第375話 運命の場所
テリアとの戦いを終えた私たちは、その場所でひと晩を過ごす。
戦闘のあった場所とはいえども、一歩も動く気になれなかったのだから仕方がないわね。
それに、サンカリーの力があまりにも強大だったので、腰を抜かしちゃったというのもあるからね。あれだけ強烈な力を見せつけられれば無理もないわ。
手加減はしていただろうけど、テリアもしっかり耐えていたものね。魔族って連中は本当に恐ろしすぎる。
みんなもさっさと逃げ出したいところだろう。でも、招待を受けてしまった以上は、向かわざるを得ない。引き返せばそれだけ他の人を危険に巻き込む可能性があるものね。
翌朝を迎え、私たちはサンカリーが示した場所へと向けて、重い足取りながらも移動を始めた。
私たちが世界の命運を握っているといっても過言じゃないもの。ここで諦めてなるものですか。なんとしても打ち負かしてやるわ。
元の平穏な生活を取り戻すためにもね。
―――
一方その頃、サンカリーとテリアは本拠地に戻っていた。
「ぶぅ、信じられね~し。あたしがあんなにぼろくそにやられるなんて、何なのよ!」
腕を組んですっかりご立腹のテリアである。
なんといっても着ている服もボロボロだし、サンカリーの雷のせいで髪もぼさぼさである。きれいに着飾っているテリアからすれば、そりゃもうその姿だけで腹立たしくなる。
「まったく、変なにおいのする石は投げてくるし、あたしの魔法弾は押し潰しちゃうし。まったく、何なのよ、あのガキどもは!」
大きく地団駄まで踏むテリア。思い出せば思い出すほどはらわたが煮えくり返っているようだ。
「お前ほどの実力者がそこまで言うとはな。その言い分を聞く限り、ずいぶんとやられ放題だったようだな」
「うぎぎ……」
サンカリーに言われて、可愛さ全振りのテリアが歯を食いしばっている。
いくら自分よりも強い相手だからといっても、図星を言われては耐えられてないというわけだ。魔族というのはそのくらいにプライドが高い連中なのである。
ぶっちゃけてしまえば、メチルが魔族としては珍しいタイプなのだ。とはいっても、魔族は四人しかいないっぽいので、比較対象が少なすぎるわけなのだが。
どうして四人しか魔族は居ないのだろうか。謎すぎる話である。
「お前のプライドが傷付けられたのは分かる。だが、そんな些事で取り乱し続けるのは、魔王様直属の四天王としてはどうなのだろうかな」
「ぐ……」
サンカリーに指摘されて、テリアは言葉に詰まっていた。
「まぁ、そんなお前のために、あいつらをわざわざここへと招待したのだ。まぁ、無事に着けるとは思えないがな」
にやりと笑うサンカリーである。その表情に、同じ四天王であるはずのテリアも思わず飲まれかけてしまう。四天王のトップであるサンカリーは、そのくらいに別格な存在なのである。
「ここへたどり着けたとしても、この我が墓標に沈めてやるがな。はーっはっはっはっはっ!」
大声で笑うサンカリーに、テリアは怯えるようにしながら部屋から出ていった。
本拠地にある専用の部屋へとやって来たテリア。ぼろぼろにされた服を着替えるためである。
「きぃぃ~、あの小娘たち。絶対にぎったんぎったんのズタボロにしてやるんだから! あたしをバカにした報い、絶対受けてもらうんだからね!」
体をきれいに洗い、服を着替えたテリア。傷と疲れを癒すため、そして、来るべきリベンジマッチに備えるためにそのまま休息に入ったのだった。
サンカリーの方は、部屋を移動していた。
「……魔王様の復活には魔力が足りぬ。なんとしても復活させるには、あやつらを利用するのが一番だろうな」
見下ろす先には、どす黒い暗黒の空間が広がっている。
サンカリーのセリフから察するに、おそらくここが魔王の封印されている空間なのだろう。
「だが、我ら四天王だけでも動けるようになったのは僥倖だった。まったく、この愚かしい夫婦には感謝せねばならんな」
ふと見上げたサンカリーの視線の先には、同じようにどす黒いオーラにはりつけられた人間の姿が見える。この二人の人間を指して、サンカリーははっきりと夫婦と言っていた。
「くくく……。ここに新たな供物を加えられるというのは、実に喜ばしい限りよな」
視線を落としたサンカリーは、自然と笑みがこぼれていた。
「特にメチル。裏切者たるお前はここに加えるにふさわしい。こやつらの間に飾ってやれば、さぞかし喜ぶであろうな。くく……、ふはははははっ」
暗闇の広がる空間の中に、サンカリーの笑い声だけが不気味にこだましていた。
深まる魔王と魔族という存在の謎。
そして、はりつけにされた男女の正体とは何なのだろうか。
アンマリアたちが乙女ゲームの世界に転生してきてからの一番の危機が、徐々に迫りつつあった。
はたしてアンマリアたちは、無事に魔族たちを打ち倒して、元の平和な乙女ゲームの状態に戻れるのだろうか。
サンカリーの待つベジタリウス王国北部の決戦の地へと歩を進めていくのであった。




