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3.ナンパ?いいえチュートリアルです。

今日からは1話ずつの投稿です。

 教会から出た私が最初に見たのは大樹だった。いやおそらく大樹なのだろう。

 直径が30mを超えているだろう幹はもはや壁だ。枝葉は遥か上空に見える。

 振り返ると出てきたはずの教会の扉はなくなっていた。もうあのシスターさんには会えないのかと思うとちょっと寂しかった。

 そよぐ風が緑の香りを含んで、仮想世界とは思えない現実感があたりには漂っていた。


 周りを見渡すと、木で出来た小屋がちらほらとあり、私と同じエルフがちらほらと見受けられた。

 どうやらここはエルフの村で、初期スポーン地点のようだった。

 流石に発売半年ともなると、私みたいな初期装備のあからさまな初心者はいないようだった。


「こんにちは、旅の人」

 はぁ~と口を半開きにしながら、現実と変わらない仮想世界をキョロキョロ見回しているといきなり声を掛けられた。

 声の方を振り向けば、そこには整った顔立ちのエルフの男性が立っていた。

「この世界へ訪れたばかりだろう。この世界と、この村について説明するが、どうか」

 おおう、いきなりナンパか!これが美形化効果か!と思っていると、ピコンと視界の端に表示が出た。


 クエスト:チュートリアル(エルフの村)

 内容:チュートリアルを受ける

 報酬:500z、初級ポーション


 ただのチュートリアルでしたか。そりゃそうですよね。

 せっかくなので受けますけど。


「あ、それじゃあお願いします」

 相手がNPCだと分かっていてもイケメンだと緊張する。ちょっと目を見て話せない。

「それでは案内しよう」

 そんな私に構わずエルフの男性は村の中へと進んでいった。


 彼の名前はトリエルというらしい。

 身長は私がちょっと見上げるくらいだから、180cmを超えたくらいだろう。見た目は30手前くらいの感じだけど、エルフって長命っていうよね。何歳なんだろ。

 彼は私たちプレイヤーが来るとこうやってチュートリアルとして村中を案内するらしい。

 メタな話をすれば、彼一人でエルフのプレイヤー全員を案内しきれるとは思えないので、きっと何人かいるのだろう。


 彼の案内で、村の中の武器屋や道具屋、村長の家などを回った。

 ちなみにここはベティタ諸島の中の通称エルフ島。その中のエルルカ村だ。

 島全体が殆ど森で出来ており、この村以外にも多くのエルフの村があるらしい。

 エルフの多くがこの森で狩猟や採取をし、生活している。

 エルルカ村には出入り口が東西に二か所あり、そこから出るとモンスターの出現する、いわゆる戦闘フィールドだ。チュートリアルではそこまでいかないらしい。

 あとはステータスウィンドウの出し方と簡易鑑定のやり方も教えてもらった。

 ステータスウィンドウは左手の親指と人差し指でL字を作るとそこの頂点としたA4サイズの半透明の画面が現れる。そこでステータスやクエストの進捗状況などが確認できた。

 簡易鑑定は親指と人差し指で丸を作りのぞき込むと出来る。

 例えばこれで今着ている服をのぞけば、


 旅人の服

 旅人がこの世界に訪れた時に来ている服

 防御+1


 こんな風に情報が見れるのだ。

 まぁこれが人のアイテムだったり、高レベルのものだったりすると殆ど何もわからないらしいけどね。


 最後に連れてこられたのは冒険者ギルド。この手のゲームではよくある施設だ。

「君たちの身分を証明するために、ギルドで冒険者登録をしてもらう。それを行わない場合は村に滞在できないので注意するように」

 余程の縛りプレイでもしない限りここで登録しないってことはないだろう。


「さて、これで一通りまわったな。あと分からないことはギルドでも聞くといい。よき旅を」

 そういうとエルルカさんはさっさと話しを切り上げてどっかにいってしまった。ドライだなぁ。

 すると視界の端でピコピコ光っているポップアップがあった。

 私はステータスウィンドウを開くと、光っているクエストの項目を操作する。


 クエスト:チュートリアル(エルフの村)【完了】


【完了】の押下してクエストを完了させる。

 チャリンという音と共に、クエスト報酬である500zとポーションが獲得できた。


 さてと。

 せっかく冒険者ギルドの前まで連れてきてもらったのだ冒険者登録をしよう。

 冒険者ギルドは木造の建物で、村長の家の次に大きな建物だった。

 木製の大きな両扉を開けて中へと入る。

 中はいくつかのテーブルと、その奥にカウンターがあった。

 あれ、意外なほどがらんとしてる?

 カウンターにはエルフのお姉さんがおり、受付係をしているようだった。

 それ以外にはテーブル席に一人で座っているエルフの男性が一人いるだけだった。


 とりあえず私はカウンターへと向かい、エルフのお姉さんへ冒険者登録したい旨を告げる。

「冒険者登録ですね…どうぞ、こちらで完了です」

 という随分とあっさりドライな対応で冒険者登録が済んだ。

「クエストの受注については、クエスト掲示板を利用するか、ステータスウィンドウのクエスト項目から受注してください」

 なるほど。別にここに来なくてもクエストは受けられるのね。

 わざわざここに来なくてもクエストの受注と報告が出来るなら、ギルドの中がこんなにがらんとしてるのも納得。いちいちここまで来なくていいならその方が効率いいもんね。


「ねぇ、君」

 私が一人納得して、カウンターの前で立っていると後ろから声を掛けられた。

 そこに立っていたのはまたしてもエルフの男性。

 おや、またしてもチュートリアルですか。こんどはクエスト関係とかかな?

 などと考えながら、話しかけてきたエルフの男性をまじまじと見てしまう。チュートリアルNPC2人目ともなれば緊張感も薄れる。

 先ほどのトリエルさんよりちょっと背は低い。175cmくらいかな。ちょっと中性的な印象がしたのはちょっとハスキーな声の感じからか。

 トリエルさんはいかにも村人っぽい服装だったけど、この人は動きやすそうな服に弓を背負って短剣ももってるね。まるで冒険者みたいだ。

 ん。冒険者?


「急に声かけてごめんね。君、初心者だよね?」

 ほわー!NPCかと思ってたらプレイヤーでしたよ!

 リアルすぎるのもこういうとき困るよね。うわーまじまじ顔とか見ちゃったよ。ハズイ。


「え、あ、そうですけど。あ!すいません。カウンター前でぼーっとしてて邪魔でしたよね」

 てゆーかなんか見覚えあると思ったら、ギルドのテーブル席に座ってた人じゃん。

 ここ使ってる人が少ないとはいえ、カウンターの前で突っ立ってるのは邪魔だったんだろう。


「あーいいのいいの!ちょっとお願いがあるんだけど」

「え、私にですか?」

 始めたばっかりの初心者にお願いってなんだろう。

「実は称号取るのに協力して欲しいんだよね。これなんだけど」

 そういってステータス画面操作し、を可視化させて私に見せてきた。


【称号】初心者の道標

 取得条件:ゲーム開始1週間以内のプレイヤーの手助けをする。(2時間)

 称号効果:特になし


「手助けってのは、村の案内とか戦闘補助とかかな。割と判定はゆるかったはずだけど、2時間パーティ組んで一緒に行動してれば大体取れるはずなんだ」

「はぁ、お手伝いしてもらえるなら助かりますが…何かメリットが?」

 称号効果とやらが特になしで、それ以外の報酬も特になさそうである。2時間拘束されてそれではあまりにやるメリットがない。

「あーメリットとか本当ないんだよ。称号集めしてるのと、ちょっとした気分転換ってところかな」

 ははは、と苦笑いしながら目を細める表情に嘘はなさそうである。

「なにか約束とかあったら無理にとはいわないよ。最近でも2、3人はエルフの初心者がいるから次の人に声かけてみるから」


 うーん、どうしようかなぁ。

 先輩プレイヤーの手助けは実際助かる。チュートリアルを受けたといっても内容的に随分とあっさりしていた。これから戦闘とかもするわけだけど、リアルでもそんな経験ないから一緒にいてくれる人がいるのは心強い。

 ただメリットがないというのはどうだろう。ゲームの中でそんな善意で行動するだろうか。

 あるとすれば初心者の女の子とお近づきになれる、とか?え?それって私じゃん?てゆーかそれが目的?

 美形化エルフ作戦成功してるじゃないか。

「じゃあお手伝いお願いしてもいいですか」

 私が目的だなんてそんな、ともじもじしながら俯いてしまう。心なしか顔があつい。もう顔を見れない。

「じゃあよろしくね」


 パーティ申請が来ました

 パーティ名:お手伝い

 リーダー:ハルキ

 YES/NO


 俯いた先に出てきたパーティ申請のYESを、ちょんと人差し指で押した。

「よろしく、お願いします」


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 パーティを組んだ私たちが最初にしたのはギルド内での食事だった。

「自己紹介がまだだったね。ハルキって言います。種族はエルフで、普段はソロでやってることかが多いかな」

「プラムです。エルフです。さっき始めたばかりです」

 私たちはハルキさんが頼んだ料理が来るまでの間に自己紹介を済ませる。


「満腹度があるから、適度に食事をとることは大事だよ。ダンジョンとかだと携帯食になっちゃうけど、街中だと結構おいしいものあるし、リアルのレストランの出張店とかもあるんだよ」

「そうなんですねぇ」

「そういえばチュートリアルのトリエルとか受付の人とかちょっと冷たい感じじゃなかった?最初は好感度が低いからあんななんだよね。受付の人は冒険者ランクが上がると、もうちょっと心を開いてくれるんだけど」

「なるほど。でもチュートリアルのNPCまで冷たいっていうのはどうなんですかね。ゲームに支障があるんじゃ」

「プレイヤーが神様に導かれた旅人っていうのが原因みたいだよ。世界を5つに分けたのも神様だし、魔物を配置したのも神様だって言われてるからね。この世界の住人的には神様はあんまりよく思われてないみたい」


 この世界は遥か昔、一つの大陸だった。

 神はその大陸に人間、精霊、獣人、天魔族を創造し住まわせた。

 争いや発展を繰り返す中で、何かのきっかけで神の逆鱗に触れ、大陸は4つに分かれた。

 人間たちが住む、アーファン大陸。

 精霊たちが住む、ベティタ諸島。

 獣人たちが住む、ガルマ大陸。

 天魔族が住む、浮遊島データス。

 大陸が4つに分かたれたあと、神はモンスターを創造し、それぞれの大陸や島へ送り込んだ。

 それは人口が増えすぎないようにするための措置だともいわれている。


 たしかこんな設定だったはずだ。

 確かにこれじゃ神様にヘイトが集まるのは仕方ない気がする。神様っていうか、やってることは魔王だ。

 その神様の導きでプレイヤーが現れたら、たしかに悪いことの前兆と思われて、あまりよく思われないのも納得だ。

「まぁそういうこともあって、今回みたいな称号もあるんだよね。プレイヤー同士手を取り合ってがんばっていこう的な」


「じゃあまずは村の中を案内するよ。トリエルの案内よりいい店もあるから」

 ギルドで食事を済ませた私たちは、ハルキさんの案内で村を見てまわる。

「武器屋とかも教えてもらったと思うけど、実はこっちのがちょっと安いんだ」

 紹介してもらったのは女性エルフが店主の武器屋。

 店内を覗いてみると弓矢や杖などの木工製品が置かれていた。

「ちなみにスキルって聞いてもいい?おすすめの装備も紹介するけど。プレイヤーメイドの店はどっちかっていうと、高級志向だから初期装備は住人の店のがいいんだ」

 本来スキルの詮索はマナー違反とされている。しかし初心者が選べるスキルなんて限られてるし、おすすめを押してほしいので私は答える。

「弓術と精霊魔法・風です」

「まぁエルフのテンプレだよね。えっと…それだとこの辺かな」

 エルフの短弓とエルフの短杖。そのまんまである。

 エルフの短弓は飾り気のない短弓。1mちょっとの大きさで持ち運びも楽そうだ。

 エルフの短杖は40cmほどで思っていたより短い。指揮棒に近いかな。魔法メインで戦うなら長杖でもいいが、弓と持ち替えて使う場合はとりまわしの良い短杖を携帯しとくのがいいらしい。

 ちなみにどちらもレア度はコモン。まぁ店売りだししょうがない。

 武器のレア度はコモンから始まり、レア、ハイレア、エピック、レジェンド、ゴッドと上がっていく。今のところ見つかっているので一番上がレジェンド武器で、プレイヤーメイドだとエピックが最高らしい。

 さて初期装備とはいえ、弓と杖を買ったら私のお財布はすっからかんだ。

「防具は後からでも大丈夫だよ。この周りはそんなに強い敵もいないしね」

 ちなみにハルキさんの装備は見た目からして強そうである。

 背負っている弓はサイズこそエルフの弓とそう変わらないが、金属補強がしてある上に装飾がされている。

 腰から下げているのは杖ではなく剣。長さ的に片手剣なのかな。

 杖は持ってないけど、左手のグローブに大きめの宝石が埋まっていて迫力感を感じる。これが杖代わりなのかもしれない。

 防具は全体的に緑を基調とした軽装備だが、きっと見た目以上にすごいものなんだろう。


 そうして私たちはチュートリアルでは教えてもらえなかったお店を見て回った。


「村の案内はこんなもんかな。あとはフィールドに出て戦ってみる感じだけど、大丈夫?」

「大丈夫です!」

 村を案内してもらったことで、私のハルキさんに対する好感度はうなぎ登りだ。

 短い時間ではあるが、ハルキさんと一緒にいて感じたのは、そつのなさだ。

 最初に案内してくれたのも女性が店主のお店だし、さっきから一緒に歩いていてまだこのアバターになれずに歩きずらそうにしている私に歩調を合わせてくれている。

 内面までイケメンとは!

 そういえばと、入社した当初の社内案内のことを思い出す。

 その時は私たち新入社員を先輩の社員が案内してくれたのだが、いろいろ周りが気になってしまう私は集団からちょっと遅れてしまった。そんな私に付き合ってくれたのが、パンツスーツの似合う女性の先輩だった。遅れる私をせかすでもなく、説明なんかもしてくれて優しかったなぁ。でも最後あんな恥をかくとは…。

 後から聞いた話で、美人で人気のある高嶺の花的な先輩だったらしく、同期の子にひどく羨ましがられた。その時はこんなキャリアウーマンになりたい!って思ったけど、現実は甘くない。


 現実を思い出し勝手にダメージを受ける私。

 いやいやそんなことどうでもいいのです!今は、ゲームを楽しまなくては。

 そうしてハルキさんに連れられて村の西門へと歩いていく。

「東門から出ると動物系モンスターがいるフィールド。西門から出ると植物系モンスターがいるフィールドだよ。どっちも初心者用のフィールドだね」

 初心者の女の子じゃいきなり動物倒すのも怖いでしょ、だって!さすがハルキさん!


 大きな木製の扉とその両脇にエルフが二人立っているのが見えた。これが西門らしい。

「今からモンスターがいるフィールドに出るけど、せっかくだからクエスト受けておくといいよ。

 この先に出てくるルカマッシュとルカフラウの討伐依頼が常設で出ているはずだから」

 ルカマッシュは歩くキノコで、ルカフラウは歩く花だ。どちらもこの周辺でしか出現しないモンスターだ。

 どちらもノンアクティブのモンスターで戦闘の練習相手にはちょうどいい。

 私はハルキさんに言われた通り、ステータス画面のクエスト欄から、ルカマッシュとルカフラウの討伐依頼を受ける。どちらも10体以上狩って報告すればクエスト達成になるようだ。

「それじゃあ準備も済んだことだし行ってみようか」

「よろしくお願いします!」


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