第357話 魔族と魔族
スパーン!
テトロの短剣と柑橘魔石がぶつかり合う。柑橘魔石は真っ二つとなり、辺りに強烈な柑橘の香りが充満する。
「むおっ! このにおいは……!」
感情の昂っていたテトロは、鼻を押さえて仰け反る。ただ、完全にタイミングが遅れてしまう。
「ぐおおおっ、このままでは耐えられぬ。こんなもので死んでたまるか!」
テトロはそのまま逃げようとするけれど、逃がしてなるものですか。
「ぐおっ!」
その瞬間、テトロの体に何かが走ったようだ。急に動けなくなってその場に倒れ込んだ。
何が起きたのか確認すると、フィレン王子とリブロ王子が二人掛かりで雷の魔法を使っていた。
「逃がすわけにはいかないよ。そのまま痺れていてもらおうか」
「く、くそう! 俺はこのままでは終わらぬぞ。あの方のために、一人でも多く人間を殺してやる!」
倒れたイスンセの体から、どす黒いオーラが立ち上る。それと同時に会場内で暴れる他の侵入者たちからもどす黒いオーラが立ち上り、侵入者たちは気を失って倒れていく。
「な、なんだ? 一体何が起きたんだ」
「あれを!」
サクラが指差す先に、どす黒いオーラが集まっていく。
ひとところに集まったどす黒いオーラが何かの形を作っていく。
「いけない!」
叫んだメチルがアルーに声を掛ける。
そして、メチルを抱えてアルーは一気に私のところへと飛んできた。体格差があるのに力ありすぎでしょ。
そうやって私のところまでやって来たメチルは、私とサキに声を掛ける。
「アンマリア、そっちの聖女、私と一緒にすぐ結界を」
「一体何を……」
「いいから早く。あの黒いもやを覆わないと、大惨事になるわ!」
メチルがものすごい剣幕で言うものだから、私とサキはこくりと頷いた。
そして、私とサキはメチルと一緒に黒いもやを包み込むように防護魔法を展開する。
その瞬間だった。
防護魔法の中で黒いもやが弾け飛んだ。
しかし、私たち三人で必死に張った防護魔法のおかげで、被害は外部に及ばなかったものの、代わりに防護魔法は粉々に砕け散ってしまった。
「けっ、裏切者のくせにやってくれるじゃねえか」
黒いもやがしっかりと形を取り始める。
「うるさいわね。どうせ殺される運命にあるっていうのなら、抗いたくなるってものでしょう。違うの?」
メチルが険しい表情で声を荒げている。その目の前で、黒いもやがしっかりとした人型となった。
「久しぶりね、テトロ」
「久しぶりだなぁ、メチル。そして、死ね!」
テトロがメチルに襲い掛かってくる。だけど、そこへ私が割って入る。
「これでも食らいなさい」
「むぉっ、それは……」
鼻を押さえた影響で、メチルへの攻撃を空振りするテトロ。
「女ぁ、お前か!」
テトロの形相が凄まじい事になっている。
「メチル、なんでお前は平気なんだ」
その形相のままメチルへと顔を向けるテトロ。
「あなたに素直に答えてると思っているの? 死ぬのはあなたの方よ。だから、答えないわ」
「くそっ、このでき損ないの裏切者が!」
さらに表情を険しくしたテトロが、メチルへと襲い掛かってくる。
「ディヴァインサークル!」
「ホーリーレイン!」
次の瞬間、テトロを捕らえるように光の魔法が放たれる。ミズーナ王女とフィレン王子による連携だった。そういえば、ミズーナ王女も8属性すべてに適性があったんだったわね。
「くそっ、こんな魔法ごとき!」
だが、テトロは必死に抗う。
「ホーリーサークル!」
「レイ!」
逃がすものかと、私とサキも魔法を放つ。
さすが聖女たるサキ。魔法としてはミズーナ王女の下位の魔法なのに威力は逆に上だった。テトロは苦悶の声を上げながら、その場に縛り付けられている。
「くそっ、なぜ光魔法の使い手がこんなに居るのだ。この俺がここまで封じられるなど、ありえない。くそっ、このにおいさえなければ、この程度の拘束などっ!!」
床へと縛り付けられたテトロが必死に抵抗するが、もはやどうにもできない状況だった。
「ええい、呪具よ。ここに居る連中を狂わせろ!」
かすかに動く手に魔力を込めて抵抗を見せるテトロ。だが、それも非情に打ち据えられる。
「ジャッジメントエッジ」
「がはっ!」
魔法を振るおうとした手に、冷たい声で魔法が放たれる。
「てめえ、メチル。なんでお前が光の魔法を使えるんだ」
「私は聖女まがいですからね。光魔法はお手の物なんですよ」
実に冷め切った視線を投げつけるメチル。
「私の平穏と、この世界の平和のために、おとなしく討たれなさい。魔族たちの思い通りにはさせませんよ、テトロ」
メチルはテトロへと近付く。
「ふふっ、ここが何だか分かるかしら」
「てめえ……、この俺を完全に滅する気か」
「そうよ。私が失敗していれば、あなたが私のそこを貫いて殺すんですからね。まったく、人を殺すっていうのにこんなに落ち着いているなんて、私もやっぱり魔族なんですね」
そう言いながら、メチルはテトロの急所に向けて指を突き出す。
「おい、やめろ。俺を殺すとお前がどうなるか分かっているのか?」
「殺しても殺さなくても、結果は変わらないでしょうに。下手くそな命乞いですね」
次の瞬間、メチルはアルーに命じて魔法を放ったのだった。




