8.傀儡遣い ルジャミルトルテ
爆音が耳をつんざく。
それまで視界のいたるところにあった、壊れた人形たちが私たちに襲い掛かってくるのが見えた。
部屋に積り重なっている人形の山も、壁一面を埋める人形の山も、全てが弾け飛ぶ。
思わず部屋中が爆発したかのような錯覚にとらわれる。
ハルキさんは私の腕をつかみそのままバックステップを取る。
先ほどまで私がいた場所を壊れた人形たちが襲う。一体の壊れた人形が私たちがいた場所の地面にぶつかり潰れる。さらに次の一体がぶつかり潰れる。ぐちゃりぐちゃりと音を立てて人形の跡形もない、塊が出来上がる。
私を連れて逃げながら、ハルキさんは傀儡遣いに魔法を放つ。しかし人形が盾となり、傀儡遣いへは届かない。しばらくすると傀儡遣いは人形の壁に隠れ、完全に見えなくなった。
「もう、大丈夫です。自分で、避けっ、られます!」
「わかった。お願い!」
この人形たちの攻勢をハルキさんのサポートなしで一人で避けられるか本当は心配だが、いつまでも私に構ってもらっていてはハルキさんが自由になれない。
私を一瞥し、ハルキさんが駆け出す。榴弾矢を傀儡遣いが作った壁に向けて放つ。爆音が響き、人形を吹き飛ばすが、壁を削るだけにとどまる。それもすぐに他の人形たちが壁を補強するように集まってきて元通りとなってしまった。
「くっ…」
さすがのハルキさんも憎々しい顔をしている。
それでも攻撃の手は緩めず、弓と魔法が途切れることはない。しかしそうすると人形たちのほとんどがハルキさんへと襲い掛かるようになる。
きっと私に敵が来ないようにしてくれてるんだ。
ハルキさんにほとんどの人形たちが襲い掛かっているので、私にくる人形はそこまで多くない。それでも私は必死になって避けなければならないが。
人形が塊となって破城槌のような形となり、ハルキさんの側面に迫る。ハルキさんはそれをその場でひねりながらジャンプし、迫りくる破城槌の打面に着地する。その勢いを吸収し、瞬時に開放し、一気に跳躍。その場から距離を放した。
勢いののった横方向の跳躍は、ハルキさんの体を一気に壁際まで運ぶ。
壁にはぶつからなかったものの、着地の際に勢いを殺しきれず、しゃがんだままの姿勢で数m後ずさる。そのままクラウチングスタートの姿勢をとり、一気に傀儡遣いが作る壁に加速を掛ける。
しかし、それは出来なかった。
壁際から生えた人形の手がハルキさんの足首を掴む。全力の前進をしようとしたところを阻まれたことで、つんのめるように姿勢を崩した。
人形たちはその隙を見逃さない。
人形たちが一気にハルキさんを囲い込み、人形のドームが形成される。私の視界から完全にハルキさんが消えた。ハルキさんが見えなくなっても人形たちは重なり続ける。ぐしゃりぐしゃりと人形がつぶれる音が響く。
「ハルキさんっ!」
人形のドーム内部から爆音が響いた。
そして噴き上がる煙と、そこから飛び出す人影。ハルキさんだ!いくらかダメージを受けているようだが、健在な姿が見えて少し安心する。
ハルキさんはドームから飛び出すと、傀儡遣いの壁に一気に迫る。ほぼゼロ距離となったところで、壁に榴弾矢を放つ。
一気に壁を削る。壁の向こうがちらりと見えた。しかし爆風でハルキさんの体勢は崩れており、その壁の穴に飛び込むことはできず、その間に人形たちが穴を塞いでしまう。
「ちっ…!」
流石のハルキさんも、苦々しい表情で舌打ちをしている。
ハルキさんは私の方をちらりと見ると、私から離れるように一旦距離を放し、人形たちを誘導する。集まった人形たちに、先ほど小型人形に使ったネットの魔法を打ち、足止めをする。
その隙に、一気に加速し私のところへ戻ってきた。
「ハルキさん、これを!」
私はハルキさんにポーションを使うと、ハルキさんはふぅっと息を吐く。
「ありがとう。時間がないから手短に。状況がかなり悪い。なんとかあの壁に穴をあけるから、プラムさんにあいつを狙ってほしい。あの矢ならいけるはずだから」
「そんな!ハルキさんじゃなきゃ無理ですよ!私がなんとか、死んででもあの壁に突っ込んで穴を開けますから!」
「ダメなんだ。もう、弓が、ね」
ハルキさんの弓はもうぼろぼろだった。さっきの人形ドームから脱出するときと、傀儡遣いの壁への至近距離からの射撃により、壊れる寸前となっている。
「さっきの感じからすると、至近距離から2発撃ち込めれば壁を突破できると思うんだ。でもそれでこの弓は壊れる。だから、止めはプラムさんにお願いしたい」
ハルキさんの真剣な目。声。
ハルキさんはまだ諦めていないし、私のことを信頼してくれている。
時間はない。悩む暇なんてない。
「わかりました。私、やります!」
私がそういうと、ハルキさんは満足そうに、笑顔でひとつ大きく頷く。
私の弓を持つ手に力が入る。
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「行くよ!」
出来る限りのバフを掛け、準備を整える。
ハルキさんが足止めした人形たちも、もうすぐネットから出てきそうだ。
ハルキさんが一気に走り出す。
左手のグローブが光り、突風が正面にいた人形たちを数体吹き飛ばす。
私はハルキさんから少し距離とり、後ろをついていく。後ろから見るハルキさんの背中が今まで以上に頼もしく見えた。
迫りくる人形たちを魔法で薙ぎ払い、剣で斬り捨て、傀儡遣いの壁へと距離を詰める。
さっきのネットが破られたのが視界の端で見えた。迫ってくる人形たちの数が一気に増える。
しかし、こちらのが一手早い。
ハルキさんは傀儡遣いの壁の直前に辿り着いていた。
ハルキさんが榴弾矢を2本いっぺんに弓につがえる。
「『ダブルショット』!」
放たれた矢は、瞬時に傀儡遣いの壁に突き刺さり今までよりも一層大きな爆発となった。
ハルキさんがそこへ風魔法を放ち、黒煙を飛ばす。
見えた!
傀儡遣いの壁に開いた穴の向こう。
そこにあの傀儡遣いの姿が見えた。
私はクロスボウを構え、傀儡遣いへと照準を定める。
私は、ハルキさんの信頼に応えたい!こいつを倒して好きって伝えるんだ!
引き金を引く。
撃った瞬間に命中を確信した。
吸い込まれるように榴弾矢が傀儡遣いへ向かい、撃ち抜―――
けなかった。
横やりによって阻まれる。
さっきハルキさんが戦闘不能にした弓人形。
もう弓を射ることはできないその人形が、身命を賭して主を守った。
弓人形は、傀儡遣いへ迫る榴弾矢に飛びかかり、方向をずらすと抱えこんで己の体と交換で爆発の威力を押し殺した。
弱まった爆発が傀儡遣いを襲うが、まだ生き残っていた。
「ワタシの邪魔をすルナと言っているだろウガ!」
傀儡遣いが吼える。
「なっ!」
まさかの出来事に呆然とする。
そんな私に人形たちが襲い掛かってくる。
「プラムさん!」
ハルキさんの声で間一髪、襲い掛かってくる人形たちを躱す。
「まだだ!」
ハルキさんは諦めていない。
だから、私も諦めない。
残る榴弾矢は1発。必ず。当てる。
私は走り出す。
ハルキさんが開けてくれた傀儡遣いの壁の穴はじわじわと閉じていこうとしているが、まだ私なら通れる。
壁の前にハルキさんがいる。私を見ている。私の後ろから迫る人形たちを見ている。
ハルキさんの元へ辿り着く。私は止まらない。
一気にすれ違う。
すれ違う際にハルキさんの声が聞こえた。
任せたよ。
任されましたとも!
後ろでぐしゃりぐしゃりと大きな音が聞こる。
私は振り返らない。
私が見るのはあいつだけだ。
傀儡遣い。あいつの周りにはもう人形はいない。
私はステータスの限界まで加速するように足を動かす。
傀儡遣いまで10m。
このスピードなら一瞬の距離だ。
そして最後のダメ押しだ。
「『エアロシュート』!」
私は左手を、自分の後方の地面に向けて放つ。
ノックバック効果のある風は、地面を押しそれでも勢い止まらず、私は傀儡遣いに向かって吹き飛んで行く。
吹き飛ばされる不安定な姿勢のまま、私は榴弾矢を右手に構える。
撃つ?そんな不確実なことなんてしない!
「フザケるな!ワタシは、ただ彼女を―――」
「!うわあああぁぁぁぁぁぁあああああああ!」
絶叫と共に、私は傀儡遣いの体に榴弾矢を突き立てた。
視界が爆炎に包まれた。
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『傀儡遣いの工房主 ルジャミルトルテを討伐しました。
ダンジョンクリアです。
MVPはプラムです。』
へぇ、あいつそんな名前だったんだ。
爆炎で視界はチカチカするし、耳は爆音でキーンとするし、爆風で体はゴロゴロ転がるし、一瞬意識が飛んだ気もする。
アナウンスはまだ何か言っていたが、どうでもよかった。
システムメッセージのログアウト推奨ウィンドウをキャンセルして消すと、私は体を起こす。
アナウンス通り、あの傀儡遣いはもういなかった。
さっきまでそこかしこでうごめいていた人形たちも、動きを止めている。
「ハルキさん!」
私はハルキさんがいたあたりに目を向ける。
ハルキさんの姿はなかった。
パーティリストを確認する。ハルキさんの所在地が、エルルカ村となっていた。
ハルキさんはあの時、私の後ろを追ってくる人形たちの足止めをしてくれたんだ。
その信頼が嬉しくも、死に戻らせてしまったことを申し訳なく思う。
私はすぐにパーティ会話で声をハルキさんを呼んだ。
『ハルキさん!』
『プラムさん。えっ…と、そこから話してるってことは』
『はい!倒しました!ハルキさんのおかげです!』
『っ!よかったぁ…』
『ん?ハルキさん?』
『あ、ごめんね。プラムさん。ダンジョンクリアすると、ポータルがでるはずなんだけど、あるかな?エルルカまで戻ってこれるはずだよ』
『あ、ありますね。わかりました。戻ります。ちょっと待っててください』
私は一瞬感じた違和感を押しとどめ、ポータルへと進んでいく。
周りを見渡すと、さっきまでの喧騒が嘘のように静かだった。
ポータルに触れる。
『傀儡遣いの工房を復活地点に登録しますか?YES/NO』
そんな表示がいきなり出て驚き、思わずYESを押してしまった。
「あぁあ!なんだこれ!」
そしてYESを押した自分の手を見てさらに驚く。
そこにはさっきまで傀儡遣いがつけていたグローブがつけられていた。
「えっ!?なにこれ。え?え!」
私はとにかくハルキさんに会わなければと、ポータルからエルルカ村へと飛んだ。




