64.年末といえば
忘年会も解散し、私とアヤナはアトリエ・パペットへと帰ってきた。
「こっちのいいところは、いくら食べても太らないことだよね」
「つまり向こうでは豚のように肥えていると」
「そんなことないよ!」
忘年会とか送別会が続いたせいで、ほんのちょっと体全体がむくんでいるだけだ。
体に入ったお酒が抜ければ元に戻るはずなので、決してぜい肉ではないのだ。
「ところでBCPに変わる、操者の切り札は考えているのですか?」
「んーん。まったく」
私は首を振って答える。
そこが悩みどころなのである。せっかく名案だと思ったBCPがさっそく使えなくなってしまった。
それでも私の人形は他の人形遣いに比べれば強いらしいので、戦力としてはそれなりにあるが、あれの後だとどうしても物足りない。
あくまで想定はアヤナが行動不能になった後なのだ。
当然生半可な敵じゃない訳だし、簡単に勝てる相手でもないだろう。
そこにプレイヤーと同じか、ちょっと強い程度の人形を6体呼んでも劇的な形勢逆転となるかはちょっと疑問だ。
「まぁ、まずは地道に私とアヤナと人形たちの強化かな?」
私たちの武器や防具の強化、人形たちにもせめて6体分は最低限用意しておきたい。
そのあとはスキルの強化かな?
気付いたらレベル50になってたから、これから先はかなり上がりにくくなるって話だからレベルアップによる強化は期待しないでおこう。
「では今日は何からやるので?」
「年末といえば?」
「まさか」
明日やろうはバカ野郎ってのは身に染みてわかったよ。
だからもう言わせない。
さぁ、ずっと後回しにしていたこのアトリエの片づけをやるよー!
大掃除だ。
とりあえず壊れた人形の山から、直せば使えるもの、パーツだけ抜き取るもの、廃棄するものと分けていく。
今残っているものは殆どが廃棄するもので、直せば使えるものは1割にも満たず、抜き取れるパーツもあまりない。
ぶっちゃけまとめて廃棄したいが、先日サンタに壊された分の補填はしておきたいので、仕方なく地道に仕分けを進めていく。
「こんなものありましたか?」
そういってアヤナが持ってきたのは、不思議な形の人形素体だった。
残っているのは胴体と頭だけ。四肢はすでに壊れたのか元からなかったのか。
しかしその胴体は他のどの個体より大きく、厚い。この胴体に合わせた四肢を取りつけたら全長5mくらいのかなりの大型になりそうだ。
「私も初めて見た型だね。なんか使えそうだから取っておこうか」
巨人型の人形って作れるのかな?使役する時のSPコストが増えそうだけど、一体くらいならそこまで増えないんじゃないかな。
しかし、こんな目立つ形ならもっと早く見つけていそうなものだけど、どうして今まで見つからなかったんだろう?
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「あらかた片付いたね」
「広くなりましたね」
隅に置いていたとはいえ、かなりの量だった人形の山がなくなったことで、元々広かったこの工房の広さを再確認する。
「逆に殺風景だよね」
「アトリエ、というくらいですから作品でも展示してみれば如何で?」
作品と言っても、私の作ったものは木彫りの熊か人形くらいなものだ。
人形を並べるのは、マネキンを並べるみたいでなんだか落ち着かないし、木彫りの熊は論外だ。
絵画とかだったら無造作に置いてあってもオシャレ感あるんだけど、私にその手の才能がないのは知っての通りだ。
「クレスみたいに、センスのいい置物とか並べられたらなぁ」
クレスのお店、ヴォワ・ラクテは全体が欧風アンティーク調でまとめられていてとってもオシャレなのだ。
砂糖瓶とかも天使のレリーフがついていたり、細かい所まで抜けがない。
私が家具とかインテリアとかを選ぶとどうしても機能優先に考えちゃって、男っぽい雰囲気になっていしまうのだ。
…そんなところが女子力低いって言われる原因かな?
とりあえず内装については徐々にやっていこう。
気に入ったものがあったら買って、少しずつ飾っていけばいいのだ。
そしてどうしようもなくなったら、クレスに頼もう。
「よっし、オッケーだね」
「お疲れさまでした」
広くなった部屋で、アヤナの淹れてくれたコーヒーを飲む。
お、今日はチョコブラウニーまであるの?
「先ほどイザヤ様に教えていただきながら作ったものです」
私たちの忘年会の裏で、そんなことしてたのねー。
ふむふむ、ちょっと甘めだけどこれはコーヒーと併せて食べるように、甘めにしてるのかな。
かなり私好みだね。またリピートしたいかも。
「他にもいくつかレシピを教えて頂いております。時間さえあれば作れますが」
「え、ほんと!?」
このチョコブラウニーもこれだけ美味しかったのだ、他のレシピもきっと美味しいに違いない。
ここは是非作って貰おうじゃないか。
「じゃあ、アヤナはしばらくお菓子作りに専念してていいよ。
私はその間に、錬金用の材料を採取してくるよ」
採取用の人形を連れていけば、そんなに時間も掛からないだろう。
アヤナが一緒だと不服そうにするから、こんな時のほうがむしろ都合がいい。
「かしこまりました」
「じゃ、よろしく。いってくるね」
アヤナが一礼し、私はそれを確認してポータルに乗り込んだ。
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「さてと」
ポータルを出た先はアーファン大陸の王都だ。
ベティタ諸島の方でも採取は出来るんだけど、あっちはちょこちょこやってたからね。
たまにはこっちで、向こうじゃ取れない素材を集めたい。
ちなみに今日の私の格好は、ファンタジーアレンジの大正ロマンコーデだ。
白がベースで臙脂色の花柄が淡目に入った着物に、紫色にちょっと紺色の入った袴。
着物の方は動きやすさを考えてか、振り袖は短めで伸縮性のある素材で織られている。
袴もあまりダボっとしておらず、こちらも戦闘を考えた加工がされてるようだ。
靴は敢えて、軍靴っぽい革靴。グローブの違和感を抑えられるようコーディネートした結果だ。
さて、どうして私がこんな格好をしているかというと、それはあのPVのせいだ。
あのPVの所為でツナギエルフが私というのがあまりにも広まりすぎた。
なんなら私の後追いでわざわざツナギ着る人も現れたくらいだ。
私としては、ツナギってそんなにいいかなぁ?と思うけど、他人の趣味に口は出さない。
脱線した。話を元に戻そう。
ワールドクエストの直後もそうだったけど、今回はもっと状況が酷い。
どうやら私を探している人たちもいるらしく、掲示板には私の捜索板まである始末だ。
という訳で、今や私はまともに街も歩けない状態なのだ。
そうして行きついた先が、このファンタジーアレンジ大正ロマンコーデだ。
中途半端に格好を変えてもすぐばれてしまう、特に先日来ていたクラシカル冬コーデは一瞬で捕捉される、のでいっそ全く毛色の違う衣装を着ることで、周りの目を欺くことにしたのだ。
まぁ、これも数日したらすぐにバレるようになるんだろうけど、とりあえず今のところは大丈夫だ。
「さて、じゃあ今日は北側行こうかな。人形は…着いてから出した方がいいね」
準備を済ませて王都北側の門へと向かう。
この先は大きな湖があって、その先は湿地になっていたはずだ。
湿地帯に生息している草花は、薬草にすると状態異常回復の薬効を持っているものが多い。
錬金でも結構使う頻度の高い素材だから、この際沢山集めておこう。
と。
「もう一人くらいいたほうがいいんじゃない?」
「そうは言っても募集掛けても集まらなかったんだろ?」
「俺はどっちでも構わない」
「あたしもー」
「リーダーは用心深いッスね」
「最近PKが頻出してるって言うしね。用心に越したことはないでしょ」
北門の手前で五人の男女が何やら話をしていた。
ちょっと揉めてるの感じかな?私は殆どソロ、といってもアヤナはいるけど、なのでそういうパーティー内の揉め事とは無縁だ。
寂しくなんかないよ?いや、ほんとだよ?
「じゃ、オレが声掛けてくるッスよ。そんで六人なったら出発すんのはどうッスか?」
「それなら…」
「みんなもいいッスね?」
なにやら向こうのパーティーさんは方針が決まったようだ。
まぁ、ここで揉めてたって仕方ないしね。行くなら早くいった方がいいと思うし。
じゃあ私は一足お先に出発させてもらいま―――
「おねえさーん、今ちょっと暇ッスか?」
「え?」
掛けられた声に振り向くと、そこには何ともナンパな雰囲気をした忍者が立っていた。




