第368話 目指すべき場所
お茶会を終えた翌日、私はエスカと二人でベジタリウス王城にやって来ていた。
なぜエスカか。
それは、私以外に瞬間移動魔法が使えるからだった。エスカが飛ぶ事ができれば、少なくとも二人は余計に連れてくる事ができるようになるんですもの。そしたら、私の負担が減らせるからね。
城の中に直接飛ぶという事もあって、エスカにはミール王国の王族だという証を持たせておいた。余計なトラブルを避けるのは当然よ。
と思ったんだけど、私の顔が思ったより城の中で広まっていたので、問題なくベジタリウス王妃に会う事ができた。
「あら、アンマリアでとエスカではないですか。先日ぶりですね」
ベジタリウス王妃がにこやかに私たちを出迎えてくれた。隣ではメチルがぺこりと頭を下げている。
「ここへやって来たという事は、手紙を呼んでくれたのですね」
王妃が確認をしてくるので、私たちは大きく1回頷いた。
「あの……、手紙に書かれていた事は事実なのでしょうか」
おそるおそる確認を取る私に、王妃はなんとも言い難い表情を向けていた。
「そうですね……。ただ、私としてもなんとも言い難いですので、そこはメチルとアルーの二人から説明をしてもらうしかありません」
王妃は頬に手を当てて、困ったような表情でメチルを見ている。
その視線を送られたメチルも、ものすごく困惑した表情をしている。しかしだ。自分が原因で私たちがやって来たのだから、もう覚悟を決めるしかないと表情を引き締めていた。
「うう、手紙の内容についてお話します」
メチルのその言葉を受けて、私たちは部屋にあるテーブルを囲むように座る。しばらくは沈黙していたメチルも、いよいよ意を決したように、ぽつりぽつりと語り出した。
メチルが語った夢の内容というのは、非常に興味深いものだった。
「なるほどね。メチルもそもそもは人間だった可能性があるっていうわけなのですね」
私は紅茶を飲みながら、話の感想を喋っている。
「禁呪っていう話なら、ミール王国でも聞いた事はありますね。ミール王国の祖先は海賊でしたから、その手の話は結構あちこちに残っているんですよね」
苦々しい表情をしながら、エスカは話している。どうやらミール王国の王族として、その手の話は伝わってきているようだ。
「今年はちょっと参加を見送りましたけれど、建国祭もそんな感じでしてね。海の神に対して供物を捧げるといった風習が今なお残っているんですよ」
「建国祭といえば、去年は大量に魔物が押し寄せてましたよね」
「そうそう。もしかしたら供物を捧げた事によって魔物を満足させて、海を安全にしていたのかもしれないですね」
「とはいえ、あの魔物の量は異常でしょうに……。あの供物の量じゃ取り合いになって何が起きたか分からなかったですよ」
去年の建国祭の事を思い出して言い合う私とエスカ。王妃とメチルは何の事か分からずに、ただじっと私たちを見ていた。
「おほん、それとりあえず置いておきましょう。今はメチルの話です」
しかし、あまりに長くなりそうに感じたのか、王妃がわざとらしく咳払いをして話を引き戻していた。これにはさすがに私たちはおとなしく謝罪するしかなかった。
「では、続きを話します。アルー、出てきて」
「はい、ご主人様」
にょろんとアルーが姿を現す。
「私の眷属たるアルーが、なんとも勝手な事をしてくれましてね、精霊王なる存在が出てきたんですよ」
「精霊王!」
メチルの話に出てきた単語に、私とエスカが揃って反応する。ファンタジー好きなら、どうしても反応しちゃうわよね。
しかし、メチルはその反応を華麗にスルーして話を続ける。
「そして、何か意味深そうな言葉を言いながら、私にこの地図を渡してきました。魔力事故とか仰っていたように思います」
「魔力事故?!」
メチルが話した単語に思わず驚く私。
「どうしたのよ、アンマリア」
エスカが驚いている。
「魔力事故は魔力暴走で起こる現象ですよ。分かりやすい例でいえば、呪具に支配されたテール様かしら。あふれた魔力が体内で処理しきれずに大爆発を起こすんです」
「ひっ」
変な声を出したのはメチルだった。
「それでしたら、ベジタリウス王国の北部に大穴がありますね。最近は魔物が増えて近付けなくなってますけれど。メチルの持っている地図ってその辺りでしょうかね」
王妃はそう言いながら、別の侍女を召喚して大臣にベジタリウス王国の地図を持ってくるように伝えてもらう。待つ事30分くらいだろうか。王妃の部屋に大臣が姿を見せた。
「お呼びでございますでしょうか、王妃様」
「ええ。ベジタリウス王国の地図は持ってきましたかしら」
「はい、こちらに」
王妃は大臣から地図を受け取ると、そのまま大臣を下がらせていた。他人に聞かせられる内容の話ではないから仕方のない事だった。
受け取った地図をテーブルに広げ、メチルが精霊王からもらった地図と照らし合わせる。
すると、驚くほどに精霊王からもらった地図は、ベジタリウス王国の北部の地形と合致していた。
「これは……、間違いなく、この北部地域にすべての謎を解くカギがあるという事ですね」
「でも、北部といったら、魔王が封印されている場所です。さすがにむやみやたらに飛び込むのは危険ですよ。サンカリー様やテリアに出くわせば、命の危険すらありますもの」
私が唸っている横で、メチルは懸念を露わにしていた。
しかしだ、これだけ北部にいろいろな情報が集まっているとなると、向かいたくなるというのが人間なのである。
それでも、魔族の本拠地というのであればしっかりとした準備が必要だ。
話を終えた私とエスカは、ここは一度サーロインに戻って再度対策を練る事にしたのだった。




