第354話 誕生日の陰で
そして、いよいよフィレン王子の誕生日を迎えた。
この日は国内はもとより、国外からも来客がやって来ている。留学中の王子王女はもちろんだが、ベジタリウス王国の王妃もやって来ているのである。
当然ながら、王都トーミの中は厳戒態勢が敷かれている。なにせ第一王子の誕生日なのだ。国王や王妃、それに第二王子だって参加する一大イベントなのだ。どこで何が起こるか分かったものではない。
しかも今年は、ベジタリウス王妃とその侍女からもたらされた情報もあるので、なおさらの厳戒態勢だった。
パーティー会場への武器の持ち込みは禁止されており、入場の際には入念に持ち物検査がされるくらいだった。
もちろん、提供される料理も安全性が求められる。これはさすがに毒見がするには量が厳しいので、私やサキたちによる浄化魔法で毒に対処する事になったのだった。
「なんとも物々しい雰囲気ですね」
会場にはモモや私の両親たちが一足先にやって来ていた。今回はテールも顔を出している。
なぜテールが居るのかというと、敵に対する挑発である。
メチルが言っていたテトロという魔族は、呪具によって呪い殺すという手法を取っている。そこで、その呪いに掛けられていた人物たちの姿を、わざと会場に目立つようにしたのだ。作戦が失敗していると知ったら、きっと尻尾を出すだろうと踏んでの事だった。
「わ、私もここに来ていいだなんて、まるで夢のようです」
「テール様はまだ一度も来た事がないのですか?」
テールが感動しているものだから、モモがテールに話し掛けている。
「はい。私は元々平民ですから、城に入る事自体がありませんでしたからね」
「そうだったのか。僕もそういえば城に入るのは初めてだな。ずっと領地暮らしだったからね」
テールが事情を説明していると、タミールもまた反応していた。そういえば伯父夫婦は領地を任されるようになってからというもの、まったく領地から出ていないのだ。ならば息子のタミールもまた、領地から出た事がないのである。王国の学園制度のおかげで、こうやってようやく領地外に出てこれているのだ。
「でしたら、しっかり楽しまれていかれるとよいと思います。お姉様もそれを望んでられると思いますよ」
モモがそう言うと、テールもタミールもこくりと頷いていた。
モモたちは両親たちと一緒に、私が会場にやって来るのを話をしながら待っていたのだった。
その頃の私は、城のあちこちでサキと一緒に奔走している真っ最中だった。というのも、食材の解毒を行う事と、あちこちに柑橘の結界を張るためだった。
ちなみにだけど、同じ浄化魔法を使いこなせるミズーナ王女とメチルには、客人ということでゆっくりしてもらっている。これはあくまでもサーロイン王国の話だものね。
それと、サキにはサクラについてもらっている。聖女という立場である以上、一人で行動させるわけにはいかないんだもの。それなりに腕のいい人物と一緒に居てもらわないとね。何があるか分からないわ。
私の方は短距離転移を繰り返しながら、あちこちに柑橘の香りを染みこませた魔石を設置している。王都内だけの転移なら、10数回使ったところで大した疲労にはならないわよ。あれは距離が延びるほど魔力の消費量が増えて疲労感が増していくものだからね。短距離転移なら平気平気。
私が柑橘魔石を仕掛けて回っていると、気になる集団が見つかった。
(あれは?)
場所はお城からそう遠くもない貴族街の一角。華やかな状況とは裏腹な、物々しい雰囲気がそこには漂っていた。
(よく聞こえないわね。えいっ!)
こそこそと隠れているので、集団の話が何も聞こえてこない。なので、細心の注意を払いながら、風魔法を使って話を拾う事にした。
「……った……、本気なのかね、辺境伯様は」
(おっ、いい感じに聞こえてくるわね)
「理由はさっぱり分からないが、逆らっては俺たちが殺されかねんぞ」
「しかしだな。今年のパーティーは武器の持ち込みができないんだぞ。一体どうなさるおつもりなのだ、辺境伯様は」
男たちの会話は何かと物騒なようだった。ただ、誰かは分からないが辺境伯の誰かが妙な事を企んでいるようだ。サクラの屋敷で見た事のない人物たちなので、残り2つの辺境伯のどちらかの部下というわけだろう。
「でもさ。最近の辺境伯様はずいぶんと変わられたよな。このような事を仰られる方ではなかったのに……」
「おい、口を慎め。剣が飛んでくるぞ」
困った顔をして愚痴をこぼす男の口を、周りが寄ってたかって押さえ込んでいる。
その様子を見るに、どうやら部下たちは戸惑いを持っているようだった。
(これは、城の衛兵に伝えてさっさと潰しておくべきね。迷いがある今がチャンスだわ)
そう判断した私は、防護魔法で男たちを捕らえた上で、短距離転移で城へと戻って兵士たちにこの事を伝える。そして、すぐに兵士が出て男たちはあえなく捕まったのだった。
まったく、一体何が起きようとしているのかしらね。




