40.衰退
遥か昔、世界は一つの大陸だったが、神の逆鱗に触れ、5つの大陸に分かれた。
その中でもイプシリム大陸は圧倒的な科学力を有している国であった。
しかしイプシリム大陸が他の4大陸と違っていたのは神の行った行為に対する考え方。他の4大陸が神に対して反感を抱く中、イプシリム大陸はそれを受け入れた。そして4大陸が神への反抗手段を考える中、自分たちの科学力が新たな争いの火種になることを危惧し、大陸ごと海中へと沈んだ。
そしてその後は積極的に地上と関わることはなくなり、次第に地上の人々の記憶からも消えていった。
「そんな真実があったとは」
ちょっとこれ知恵梟のシューくんとかに教えたら大変なことになるんじゃない?
「ただ、それで終わりじゃなかったんだ」
海底へと潜ったイプシリムの人々は、後世の人が再び地上に戻らないように、そして過ちを繰り返さないように、技術を衰退させることを決めた。
新技術の研究は禁止され、維持のみが許された。
また、人の考えることでは間違いが起こりうると、国の運営にまつわることを決定する機関として【DEPTHS】を作製した。これは所謂人工知能で、7体の異なる人工知能が協議を行い国家運営を行っていくという。
それにより、イプシリムは発展することなく、ゆるやかな衰退の道に進んでいる。
「ディストピアだなぁ」
思ったより暗い世界なんだなぁ。
ぱっと見は悲壮感とか感じない街並みだけど、今の話を聞いた後だと人工知能に管理された窮屈な街並みに見える。
「それで自動人形はどう関係してくるので?」
アヤナの興味はやはり自動人形に関することのようだ。やはり自分の出自に関わることには興味あるのだろう。
「自動人形は100年以上前に密かに研究されていた技術だ」
元々人形については研究が許されていた分野だった。
それは人の代わりに働くものとして。自分たちの生活を豊かにするものとして。
しかし人は考えてしまった。もし自分の意識をこの人形に移し替えることができたとしたら。
不老不死。
物語の中にしかないと思われたそれを夢見てしまった。
研究は密かに行われた。知られれば間違いなく禁忌とされ、研究は即時中止、研究所も解体されるのが目に見えたからだ。
何十年もの間研究が続けられ、様々な試験体が作られた。時に自分の身を使って試験を行う研究者も現れた。
しかし、それは叶わなかった。
研究者たちは自分たちのもつ科学力だけでは、限界があることを悟った。
あるいは地上の魔法や、イプシリムにはない技術を用いれば可能性はあるかもしれなかったが、それは不可能なことだった。現に地上へ技術を探しに行くといった研究者は、その後戻っては来なかったという。
そして時を同じくして、その秘匿されていた研究が露見された。
もしかしたら悲嘆にくれた研究者の一人が自白したのかもしれない。あるいは全ては【DEPTHS】の手のひらの上だったのかもしれない。
それ以降、自動人形の研究はおろか、人形に関する研究、使用が認められなくなった。
「なるほどなぁ」
だから、ここでは人形を見ないわけだ。ってことはあわよくばアヤナみたいな自動人形を探そうと思ったけど、いないってことか。
「もしかすると、その地上に行った研究者はルーくんかもしれませんね」
あ、確かに。
ルジャミルトルテは地上にいって魔法とか錬金術を使って、アヤナの基礎を作ったはずだ。
ということはやってることは間違いではなかったんだねぇ。
「そんでうちの曾祖父さんが、自動人形に関する研究をしてたんだよ」
「あ、そうなんですか?」
「あぁ、あの工房の中でな」
あの大きな工房は人形を作るための工房だったのか。
「表向きは作業用機械の工房だったが、奥では自動人形の研究をやってたんだよ。曾祖父さんは研究が明るみになってから仕事を追われ、それでも諦めきれずにここに自分の工房を持ったんだと」
「ってことはスプロケットさんも人形の研究してるんですか?」
「スプロでいい。そうだ、俺も曾祖父さんの後を継いで研究してる」
「え、でも禁忌なんじゃ」
「俺一人の研究なんてたかが知れてると思われてるのか、見過ごされてるよ」
そういうことですか。
ってことはこの先、プレイヤーが成長して自動人形が作れるようになったり、人形の研究者が増えると、【DEPTHS】から干渉が入るのかな?まぁ当分先の話だね。
「俺の研究も行き詰ってたところでな、そこにアンタたちを見たもんだから…さっきは悪かったな」
「いやいや、事情はわかったのでもう謝らないでください。それで、不躾なんですけど、スプロさんの研究ってどの程度までいったんです?」
その質問をすると、スプロさんの顔が一気に引き締まる。
あ、やば。なんか地雷踏んだかな?
「それはどういう意図で聞いている?」
「操者、迂闊では?まるで産業スパイのような質問です」
「あ、いや、すいません。アヤナのことをもっと知りたいと思っていたので、もし自動人形についてわかることがあれば知りたいなぁと思っただけで…」
「そういうことか。悪い、研究途中の内容ってのは人に明かさないのが研究者の常ってものだから、アンタたちがそういうつもりがなくてもちょっと構えちまった」
研究者が自分の研究内容についてセンシティブになるのは当然だよねぇ。ちょっと軽く聞きすぎた。反省。
「一応大事な研究内容だ。ただでって訳にはいかないが、そっちの自動人形もいるし、俺の研究を手伝ってくれたら、教えてやってもいい」
クエスト:機工研究の手伝い
内容:機工名匠スプロケットに弟子入りし、研究の手伝いを行う。
報酬:機工レベルの解放
「おおおおう」
急に現れたクエストの表示に、思わず変な声を上げてしまう。
アヤナとスプロさんに変な目で見られるが、なんとか平静を装う。
予想してたようにスプロさんは機工関係の人だった。しかも機工名匠ってことは機工版のリーオンさんってことでしょ?めっちゃすごいじゃん!
内容のお手伝いってのがどの程度かわからないけど、報酬の機工レベルの解放は私が求めていたものだ!
これ以上ない条件のクエストに否もなく、そっとYESを選択する。
「是非ともお願いします!」
「あぁ、こっちこそ頼む」
そうして私はスプロさんに弟子入りした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
さて木曜日である。
昨日は結局弟子入りまでして、私の眠気が限界に達したのでそこで解散となった。
本格的なお手伝いは今日からだ。不安と期待が入り混じる。
「こんにちはー」
「お邪魔致します」
スプロさんの工房に顔を出す。
スプロさんは作業中のようで、入って来いと遠くから言われた。
近くに寄って作業を覗いてみる。すると四角い箱を分解しているところだった。
「レンジ?」
なんとなくイメージが声に出てしまう。そうなのだ、ちょうど電子レンジくらいの大きさの箱なのだ。
「ん?よく知ってるな。レンジであってんよ」
合ってたようだ。しかしファンタジーで電子レンジとは。本当にここは科学力が桁違いなんだなぁ。
ってかスプロさん、やってること電気屋さんじゃない?
「一応生活があるからな。こういうのも必要なんだよ」
世知辛いのは現実世界も仮想世界も変わんないんだなぁ。
しばらく待っていると、作業は終わったようだ。やっとスプロさんが私に向き合って座る。
「悪かったな、待たせて。とりあえず仕事を頼みたいんだが…その前にオマエさんの腕をなんとかしないとな」
「あ、これですか?そうなんですよねぇ、医術持ってる人探さないといけなくて」
なんだかんだとそのままにしてしまっていた腕について思案する。王都で医術持ちの人を探す予定だったが、結局できずにいたし。
イプシリムなら科学も発展してるから、医術持ってる住人もいるかな?
ふと見ると、なにやら思案顔でスプロさんが腕を組んでいる。
医術持ちに知り合いがいるのかな?
「ものは相談なんだが」
「なんでしょう」
「ちっと機械の腕にしてみないか?」
は?
「は?」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「俺の研究でな、身体の一部を人形に置き換える、機械化ってのがあるんだよ。こないだようやく実用化にこぎつけてな。ただ実証相手がいなかったんだ」
つまり私に実験体になれと。
正直、私的には惹かれる提案ではある。SF大好きだし、機械の腕とか改造人間みたいで格好よくない?
それに昔ママに見せられた、防殻の主人公は全身義躯で格好良くて大好きだったなぁ。
ただ、ちょっと不安要素もあるわけで。
「それってデメリットあるんですか?」
「あーまぁな。一度機械化の手術をするともう生身の腕には戻せない。ただ使い勝手はいいはずだ。普通の手と同じように動かせるし、ギミックを付けることも可能だ」
ギミックだって!?
「それは隠し武器みたいなことができるってことですか!」
「あ、あぁ。できるぞ」
急に前のめりな私にちょっと引き気味のスプロさん。
私的にはロケットパンチよりも隠し武器とかの方が好きなのだ。
これはもう即決でしょう。
「やりましょう!」
「そ、そうか。こっちとしてもお願いしたいところだ」
あまりの即決振りに驚いているが、私だって現実世界でそんなこと言われたらちょっと考えますよ。ゲームだしね、おもしろそうなことはどんどん挑戦していこう!
「じゃあ機械化について説明していくぞ」
「お願いします」
機械化は主に欠損部位の補修に使われる技術として、スプロさんが実用化までこぎつけたものらしい。
補修するには、人形と同じパーツが必要で、より良いランクの物のほうが元のステータスに近づくという。機械化された身体の部位は、元のステータスまでにしかならないので強化には使えないそうだ。
例えば私の左腕を補修するために、コモンランクのパーツを使うと元の7割くらいの出力しか出ないらしい。ただスプロさんは機工名匠なので、エピックのさらに上、レジェンドランクが作れるらしく、ほぼ元のステータスを再現できるとのことだった。
「まぁ大体こんなところだな。品質については心配するな。俺だって初めての実験を失敗させたくないからな、一番いいもん使ってやる」
そこのところはあまり心配していない。それよりも重要なことはがある。
「あの、できれば腕にギミックを付けたいんですけど。」
そうだ、どんな格好いいギミックを付けるかが重要なのだ。
「どんなのがいい?」
「できればこんなのが―――」
私は言葉と絵を使って、自分のイメージを伝える。
スプロさんは難しい顔をし、アヤナはほほぅと興味深そうな顔をする。
「できないことはないが、材料が足らないな。なんか持ってるか?」
私はイプシリムレガレクスの鱗や触覚、あとゴブリンロードの角とかを出す。
「うーん、これはこれで素材として使うが、他に鉱物素材はないのか?ミスリルとかクロクケイクォーツとかで構わないんだが」
で構わない、とか言われても聞いたこともない素材だよ!あ、でもリーオンさんなら知ってるかな?
「今は持ってないんですけど、もしかしたら友人が持ってるかもしれないのでちょっと聞いてみます」
「あぁ、頼む。それがないと厳しいぞ」
えーっと、リーオンさんっと。
フレンド会話でリーオンさんを呼び出す。
『圏外』
まじかー!
そっか、マイホームじゃないと電波入らないのか。
はぁ、と大きく肩を落とす。
「どうした?」
「いえ、すいません。ちょっとここだと連絡が取れないので、直接話してきてもいいですか?できればそのまま素材も受け取ってきますので」
「あぁそうか。じゃあ行ってこい」
よし、じゃあ久しぶりにリーオンさんの工房へ行こう。
あっと、その前に。
「あの、スプロさんって銃って作れます?」
「銃だと?」
「えぇ、今から会いに行く友人が銃を作りたくて仕方のない人なんで」
「作ることは可能だな」
やった!これでちょっとお願いしやすくなった!
「ただイプシリムじゃ、作成禁止だがな」
それは聞かなかったことにしておきます。
防殻自衛隊
自衛隊に所属する秘密組織 特務緊急課、通称急課を舞台にしたSFアクションアニメ。
国防のためには合法・非合法を問わず任務にあたる者たちの物語。
課をけん引するのは傭兵上がりの、御剣素子。通称少佐。義躯と呼ばれるサイボーグ化手術を全身に行っており、脳以外は全て作りものになっている。
心臓まで義躯の身体に、愛国心は宿るのか。




