13.反省しています
本日より2章スタートです。
経過日数とゲーム内時間がずれていたら、メンテとかが入って時間がずれたんだと思ってください。雑。
金曜日。
今週は週の始めから、リコール問題に巻き込まれ、その後処理で毎日深夜まで残業だった。
やっと処理が落ち着いたのが今日の午後。リコールのせいで後回しになった仕事の山からは目を逸らし定時で退社、私はミカと会うためにいつもの居酒屋まで来ていた。
「で?」
どうしよう。仕事でもこんなに詰められたことない。
私は掘りごたつに足を入れることも許されず、正座の姿勢だ。
正面に座るミカは頬杖をつきながら、私を半目でにらむ。
「ですから、私がやっていたのはネトゲで、出会った人は男の人じゃなく女の人でした」
ミカの迫力に思わず敬語になる。
「ハァーーーーーーっ」
ミカが特大のため息を吐く。
いや、そうでしょうね。
「小梅。あたしは別に怒ってるんじゃないの。呆れてるの」
どっちも同じじゃん、と心の中で突っ込む。
「小梅が出会い系やるとか、そこで相手見つけるとか、本当にすごいって思ったんだよ?普段あんまり積極的じゃない、あんたがね。それが何?ゲームやってた?しかも相手はネナベ?なにそれ?ってなるじゃん」
それな。私としてもびっくりですよ。ハルキさんが先輩だったなんて。
「やっぱ無理があるでしょ。ゲームで彼氏探すの」
「いやいや大丈夫だって!ミカも私のキャラ見たらわかるから」
私はすかさずミカの意見を否定する。確かにハルキさんはちょっと違ったけど、私はあの世界に可能性を感じている。それに現実の私よりゲームの私のがかわいいのは間違いない。
「ふ~ん。そんなに?」
「私の10倍はかわいい」
「それ胸張って言うことじゃないでしょ。自分磨きなさいよ」
ミカの言葉がぐさりと胸に突き刺さる。
「でも、そこまで言うならちょっと見てみたいかな。なんだっけそのゲーム」
「Alter World Onlineだよ?CMとかで見たことあるでしょ?」
「あるたーわーるど…あ、これうちにある」
スマホで検索していたミカが、公式サイトを見つけてそう言った。
「え?なんで?」
「なんか徹が前に会社から貰ってきてた気がする。飲み会のビンゴ大会の景品か何かだったのかな?」
徹さんというのは、ミカの旦那さんだ。すごいベンチャー企業に勤めてて、私たちと同世代だけどかなり高収入だっていってたっけ。ミカが専業主婦できてるのも、そのおかげだっていってたはず。それにしても、いい会社に勤めてるとビンゴ大会の景品もいいものが貰えるんだなぁ。いいなぁ。
「じゃあミカもやろうよ!私がレクチャーしてあげる」
ない胸を張って、私はミカに先輩風を吹かす。
実は私もあの寝落ち以来ログインできていない。すべてはリコールのせいだ。
「まぁいっか。最近、徹も仕事忙しくて帰ってくるの遅いし。昼間も時間あるしね」
「やったー!ミカとゲームなんて小学校振りとかかな?ミカ、あんまりゲームやんないもんね」
「あたしはあんたと違って、リアルが充実しているの。それにゲームやるっていっても、徹優先だから、夜はやんないよ」
ぐさりぐさりと胸に刺さる。
私だって亮ちゃんと一緒だったころはリアルが充実してたもん。多分。
「じゃあ明日にでも徹にお願いして、設定してもらおうかな」
「ログインしたら連絡してねー」
私は自分のフレンド会話用にキャラ名とやり方を教える。
「ん。わかった」
私は嬉しくなって、ハイボールを一気飲みした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌、土曜日の午後。
私はAWOにログインし、エルルカ村の大木の前でミカを待っていた。
ミカから連絡があったのは一時間ほど前。徹さんに設定をしてもらったから、これからログインしてキャラ作ってくると言っていた。
昨日の飲み会の時に、ミカにはエルフでキャラを作るように言っておいた。別に他の種族でもいいんだけど、エルフならすぐに一緒に遊べるし。
なので、私はミカがログインしてくるのを、ずっとここで待っていた。
ミカはゲーム初心者だし、キャラ作成とか用語説明とか聞いて時間が掛かっているんだろう。
さらに一時間待った。
ミカはまだ出てこない。さっき一人エルフの女の子が出てきたから、ミカかと思って声を掛けたら全然違った。めっちゃ恥ずかしかった。
すると、ぴこーん、とフレンド会話の通知が鳴った。
『ごめーん、小梅だよね?』
『遅いよ!あとこっちだとプラム!…って、あれ?いつのまに出てきたの?』
『あー、30分くらい前に出てきたんだけど、チュートリアル?とか急に始まっちゃって、連絡できなかった。ごめんね』
『あれかぁ。確かに急に始まるよね。じゃあ今ギルド前にいるの?すれ違っちゃったかな』
出てきたプレイヤーはいなかったような気がするけど、私が見落としたのかな?
『それがさー、実はエルフで始めなかったんだよねー』
『ええー!?なにそれ!どゆこと?』
『ほら、なんか種族ガチャ?小梅が豚になったって言ってたやつ。あれ試しにやってみたんだけど、上級レア種族ってのが出て、めっちゃ推されたからそれにしちゃった』
あの豚鼻の顔はもう忘れたい過去です。
『ってか、ミカも上級レア種族でたの?すごいじゃん!』
『日頃の行いってやつかな。でもやっぱり友達が待ってるからエルフにするって言ったら、シスターちゃんがめっちゃ泣きそうな顔で止めてくるの。上級レアなんて滅多にでないのに、なんでみんなやめちゃうんですかーって』
む?みんな?
『そのシスターの番号って覚えてる?』
『1101だったかな?』
あの子か。確かに私の時も相当残念がってたし、今度こそはってなるよね。
『そっかぁ…うん、わかったよ。それでなんて種族になったの?』
『ふっふっふー、ナイショ!今度あったときに教えまーす』
くっ、言い方がかわいい。負けた気がする。
『もーわかったよ。で、どこにいるの?私行けるかなぁ』
『えっとね…データス?とかいうところの、なんかお城のあるところ』
なんだそれ。まったくわからない。
『そこどこよ…ってか私多分そこまでいけないと思う。えーどーしよー』
『いいよ別に。テキトーにやるし。はい?私ですか?ってあれ、これ外に声聞こえてない?』
『え、どうしたの?』
『なんか話しかけられて。あ、フレンド会話終わらせればいいのか』
『え。ちょっと待ってよ!まだ話終わってないよ!』
『とりま後でまた連絡するよー。なんか男に話しかけられたからちょっと行ってくるわ』
『ええー!もう、わかったよう…。あ、じゃあ最後に!名前は?』
『クレス。じゃあねー』
なるほどね。
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さて、ミカ改めクレスに約束をぶっちされたので暇になってしまった。
暇といってもやることは結構ある。
この間の傀儡遣いの工房クリアのおかげで、レベルはたくさん上がってその確認もしてないし、MVPアイテムを含むいろんなものの確認もまだだ。工房がマイホームになったらしいが、一度も行っていない。
まぁとりあえずステータスの確認からしようかな。
ここでやってもいいけど、せっかくマイホームが貰えたのだ。そっちに移動しよう。私はその場で鍵を取り出し、工房へのポータルを開く。
近くにいた見知らぬエルフプレイヤーにぎょっとされたが、そそくさとポータルに入って視線から逃げた。
工房に着いて一息。
多分さっきぎょっとされたのは、私がほとんど初心者プレイヤーに見えたのに、マイホーム行きっぽいポータルを出したからだろう。
私の恰好は結局最初の旅人の服に戻っている。というのも、あの傀儡遣い戦で先輩にもらった防具はぼろぼろになってしまったからだ。防具店に修理の依頼に行ったら、修理に使う素材がないので、出来ないといわれてしまった。とりあえずインベントリにしまって、今度先輩に会ったときに返そう。
なので、今の私の恰好は、初心者プレイヤーが変なグローブを嵌めたもの、という感じになっている。
女子力ーというミカの幻聴が聞こえたが、頭を振って切り替える。
私はとりあえず目に入った作業台に腰掛けると、左手でステータス画面を開く。
プラム
種族:エルフ Lv.38
職業:選択できます
HP:90(+25) MP:205(+60) SP:160(+55)
STR(筋力):25(+15)
INT(知力):39(+16)
AGI(敏捷):36(+21)
VIT(耐久):10(+3)
TEC(器用):34(+16)
LUK(幸運):21(+9)
CRS(魅力):18(+4)
スキル
精霊魔法・風Lv.18、弓術Lv.10、木工Lv.1、探知Lv.4、錬金術Lv.1、疾走Lv.8、悪路適応Lv.1、投擲Lv.9、人形作成Lv.EX、人形使役Lv.EX
スキルポイント56
あらためて思うが、一気にレベル上がりすぎだよなぁ。
一気にレベルが上がりすぎたせいで、ステータスもなんか変なふうに上がってしまった気がする。
AGIの伸びがいいのはわかる。ダンジョン内をずっと走ってたからだ。
INTとTECも魔法と弓を使ってたからだろう。
はて、しかしSTR。君はなんでそんなに高いのだ?は!さては最後の榴弾矢を突き立てたの、あれがSTRで参照されたのでは?まぁ実際のところはわからないので、そういうことにしておく。
LUKとVITはまぁこんなもんですよね。
さぁお前だCRS。なーぜーだー!エルフは魅力が上がりやすい種族ですって最初に言ってたよね?なんでこんなに低いの?私の所為?女子力低い所為?
思ったようにはいかないステータスの成長を尻目に、次はスキルの確認をする。
いつのまにか精霊魔法・風、弓術、疾走と投擲が上がっている。まぁ多分戦闘中に上がったのに気づかなかっただけだろう。他のが低いのはもう仕方ない。使ってないのだから。
人形作成と人形使役についてはグローブのおかげだ。これもあとで試してみないと。
多分、今回一気にレベルが上がりすぎた所為で、同レベル帯の人よりスキルが育ってない気がする。これはなんとかしないとなぁ。効率的なスキル上げってなんか方法あるのかな。
とりあえず大量のスキルポイントの振り方も保留にして、今度先輩に相談しよう。
あとは、レベルが20を超えたことで選択可能となった職業。
これは選択することで、特化したスキルやステータス補正が入る。選べる職業は、種族やクリアしたクエストによってプレイヤー毎に変わってくる。初回の選択は特にデメリットなく選ぶことができるが、転職するときは職業ギルドに行ったり、クエストをクリアしなければならなかったりと、手間がかかるようになっている。
エルフの私は最初から、精霊術士と狩人、木工士などが選択できるようになっている。そして、選択できる職業一覧を見ていると、やはりあった。
人形遣い。
人形遣いについて軽く調べたが、人形遣いの洞窟をクリアすると、人形遣いに転職できるようになるらしい。人形作成と人形使役については、人形遣いになるか、人形遣いの手袋を持っていないと取得できない。
しかしこれは、調べた情報にはなかった。
傀儡遣い。
人形遣いの欄の下にあったそれは、この工房の元主と同じ肩書である。
傀儡遣いという職が、このダンジョンとこのグローブに無関係とは思えない。レア職業っぽい響きに勢いで選択してしまうそうになるが、いったん落ち着く。
まだ人形遣いでやっていくとも決めていないので、これは保留にしよう。あとでスキルの確認とかしてから考えよう。
「よっと」
私は腰掛けていた作業台から飛び降りる。
せっかくなので、あのスキルの確認もしておこう。
私は椅子代わりにしていた作業台に向かい、人形作成のスキルを使用する。
私の視界にステータスウィンドウとは違う画面が現れる。
『元となる素体を選択してください』
これでいいのかな?
とりあえずインベントリにある素体を選択する。
作業台の上に素体が物質化したところで、ウィンドウが次の画面に切り替わる。
『身体情報のカスタマイズが可能です』
見ると、素体の身長や体格、男女等が変更できるようだった。
デフォルト設定というコマンドがあったので押してみると、サイズ感は変わらず、球体関節を隠すように皮膚が出現した。
また顔についてもキャラメイクと同等程度に変更が効くようで、こだわり始めたらいくら時間があっても足らなそうだ。これもとりあえずデフォルトにする。あまり特徴のない中性的な印象に仕上がった。
『取得させるスキルを選択してください』
攻略サイトで確認した人形作成についての情報によれば、Lv.1で1つ、Lv.10以上で2つ、Lv.20以上で3つ、Lv.30で4つのスキルを持たせることができると書いてあった。人形作成がLv.31以上になったプレイヤーはいないため、それ以上は不明である。
そして、私の人形作成Lv.EXはというと。
獲得可能スキル数:10
獲得可能スキルレベル:合計100
※素体のレアリティが低いため、獲得可能数に制限が掛かります。
「オッフ」
想像以上の性能に、声が漏れる。
現状トップの三倍以上とは。しかしスキルの合計レベルが100となると、私よりもずっと強い人形が作れてしまう。これは微妙スキルなんかじゃないのでは?
それに気になっているのが、素体のレアリティ不足による制限という文言だ。素体にレアリティがあったことも驚きだが、レアリティが上がればもっとスキルを取らせることができるということだろうか。
人形作成Lv.EXへの期待値が一気に上がった。
ちなみに人形にはMPとSPがない代わりにEP、エネルギーポイントというものが設定され、スキルの使用にはEPが消費される。しかしEPでは魔法が使えないため、取っても使えないらしい。
私はとりあえず近接戦闘用として、剣術Lv.30、盾術Lv.20、バトルヒーリング(小)Lv.10、防御Lv.15、回避lv.15、挑発Lv.10を取得させ完了とした。
遠距離攻撃がメインの私の代わりに、タゲ取りができるタンクをと思って設定してみたが、1体で戦えそうである。
私はその性能に満足し、人形作成を終了した。
作業台に全裸の人形が横たわる。全裸と言っても、人形なのでのっぺりとした体だが、さすがにこのまま連れまわすのも気が引けるので、今度服を調達してこよう。
私はそこまで決めたところで、次に人形使役Lv.EXの画面を開く。
使役可能数:1/無制限
使役効果:攻撃力向上、敏捷性向上、耐久性向上、器用度向上、HP自動回復(小)、EP自動回復(小)
これもすごい。
人形作成Lv.EXがあの性能だったので、人形使役Lv.EXもかなりの性能だろうとは予想していたが、やっぱりすごかった。
人形使役についても攻略サイトで調べたが、Lv.1で1体、Lv.5で2体、その後5レベル毎に1体ずつ使役可能数が増えていく。なのでLv.30でも7体が現状の最大だ。私の無制限がどれだけ規格外かがわかる。ちなみにこの1は現在の所持数だろう。
まぁ無制限に使役が出来たところで、持ち運べないので実際の使用数はもっと限られてしまう。
それと使役効果。これもLv.10で1つ選択出来るようになり、その後10レベル毎で数が増えていくはずだ。最初からこれだけ揃っているのは、大きなアドバンテージになるだろう。
「なんだ人形遣い強いじゃん」
先輩から聞いた話よりずっと強そうだった。
ほっと胸を撫で下ろし、スキルの確認を終了した。
「ふぅ」
私は首を上げる。
人形作成の画面をずっと見ていたせいで、首が疲れた気がする。ゲーム内でそんなわけはないのだが、普段から似たようなことをやっているせいか。
首のコリをほぐすように、ぐるっと回す。視界にいろいろな物が入ってくる。
人形人形人形人形人形人形人形人形。
いやほとんど人形じゃん!
あっちにもこっちにも壊れた人形の山。マイホームにするならもうちょっとなんとかしたいなぁ。
ちょっと中がどうなっているか見てみよう。
工房の構造は、ルジャミルトルテがいた時と殆ど変わっていない気がする。体育館よりちょっと小さいくらいの大きさで、天井も5mくらいは高さがある。
私はまず入り口だったところへ向かう。しかしそこにはもう扉はなかった。あの人形ばかりのダンジョンへは戻れないらしい。
そこかしこにある人形残骸と山はそのままに、私はまだ行っていない奥へと向かう。
私はさっきの作業台のところまで戻り、その奥へと足を進める。奥は一人がやっと通れる広さの通路になっていた。明かりがなく広間からの明かりのみで薄暗いその通路を数分歩く。
曲がりくねった通路の先に、光が見えた。そこがゴールのようだ。
さっきまでの通路の暗さから一転、その部屋は明かりに満ちていた。
最初の広間ほど大きくはないが、この部屋もかなり広い。こちらの部屋には人形の残骸はない。あるのは書き物をするような机。
そして、大きな円筒状の水槽。
そこに、少女がいた。




