第316話 ハーブにご執心
午後も庭の散策をしたのだけれど、エスカの目の輝きは違っていた。前世についてはみんなそこまで詳しく話していないけれど、エスカってハーブに詳しかったかしらね。私もちょっとくらいしか知識ないのに。
「むぅ、水と闇の魔法だと、ハーブを乾燥しづらいのが厳しいわね……。闇魔法である程度代用できなくはないものの、さすがに火や風の魔法のようにはいかないものね……」
摘んできたハーブの葉っぱや花を乾燥させようと悪戦苦闘中のエスカ。
「あの、私がやりましょうか?」
モモが気になって声を掛ける。
「そっか、モモって火の魔法の使い手だったわね。でも、できるかしら。この葉っぱや花の水分だけを飛ばすんだけど……」
「むむむ、やってみます!」
摘んできたハーブを渡されて、いざモモの挑戦が始まった。
結果、かなり燃やしてしまっていた。さすがにハーブに直接火をつけてしまっては当然だろう。それでもモモは魔法をうまく調整して、水分だけを飛ばすようにできるようになっていた。
「申し訳ございません。だいぶ無駄にしてしまいまして……」
真っ黒になったハーブの残骸を見ながら、モモはエスカに謝っている。
「魔法でずるしようとした罰だわね。いいのですよ、モモは気にしなくても。いい魔法の練習になったでしょう?」
「……はい」
エスカが咎めないで笑っているので、モモはちょっと返事に戸惑ったようだった。
「私の闇魔法よりもしっかりとした乾燥ハーブができたので、これなら思ったようなものが作れるかも。ありがとうね、モモ」
「エスカ王女殿下がそう仰られるのでしたら、私、とても光栄です」
にこにこと話すエスカに対して、モモは礼儀正しく頭を下げていた。元が子爵令嬢とはいえ、私の家でしっかり教育し直されているから、その辺りの所作は本当にきれいだわね。
「これなら料理とかいろいろ使えそうだから、明日にでも試してみましょう」
エスカはかなり上機嫌だった。
そのかなりご機嫌なエスカを見ながら、私とモモは顔を見合わせてつい笑みをこぼしてしまうのだった。
翌日、朝の時間は庭を再び見て回り、ハーブを集め回っていた。葉っぱだけならば思ったより手に入るようで、エスカは鼻息を荒くしていた。仮にも王女様なんだから、それはやめた方がいいと思うけどね。苦言は呈したいのだけど、あれだけにこやかな顔を見せられちゃ、咎めるに咎められなかった。
館に戻る途中、庭にある四阿でモモに乾燥ハーブを作らせるエスカ。モモもずいぶんと火力の調節に慣れたようで、今回は1回も失敗する事なく乾燥ハーブを作り上げていた。
「うん、乾燥の具合も十分だわ。すごいわ、モモ」
「えへへへ……」
照れくさそうに頭を撫でながら笑顔になるモモだった。
モモの魔法の精度は確かにかなり上がっている感じだった。火を出さずに火の魔法を使えるようになるとは、これは熱というものを認識したのではないだろうか。
「ねえ、モモ」
「何でしょうか、お姉様」
気になったので、私はモモに確認を取る。
「乾燥ハーブを作る時、どんなイメージをしながら魔法を使っているのかしら」
「それは……」
私の質問にモモはすぐには答えられなかった。イメージを説明するというのはなかなかに難しいのだからしょうがないかしらね。
あまりにもモモが困っているいるので、私はポンと頭に手を置いてモモに微笑みかけておいた。すると、モモも安心したのか、笑顔を浮かべていた。
「さて、昼食の紅茶には、この乾燥ハーブも使いましょうかね。うふふ、懐かしいわ、ハーブティー」
乾燥させたハーブを収納魔法に放り込みながら、エスカは不気味に笑っていた。
館に戻ると、一人残って勉強をしていたタミールが肩を回しながら玄関に向かって降りてきていた。なんというタイミングなのだろうか。
「ああ、みなさん。庭の散策から戻ってきたのですね。おかえりなさい」
私たちの姿を見つけて、タミールは挨拶をしてきた。
タミールは生意気なところはなく、実に礼儀正しい。魔力循環不全による後遺症もないみたいで、健康な男子そのものといった感じだった。その姿を見て、つくづく助けられてよかったと思う私だった。
「タミールは休憩ですか?」
「まあそんなところです。そろそろお昼の食事の時間ですからね」
私が問い掛けると、にこやかに笑っていた。
「そうですか。でしたら、お食事にはちょっと変わった紅茶をお出ししますので、楽しみにしていて下さいね」
エスカがそう話し掛けると、
「それは楽しみですね」
と答えて、頭を下げて歩いて去っていった。
「さて、私たちの方は厨房に向かいましょうか」
エスカがそう言うので、私とモモはこくりと頭を下げていた。
さて、正直言ってエスカの思う通りのものができるかどうかは分からない。だけど、もしここでハーブティーが作れるようだったら、今後はボンジール商会での取り扱いを視野に入れたいところだ。
ハーブティーとはいえども、なんか妙に期待を膨らませてしまう私たち。その後ろでは状況が理解できないモモが、私たちの表情を見て何かを悟ったかのように気合いを入れていた。




