第394話 剣術大会に向けて(3年目)
モモとの話を詰めたいところだけれども、剣術大会に出るのであればやはり剣の練習をしておきたい。なんだかんだで講義に出られない事もあったので、少し鈍っていないか心配になったのよね。
そんなわけで、サクラやタンを誘った上で剣術の稽古をする事にした。
学園祭準備のために短縮となった講義を終えて集まると、そこにはテールの姿もあった。
「あら、テール様もおいでなのですか?」
思わず聞いてしまう私である。
「はい。私は魔力があるとはいえ、魔法がまだ苦手ですからね。なので、ちょっと腕試しをしてみたいんです」
「剣術大会は誰でも参加はできますけれど、無茶は歓迎しませんわよ」
はにかむテールに思わず苦言を漏らしてしまう私。でも、テールは表情を引き締めていた。どうやら本気のようだ。
「とはいえ、私には長剣は重いですので、こちらの少し短い剣を使います」
そう言ってテールが取り出したのは、剣の刃の部分が50cmくらいのいわゆるショートソードだ。とはいえども、それでもかなり重いはずなんだけどね。テールは軽々とショートソードを振るっている。
「えへへ。平民時代は親の手伝いで力仕事もしていましたから、このくらいなら持てるんですよ」
自慢げに笑うテールである。うん、意外だったわね。
とまぁ、テールの行動に納得した私たちは、簡単に打ち合い稽古を行う。もちろん扱うのは訓練場にある木剣よ。真剣なんて使うわけないじゃないの、危ないからね。
テールは私が相手をしたんだけど、さすが学園の講義を受けているだけあって一応の動きの型はできていた。でも、さすがに私相手だとそううまくいくわけもなく、軽くあしらわれていた。
「うう、さすがアンマリア様です。お強いですね……」
「テール様もあまりイメージはないですけれど、筋はよろしいと思いますよ」
少しだけ息が上がっているテールではあるものの、動き自体はそんなに悪くはなかった。これならもしかしたら1回くらいは勝てるのではないかと思わせるくらいだわね。
「講義中のテール様の動きはそんなに悪くはありませんでしたからね。しかし、さすがにアンマリア様には通じませんでしたね」
「そうみたいですね。でも、やっぱり技術的な差を感じてしまいます。私って、どっちつかずなんでしょうか」
テールは落ち込んでいた。
「引き取られてからの事を考えるとまだよくやっている方だと思いますよ。ロートント男爵はあの状態だったのですし、独学の状態でよくそこまでもってこれたと思いますよ」
私は去年の状況を考慮してテールを励ましておく。
ロートント男爵は、イスンセに取りついた魔族テトロの手によって呪具を与えられて操られていた。その影響のせいでロートント男爵家に引き取られた後のテールはあまりろくに教育されていなかった。
そんな不利がありながらも、今の稽古でも十分私に食らいつこうとしていた。なかなかできた事じゃないと思うわ。
「さて、今度は相手を変えてみましょうか」
サクラの声で、私たちは相手を入れ替える。私とサクラ、テールとタンという組み合わせで行う。
私とサクラの打ち合いはかなり本気なんだけど、タンはテールに対して少し手加減をしているようだった。おそらくは私との打ち合いを見ていての判断なのだろう。
「タン様、遠慮は要りません。真剣にお願いします」
しかし、テールはそれが分かってしまったようだ。そう言われてしまえば、タンはやむなく少し本気を出す事にした。
「手を抜いているか分かるというのは、それなりに強さがあるという証拠だ。ならば、少し強めにいかせてもらうぜ」
「お願いします」
その後のテールはというと、タンに一方的に攻められ続けていた。それでもしっかり剣を捌こうとしていたので、ついついタンは力が入ってしまったようだった。
「あうっ!」
「っと、すまない。令嬢に対してするような事ではなかったな」
剣に押し負けてしまったテールが尻餅をついてしまったのだ。すぐさまタンは攻撃を止めて、テールに手を差し伸べていた。脳筋かと思ったら意外と紳士だった。
テールに手を差し伸べて起こすタン。その姿にサクラはまったく動じていなかった。むしろ当然のことをしたと満足そうな笑顔である。これが強者の余裕なのだろうか。
「少し剣を交えてみた感想だが、アンマリア嬢の言う通り、筋は悪くないな。ただ、やっぱり経験不足というのが否めないな」
タンからは厳しめの感想が飛び出していた。
「そうですか。という事は経験を積めばいいのですね」
「そういうことにはなるな。ただ、無茶をするということではないから。俺たちとこうやって稽古をするのが一番だろう」
「承知しましたわ」
タンの言葉に、テールはさらに表情を引き締めている。剣術大会に出るのは、本気なんだなというのがよく分かる表情だわね。
そして、この日の最後としてサクラとも剣を交えるテールだったけれど、さすがにバッサーシ辺境伯の血筋相手に勝負になるわけがなかった。
「うう、サクラ様は強すぎです……」
両手をついて呼吸を荒げているテールである。
「ふふっ、なんといってもミスミ教官の姪ですからね、私は」
くるりと一回転してみせるサクラである。令嬢だから横方向の回転かと思ったけど、まさかの空中前転、宙返りである。まったく、恐ろしい令嬢だわ、サクラは……。
そんなこんなで久しぶりに体を動かした私は、満足げに帰宅したのだった。




