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月と地球と宇宙人  作者: 会員壱号
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第四話 時間が跳んで1980年代 クロップ・サークル

 天の川銀河太陽系第三惑星地球。


 ヨーロッパの北西部に位置する島国イギリスは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドで構成されている連合国家だ。


 正式名称はグレートブリテン、または北アイルランド連合王国と呼ばれる。


 この国では現在、新自由主義による構造改革が行われている。そしてこの改革により、多くの失業者を出してしまい、地方経済は不振を極めてしまう。

 だがこの事が逆にイギリスの首都、ロンドンで金融産業を育てる事になるのだから、人間社会の経済とは面妖なもとの言えるだろ。


 しかしそんな事など無関係に生きている人物も、勿論いる。ウィリアム・スミス――彼もそんな人物だった。


 ウィリアム・スミスは数年前に50代という若さで死んでしまった父から、先祖が守ってきた農地を財産として受け取っている。

 ウィリアムもまさか自分の様な若さで、家や土地を継ぐとは思っていなかった。だが父や先祖から折角貰った土地だと感謝し、その土地を耕すことで日々の糧を得ている。

 

 最近ではウィリアム独自の農法を麦に試してみたり、新しい農業機械が発表されるのを見学に行ったりと、この生活を楽しんでいた。


 「ふわぁ~」


 そんな彼が欠伸をしながら自室から出てくる。彼が起きるのは太陽が昇り切る前、日がちょうど明けた頃だ。


 農家の朝は早く太陽が昇り切る前に起き、朝食を取り終え、それから仕事の準備をする。それがウィリアムの朝の情景の一コマであり、十数年と続いている毎日である。


 そんな生活をウィリアムは、自分が財産を受け継ぐ前――いや、彼の祖父の祖父、曾祖父の代から続けてきた。それは産業革命が始まり、蒸気機関が生まれ、農業機械が発明された今でも変わっていない。

 

 都会の様な刺激的な生活とは無縁ではあるが、それは仕方がない事だと、ウィリアムは理解している。そして彼は仕事の前に、まずは朝食を取ろうと――その準備を始める。


 「取り敢えず朝は眠いからな……適当な物で済ませるか」


 ウィリアムはそう言って台所へ行き、まずは鍋に入ってる物を温める。中に入っているのは、昨日の夕食の残りである野菜スープだ。ブイヨンを近くの店から買って来て、それを適当に入れて作った如何にも男らしい大雑把な料理である。


 ウィリアムはスープを温めている間にも、もう一品何かを作ろうと思い冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中にあるのは、いつくかの卵とベーコンの切れ端。あとは酒瓶が数本あるだけだ。

 男らしいスッカラカンの冷蔵庫にウィリアムは自分自身で呆れつつ、卵を二つとベーコンの切れ端を取り出していく。


 そしてフライパンをもう一つのコンロの上に置き、油を垂らしてから火を点ける。次第にフライパンに熱が伝わり、油の温度も高くなる。ウィリアムは、それを確かめてから卵を割って投入し、ベーコンの切れ端も同時に焼いていく。 


 「ああ――良い匂いだ」


 油の跳ねる音とベーコンの焦げる匂いが、ウィリアムの空腹の腹を刺激する。ウィリアムはフライパンの様子を見ながら、水を少しだけ注ぎフライパンに蓋をする。

 人によって目玉焼きの作り方は違うのだろうが、ウィリアムはフライパンに水を注いで、蒸し焼きにするのが好みだった。

 そして数十秒してから彼は火を消し、今度は野菜スープが温まったのかを確認する。


 「んー、まぁこんなもんかな?」


 ウィリアムはそう言って戸棚から器と皿を取り出し、それぞれに作った料理を盛り付ける。彼の朝食は、残り物の野菜スープとベーコンの切れ端が入った目玉焼き、あとは常に買い置きしている食パンだ。

 そしてこれが田舎で独身のままで過ごしている、ウィリアムの基本的な朝食になる。


 「こんな時は、嫁さんが居ればなぁ」


 そう彼はぼやくが、その事を真剣に考えた事はない。何故ならウィリアムにとって、今の生活は、たいして不満がないからだ。農家の仕事は朝が早いのはマイナスポイントだが、始業時間があるわけでもないし、時間に融通も利きやすい。

 

 食事だって、最近では近くの店に美味い物がいくつも並んでいるし、自分でも作ろうと思えば作れないこともない。強いて言うなら、女性の手作り料理に憧れの様なものはある――だが、逆に言えばそれだけだ。ウィリアムは自分自身に嫁が必要だとは、特に思っていなかったのである。


 そんなウィリアムだからこそ、日々の変化の少ない農家の仕事を大事に思っている。だがそれでも何か良い事はないかな? ――などと考えてしまうのが、人間であり、人情というものだろう。


 ウィリアムは朝食を取り終え、汚れた食器を水に浸けるだけにして、田畑に向かう準備をする。今の季節は春で、麦が高く伸び、天候や風に気をつけないといけない時期だ。

 

 ウィリアム自身に出来る事は少ないが、植えた作物が気になり、一日に一度は自分の目で確かめなければ気が済まない。そんな風に思っているウィリアムは、いつも被っている麦わら帽子を片手に、玄関のドアを開ける。


 そこには彼が父から受け継いだ、いつもの風景が広がっている――筈だった。


 「はぁ!? な、なんだぁ、こりゃあ!」


 ウィリアムの仕事場である田畑は通勤時間約10秒。満員電車など空想の産物であり、彼の仕事場に彼の家がある。つまり玄関のドアを開ければ、そこはもう田畑のど真ん中だ。


 そしてウィリアムは、そこにある光景に呆然と立ち竦んでしまう。


 何故ならウィリアムが丹精を籠めて作られた麦畑が荒らされており、その茎を折る様にして横に倒されている。それはウィリアムの場所から見えるだけでも、かなりの量だ。


 もちろん彼が育てた、全ての麦が倒された訳ではないが――その被害は、決して小さくはない。


  あと数か月もすれば、この倒れた麦も黄金色に染まり、麦穂の絨毯を見せてくれただろう。ウィリアムはその事を考えると、気分が落ち込み憂鬱な気分になってしまう。

 

 「ん? あ、あれ?」


 だがそんな倒れた麦に、規則性がある事をウィリアムは気がついた。麦が一定の方向に流れるように倒れ、途中から別れるようになっていたりと、まるで川の流れの様に見えるのだ。

 

 するとウィリアムは『これを自宅の二階から見たら、どう風になっているんだろう?』そんな考えが浮かんでくる。そして物は試しだと外に出るのを一旦止め、ウィリアムは二階に上がって行く。


 「どうせ誰かの悪戯だろう。折角だから特等席から見てやるか」


 ウィリアムはさっきまでの鬱々した気分を振り払うように、勢いをつけながら、ドシドシと二階に上がる。


 彼はどうせ倒れた麦は商品にはならないし、それにこんな事をする奴は碌なもんじゃない。倒れた麦を見て、泣いたり怒るだけでは、相手の思惑に乗るようで嫌な気分になるだろう。


 そうした考えからウィリアムは逆に開き直り、現状を出来るだけ楽しんで意趣返しをしてやろう――そんな気持ちにさえなっていた。


 「だったら倒れた麦を見て、笑うか罵ってやる」


 そんな事を呟きながら、ウィリアムは二階に上がる。そして廊下にある窓から、自宅の周囲にある麦畑を見下ろした。 


 「……なんだ、これは? …………絵か?」


 そこにあるのは、不思議な感じのする絵だ。


 ウィリアムの自宅から伸びるように、円状に描く様に麦が倒されている。それは幾何学的な模様が重なるようになっており、オカルティックな魔法陣の様なものに見えなくもない。

 

 ウィリアムは麦が倒れた事も忘れ、この光景に呆然とする。そしてしばらくした後、慌てるように家を飛び出し、近所の農家をしている仲間たちへ声を掛けていく。

 

 こうしてこの麦の倒れた現象は、後に人々の間で有名となり『円形に倒された作物』――つまりクッロプ・サークルと呼ばれ、地球規模での話題になるのだった。

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