表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月と地球と宇宙人  作者: 会員壱号
20/29

第十八話 ナヨ・タケノカグヤ5

 ナヨ・タケノカグヤのモテ期――それは金銀玉石色々あれど、彼女をつまにしたいと求婚者が現れるようになってから、半年の時間が過ぎた。それはナヨがこの地球に降りて、老夫婦の元で暮らすようになってから、ちょうど一年が経った頃である。

 この半年間の間に、ナヨの美しさを見る為に集まっていた男衆は、彼女の事を高嶺の花と見定めたのか、とある一部の人間を除き諦めた状態になってる。

 その為『さぬき御殿』と呼ばれる屋敷は、有象無象の男たちはいつの間にか居なくなっていた。今では竹林の葉擦れの音がサラサラ聞こえ、以前のような静かな落ち着きを取り戻した状態となっている。


 つまりナヨのモテ期は僅か半年で終わりを告げ、彼女の生活は以前の様に戻ってしまっている。それはまるで屋敷に群がっていた男たちがナヨに興味が無くなった――以前暮らしていた月におけるお見合いの時のような、男性に振られたような状況と言えなくもない。


 「はぁ……モテすぎるってのも、実は大変なんだなぁ。でも今では求婚者の使者も少なくなったし、夜も静かに寝れるようになったから逆に安心したかも。これでやっとお爺さんとお婆さんと一緒に、安心して暮らせるかなぁ?」


 ――と、幸いにして月でのトラウマを発動する事もなく、本人は全く気にしないでいた。むしろ以前の様な地球に降りたばかりの静かな時間を好み、老夫婦の二人と共に過ごせる事を喜んでいるくらいである。

 

 ナヨが月に居た頃は、仕事と父親の相手で、自分の時間があまり取れなかった。だがこの地球に降りて来てからは、少し過保護な老夫婦の元で自由奔放に過ごしている。

 それはお爺さんと一緒に畑仕事を手伝ったり、竹細工を作ってみたりと意外に楽しい。もう一人の親代わりであるお婆さんとは一緒に衣服を繕ったりと、意外に女の子らしい事も学んでいる。

 他には月に居た頃の趣味――読書をする為に、この土地の書物を取り寄せたりもした。だがナヨはここで初めて、この土地独自の文字を読むことが出来ない事に気づいた。

 ナヨはそうした理由もあり、この現地の文字を覚える為に勉強したりと、それなりに地球人類の未開な文化を楽しんでいる。


 だがそれでも剛毅果断、一心不乱、不屈不撓、一念発起、もしくはただの女好き。そんな諦めの悪い――もしくは無謀と言える男たちは何処にでも居るもので、ナヨの周囲には、そんな男たちがまだ残っていたのである。

 

 その数は五人。それは今でもナヨの事を自分の妻にしようと、諦めずに求婚の使者を送り続けている者たちだ。その人物たちは各々が数多くの家来を抱える貴公子であり、自分が願った事はその力を用いて叶えてきた猛者でもある。

 彼らはナヨを妻にする為に様々な貢物や、恋文を送り、彼女の気を引こうと一生懸命だ。しかしナヨには地球人類の貢物の価値は分からない。

 少なくともナヨタケ号の部品以上に価値を見出せる物がある筈もなく、まさに暖簾に腕押し、糠に釘と、彼女の琴線に響く品物は無い。

 恋文に至ってはまともに文字を読むことの出来ないので、今はまだヤギのエサにしかならなかったのである。そしてそんな朴念仁と化している姫に、遂に挑み始めるは五人の貴公子。


 一人目は巧みに言葉を操り、綺麗な歌を作ると言われる石作(嘘吐)皇子。二人目は非常に頭が良く、その先見の目は、先の事を外したことが無い言われる庫持(癇癪)皇子。

 三人目は先の二人より位は落ちれど、経済的に豊かだで気さくな阿倍(肩書に弱し)右大臣。四人目は少しせっかちだが、これまた国の重鎮であられる大伴(馬鹿)大納言。そして最後の五人目は誰よりも位は低いが自由奔放に振舞う石上(罰当)中納言。

 そんな五人の貴公子たちから、今もナヨは求婚され続けている。これが心に隙間のあった頃の彼女なら一も二も無く飛びついた話かもしれないが、今のナヨは老夫婦の愛で満たされている。むしろ結婚などせずに親代わりの老夫婦と、ずっと一緒に暮らすのも良いと思っているくらいだ。

 しかしそんな考えを持つナヨに、彼女の父親代わりである老爺が苦い顔をしながら苦言を呈す。


 「愛しい愛しい我が娘YO! そろそろお前も結婚WO! 考えるべきDA! あれだけあったお前への求婚MO! これだけ少なくなったYO! ならばこの5人は本当にお前の事WO! 求めてると言っても間違いではNAIDAROU。だったらこの中からお前NO! 夫を選んでみてはどうDAROU!?」


 つまり父親代わりである『さぬき』の老爺も、所詮は普通の父親と変わらない。ナヨのその姿が年頃になっていくにつれ、とうとう愛娘の嫁ぎ先の心配をし始めたのである。

 それは例え宇宙的技術を持った先進的な宇宙人類であろうと、未開な原始的な技術しか得ていない地球人類であろうと、適齢期となった娘に言うことは、結局同じなのである。

 父親とは娘を永遠に手元に置いておきたいと思いながら、何とか手放す事は出来ないかと考える矛盾した生き物だ。それ故にナヨの父親代わりである老爺は眉間に皺を寄せ、愛娘の幸せを願いながら言うのだ。


 「それにワシMO、六十DA。明日はどうなるか分からぬMI。お前の花嫁姿をこの目に収めておきたいYO! NANA、お婆SAN?」

 「ええ、そうですNE。私もお爺さんMO、それなりに長くいきましTA! 冥土の土産NI、娘の花嫁姿は見てみたいWA!」


 そんなどこか悲しい(?)言葉にナヨは少し困った顔になり、正直な自分の気持ちを二人に告げる。


 「お爺さん、お婆さん、二人ともそんな寂しいことは言わないでください。ナヨは今、特に結婚したいと思っていないのです。出来るだけ長くこの家で、お二人と仲良く暮らしていたいのです」

 「DEMO……DAGA、娘はいつか嫁に行くものDA! お前もいつかは結婚しなくてWA。ワシらのお迎え来るMAENI!」


 そう言ってお爺さんは、ナヨを一生懸命に説得する。そして説得される側のナヨも、ずっとこのまま独身でいられるとは思っていない。

 しかしナヨは過去に経験した、多数のお見合いが上手く行かなかった事により、どうしても結婚という事柄には二の足を踏んでしまう。それに今、自分に求婚を申し込んでいる相手が、必ずしも誠実な地球人類とは限らないのだ。

 そのうえ月から来たナヨの場合『さぬき』の老夫婦以外では頼れる存在が居らず、もし結婚した相手が平気で浮気をしたり、自分に暴力を振るう様なDV男だった、ら取り返しがつかなくなる。ナヨがこうした事に思わず躊躇ってしまうのも、仕方が無いと言えよう。


 ――そこでナヨは一計を案ずる。


 ナヨの今の生活水準は、未開の原始惑星にしてはかなり高い。それは他の土地でも見た事の無いような大きな屋敷に住み、自分の為に用意された、広くて綺麗な私室も与えられている。

 彼女の親代わりである老夫婦からは、この土地独自の煌びやかな衣装もたくさん貰っている。他にも細々とした様々な家具や小物、変わった細工物をお爺さんとお婆さんからプレゼントされていた。それは世の中の男どもだけでなく、さぬきの老夫婦にとってもナヨは正真正銘お姫様であり、愛娘だからだ。

 

 そんな風に大切に育てられているナヨは、これ以上の我儘はとても言えないと思っている。だがそれでもナヨはこの地球に――この場所に関して、一つだけ不満があった。

 それはある意味しょうがない事であり、生まれた時には決まる根本的な問題だ。お爺さんとお婆さんが、どれだけナヨを大事にしたとしても、そう簡単に解決出来る問題ではない。

 つまりナヨはその根本的な問題を解決――少なくとも今、彼女が抱いている不満を和らげようと、とある事を五人の求婚者に提案したのである。


 「よしっ! だったら私の好きな(食)物を持ってきてくれた人を旦那さん候補にします。この事をあの五人の求婚者の方へ伝えてください。せめてお嫁さんの好みの(食)物くらい持ってきてくれる甲斐性は欲しいですから」


 要するに宇宙人類であるナヨにとって、地球人類の食べ物は、少しだけ肌に合わなかったのである。こうしてナヨの言葉と意思は五人の貴公子に伝えられ、求婚者たちの嫁取り合戦が始まったのであった。


 「私が求めるのは五つの(食)品です。一つはミイシノハチ。一つはホウライノコエダ。一つはヒネノカワゴロモ。一つのはリュウノクビ。一つはツバメノコヤスガイです。期限は問いませんので、これらのどれかを持って来た人と、私は婚約の話を進めたいと思っています」


 そうして伝えられた様々な(食)品を五人の貴公子は、これでもかと言うくらいに探し回った。それは自分たちが住んでいる国だけではなく、近くの隣国や遥か遠い数多の国も含めてだ。貴公子の中には海を越え、その先の果ての国まで手を伸ばす求婚者もいた。

 しかしその結果は芳しいものではなく、五人の貴公子はどうやっても見つける事が出来ない。そうなれば五人の貴公子は、ナヨに求婚を受けてもらう為に色々と画策してしまう。

 

 一人目の求婚者はナヨの望む物とはかけ離れた贋作を持ってくる。言葉は立派でとても綺麗な言い繕いう人ではあるけれど、その行動に誠意は無く、信用できる人物ではない。ナヨはこうした人とは、とてもではないが結婚出来ないと、その求婚者には断りの連絡を入れる。

 

 二人目の求婚者はナヨの望む物では無かったが、それは素晴らしい飾りを持ってくる。だがその飾りの中には、作った職人からの請求書が見つかってしまう。

 ナヨは素晴らしい飾りを作った職人に賃金を払おうとするが、求婚者はこの出来事に恥を掻かされたと感じてしまっていた。

 ナヨへの二人目の求婚者は、すぐさま職人をナヨの屋敷に呼ばれ、何故か求婚者の折檻が始まってしまう。そのあまりにな癇癪持ちの求婚者にナヨは引いてしまい、この求婚者との結婚話も白紙となる。

 

 三人目の求婚者は前の二人と違い、気さくで優しい人物だった。身嗜みもきちんと整え清潔感を感じる好青年だ。

 だがそれが逆に仇となり、三人目の求婚者はありもしない偽の品をそのままナヨの元へと持ってきてしまう。その事を知ったナヨは夫としての頼りなさを感じ、やはりこの求婚者との婚約も断ってしまう。

 

 四人目の求婚者は、冗談ではないほど話にならない人物だった。ナヨを妻に迎えるにあたって、今いる妻を全て離縁してしまい、もと居る実家へ帰してしまう。

 しかも言う事を聞かない相手には、平気で暴力を振るう筋肉馬鹿だ。その事実を知ったナヨは求婚者が持ってくる品も確かめず、これ以降『さぬき御殿』への立ち入りを禁止してしまう。


 五人目の求婚者は奔放な男ではあったが、努力の人でもあった。しかしその努力が報われることは無く、心が折れた求婚者は自分からナヨとの結婚を諦めてしまう。


 「はぁ……やっぱり、男女の結婚って難しいんだね。あーでもあの人たちは食品名じゃなく、商品名で言っちゃったから上手く通じなかったのかも?」 


 月であった過去になど、特に気にせずナヨは暢気に呟く。そんなナヨを最後まで諦めなかった五人の求婚者たちは、様々な理由により、結局彼女を妻にする事は叶わず終わる。つまりナヨのお見合いは、ここ地球でも見事に破談となるのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ