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月と地球と宇宙人  作者: 会員壱号
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第六話 時間が跳んで1980年代 クロップ・サークル3

「拝啓


 いきなりではありますが、まずはお詫び申し上げます。最近、地球人類様に送られているお手紙は、決して我ら宇宙人の総意でない事をまず申し上げたいのです。


 そうなってしまった経緯は省きますが我々宇宙人は、あなた方地球人類に対して深い愛情と敬愛の念を抱いています。今回の事は、その想いが暴走してしまった結果であり、決してあなた達の生活を脅かすものではない事を理解して頂きたいのです。


 しかしそうなると、どうして今の結果になったのか地球の方々は気になるかと思います。そこで少しだけ私自身の話を聞いて頂く思っております。

 この事は私の昔話となり、少し長い話となりますので、宜しければ手慰みとして聞いて頂ければ私も幸いです。


 私があなた達地球人類になる者を見つけてから約700万年、そして初めて地球に降り立ち人類の友を得たのは紀元前2900年ほどの頃でした。

 私は人類の保護のために色々を仕事をしていたのですが、ある時部下から『そろそろ有給休暇を取ってください』と言われたことが切っ掛けでした。


 その頃の私はーー」


 パーシーはグレイの書いた文章をひたすら読んでいく。お詫びの手紙では、時候の挨拶を飛ばし本題から入るのは正しいが、その後が駄目だ。それは内容が駄目なのではなく、その量が酷い。

 

 何故ならグレイが地球人類に関わった700万年分の事が、つらつらと書き連ねられている。もはや手紙というよりは、グレイによる人類の歴史書――人類史の様になってしまっている。


 グレイとしては、自分の思い出を綴った日記の様な物かもしれないが、この大量の文章を読むには根気がいるだろう。

 事実、パーシーはグッタリしながらも、死んだ魚の様な目で文字を追いかけいる。そしてその文章の三分の一の量。ナヨ・タケノカグヤという職員が家出をして、グレイが元上司とやり取りを描写している部分で、パーシーは読むのを止めてしまう。


 「…………長過ぎますよ、グレイ主任」

 「そうか? これでも短くした……つもりなんだが」


 グレイはそう言うが、彼が地球人類に送る『メッセージ』の文章を考えてから、すでに一か月は過ぎている。


 いや、この量を一か月で書き上げた事を称賛するべきなのかもしれないが、パーシーは頭痛のする思いで、疲れた眼球をほぐす為に目頭を揉んだ。


 「私からすれば、どれだけあれをーー『クロップサークル』を作るんだって話ですよ。作物の茎を倒して作られるせいで『クロップサークル』って呼ばれてますけど、主任の書いたこれを全部『クロップサークル』にしたら、地球の穀物がほぼ全滅しますよ。グレイ主任は地球人類を飢餓のどん底に落としたいんですか?」

 「ぐっ、でも……」


 グレイが悔しそうに唇を噛み、パーシーを睨む。その姿は母親に叱られる子供、先生に怒られる生徒、そして部下に窘められる上司そのものだ。


 「でも……じゃ、ありません! 地球人類に誤解を与えない様に『メッセージ』を送るのに、その『メッセージ』で人類を滅ぼすなんて本末転倒でしょう? それとも主任は人類の愛で人類を滅ぼす、人類悪にでもなりたいんですか?」

 「…………ちゃうねん」

 「何が、ちゃうねん! ですか! 覚えたばかりの地球言語を使わないでください!」


 上司のあまりな言動に、パーシーは叫びながら抗議するがグレイは物ともしない。その証拠に彼は、パーシーに対して更に油を注いでいく。


 「で、でも、僕だって一生懸命書いたんだぞ? 他にも番外編として『アダムとイブの物語』『ビルとの出会い』『テスラとの文通』とか書いたんだ。文字だけだと誤解されやすい事もあるだろうし、 だったら後は量でカバーするしかないだろう?」

 「それはそうかもしれませんが……とういか、一か月でどれだけ書いたんですか」


 パーシーは、そのグレイの愛の酷さに思わず溜息を尽いてしまう。グレイは間違いなく優秀でその手腕も一級品だが、何故かその結果は酷くなる事がある。手段がどんなに正しくても結果が伴わないのだ。

 

 その理由はグレイの愛の故の暴走ではあるが、彼はそれを普通と思っており、少しの疑問しか抱かない。5000年ぐらい前に友人から忠告を受けたグレイは、出来るだけやり過ぎないように注意してはいるが、時にこうやってタガが外れてしまう。


 「……はぁ。まぁ、それは分割して送りましょう。地球上の穀物を全滅させる訳にはいきませんから、全部は送りませんが……分割して送る分には問題ないでしょうから」


 馬が優秀なら、その手綱を握るのは自分の仕事だ――そう思い、パーシーは腹案をグレイに提案する。


 「むぅ……まぁ、仕方がないか。強行派にしても、人類が滅びるのは絶対に望まないだろうしな」

 「むしろ、グレイ主任のこれを読んだら、強行も引くんじゃないですかね?」

 「はっはっはっ。何を言ってるんだね、パーシー君。僕はあんな奴らと違って、あそこまで頭のネジは外れてないぞ?」


 どっちもどっちですよ――と、口には出さない。だがこの事は『超宇宙的技術移民船ツッキー』の中では、もはや常識だ。強行派の連中もグレイの愛が籠った人類史と、自分たちが始めた『メッセージ』のせいで、人類が滅ぶかもしれないと知ったら度肝を抜かれるだろう。

 

 そしてパーシーは今のグレイとの会話で、ある考えが浮かぶ。それはこの事実を噂として『超宇宙的技術移民船ツッキー』に流せば、強行派の連中の抑止力になるのではないか――という考えだ。


 (うん、行けるかもしれない!)


 こうしてパーシーの思い付きと独断により、その噂は『超宇宙的技術移民船ツッキー』に流れていく。そしてこの事によって強硬派は地球人類にメッセージを送る事を止め、クロップサークル作りは次第と無くなってゆき、今回の事態は沈静化する事になる。 


 「ねぇ、もうダメ? もうちょっと送っても、いいんじゃない? たった十年、十年しか送っていないんだよ?」


 ちなみに最後までクロップサークル――『円形に倒された作物』作りに熱を上げていたのは、どこかの某主任だったと言われている。

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