第335話 続くエスカの企み
こっそりとバッサーシ邸に柑橘の香りを放つ魔石を仕掛けたサクラと私は、そのまま王都のファッティ邸まで跳ぶ。
1日に2回の瞬間移動魔法とはいえど、ベジタリウス王国まで跳ぶよりは魔力の消耗は激しくない。とはいえ、戻ってきたらすぐに自分の部屋に引っ込んでしまうほどだった。
サクラの事はスーラに頼んで馬車を出してもらい、王都のバッサーシ邸まで送っていってもらった。いくら脳筋なバッサーシの一族とはいえど、令嬢を一人で歩かせるわけにはいかないものね。
とりあえず、これでサクラを無事に屋敷まで送り届けられたので、私は安心して眠れるというわけね。
外はまだまだ明るいけれど、ちょっと疲れたのでお昼寝させてもらいましょう。
そんなわけで、私はベッドに横になって休んだ。
―――
一足先に戻って来ていたエスカとモモは、テールとタミールのところへとやって来ていた。
「エスカ王女殿下、モモ様、どうしてこちらに?」
びっくりしたテールが二人に思わず反応して尋ねてしまう。
「ファッティ伯爵邸からさっき戻ってきたから、ちょっと顔を見せに来たのよ」
ウィンクしながら答えるエスカである。いつもながら胡散臭い笑顔だ。
「あ、姿をお見掛けしないと思ったら、やっぱり泊まってこられたんですね」
「ええ、アンマリアのおば様とは懇意にさせて頂いてますからね」
テールが確認するように話すと、エスカはにこにことした笑顔で答えていた。
「そういえば、暮れに戻った時にもずいぶんと親しげに話されておりましたね」
「ええ、ハーブやアロマについてかなり興味を示されていたみたいですから。今回もかなりご教示させてもらいましたよ」
タミールが年末の様子を思い出していると、これまたエスカはご機嫌な様子で話している。
そして、思い出したかのように収納魔法の中をごそごそと探し始める。
「はい、今回作ってきたアロマキャンドルよ。二人にもおすそ分けさせてもらうわ」
包装されていない状態なので、手渡された瞬間にふわっと柑橘の香りがわずかに漂う。
「これは、オランとレモネの香りですか」
「さすがファッティ伯爵領で育っただけあるわね、その通りよ」
タミールが確認するように言うと、エスカは褒めながら肯定していた。
「でも、私としてハーブの方が興味があるのよね」
「と、申されますと?」
続けてぽつりと呟いたエスカに、タミールはつい食いついてしまう。
「ミール王国は海に面した国で、お魚などの魚介類が豊富なんですよ。その魚を扱う上で最大の障害となるのが臭み。ハーブはその臭みを取ってくれますからね」
「へえ、そうなんですね」
エスカの説明を聞いて、初耳といった感じに驚くタミールである。
「まあ、論より証拠。厨房を借りて実証しちゃいましょうか」
くるりとモモの方へと振り返って手を叩くエスカ。急な行動にみんなが驚いている。
「アンマリアは戻ってきたら眠っちゃうでしょうから、夕食の料理にでも魚料理を一品出して驚かせちゃいましょう」
エスカはとても楽しそうである。このテンションには、さすがのモモもついて行けそうになかった。
結局、エスカに押し切られる形で、モモとテールも料理に付き合わされることになってしまったのだった。
「あれ? 僕は……」
声を掛けられなかったタミールがエスカに声を掛けている。
「この世界だと、殿方は料理はなさらないと聞いておりますが?」
「いや、僕も教えてもらうよ。自分の住んでいる場所のものが使われるというのなら、知っておく権利というものがあるからね」
エスカが確認するように言うと、タミールはきっぱりと言い切っていた。それを聞いたエスカは微笑みを浮かべている。
「分かりました。では、タミールもご同席という事で」
そんなわけで、この後のエスカによる料理教室には、モモ、テール、タミールの三人が揃って参加する事となった。この時点でエスカは楽しみで笑いが止まらないようだった。
「では、夕食の2時間くらい前にはテールさんの部屋の前で集合しましょう。よろしいですね?」
エスカが確認すると、三人ははっきりと了承の返事をしたのだった。
―――
「ふわああ……、よく寝たわね」
どのくらい寝ただろうか、私は大あくびをしながらベッドから起きる。
起き上がって窓の外を見ると、かなり陽が傾いてきているのが確認できた。この分では元の世界でいう午後4時くらいといったところかしらね。
時間を確認した私は、もう一度背伸びをして意識をはっきりさせる。
それにしても、今年は年初から忙しく動いてしまったものだわね。まあ、それもこれもエスカのわがままのせいなんだけど。
昨日伯父に確認した限りでは、そのエスカのわがままは領地の経営にも影響が出るのは必至なのだそうだ。伯母が柑橘類を多く王都に送ろうと提案してきたのが原因だ。
去年末の騒ぎを知っていれば、すべての原因がエスカである事は容易に考え至る。
(他人の事は言えないけれど、ずいぶんと自由にしてくれちゃってるわね……)
……少し頭が痛くなった気がするわね。
とりあえず私は、スーラを呼んで寝ている間の状況を確認する事にしたのだった。




