第五話 時間が跳んで1980年代 クロップ・サークル2
地球時間における西暦1982年。天の川銀河太陽系管轄監査管理士官グレイ・アダムスキーは、その銀髪に輝く頭を抱え悩んでいた。
天の川銀河太陽系第三(以下略)であるグレイの主な仕事は、地球人類の保護と観察だ。だがそれは、過保護と言えるほど大袈裟なものではない。地球人類にとって、不自然ではない程度に介入する程度だ。
当初は貧弱な二足歩行動物だった人類は、今では幼稚と言えど、それなりの文明を築いている。
そのためグレイたちが、直接手を貸す事は段々と少なくなり、今では滅多に無くなっている。むしろ無条件で地球人類に手を貸すことは、グレイたち――宇宙人の存在が、露見する確率が高くなってしまう。
実際約10年前に、グレイ達が暮らしているこの住居兼宇宙船の『超宇宙的技術移民船ツッキー』が、一人の人類に見つかりそうになった事があった。それはこの基地を大いに賑わせ、手に汗を握る展開となる。
だがそれよりも問題なのは、さらに前の事件だ。
それはこの基地に居る一部の強行派の暴走により、地球人類が拉致される事件が起きてしまったのである。
強行派は地球で行われた、とある出来事を利用し、周囲にバレない様に色々工作してから、トラブルを巻き起こしてしまう。
それにより地球人類の約十数人が、この移民船ツッキーにやって来てしまった。グレイはそれを解決する為に奔走し、彼の補佐官であるパーシー・ローウェルと、酷く疲れた日々を送ったことがある。
今では何とかグレイの根回しや洗――説得により、グレイたちの存在は地球で公になっていない。
だが一度起きてしまったその事件の火種は燻っている。グレイの仕事は今や専ら、彼と同じ宇宙人類から地球人類を守る事となっている。
「っていうかアレ、なんだよ!? あの戦争から、たった40年しか経ってないんだぞ!」
そして現在。グレイは先ほど地球に送られた『強行派』のメッセージを確認しながら、叫び声を上げた。それを聞いた管理監視補佐官パーシー・ローウェルは、グレイの言葉を訂正する。
「正確には44年です、グレイ主任。まぁそれでも……こんな短時間で、再び強行派が地球に喧嘩を売る様な事をするは思いませんでした」
「そうだろう!? アイツらは地球人類の何らかを何も分かっていない! 何が地球人のクセに生意気でちゅね――だ! 僕からすれば、僕の言うことを聞かないお前らの方が生意気だよ!」
グレイは今まで過ごした700万年の事を思いだし、怒りを露にする。パーシーはそんなグレイを見ながら『相変わらず大袈裟な人ですね』と思いながらも、彼の気持ちが理解出来ない訳ではない。
何故ならパーシーもグレイほどではないが、長い間、地球人類を見守ってきた――その時間は300万年。
最近では地球人類の科学技術の発展により、ようやくこの月に来る事も可能になった。それは喋る事が出来なかった幼児が、いっちょ前に話し出した様なものである。
これは後の言葉ではあるが『アームストロング船長の一歩は小さかったが、我ら宇宙人類にとっては偉大な一歩だった』とは、グレイの弁である。そしてその偉大な一歩を強行派は、無慈悲な暴力で台無しにしようとしている。
――それはグレイにとって到底許せる事ではない。
「でも、グレイ主任。あの『メッセージ』は、どうするんですか? 内容は、その……色々と酷すぎて、あれに好感を抱く地球人類は居ないと思いますよ?」
「全く、その通りだ! あれでもし地球人類が宇宙人類を誤解し始めたら、僕は磔獄門の可能性が高い――僕だって、あそこまで歪んでないと言うのに」
「…………そうですね」
パーシーはグレイに、その自覚があった事に驚いた。そしてパーシーは彼が強行派以上に、極端な愛情を地球人類に注いでいる事を知っている。質は違えど、ある意味では同類だ。
グレイは何だかんだ言いながら、地球人類を昔から見守っている。そのため彼らに対する愛が見事に酷く、グレイは昔に色々とやらかした事があるのだ。
それは『イブ』という個体を助けるために『チエーの実』を与えたりとか、雨が降らない地球人類の為に『大洪水』を起こしたりとかだ。
そしてそんなグレイの助力により、現在では地球人類も、自分たちの文明を育てる事が出来ている。
そうした影響かグレイの直接的な干渉は減り、今までハチャメチャしていた彼が、今では騒動を抑える側に周っているのだ。グレイを昔から見てきたパーシーからすれば、時の流れとは不思議なものだと感慨深くなるだろう。
「それで何か対策はあるんですか?」
とは言え、このままグレイを怒らせた状態では話が進まない――そんな考えから、パーシーはグレイの気持ちを切り替える様に、質問を投げ掛ける。
地球人類への愛が酷いグレイではあるが、彼が優秀なのも間違いはない。色々と騒動を起こす事はあっても、それを治める手腕も一級品だ。今回の事もグレイが見事に解決してくれると――パーシーは思っている。
グレイは一度目を瞑り、その湧き上がる怒りを抑えてから目を開く。そしてパーシーに一つの提案を出して来る。
「ふむ……そうだな。まずは、木を隠すなら森の中作戦だよ――パーシー君」
「森の中作戦?」
「うむ。あの『メッセージ』が目立つなら、それを地球規模で起こせばいい。そうすれば必然的にあの『メッセージ』の奇特性は小さくなる」
確かにそれはいい作戦だ――と、パーシーも思う。
「そしてその上で『メッセージ』の内容を色々と変更しよう。あんな地球人類が憤然とする内容ではなく、もっと平和的で紳士的な文章に変えればいいのだよ」
「なるほど、それは良い考えですね。受け立った人類が怒りを感じる文章ではなく、好意的に受け取りやすい文章を多く送るのですね?」
「ああ、その通りだ。地球人類も『何やってんだ、ゴルァ』という内容の文章よりも『こんにちは、わたしグレイ。あなたの側にいるの』って、文章の方が好感を抱きやすいだろう」
そうだろうか? ――と、一瞬だけパーシーは考えるが、彼女はグレイほど地球人類に詳しくはない。問題は現在から未来に進行形で進んでいる。ならば彼に全部を任せるべきだと判断して、パーシーは余計な口を挟まない事にした。
「よし! そうと決まれば、まずは文章の作成だ。ふむ……最初はやはり、丁寧な文章の方が良いだろうな。ついでだから、パーシー君も一緒に考えて見ないか? 君は何というか……地球人類に一歩引いている様な、そんな所が見られるからね。これを切っ掛けに、もっと地球人類に対してフランクになった方がいい」
グレイ主任に比べたら、強行派以外の人達以外は皆が一歩引いてますよ――そんな感じの事を口に出しだくなる。
だがパーシーは、それをグッと我慢して『やってみます』とだけ返事をする。そして彼女は何も語らないまま、自分のデスクに戻り、地球人類に送る文章を書き始めるのだった。




