158.第四試合開始
ちょっと短め2。
「武器良し、防具良し、アイテム良し」
「さっきから何回確認する訳ぇ? 大丈夫って言ってんじゃん」
「なんかしてないと落ち着かないの! って、あと何秒!?」
「十秒」
「嘘っ!?」
「嘘だよ」
「なんだ、びっくりさせないでよ」
「ほんとは三秒だった」
「え?」
「よっしゃー、いっくぞーっ!」
そうして私の視界はホワイトアウトし、闘技場へと転送されたのだった。
ゴオオオォォォオオーーーーっっ!!!
ホワイトアウトから回復しかけた視界を閉ざすように、反射的に目を瞑った。
転送と同時に聞こえてきたのは、轟音。
それが歓声、雄たけび、罵倒なんかが混じった人の声だと気付くのに、ちょっとだけ時間が掛かった。
右目だけ開いて周囲を見れば、そこはさっきまで中継画面経由で見ていたものと同じ光景。
そして私の右手前に、私を庇うように立つ、ランカの姿。
その姿が目に入って、私は慌てて閉じていた左目も開けて、周囲の警戒を始めた。
試合は転送と同時に始まっている。先輩は転送とほぼ同時に、一気に加速して先手を取ったのだ、今回の対戦相手が同じことをやってくることは十分あり得る。
しかし、相手が動くことはなかった。
それどころか、私が落ち着くのを待っていてくれたようなふしすらある。
三十メートル先に立つ、二人の人影。
一人は子どものように小さく、もう一人は王子様のような凛とした立ち姿。
「久しぶりだね、プラムちゃん」
親し気に声を掛けてきたのは、子どもみたいな方。
「まったく、何度か連絡したのに全部無視されちゃって、結構ショックだったんだよ?」
やれやれ、と手の平を肩のあたりで天に向けて、まったく呆れたとポーズを取っている。
「ってゆーか、人形遣いだったのなら言ってくれたらよかったのに。そしたら色々情報交換も出来たのにさー」
なんだか妙に演技がかって、馴れ馴れしい話し方をしてくるけど。
「えーっと、すいません、どちら様でしたっけ…?」
思わず聞いてしまった。
いやいや、流石に弁明させてほしい。そもそも彼我の距離が三十メートルほどもあるのだ、相手の顔なんてろくに見えもしない。声だけはシステムアシストのお陰か、張り上げなくても聞こえるようになっているのでちゃんと聞こえるが、流石に視界まではそうはいかない。
「───」
それは向こうも同じ状況なんだろうけど、向こうは多分夢現からのリークで私が出てくるのが分かっていたのだろう。わざわざ確かめもせずにいきなり話しかけてくるのだから、きっとそうだ。
ということで、今この瞬間、私が向こうの人を認識できていないのは致し方ないともいえる訳で。
ただ、向こうの人としてはそんな私の心境など露知らず、流暢に話していた言葉は止まり、遠くからでも分かるくらい剣呑な雰囲気をかもし始めた。
「ぼくだよ、ぼく。茶々丸。何度かマニュファクトリイで会ってるよねぇ?それにフレンド登録もしたよねぇ!!??」
「………あっ!」
思い出した!
確か先輩の知り合いで、同じ会社の人だって言う人形遣いのハーフリング!そういえばフレンドコードの交換をした記憶が、ほのかにあるような…。
「うそでしょ!?本当に忘れてたの!?もしかして何度もメッセージ入れたのに返事なかったのって、本当に無視してたのっ!?」
「え、そ、そうなんですか…?」
うーん、しまったなぁ。
一時期からメッセージがやたらとくるようになっちゃって、知ってる人以外からのメールは開きもせずにそのままにしちゃってたんだよなぁ。おかげで未読メッセージがすごいことになってるけど。…ってフレンド登録してるなら茶々丸さんは知らない人じゃないか。なんか申し訳ない。
「最近、ハルキも露骨にぼくのこと避けるしさ!あっ!もしかして、二人してぼくのこと避けようとしてない!?」
「い、いえいえ!そんなことは決して!」
そもそも気にしたことすらないとは口が裂けても言えない。
なんだかぷりぷりと怒って地団太を踏んでいる茶々丸さん。なんかその仕草、あざとくない?見た目が中性的なハーフリングだから辛うじて可愛いって感じがするけど、いい大人の男がやってると思うと、ちょっとなぁと思わなくもない。
「操主、そのくらいで」
「あん?いちいちうるさいなぁ、操主に指図すんなよなー」
「申し訳ありません、操主。出過ぎた真似を」
茶々丸さんの少し後方で佇んでいた王子様のような外見をした人が、茶々丸さんの落ち着くように声を掛けていた。
しかし茶々丸さんは聞く耳を持とうともせず一蹴する。それに不快感も示さず、素直に聞き入れて頭を下げる王子様。
って。
「まさか、そっちの人って」
「ふふん!さすが察しがいいね、プラムちゃん!
こいつがぼくの自動人形、ジョン=キース・アリストテリアだよ!自動人形がプラムちゃんだけのものだと思わないでよね?」
「ジョン=キース・アリストテリアです。キースとお呼びください。以後、お見知りおきを」
「ま、こいつの名前なんて覚えなくてもいいけど、ぼくの名前はちゃんと覚えといてよね!」
相変わらず怒ったポーズを続ける茶々丸さん。
なんだか試合中だというのを忘れてしまいそうになるくらい、緊張感のないその雰囲気に飲まれそうになる。
私は首を振って気持ちを切り替える。なんとなくだがこのままでは話が、というか試合が進まないような予感がしたからだ。
ただでさえ一時間短くなっている第四試合、このまま無駄話で時間を消費していい訳もない。
「すいません、茶々丸さん。時間もないので行かせてもらいます」
「えーっ!?もうちょっと話そうよ!それにほら、そっちのランカちゃんだっけ?そっちの話も聞きたいし、それにアヤナちゃんは今日はどうしたの?」
「操者、律儀すぎ」
やっぱり話を続けようとしてくる茶々丸さんはやっぱり変だ。
そんな茶々丸さんにわざわざ今から仕掛けるなんて言っちゃう私は、やっぱり対人戦には向いていないんだと思う。ランカにもやっぱり呆れられているし。
でも、そこからの行動は速かった。
私の指示も合図もなく、ランカが鐵塊樹芯の棍棒を担いで、三歩で距離を詰めた。
私はその場で左腕のクロスボウを展開し、そのまま矢を発射。
跳び出したランカを追い抜いた矢は、しかし茶々丸さんたちに届かず二メートルほど手前で地面に突き刺さった。
しかし、それは予定通り。
地面に突き刺さった矢はその場でもうもうと煙を立て始めた。
煙幕矢。
一気に煙が噴き上がり、茶々丸さんたちの視界を塞ぐ。
しかし自動人形であるランカには大した障害ではないらしく、音や空気の流れである程度人の気配がわかると言っていた、のでまずは先手を取らせてもらう。
煙の中へと跳び込むランカ。
そして一瞬とおかず、きん、金属がぶつかる音が聞こえた。
ランカにとって大した障害でないのであれば、それはもちろん向こうの自動人形にとっても大した障害ではないということで。
「アンタ、邪魔ね」
「私は操主の盾ですので」
突風が煙幕を噴き流す。
煙幕があったそこには、交錯する二人の影。そこにはランカの一撃を、構えた盾で防いでいるキースの姿があった。
第四試合は、自動人形同士の激突で幕を開けた。




