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月と地球と宇宙人  作者: 会員壱号
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第三話 天の川銀河太陽系管轄監査管理士官の日常

R-15要素がありますん。苦手な方はスルー推奨かもしれません。

 天の川銀河太陽系管轄監査管理士官グレイ・アダムスキーが、普段居る場所は『月』である。


 彼は『地球』を見守る場所として、衛星である月を選んだ。それは常に地球を周回している為、観察や調査をする場所として都合が良かったのである。そしてその月にあるのはグレイの母星の技術で作られた住居兼宇宙船だ。


 名を――『超宇宙的技術移民船ツッキー』と、言う。


 その『超技術的宇宙移民船ツッキー』には、地球を監視する為の部屋が一つある。そこは太陽系管轄監査管理士官の仕事場であり、地球を調べる為の調査室だ。


 そんな部屋の中に、今ではメタリックな色をした机が二つある。


 一つは勿論この部屋の主であり、太陽系管轄管理士官であるグレイ・アダムスキーのデスクだ。今日も彼は仕事に精を出しており、その表情は真剣そのものである。


 そしてもう一つの机は、グレイ・アダムスキーの補佐をする為に送り込まれた、補充人員の為の物だ。それはサルが『火』を使い始めた事によって、知的生命体が誕生する可能性が高まったからである。


 この様な理由でグレイを補佐する為に彼女――パーシー・ローウェルは、この月にやって来た。


 彼女の仕事は主にグレイの補佐だが、専攻はナノマシンによる医療行為だ。それは偶然地球に誕生した自分たちとはルーツの違う、知的生命体候補であるサルに、行き過ぎない治療を施す事を任務としている。


 彼女もこの仕事に関われる事を誇りとし、周囲の妬みを受けながらも、この月に舞い降りている。


 自分たちとは違う新たな宇宙人類。その成長と過程を見守り、保護し、時には陰ながら応援する。そんな生活に彼女は憧憬と希望を得て、この遠くの宇宙――天の川銀河太陽系第三惑星地球の衛生基地にやって来たのである。


 「ああん! アダム! てめぇに、まだイブをやるには早ぇよ……出直して来やがれ!!」


 だがパーシー・ローウェルが、この月に来てから百年――すでに彼女は後悔の日々を送っている。


 その第一の理由が、この口汚く罵っている上司――グレイ・アダムスキーだ。彼は普段穏やかな人物ではあるのだが、時に危ない人物にしか見えなくなる事がある。


 グレイは自分たちとは違う可能性を秘めた――知的生命体候補を発見をした最初の人物。それはまさしく偉業であり、グレイたちの母星では、もっともセンセーショナルな話題の一つだ。

 

 つまり彼は今、地元で一番ホットな有名人であり、憧られる存在になっている。そしてそんな思いをパーシー・ローウェルも抱いていた。


 「うんうん、イブは賢いし可愛いなぁ。こんな可愛いイブに、アダムは勿体ない」

 「………………はぁ」

 

 だが、現実はアレである。


 憧れが幻滅するどころか、ブラックホールに吸い込まれた気分だ。そんな思いからパーシーは溜息を一つ漏らしてしまう。だがそんなパーシーも仕事はせねばなるまいと思い、グレイと並びつつ『超宇宙的技術移民船ツッキー』の窓から地球を眺める。

 

 そこに映し出されるのは二匹のサルだ。片方のサルが男で、片方のサルは女だ。上司であるグレイは、その二匹のサルを特に気に入って名前まで付けている。

 

 だがパーシーも、ここまでは何とか理解出来る。お気に入りの物や動物に個体名をつけることは、何も珍しい事ではない。


 「あああ! またアダムがやって来た。お前も可愛いと思うが、まだまだ子供だろう? イブを嫁にやるのをお父さんは許さん! あ、あぁぁぁ! イブがアダムを受け入れてしまった…………後ろからズッコンバッコンだ」

 

 しかし、あまりにも感情移入し過ぎではないだろうか? サルの男がサルの女に求愛行動をするだけで、この乱痴気騒ぎだ。グレイと同じように隣で監視しているパーシーにとって、彼の言動は全く理解出来ず、ただ五月蠅いだけである。

 

 「ズッコン……バッコン……ズッコン……バッコン」


 パーシーは、そのグレイの独り言に顔を顰める。彼女が後悔している第二の理由はコレだ――全くデリカシーがないのだ。

 

 隣に自分の様な若い女性が居るのに『ズッコンバッコン』とか、変な事を口走らないで欲しいと、パーシーは常々思っている。


 「ふむ……しかし、これは――どういう事だろうか?」


 先ほどまで百面相な顔をして、地球を見つめていたグレイが急に真顔になり呟く。そして隣に座っているパーシーを見て、真剣な声で語りかけた。

 

 数十年前――否。


 赴任してきた頃のパーシーなら、その表情に見惚れていただろう。長いきめ細やかな銀髪、女性と見間違うほどの容姿端麗な姿。立てば巨星、座れば恒星、歩く姿は流星の花――などと言われ、母星に住む女性たちの憧れの人である。


 だがパーシーは、今ではそれが詐欺だと知っている。


 「パーシー君。どうして『サル』は、後ろからズッコンバッコンするのだろうな?」

 「…………はぁ」


 最早パーシーは慣れてしまっていた。グレイと一緒に仕事をする様になってから、すでに百年が経っている。彼女はグレイのデリカシーのなさと、悪い意味での真面目さを理解してる。


 先ほどの彼女への質問も、決してセクハラ的なものではなく、単純な学術的な好奇心だ。変な事に興味を持つ人だな――とパーシーは思うが、動物の交尾や生態に関心を持つ研究者は多い。


 そんな理由からパーシーは自分なりに真面目に考え、グレイに返答を返す。


 「……動物だからじゃないですかね? 他の動物でも後ろからするものでしょう?」

 「だが彼、彼女たちは知的生命体候補だ。後ろからズッコンバッコンするのは、あまりにもその存在から掛け離れた行為ではないだろうか?」

 「じゃあ、まだ動物に近いって事じゃないですか? あくまで候補なのだから、後ろからズッコンバッコンするのは、そんなにおかしな事でもないのでしょう」


 自分でも、何を真面目に言っているのだろう? と、ふとパーシーは思う。だがこんな話が、ちょくちょく起きるのがグレイとの会話だ。パーシーとしては、いちいち気にする方が損だと思っている。


 「ふむ、なるほど……それは面白い考察だ。つまりパーシー君は、知的生命体候補が知的生命体に近づくほど、後ろからズッコンバッコンする可能性が、低くなると言いたいんだね?」

 「…………」

 「そう考えると僕たちにも、その可能性はあるという事か? もし僕たちが後ろからズッコンバッコンしたとしたら、それはきっと野生の名残かもしれないな――僕に経験がないのが残念だ」


 そう言ってグレイは、悔しそうには呟く。そしてパーシーは、そんなグレイを冷めた眼差しで見つめるのだ。


 ――太陽系管轄監査管理官。それは選ばれた人間が成れる、名誉ある仕事だ。


 その内容は、何千年と何百年の続く過酷な任務。この宇宙に存在する、自分たち以外の可能性。それを見つけ保護や観察、そして時には、その存在を導くのが彼らの役目だ。


 そんな事実を踏まえながらもパーシー・ローウェルは、太陽系管轄監査管理官の日々に、諦観の念を感じながら過ごすのである

  

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