10.結末と結果と結論
ポータルから出ると、そこはエルルカ村の大木の前だった。
私はきょろきょろと周りを見渡すと、すぐにハルキさんを見つけた。
思わずそのまま駆け出し、抱き着こうとし、セクシャルガードに阻まれる。
「あぁ…」
「ふふふ、面白いね。プラムさん」
「あの、えっと、すみませんでした」
「え?何が?」
「何がって…ハルキさん死なせちゃったし、それにMVP?とかも私になっちゃったみたいで…」
「おっと、そこまで。ちょっと場所を変えようか」
ハルキさんは私の言葉を遮ると、私を連れて冒険者ギルドに向かう。そこで個室を用意し、向かい合わせに座った。
「ここなら大丈夫。あまり周りに聞かれたくないんだ」
「あの、改めて、すみませんでした。ハルキさんが頑張ってくれたからクリアできたのに…」
「プラムさん、わたしは別に気にしてないよ。むしろクリア報酬とかは全部あげるつもりだったしね」
「え!そうなんですか。でも…」
「いいのいいの!楽しかったから!ふっふふふ、こんなに楽しかったのいつぶりかな?」
ハルキさんはとても上機嫌だった。
なんか憑き物が落ちたように、今までも優しく微笑んでくれていたけど、今はもっと、自然に笑ってる感じ?
「あーそうだ。あの時だ。前に職場で新人の子の工場案内をしたとき!その子、キョロキョロしながら歩いてるもんだから、部供ロボにぶつかってね?あ、部供ロボってのはね、部品供給ロボットの略で―――」
「え?ハ、ハルキさん?まさか、え?え?」
「ぶつかったロボット相手にすいませんって謝るの!ロボットって気付いてないみたいで、何度も何度も!しかも謝ってる最中に別にロボットにまたぶつかって、今度はそっちにすみませんすみません!って、何度も繰り返すから見てて思わず笑っちゃったー」
いえ、その子的には笑い事じゃなかったんですって。その後戻って、大事故一歩手前だったってこっぴどく怒られたんです。部供ロボ倒して部品ぶちまけたら、ライン止まっちゃうし、人身事故なら工場停止だって、入社早々に始末書書かされたんですよ。
「いや、あの、北山さん?」
「ふふふふふっ、しまった。リアルのこと話過ぎた、…って、え?」
ハルキさん…北山さんがきょとんとした顔をしている。
そりゃそうだろう。ゲームの中でいきなり本名を呼ばれたのだから。
「あの、私です。その時の。桜井です」
「え?嘘でしょ。ええーっ!」
驚いたのはこっちですよ。北山さんといえば、美人でパンツスーツの似合う、あの北山さんだよ?まさかゲームやってるなんて思わないよ!休日はカフェ巡りとかしてると思ってたよ!
「ハルキさん、あの、恥ずかしいので先輩と呼ばせてもらいますね。先輩、どうしてこのゲームを、ってゆーかそれ男アバターですよね」
「あはは、まぁ、ゲームは趣味かな。あと男アバターなのは、女アバターだと変に声かけられて困るから、だよ」
「うぐっ」
変に声を掛けられたくて、アバター設定をした自分にそれは刺さります。
「元々声も男っぽいでしょ?あんまり違和感ないと思うんだよね」
誇らしそうに胸を張る先輩。
確かに違和感ないし、むしろ格好いいと思ってましたとも。
あぁ~気付くべきだった。
あんなに細やかな気配りができる男なんていないってことに。
私は若干気落ちして、肩を落とす。
先輩とゲームで会えたのはうれしいが、ハルキさんが男じゃなかったのは悲しい。
差し引きとんとんか、ちょいマイナス。
先輩は私が肩を落としているのを、怪訝そうに見ながら、
「まぁ、せっかく一緒になったんだし、これからもよろしくってことで」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
ゲームの中の先輩は、現実世界の先輩よりもちょっと接しやすい気がした。
「それで、あの後どうなったの?」
「あ、そうですそうです!ハル…先輩のおかげであの傀儡遣い倒せたんですよ!ええと、名前が…ルジャミルトルテ、だそうです」
私はアナウンスのログを辿り、その名前を見つける。言いにくい名前だ。
「それはよかった。本当によかった。MVPもプラムさんだったんだよね?なにか貰えた?」
「ええと…」
私は改めてアナウンスを確認する。
『傀儡遣いの工房主 ルジャミルトルテを討伐しました。
ダンジョンクリアです。
MVPはプラムです。』
『MVP報酬として、『傀儡遣いのグローブ』を獲得しました』
『MVP報酬として、『眠れる少女の記憶核』を獲得しました』
『クリア報酬として、『素体』を獲得しました。獲得数はクリア人数で按分されます』
『クリア報酬として、クリア者全員が『傀儡遣いの工房の鍵』を獲得しました』
『【称号】傀儡遣いの工房主、を獲得しました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
・
・
・
「えっ?」
「ん?どした?」
「なんかレベルがすっごい上がってます」
ステータス画面を開き、私は驚愕する。
Lv.38。え?ダンジョン入る前、Lv.10だったよね?
プラム
種族:エルフ Lv.38
職業:選択できます
HP:90(+25) MP:205(+60) SP:160(+55)
STR(筋力):25(+15)
INT(知力):39(+16)
AGI(敏捷):36(+21)
VIT(耐久):10(+3)
TEC(器用):34(+16)
LUK(幸運):21(+9)
CRS(魅力):18(+4)
スキル
精霊魔法・風Lv.18、弓術Lv.10、木工Lv.1、探知Lv.4、錬金術Lv.1、疾走Lv.8、悪路適応Lv.1、投擲Lv.9、人形作成Lv.EX、人形使役Lv.EX
スキルポイント56
一気にあがりすぎて困惑する。
ボスってこんなに経験値もらえるの?
「あ、わかったよ。プラムさん。たぶんソロ討伐したことになってる」
「え?どういうことですか?」
「多分ボスの経験値はわたしには入ってないっぽい。あのダンジョン、エクストラってだけあって特殊みたいだね。たぶん生き残ったメンバーにだけ経験値とか報酬が配られてるみたいだよ」
「あ!なるほど!え、じゃあ先輩には…」
「うん、何にも来てない。アナウンスもなかったから、死んだら除外されるシステムだったのかも」
「それは…本当に、すいません」
「もう謝んないの。なるほど、だからMVPもプラムさんだし、報酬も経験値も独り占めだったってことかぁ」
それならこの猛烈なレベルアップも納得できる。
それにクリア報酬の数も。
「ところでそれって、MVP報酬?」
それ、と私がつけている傀儡遣いのグローブを指さしてくる。
「そうなんです!そう、聞きたくて!これ、ちょっと見てもらえますか?」
と、私はグローブの説明画面を先輩に見せる。
傀儡遣いのグローブ ランク:EX
傀儡遣いルジャミルトルテが使っていたグローブ。
彼の想いが宿るこのグローブは、彼の願いに応えるまで外すことができない。
攻撃+10
効果:人形作成Lv.EX、人形使役Lv.EX、
プラム専用、着脱不可
「うわ、EXランクのアイテムって初めて見た」
「先輩が初めて見たってことは、相当レアアイテムなんですね…」
「レアどころの話じゃないと思うよ。正直、唯一だと思う」
唯一ですか、うーん。
「あれ、あんまり嬉しくない?」
「いや、嬉しいは嬉しいんですけど、これちょっと呪われてません?あとダサくいないですか?」
「ふふっ、確かに着脱不可ってのも初めて見たかも。ダサいってのは、ふふふっラインの人みたいだよね」
ですよねー。
いや、別にラインの人がダサいってわけじゃなくて、こんなファンタジー世界のエルフが着けるにはちょっと武骨が過ぎるってだけで。
ぐーぱーぐーぱーと手を開いて閉じる。厚手の革生地で作られたようなグローブ。厚手の割に物をつかんだりするのに違和感はない。なんならさっきからコーヒーを飲んでいるが、普通にカップの取っ手が持てている。不思議。
「でも、願いに応えるまでは、ってことは何か手段があるのかもね?」
「そうなんでしょうかねぇ。あと人形作成と人形使役ってなんですか?」
「それは知ってるよ。人形を作ることができるスキルと、人形を操ることができるスキル」
「いえ、それはなんとなくわかりますけど…」
「ふふふっ、冗談だよ冗談。実は似たようなアイテムを持ってる人がいる」
「え、そうなんですか!?」
「当時、ちょっと掲示板で騒ぎになったからね。調子に乗りすぎて叩かれてたけど」
先輩は当時のことを話してくれた。
それはレアダンジョン、人形遣いの洞窟というダンジョンのMVP報酬だったらしい。
アイテム名は、人形遣いの手袋。人形作成Lv.1と人形使役Lv.1を取得することができるというアイテムだった。獲得状況や、性能についての説明をしているあたりはまだ大丈夫だった。しかし、次第にユニーク武器だ!とか自慢になりだしたあたりから雲行きが怪しくなった。一か月後に別の場所で同じダンジョンが見つかり、唯一ではないとなって手のひらを返したようにものすごい叩かれたという。
「うーん、ちょっと違うんですね」
「そうだね。正直、人形作成と人形使役については最終的に微妙って評価だったはず。素材のレベルが足らないのか、スキルのレベルが足らないのか、あまり強い人形は作れなかったんだ。自分のレベルの半分くらいの強さが限界だったかな」
しかも微妙スキルですか。
「もっというと人形がインベントリを圧迫するらしくて、3体くらいしか持ち運べないらしい」
傀儡遣いみたいな数の暴力は出来ないってことですか。
「まぁ生産職とかだと自分じゃ戦えないから、使えなくもないって評価だったはず」
うーん、聞けば聞くほど微妙では?
「でも、それは人形遣いの手袋の話ね。それは傀儡遣いのグローブで、しかも人形作成、人形使役がどっちもLv.EX。どこまで違うか、正直まったくわからないよ」
人形作成と人形使役は、いくらやってもLv.30以上までは上がらず、結果として微妙評価だったんだとか。
あとで色々試してみよう。
「あと、これなんですけど」
そういって、私は傀儡遣いの工房の鍵を見せると、その鍵の効果であるポータルを開いて見せた。
「はい?」
先輩がぽかーんとしている。
そりゃそうだろう。マイホームでもなければ使えないはずなのだ。
「なんかですね。この鍵を持ってると、さっきの傀儡遣いの工房にポータルが開けるみたいなんです。さっきうっかり復活地点にしちゃって…」
「え!それってあの工房がマイホームになったってこと?流石にそれは予想外だったなぁ」
傀儡遣いの工房の鍵 ランク:EX
傀儡遣いの工房へ入るための鍵。持ち主は工房へ出入りすることができる。
効果:プラム専用
【称号】傀儡遣いの工房主
傀儡遣いのグローブを持つものに与えられる称号。
傀儡遣いの工房をマイホームに設定することができる。
「その人形遣いの洞窟のクリア報酬にはなかったんですか?」
「ないね。みんな人形作成はマイホームか共有工房でやってたはず。もしかしてそこに人形に関する秘密が?」
「どうでしょう。ただ、まだ奥はあったようなので、そこに何かがあるかもしれません」
これもあとで色々見てみよう。
「それとこれもなんですけど」
「まだ、あるんだ…」
まだあるんです。私はクリア報酬の素体という、木偶人形を取り出す。
「あぁ、これね。確か『素体』だっけ?人形の元になるアイテムだったはずだよ」
「なるほど。これがですか。これ、全部で300体あるんですけど」
インベントリに入らなかった分は工房の床に山となって積まれている。
「さ、さんびゃく?人形遣いの洞窟でもクリア報酬でも貰えたはずだけど、6人パーティで1人5体程度だったはずだよ。とんでもない数だね」
トライアンドエラーの回数が増えたと思っておこう。
それと、この素体たちと何かしらの繋がりがあるとしか思えない、このアイテム。
眠れる少女の記憶核。
少女の記憶は、彼の願いにより結晶となる。
これは記憶であり、記録。
効果:譲渡不可
「へぇ、綺麗だね。その水晶」
見た目は野球ボール大の水晶だ。ただ、透明ではなく乳白色っぽい感じ。水晶の中で、白っぽい何かが循環している感じがあるので、不思議だ。
「これは、なんなんでしょうか」
「なんだろうね。たぶん傀儡遣いにまつわる何かだとは思うんだけど、わからないなぁ。似たようなアイテムも聞いたことがない」
傀儡遣いが死ぬ間際に言った、
『ワタシは、ただ彼女を―――』
という言葉を思い出す。彼女とは、この少女のことだろうか。
傀儡遣いの願いと、このアイテムが無関係とは思えないから、きっとキーアイテムに違いない。
「ふぅ…」
私は大きく息を吐いて、椅子の背もたれに寄りかかる。
「さすがエクストラダンジョンだったね。これほどまでとは思わなかった。わたしもモチベーション取り戻せたよ。こっちの世界も、やっぱり楽しいね」
先輩も満足そうにしてくれているようでよかった。
こっちの世界、かぁ。
私は眼を閉じ、今日の出来事を振り返る。
ゲームを始めて、ハルキさんに出会って、ハルキさんをちょっと好きになって、ダンジョンを見つけて、ダンジョンを攻略して、ハルキさんは先輩で、今こうして一緒にお茶している。
いろんなことがあった一日だった。
思ってた形とは違うけど、新しい出会いも見つけることができた。
すごく、楽しかった。
きっとこれからもこのゲームを、Alter World Onlineを続けていくだろう。
このゲームが先輩にとってのもう一つの世界であるように、多分私にとってももう一つの世界になるんじゃないかって予感がする。
そんなことを考えながら、意識がすーっと落ちていく感覚。
疲れ、たなぁ…
『睡眠状態となりましたので、ログアウトします』
これにて1章は終了となります。
実質的なプロローグだったので、駆け足でしたがいかがだったでしょうか?
幕間を挟んで2章となります。
これからもよろしくお願いします。




