈍ってきているぞ」
タンが笑っている。
「仕掛けてこないのなら、こちらから行かせてもらう」
私が考え事をしていると、今度はタンから攻撃を仕掛けてきた。
「うっ」
「戦いの場ではちょっとした隙が命取りになるというものだよ、アンマリア嬢!」
稽古の場面でも見せる事のなかった、タンの猛攻が繰り広げられる。さすがに令嬢相手に対する攻撃としては目に余るものだろう。
でも、ここは剣術大会の場なのよ。そもそもそんな事に耐えられないような中途半端な気持ちで参加するものじゃない。
私は歯を食いしばって、タンの猛攻をすべていなしていく。
「さすがはアンマリア嬢。サクラが認めることだけはあるな」
「ええ、私をただの令嬢と思わないで下さいな」
強がってはみてる私だけれども、さすがに両手で剣を持たないとタンの攻撃が重すぎて耐え切れない。実際、少しずつだけれども手が痺れてきているもの。
いくらゲームでチートな主人公令嬢だからとはいっても、リアルとなったこの世界でそう甘くいくわけもないわね。
とはいえ、負けるにしても簡単に負けてあげないんだけどね。
私は攻撃の隙間に軽く手を振ってしびれを取る。
「まったく粘ってくれるな。だけど、ここで手間取っているようじゃ2年間溜まったサクラへのお返しができないってものだ。悪いけど、決着をつけさせてもらうぞ」
そう言ったタンは、一度私から距離を取った。
ちなみにタンが先程漏らした2年間のお返しというのは、サクラとの対決で2年連続で負けたからだ。
私に対して有利に進めているタンですら、王国最強のバッサーシ辺境伯の令嬢には敵わなかったのである。
本当にどれだけ規格外なのかしらね、あの一族は。
つまり、今年も決勝までとは言わずとも、勝ち上がってサクラと戦いたいというのがタンの望みなのである。
気持ちは分かるけれども、負けたくないのは私も一緒。なので、距離を取ったタンに対して先手を打つ。
「はあっ!」
私は普通にタンに対して斬りかかっていく。当然ながら、タンは迎撃の構えを取る。
振り下ろす動作を見せると、タンは足に力を込めて、剣を受け止めようとしている。
しかし、私はそこで奇策に出たのだ。
「たあっ!」
そう言って振り下ろすのはいいけれど、明らかに剣がタンに届いていない。届いてない大きな空振りだ。
届かないのが分かっていたので、タンは動かなかった。
会場の誰もが「何をやっているんだ」と思ったことだろう。
でも、ごく少数は私の左手の動きに気が付いたようだった。
「おいおい、疲れがたまって気が逸ったのか? 全然届いてないじゃないか」
私の盛大な空振りに、思わず呆れてしまうタン。
あなた、さっき言ったわよね。ちょっとした隙が命取りになるって。
私が今からその言葉を証明してあげるわよ。
振り抜いた剣を、素早く右手から左手に持ち替える私。そして、すぐさまそれを振り上げた。
「なに?!」
あまりの奇策にタンは驚いていた。
右手で振り下ろした剣を、素早く左手に持ち替えて振り上げる。攻撃の隙を小さくして行う往復攻撃にタンは虚を突かれたのだ。
「くっ……」
それでも仰け反りながらギリギリで躱すタン。さすがの反射神経だわ。
でも、これで終わりだなんて思わないでよね。今の私ならもう一往復くらいはいけるわ。
振り上げた剣を今度は右手に持ち替える私。そして、再び振り下ろす。
「何度も通じると思わないでくれよ!」
ところが、タンはすぐさま対応してしまった。
「あうっ!」
振り下ろしに反応したタンの剣が、私の剣を弾き飛ばしてしまった。
さすがの衝撃に、私の右手は激しく痺れてしまった。
「面白い作戦だったけど、相手が悪かったな、アンマリア嬢」
「ほんっとうに、相手が悪すぎましたね」
痺れる右手を押さえながら、私はいやみったらしく笑うしかなかった。
「勝者、タン・ミノレバー!」
私の剣が弾かれた事で、タンの勝ち名乗りが行われる。
しかし、見ごたえのあった試合だったらしく、会場内からは盛大な拍手が送られたのだった。
「はあ、結局準決勝までは一度も上がれなかったですわね」
「アンマリア嬢の実力は間違いなくあるよ。ただ、運がよくなかった、それだけだろう」
「……悔しいですわね」
タンにはっきり言われてしまって、もう私はどう話したらいいのか分からず、実に単純な言葉を漏らしたのだった。
こうして、悔しさいっぱいの中、私の剣術大会は終わりを告げたのだった。
悔しいです!




