第5話 女騎士は蛮族の地で品定めをされる
「とりあえず、今着ている鎧を脱げ」
たどり着いて早々に告げられたのは、そんなことだった。まぁ、分からなくはない。売れば金になるだろうし、再利用するという手もあるのだろう。しかしおろおろとしている貴族の子弟を見つめていた蛮族の戦士のひとりは、盛大に溜息をついた。
《ひとりで脱ぎ着することも出来んのか》
何を言っているのかはニュアンスで何となーく分かる。そりゃあそうだ。フルアーマーというのはそういうものなのだ。一人で着るのを前提に作られていない。従士がいて初めて着られるといっても過言ではない。
「申し訳ないが、手伝いが欲しい」
私が手を挙げてそう発言すると、いそいそとミゲールが先ほどの男のところへ移動して耳打ちをした。どうやら私の言葉を伝えてくれたようだ。
「手伝いをよこす。マリーには女性をあてがうから心配しないで」
むしろ心配なんだが。私の鎧は特注なので重さも半端ないのだけれど、細腕で大丈夫なのだろうか。そんな心配をよそに、ひとりの女性がやってきて私の鎧を脱ぐのを手伝ってくれた。手際がいい。じっと見つめると、少し怯んだが髪の色と肌の色から察するに王国の血が流れているようだった。
「ありがとう」
なので、かまをかけてみる。
「……ぁ、いいえ。お手伝いするよう、申しつけられているだけなので」
王国の言葉が返ってきた。やはり彼女は元々は蛮族の人間ではないようだ。
「こんな血なまぐさい女の鎧を脱ぐ手伝いなど、男どもの手助けをする方が楽ではないかと思うんだが」
「いいえ。紅の獅子。貴女の手助けが出来るなら、これほどの誇りはありません」
じっと見つめてくる瞳はハシバミ色。大地の色だ。ほっとする色だ。髪も同じ色をしていておさげに結わいている。私よりは確実に年下の少女。
「貴女は連れ去られてきたのか?」
「そう、ですね。最終的にはそうなります」
篭手を外し、脚絆を外したところで、それを下にひいた布の上に並べていく。
「あいつ、女は攫わないとか言ってたけどな」
ミゲールが嘘をついたとは思えなかったが、連れ去られてきたと彼女は言う。
「わたしはビオラといいます。また後ほどお話ができたらと思います」
手際よく鎧を外し、軽く汚れを拭うと彼女は深々とお辞儀をして去っていった。ビオラか。かわいい子だったな。攫われてきたのだとしたら、本当に気の毒な話だ。
鎧を外してもらったので、手のひらをゆっくり握るのを何度か繰り返し、とんとんと弾んで体の不調を確認した。意外にも疲れはあまりない。どうやらミゲールがいろいろ配慮してくれたようだが、体を動かしたりないのは本当だ。
「鎧を脱いだものからこちらに並べ」
男たちは鎧がなくなると殊更貧相に見える。私が体格が良すぎるというのは否めないが、本当に貴族のお坊ちゃまとして大事にされていたんだろうなーと考えてしまう。辺鄙な場所の低位の貴族は貴族とは名ばかりで傭兵などと変わらない。農作業もすれば戦にも駆り出される、というわけだ。
鎧を脱いだものの中には女はいなかった。というか、女はこっちとか言われたのに、私は自然と男性と混ぜられたんだが? 一応、女なんだが?
「これからボーンディの前で組み手をしてもらう。いい条件で奴隷となりたかったら精々励むことだ」
王国の言葉でそう告げられる。周りの男たちの顔色が一気に悪くなった。まぁ、そうだろうな、と思っていた私はといえば腹が減ったなーと考えている。本当に動くなら、今の状況はちょっと不利だ。
「その前に飯だ」
その言葉に私は思わず笑顔になった。他の男たちはどっと疲れた顔をしていたが、飯に喜んで何が悪い。干し肉をゆがいたものが入った麦がゆが出たが、塩がきいていてうまかった。たくさん食べすぎるのは良くないが、必要な分はいただく。海が近いと塩も簡単に取れるのだなぁ。うらやましい。
「おかわり」
「まだ食うのか?」
グウェンと呼ばれた男が私たちにかゆを分けてくれたが、4杯目で不機嫌さに拍車をかけてしまった。うまいし体力を少しでも回復したいのだから仕方ないと思ってほしい。戦いには万全を期して挑みたいのだ。
食べた後、少し休憩を取っていると物々しい角笛の音がして、どうやらお偉いさんが到着したようだった。しかし、組み手かぁ。手の感触を確かめ、足の感触を確かめる。
「緊張してる? マリー」
ミゲールが寄ってくる。問いに答える前に、問いで返す。
「回復術師はいるのか?」
「いるよ。死ななきゃ治せるくらいの回復術は使える」
「……ならいいか。緊張はしていないが……加減が出来ないかもしれん。すまんな」
小声で言ったつもりだったが、周囲の男の何人かには聞こえたらしく、距離をとられた。うむ。すまん。拘束されていた時間が長かったせいで、感覚がまだ元通りにはなっていないのでね。
「殺さないでね」
「……気を付ける」
乱戦になってしまえばその忠告は意味がないと思いながら、私はひとまず体を伸ばして生きながらえるための戦への準備を始めるのだった。