表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
声優・清水セイラの大冒険 ミステリー短編集  作者: 灰庭論
CASE.3 立方体ハウスの殺人
18/18

立方体ハウスの殺人 解答編

 ダイニングルームへ行くと、犯人の姿がなかったので、急いで彼女の部屋へと向かった。セイラさんがノックをすると、中から返事があり、ひとまず安心することができた。顔を見せた犯人にセイラさんが告げる。


「お話があります」


 有無を言わさぬ感じだ。


「どうぞ」


 部屋に通されたものの、椅子は勧められなかった。


「私に何か御用ですか?」

「私たちが何をしに来たのか、あなたには分かっていると思いますよ」


 セイラさんは犯人自ら進んで自供してほしいのだろう。


「何のことでしょう?」


 しかし、それは叶わなかった。

 そこでセイラさんが溜息をついた。

 その姿に胸が痛くなる。


「東堂沙織さんは自殺したのではありません。あなたに殺されたのです」


 犯人は眉一つ動かさなかった。


「私が殺したという証拠はあるんですか? 仮に自殺ではなかったとしても、マスターキーが盗まれているので、どなたにも犯行が可能ではありませんか?」

「いいえ、犯行は可能でも、あなた以外に殺害現場を密室にすることはできないのです」


 犯人が問う。


「私がどのように『サイコロの部屋』を密室にしたというのですか?」


 セイラさんが答える。


「ヒントは階段の横に掲示されたハウスの見取り図にありました」


挿絵(By みてみん)


「あの中に答えが隠されていたのですね。そうでしょう? 彩子さん」


 セイラさんが犯人の名を告げた。

 真相を見抜かれたことで、彩子さんが観念する。


「よく分かりましたね」


 セイラさんが説明する。


「設計者の立方正六氏は十字の廊下が立方体ではないから気に入らなかったと言いましたね。それでもそれ以外は綺麗な立方体になっているから満足していると教えてくれました。でも図を見ると、廊下の幅に違いがあることに気がつきます。つまり、細い方の廊下一本分のスペースが、どこかに隠されているというわけですよね」


 そう言って、書棚に向かうのだった。

 そして、その書棚を横にスライドさせる。

 すると壁に隠し扉が出現するのだった。


挿絵(By みてみん)


 セイラさんが解説する。


「この扉の向こうに隠し通路があり、二階へと上がれる階段があって、殺害現場である『サイコロの部屋』へと通じていたというわけです」


挿絵(By みてみん)


 セイラさんが続ける。


「隠し通路がなければ直方体で、立方体ハウスとは呼べないわけですから、お父様が満足するはずがありません。外観に満足していたということは、やはり紛れもなく立方体だったというわけです――」


 それでも、それはハウスが立方体であることを証明したにすぎない。


「私たち二人を除く五人は過去にも全員で宿泊したことがあると聞きましたが、その時は二階の殺害現場だけが展示室で、他の三部屋は普通の客室だったそうですね。どうして今回、私が泊まる予定の部屋まで展示室になっていたかというと、それは隠し扉の部屋に東堂さんを泊める必要があったからではありませんか? 展示室を増やせば、『サイコロの部屋』にベッドが用意されてあっても不自然ではありませんからね――」


 セイラさんが彩子さんの様子を見るも、何の反応も示さなかった。


「四角椅子や、立方体積み木など、そんな部屋は始めからなく、殺害計画のために用意しただけのようにも思います。すべては東堂さんを隠し扉のある部屋に泊めるためで、それができたのは招待主である彩子さんしかいないのです」


 それでも決定的証拠にならないというのが犯罪を立証する難しさだ。誰もがマスターキーを盗み出せる状況にあったので、それだけで全員に殺害する機会があったと断定できる。


 また、部屋を密室にする方法も、殺害後にドアを施錠して、マスターキーを持ったまま全員と行動を共にし、ドアを破って入室した際、その時にマスターキーを床に置くことも可能だからだ。


「彩子さん、あなたが東堂さんを殺しましたね」


 セイラさんの問い掛けに、彩子さんがコクリと頷く。


「はい、私がやりました」


 立証が困難なのに、あっさりと認めてしまうのだった。


「正直に認めてくれて、ありがとう」


 そこをしっかりと評価するところがセイラさんらしい。

 気のせいかもしれないが、彩子さんの顔がすっきりしたように見える。

 セイラさんが問う。


「どうして東堂さんを殺そうと思ったのですか?」


 彩子さんが答える。


「沙織さんとは小学校の低学年の時に知り合ったんですけど、四年生の時、忘れ物を取りに戻った放課後の教室で、クラスの女の子の机の中に、面白そうな本を見つけて、それを忘れ物と一緒にカバンの中に入れてしまったんです。それを沙織さんに見られてしまって――」


 そこで後悔をにじませる。


「お金は持っていたのに、いえ、お小遣いがなくても、本だったら親に頼めば買ってもらえるんです。それなのに盗んでしまいました。本当に、自分でも、どうしてあの時そんなことをしてしまったのか、今でもよく分からなくて、ずっと、あの日、あの時に戻れたらって――」


 小学生の頃のまま、時が止まっているかのように見えた。


「みんなから泥棒だと思われるのが怖くて、いえ、実際に盗んでしまったのだから、ちゃんと謝ればよかったのに、それも怖くてできませんでした。後は沙織さんの言いなりになるしかなく、中学も、高校も、沙織さんと同じ学校に進学しました――」


 いいようにコントロールされてしまったわけだ。


「それでも大学受験を頑張って、そこでようやく決別することができたと思ったら、黙って別の大学を受験したのが気に入らなかったみたいで、脅迫がエスカレートしてしまいました。といっても、夜中に買い物に行かされるとか、そんなことなんですけどね――」


 そんなことと思えること自体が痛々しい。


「でも、どこで聞きつけたのか、私が同じ高校に通っていた男の子から告白されて付き合い始めたのを知って、『別れるように』と命令された時、この先の人生も上手くいかないんだと思って、それで殺そうと思ったんです」


 他人からすれば、「なんでそんなことで殺したのだろう?」と思うことも、当事者には深刻な問題だったりするのが人間だ。僕は殺人犯である彼女に掛けてあげる言葉が見つからないけど、セイラさんは違った。


「それを洗いざらい、正直に打ち明けてしまったということは、彩子さん、あなたは自殺しようとしているのではありませんか?――」


 彩子さんが真っ直ぐにセイラさんを見つめる。


「榎下さんがカメラ機能のない携帯電話で警察に連絡してくれました。警察に通報したというのは嘘だったんですよね? 今から通報して、死ぬつもりだったのでしょう?――」


 セイラさんが歩み寄り、彩子さんの手を取る。


「せっかく知り合えたのに、あなたの悩みや苦しみに気づいてあげられなくて、ごめんなさい。でも、私と出会ったからには、絶対に自殺はさせません。裁きを受けて、罪を償ってください。それまでも、それからも、あなたを一人にはさせませんからね」


 彩子さんの目から涙が溢れる。


「始めから聖羅さんに相談すればよかった。そうすれば、殺さずに済んだのに……」


 そこでやっと人殺しの過ちを後悔するのだった。


「彩子ちゃん、ごめんね――」


 そこに西方さんが現れた。


「お世話になってたのに、浅い付き合いしかできなくて」

 と言って、涙ながらに抱き合うのだった。


「私もずっと側にいるからね」

 と北条さんも抱き合う二人を抱きしめる。


「私も力になるから」

 と南郷さんも輪に加わった。


 それをセイラさんは学校の先生のような顔で見守るのだった。



 直後に警察が到着して、すぐに聴取が行われたが、彩子さんが自首をしたので、日が沈む前に解放してもらえた。だから帰り道も新緑を仰ぎながらドライブすることができた。


 車を運転しながらも、僕は考えていた。それはやはり僕が探偵だったら、彩子さんを追い詰めるだけで、セイラさんのように自首させることはできなかったんじゃないかと。


 彼女に対して責任を持つようなことは言えないし、警察が来るまで逃げられないように監視するだけで、セイラお嬢様のように寄り添うことはしなかっただろう。


 それだけに、セイラさんの温情に甘えてはいけないと思っている。優しさや気遣いを受けて当然と思ってはいけない。毎日が当たり前というわけではなく、一瞬一瞬が特別なのだ。


 暗闇の中で一緒に眠ってあげることくらいしかできないけど、僕にだってセイラお嬢様を一人にさせないことはできるはずだ。後部シートで居眠りする彼女を見て、そんなことを思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ