第329話 キャンドル製作委員会
翌日、予定通りに私がサクラを出迎えに行って、エスカやモモとはファッティ領で合流する事にする。サクラの荷物はとりあえず私の収納魔法に放り込んでおいた。
「さあ、参りますよ、サクラ様」
「どんとこいですよ」
瞬間移動魔法によって、私とサクラは一気にファッティ領の伯爵邸まで跳んだ。
移動した先はファッティ伯爵邸の門の前だった。そこにはすでにエスカとモモもやって来ていた。
「お姉様ーっ! それとサクラ様も!」
手を振りながら大声で呼んでくるモモである。本当に私に対しての感情がでかいモモである。
それはそれとして、門番に挨拶をして私たちはファッティ伯爵邸へと入っていく。
中に入ると伯父と伯母が揃って出迎えてくれた。
「よく来たねアンマリア、モモ。それとご友人の方も」
「あらあら、エスカ王女様。また来て下さいましたのね」
両親がそれぞれに挨拶をしてくる。私たちもそれに挨拶を返すと、応接間へと案内された。
応接間に入ってソファーに座ると、いきなりエスカが話し始めた。
「アンマリアのおば様、こちら試作品になりますわ」
本当にいきなり本題をぶち込むエスカ。順序ってものがないのかしらね。
「まあ、これは?」
伯母も伯母で反応してしまう。ハーブやアロマの事でかなり意気投合をしていたので、なんとも話が早い。
「アロマキャンドルというものです。ろうそくに対してアロマと呼ばれる植物由来の油を混ぜて固めたろうそくでして、普通のろうそくのように火をつけると、植物の香りが広がるというものになります」
伯母が反応しているので、エスカによるプレゼンが始まっていた。
「効果はまだまだ検証が必要ですけれど、私たちで使ってみた限りは安眠効果があると見込まれています」
どんどん伯母へと売り込みを掛けるエスカ。ただ、安眠効果に関しては実際あるように感じたのでツッコミはかけられない。ただその様子を見守るしかなかった。
「だがな、襲撃とかが心配される情勢の中では、安眠というのはかえって不安になりかねんな」
そこに伯父が懸念を突っ込んできた。ナイス伯父。
ところが、これにもエスカは動じなかった。どうやらこの程度のツッコミは予想済みなようである。
「なにも寝る時だけとは限りません。仕事中に集中したい時や仕事の後のゆっくり休みたい時などにも使えます。ただ、現在はこのファッティ領のオランとレモネを使ったものだけですから、効果が限定的なのですよ」
エスカの知識では、他のアロマを使ったものもある。それだけにもっと試してみたいというのが本音である。
現在はこの2つに絞ったのは、ファッティ領で多く生産されていて、それなりに王国内に流通があるという点があったからだ。数の確保がしやすいというわけである。
「余裕が出てきたら、他の植物でも試してみたいですけれど、数がありませんからね……」
エスカはとても残念そうな顔をしながら話していた。それに釣られるようにして、伯母も悩ましげな顔をしている。
こうなってくると、もう断るのが厳しくなってくる。結局エスカと伯母の二人に押されて、伯父も了承せざるを得なくなってしまっていた。まあ、そもそもエスカは王族だから断りづらいでしょうけれどね……。
「現在は油を搾るための装置をボンジール商会に作ってもらっている最中です。小型の試作品での試行錯誤を経て、本格的な大型の装置を作る予定にしています」
エスカの説明の口が止まらない。どうやらエスカはハーブやアロマのオタクのようだった。弾丸ではないけれども、よく喋る口が止まらないものである。感心を通り越して呆れてしまうわ。
しかし、伯母の方がそれを真剣に聞き入っているので、かなり乗り気のようだった。この様子では、私たちや伯父が反対したところで計画は実行に移されそうだった。
伯母とエスカが盛り上がる様子を見ながら、伯父は頭を抱えていた。
「さあ、モモ。早速アロマキャンドルの製作に取り掛かりましょう。アンマリアのおば様、ろうそくと余っている柑橘類はありますか?」
やる気十分なエスカは、モモを巻き込もうとしていた。なにせろうそくを湯煎で融かすにはモモの火魔法が必要だからだ。
「ちょっと待っててちょうだいね。使用人たちに確認をしてきますから」
伯母はそう言いながら立ち上がって部屋を出て行く。
「おじ様、諦めましょうか。こうなったら止められません」
「ああ、そうだな……」
「よし、皮むきだったら任せて下さい」
私と伯父が凹む中、今まで黙って聞いていたサクラが突然声を上げる。思わずびっくりしてしまう私である。まさかここでサクラが張り切るとは思ってもみなかったからだ。
「黙々と単純作業をするというのは、集中力の鍛錬になるはずです」
「な、なるほど……」
サクラが力強く言うので、私はとにかく相槌を打つので精一杯だった。
そんなこんなで、伯母、モモ、サクラ、エスカの四人でアロマキャンドル製作チームが結成されてしまった。私と伯父の二人は、ただただその様子を呆れながら見守るしかなかった。
はてさて、どんな事になるのやら。私は邪魔になるだろうと考えて、伯父と一緒に庭の散策に出る事にしたのだった。




