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走る少女と、うるさい日常  作者: EternalSnow


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5/9

不穏

 空気が重い。

 ピリピリとした張りつめた空気。

 そして、もうインターハイは直前。一ヶ月を切った。

 最後の追い込み。

 自然と、出場選手である先輩たちは、気合が入ってるように思える。


「ラスト! 気合入れてけ!!」

 先生の怒号に、応え、先輩たちは加速する。

 仕方なく、私も加速していくが、私に近づいていた先輩たちはドンドン離れていく。

「う、わぁああああ!!」

 叫び声のような雄たけびに、呼応するように足音が響く。



 好きで走ってるわけじゃない。

 タイムが縮むのは楽しいけど、どこかツマラナイ。

 そんな毎日を過ごし、漠然とした朝練が終わり。

 ロッカーそのものがなくなっていた。


「は?」

 声が出た。

 南京錠を何度も殴った跡や、傷だらけのロッカーは理解できたが、

 ロッカーそのものを奪うとは思ってはいなかった。

 

 

 

 

 

「もう、隠してあげられないか。

 いやだなーもう」

 明確に沸いたのは、邪魔という感情だった。

 毎日、毎日。

 何もしないから、調子づいて。

 練習もせず、足を引っ張り続けるだけ、引っ張って。

 ほんっと、邪魔。


「ロッカー、返してください」

 

 外に出て、体操服のままの私をあざけり笑う先輩たちの姿に、

 言いたくない、言葉が漏れた。

 

「じゃあ、先輩たちの名前出すわ。

 それで、もうこんな部活止めるから。覚悟しといて」

 血の気の引く音と、生意気だーって言葉の雑音が聞こえるけど、もうどうでもよかった。

 あいつらなんて、もうどうでもいい。

 

 

 はやく、教室に戻りたかった。

 はやく、春香に、あの三人組に会いたかった。

 

 

 

「ユーカ……どうしたの?

 なにか、あったの?? 怖い顔してるよ?」

 すぐ、春香は私の状態に気づいてくれた。

 笑顔がすぐ曇って、心配した表情になってしまって、少し、申し訳ないけど。


「ううん、なんでもないの。

 ごめんね、インターハイ。出ないことにした」

「「「「「ええええ!!?」」」」」


 教室で叫び声が轟いた。

 というか、私たちの会話みんな聞いてたんだ。

 意外だ。


「はぁ? なんで、どうして?? はぁ??」

「藍原さん、どうして? 頑張ってたのに!?」

 心配するように近づいてくる友人たちのようなモノ。

 クラスメートたちは、雑音をわんわん言うが、聞きたい人の声は、沈黙を保ったままだ。

 春香は、難しそうな表情のまま、周りに声をだした。


「私たちの会話だから! 邪魔しないで!

 でも、みんな言うことは最もだよ。

 どうして? 毎日朝練、頑張って来てたじゃん!」


 その言葉と同時に、結局春香もみんなと一緒だと思えてきた。

 なんだろう、裏切られた。そんな感覚。


「なんかね。疲れちゃったの。

 理由は、ごめん。まだ言えないかな」

「そう、なの?

 でも、毎日辛そうにしてたのは知ってた。

 でも、あんなに頑張って、走ってたのに。ホントにいいの?」

 すごく泣きそうな顔で、春香は言う。

 でも、春香の中の私は、そんな特別な人だったとわかって、少し困ってしまう。



「はっ? らしくねえなー藍原」

 言葉にしたと同時に、座間くんが困った顔で近づいてくる。

 なんだろう?

 何の雑音を叫ぶのだろう??

 結局、彼らも他の人と一緒なのだろうか??


「そうだね。座間の言う通りさ。

 何もせず、泣き寝入りなんてらしくない。

 僕たちなら、いつでも準備できてるのに」

「ああ、俺たちにしたように、相沢さんと共に向かえばいいだろうに」

 意味が、わからない。

 なんで? 泣き寝入り??


「着替え、捨てられたんだろう?

 なら、保健室に向かって事情を説明するだけでもいい。

 制服は貸してくれるだろうし、言いにくいなら俺たちの性にすればいい」

 は? あ、そうか。今、私体操服……。

 しかも、カバンも何も持ってない。

 

「そんなの、友達に、そんなことできるわけ……」

「なら、そんなこと言わなくていいし、

 復讐したいわけでもないんでしょ?」

 新田くんがふふふっと笑いながら言う。

 目が、全く笑っていなかった。

「それは……」

「女性は陰険とはいうが、ここまでとは思ってなかった。

 手伝おう。友達だろう?」

 手を差し出す金川くん。なんだろう。

 どうして、こんなにも胸の奥が暖かいのだろう?


「ダメ、お前らだけは絶対ダメ。

 いい? こいつらに手伝ってもらうだけじゃダメ。

 わたしも行くからね。

 後で、洗いざらい、吐いてもらうからね」

 むっとした表情で、春香が近づいてくる。

 握りしめていたのか、何かが砕け散る音と共に、私と三人組の血の気が引く音がした。

 

 

 

 

 

 結局。

 お咎めはなかったし、インターハイには出場した。

 先輩たちは、反省はしてるけど、多分またやらかすような気がする。

 でも、もうどうでもいいかな。

 

 先生たちの説得と、春香たちが走る姿を見たいと言ってくれたから。

 私は、自分のために走れる。


 そして……。

 並みいる強豪をぶっちぎり、中学生女性の学生記録を叩き出して私は優勝した。

「ユカリーーン! おめでとーー!!」

「「「ゆっかりーんwww」」」



 でも、この人たちがいるなら、私はもう大丈夫。

 そう、思えた。

 

 

 

 ……それはそうと、半笑のバカ三人は、春香と一緒にしばくと決めた。

 みんなのところに戻ると、三人の頭には大きいたんこぶがあって、笑ってしまった。

 まったく、この人たちは……。


「ありがとう」

ここで本編終了となります。


続きは、後日談や差し話となります。

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