9.「竜人少女」
『ガキンッ!!!』
短剣が石造りの地面を穿つ。
「へぇ?かわすのか。だが、これはどうかな?スキル"連続突き"!!」
幾本もの短剣の影がエンベリラの肌を傷つけていく。
「おらおらぁ!どうしたぁ!?上手いのは口先だけかぁ!?」
刹那、ぎらり、とエンベリラの瞳が怪しく光った。かと思うと、商人の目前からエンベリラの姿が消え去った。
「は?どこに______う"っ!?」
無防備な商人の背中を蹴飛ばす。商人が風を切り、レンガ造りの壁に激突し、埋まる。その一撃が重すぎたのか、商人は気絶してしまったようだ。
「……ふぅ。こんなもんか。おい女」
ビクッと少女が肩を揺らす。
「___と、ローサー。場所変えようぜ。ここじゃまた変なのに絡まれそうだ」
「僕はついでかよ」
場所を変えて、帝国内のカフェにて。温かい飲み物を頼み、ゆっくりと寛いでいた。
「そういえば、エンベリラ。手当てをしなくていいのか?」
「こんなんかすり傷じゃねぇか。平気だよ。お前みたいに弱くねーし」
「喧嘩売ってんのかお前………」
「ところで、女」
熱すぎた飲み物を冷ますように、ふうふうと息を吹いていた少女が、エンベリラの言葉に反応する。
「お前、なんて名前なんだ?女じゃ呼びにくい」
「………………あー」
「あ?」
「あー、あーあー」
「………もしかしてだけど、喋れない?」
「!あー!あーあー!」
ローサーが問いかけると、肯定するように少女は頷いた。
「マジかよ、めんどくせぇ………」
エンベリラが椅子の背に凭れかかる。「あ」とエンベリラが声を漏らす。
「竜語!」
「竜語?」
「そう、竜語!竜人族なら竜語が話せんだろ?」
「……がう。がうがう」
「おー!話せんじゃねぇか?お前、名前はなんていうんだ?」
「がう。がうがう、がう………」
「………なんて?」
「『名前はない』んだとよ」
「そうか。んじゃ、名前をあげよう!………………ドラパ!ドラパなんてどうだ?」
「!!がう!がうがう!」
「気に入ったらしいぜー」
名前をもらったのが余程嬉しかったのか、何度も何度も口の中で繰り返し呟いていた。
「あ、あーお、ど、あぱ、どらぱ!」
「おー!喋れんじゃん!」
自分の子供が話せたとき以上の喜びを見せるローサーを、冷めた目でエンベリラは見ていた。
ネーミングセンスを責めるなら私を責めてください。