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後編

「なんで人間が、魔物と一緒にいるんだ?」


  黒衣の青年が鋭い口調で言葉を発した。俺は負けじと、明らかにこちらに敵意を向けてくる相手を睨み返す。


「誰だよ、お前」

「フン、こちらでの名はとうに捨てた。それより、早くどっかに行った方がいいぜ。ここが血の海になるのを見たくなきゃな」


 わけのわからない言動をとり続ける青年。しかし、よくよく顔を見ていると、何故か激しい既視感を覚える。


 青年は、震えながら立ち上がるスケさん達に向けなおも剣先を掲げ、威嚇する。これはマズいと思い、俺はスケさん達の前に走り、両者の間に庇うようにして立った。


「ちょ、ちょちょちょっと待て!! まずは話し合おうぜ、な!」

「どけ……。魔物に与する者と話す事など無い」


 そう言って青年が剣をかっこよく構えた時、その姿に俺はある人物を思い出した。


「あれ、もしかして……トラック事故で行方不明になってた、霧島くん?」

「なっ……。そ、そんな奴は知らん!!」


 そう言って焦りだす目の前の男。確かに俺の見たことある霧島くんよりも若干シュっとしているが、その構えは、霧島くんがかつて一人きりの教室で、傘を用いてやってたのとそっくりなのだ。


「いや、多分その霧島くんで合ってるぜ、そいつ」


 暫く話の流れを傍観していた後ろのスケさんが、言葉を発した。


「お前、()()()から()()()に行ったクチだろ?」

「ちっ……」

「安心するのです。あなたと違ってこちらにはもう力も殆ど残ってないし、この世界で何かする気も無いのです」

「グルルルルル……」


 スケさん達がそう言いながら俺の横に立ち、スケさんが俺の右手を、チーが左手を握ってくる。ラバは何故か俺の股座の下からひょっこり顔を出している。


「なあ、こいつらもそう言ってるんだし、とりあえず話だけでも……」


 そう告げると、男――霧島くんは、剣を持った腕をだらりと降ろし、わなわなと震えだした。


「信じられるか……! 卑怯で、狡猾で、残忍な魔物の言うことなんて……。この世界の人間を懐柔して、何を企んでいる!!」


「あれ? これはマズいんじゃ……」


 彼は一瞬ピタリ動きを止め、そして、風が吹いた。それに驚いて目をつむった瞬間に、右隣から、地面をギュッと踏み込む音が、そしてこの暑さの中にいても底冷えするような冷たい声が、鮮明に聞こえた。


「死ね」





 逡巡は、無かった。


「がッ!!!!」


 気が付いたら俺は体を横に引っ張り、チーを押し出す形で、その横薙ぎの剣の軌道上へと身を投げていた。そして左の手のひらから冷たい感触が消えると同時に、肩に鈍痛が迸る。


「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 今まで生きてきて感じた事のない種類の痛みに、情けない矯正を発してしまう。恐る恐る痛みを発する箇所を見てみると、血は出ていなかったが、変な色をしてる上に、二の腕の関節が明らかに増えている。


「やばいってこれ!! やばいって!!! 折れてる!!!!」


 涙でぼやける視界の中で、チーが、ラバが、スケさんが震えながら俺を見ている。


「クソッ、洗脳でもしてあるのか……? 咄嗟に峰打ちにしたから良かったものの……卑劣な奴らめ」


 霧島くんも少し動揺している様子で、こちらを見ている。


 瞬間、ラバが吼えた。そして三人はテキパキと、倒れ伏す俺を日陰の方まで運んでくれ、スケさんはどこからか生み出した骨を添え木にしてくれた。


「ごめんな、ハジメ……。こんな事に巻き込んじまってさぁ……」

「急いで治癒をかけるのです。応急処置にしかならないけど……」

「クゥーン……」


 三者は三様にして俺を見下ろす。その目からは、皆明らかに哀しみの感情が見て取れた。


 俺は声を振り絞り、霧島くんの方に顔を向ける。


「おい、霧島くん……。お前がこいつらを狙う理由……なんとなく想像つくけどさ、……こいつら、結構面白いんだぜ……?」

「なッ……」


 霧島くんの顔に、再び動揺が浮かぶ。こいつもきっと、勇者として異世界に呼ばれたり、魔物と戦ったり、それなりに苦労して来たんだろうな。


「確かに人のおやつ勝手に食ったり、人の漫画を勝手に読んだり……人の家の塀で粗相したり……、悪い所もあるけどよ……それでもさ、俺にはこいつらが、洗脳とかするような悪い奴には、見えないんだわ」


 笑いながら、霧島くんに話しかける。吐息を漏らすたびに、腕に痛みを感じる。


「ふざけんな! そいつらはなァ、人類を散々脅かして、異世界を腐敗させた、あの魔族なんだぞ!」


 霧島くんが激昂する。でも、俺はその言葉に、多少の違和感を感じて、警戒するスケさん達の方を見ながら、言葉の続きを紡いだ。


「人間だってさ……いじめっ子とか優しい奴とかいい人とか、色々いるじゃん……。きっと、魔族だって……」

「黙ってろ!! 話は人類の敵を始末してからだ!」


 だが霧島くんは耳を貸さずに、再び剣を構えた。剣先に、先ほどとは違う、明らかに強力な何かの力が集まっている。


「くっ、皆……逃げて……」


 スケさん達は、しかしそんな状況の中で、ゆっくりとこちらを振り向いた。


「俺達ホント、感謝してるんだぜ。あげられる物なんて、持ってないけどさ……」

「チーの宝物は、つぐみと山分けするといいのです。あと最後に、いしゃりょーとちりょーひくらいは、ぶんどって来るのです」


 そう言いながらチーは、自分の首にかけていたあの鍵のペンダントを外し、俺の首にかけ直してきた。ラバは俺の頬を、ザラザラして温かい舌で舐めてくる。


「最後って……え?」


 不安に思って、問いかける。


「俺達はやっぱり、どこに行っても異物なのさ。世話になったな」


 そう言って、目の前の三匹は再び振り返り――何かヤバイものをチャージしている霧島くんと相対した。


「待たせたのです、勇者」

「そのまま後ろを向いてくれていれば、仕留めやすかったのだがな」

「口には気を付けた方がいいぜ……。俺達少しだけ、()()()に来てるからな」


 空気が、震えた。そして次の瞬間、目の前の三人を、黒い何かが包み始める。否、三人だけではない。俺を含む周囲の空間全てが、黒く塗りつぶされていった。


「これは……世界の狭間……? 貴様らが何故こんな……」

「お前がこっちに戻ってきた時の穴を少し()()()だけだよ。ここなら魔力も補給出来るし、本気を出せる。」

「フ、ようやく本性を現したという訳か」

「いや、これからだぜ?」

「抜かせ!」


 霧島くんが再び消え、そしてスケさんの目の前に姿を現す。その手に赤い光を放つ剣を携えて。


 剣は瞬く間にその光を炎に変換し、スケさんの脳天に思い切り振り落とされた。爆炎がスケさん達を包み込む。


「スケさん!!!!」


 しかしその剣が、頭蓋骨を両断する事は無かった。


 硝煙が晴れると、スケさんは未だに立っており、その右腕はしっかりと燃え盛る刀身を掴んでいる。


「!!」


 霧島くんは咄嗟に離れようとするが、スケさんの手は吸い付いたようにして刀身を離さない。


「なぁ、こっちに戻って来たって事は、魔王とか三魔将の奴らも斃してきて、魔族陣営に勝利したんだろ?」

「ああ、斃したさ。犠牲は少なくなかったが、な……!!」


 霧島くんが再び剣を押す手に力を籠めた。剣が青く光る。


「そいつァ……骨が折れるな!」


 刹那。視界を闇が覆った。周囲の闇とは違う、よりどす黒い炎が、三人の体から放たれたのだ。


 炎は唸りを上げ、霧島くんの姿を隠し、巨大になっていく。


「なんだ、これは……!」


 唖然とする俺の前で、轟轟と唸る黒炎が、突如ふ、と消える。その中に、スケさん達の姿は無かった。


 代わりにそこにいたのは、俺の知らない、だが確かに知っている三体の()()だった。


 一体は、焔を身に纏い、溶岩が体表を流れる、巨躯の竜。


 一体は、不思議な紋様の描かれた外套を翻す、妖艶なる美女。


 一体は、全身余すところなく鋭い骨の刃で構成された、まるで荘厳な芸術作品のような骸骨の化け物。


「ウソ……」


 そのスケールと迫力につい情けない声を上げてしまったが、三体はそれぞれこちらを一瞬振り向き、余りにも自然ににこりと笑ったので、畏怖はすぐに消え去り、代わりに確固たる安心感を覚えた。


「それは……その姿……まるで……」


 炎が消えると同時に弾き飛ばされた霧島くんが、愕然としながら体勢を戻す。


『まるで、なんだ? 御託はいい。始めよう……いや、さっさと終わらそうぜ!』

「……ッ! 吼えるなよ木偶の坊!!! 『スターブーストストライク』!!!!!」


 技名と同時に放たれた青い剣閃は、そのまま空間に傷跡を残し、魔物たちを囲い込む。


「斬!!!!」


 無数の剣閃が、一斉に骸骨の化け物――スケさんを襲う。しかしそれは、本来の役割を果たす前に、塵となって消え去った。体中の骨が伸び、全てを叩き伏せたのだ。同時に美貌の魔女――チーがどこからか杖を取り出し、それを天に掲げる。


 その瞬間、杖が敢え無く砕け散るのと同時に、どこまでも黒い天から、無数の光が降り注ぐ。それは決して俺に当たることなく、霧島くんだけを狙うようにして地に襲い掛かる。霧島くんは先ほど見せた瞬間移動のようなものを繰り返し、次々と避けていく。凄まじい攻防なだけあって、涼し気なチーの顔とは反対に、彼の顔には疲労が色濃く浮かんでいる。


 次いで、体感温度が一気に上がった。溶岩の竜――ラバがその巨体を震わせて、霧島くんに襲い掛かる。体中のマグマが飛び散り、あちこちで何かが溶ける音が聞こえる。


『グルルルルァァァァァァ!!!!!!』


だが信じられない事に彼はその突進を剣一本で凌ぎ、すぐさま反撃の言詞を紡いだ。


「舐め、るなァァァァ!!!!! 『奥義:ホーリージェネシスサンダー』!!!!」


 白い光の奔流が、三体の魔物の頭上に渦を巻き始めた。


『ちょっとマズいな、チー、いけるか?』

『きついかもです。やれるだけやってみます』

『正直でよろしい』


 チーはスケさんの頭上に乗り、再度木製の杖をどこからともなく取り出した。


「終わりだ、魔物ども!!!!」


 光の奔流が、雷となって三体を襲う。チーは合計五本の杖を取り出し、スケさんの頭に思いっきり立てた。


『痛ッ!』

『我慢なのです』


 五本の杖が、同時に砕散する。するとチーを中心に、半透明のドームが出現し、巨大なラバ、スケさんをすっぽりと飲み込んだ。

 そのまま激突する雷は、激しい音と光を生み出し、辺りが黒から白へと塗り替えられていく。轟音が何回も何回も、主のいない部屋の扉を叩くように響き渡り、そして暫く続いた後に、漸く静寂が訪れた。


「ど、どうなった……?」


 残光が網膜に焼き付いて、俺の視界を真白に塗り潰している。俺は何回かまばたきをし、やっとなんとかぼんやりと、目の前で起きている事態を捉える事が出来た。


「!!」


 三体の魔物たちは、限界を迎え、闇に倒れ伏していた。


「ハァ、ハァ……止めだ……!」


 だが大技を放った霧島くんも、決して余裕などなく、苦悶の表情を浮かべながら剣を握っている。


「うおおおおおおお!!!!!!」


 剣が再び光を放ち、それは巨大な刀身を形成して、スケさん達に襲い掛かる。


「やめろおおおおおお!!!!」


 俺は必死の思いで叫び声を振り絞った。







 その時、霧島くんの剣が放つ風切り音に混じって、何かに亀裂が入った音が聞こえた。次いで誰かの――いや、俺はこの声の正体を知っている――凛と通る少女の声が、闇に響く。


「うーん、そこまでにしとこっか」


 亀裂の音は次第に大きくなっていき、同時に霧島くんの目の前の空間に、綻びが生まれる。


「なッ……なんで、君が……!」


 そして空間に、完全に穴が開いた。腕の痛みが記憶と現実を混濁させているのか。そう思いたかった。


 だがしかし、現実問題、今、亀裂をよいしょと乗り越えながら現れたのは、確かに俺の良く知る人物――真尾さんであると、この場にいる全員の唖然とした表情が、しっかりと物語っていた。


「やっほ、山村くん、あと霧島くん、そして――初代三魔将」


 目の前の状況に理解が追い付かない。何故彼女が――こういうノリとはまさに対極に位置する真尾さんが、ここに?


『誰だお前は……何故、俺たちの正体を……』


「そりゃあよく知ってるよぉ。私の大切な部下だもん」


 そう言いながら真尾さんは、パンッと一拍、手を叩いた。次の瞬間、俺達を覆っていた闇も、巨大な魔物たちの姿も、霧島くんが手にしていた巨大な光の剣も、何もかもが消え去り、俺達は元いた公園に戻っていた。


「なっ……まさか……」

「魔王様?」


 俺の良く知る姿に戻り、動揺するスケさんや霧島くんとは対称に、チーが驚くほど平坦な調子で真尾さんに問いかける。


「なんだよ~、てっきり一目見たらわかると思ってたのに……。久しぶり、皆……ってラバ以外は昨日遭ったか」

「魔王だと……!? まさか初代魔王か!!」


 霧島くんが真尾さんに問いかける。対する真尾さんは、まるで昼休みの女子トークをするかのごとく、あっけらかんと言葉を発していく。


「まあねー、今はもうほとんど力なんて残ってないけどね。」

「だが魔王様はあの時、俺達を()()()()後、人間に殺されたんじゃ……」

「転移があるなら転生もあるってことサ。ね、山村くん」

「え、俺? いや、何もわかんないんだけど……」


 突然話を振られても困る。いやマジで。


「そりゃそうか。ねえ、霧島くん。確かにこの子たちは魔物だけど、彼らは山村くんの友達でもあるみたいなんだよね」

「だがそいつらはあの初代三魔将……それにお前だって」

「あー、君の知ってる、彼ら初代三魔将の話は多分誤解だよ。詳しくは離さないけども、彼らは血の気の多い魔物の中であって、とても高潔で優しかったよ。うん。私も色々誤解は多かったけどね」


 あの時、お風呂でスケさんは、自分の事なのに、事実とは違ったおとぎ話をしてたって事か……? でも彼らがもし本物の初代三魔将なら、なんでそんな事を……


 そんなことを考えていると、スケさんが重々しく口を開いた。


「それでも、俺らは所詮魔物さ。悪い奴には変わりない」


 その言葉でなんとなく、彼らのおかれた境遇を想像した。

 彼らは魔物でありながら人々と交流した挙句、大切な()を犠牲にし、魔物から逃げ、人からも逃げ続け、長い年月が経つ内に、そんな自分自身を()()()()()()()()憎んでしまっていたんだろう。


「山村くんは、そうは思ってないんじゃない?」


 その時、真尾さんが優しい声色で、スケさんに語り掛けた。魔王と言うよりは聖女なスマイルだ。その言葉に、スケさんも、チーも、ラバも、俯いていた顔を上げる。

 それを見て俺も、腕を抑えて立ち上がった。立ち尽くすチーの前に行き、先ほど渡された鍵のペンダントを外し、再び彼女の首にかける。


「ハジメ……チー達は……」


 何かを言おうとするチーを、目で制した。


「ま、精々悪戯好きの悪ガキってくらいだよ。お前らなんか。この世界じゃぁ、クラスのDQNよりよっぽどマシ」


 チーが、笑った。ラバも。スケさんは再び俯いてしまったが、その肩は少し震えていた。


「やっぱりハジメは、優しいなァ」


 そして、霧島くんの前までどうにか歩き、膝を折る。


「だからさ、今日の所は、勘弁してやってくんねぇかな?」







 霧島くんは、意外と大人しく引き下がってくれた上に、後日しっかりと医療費等を送金してくれた。なんでも異世界で得た富を少しずつ換金しているらしい。


 あれから2週間。今日は夏休み中唯一の登校日。スケさん達に手伝ってもらって袖を通したワイシャツは、既に汗で濡れている。


 あの後、霧島くんの通って来た穴――世界の狭間と言うらしい――あれを使って元の世界へ帰ると言って譲らないスケさん達と俺は、揉めに揉めた。どうしても、異物である自分たちがこの世界に存在する罪悪感に耐えられなかったらしい。


 いよいよ殴り合いに発展するかと言ったところで、最終的には真尾さんの『いいんじゃない? あたしもいるし』という鶴の一声をもって事態は収束を迎えた。


 真尾さんは今も変わらずにクラスの中心として、何事も無かったかのように陽キャを巧みにまとめ上げている。元が魔王だと思うと、その姿にも若干の貫禄を感じないでもない。


 あの日から、俺の生活において特に変化は無かった。無論、最初にスケさん達が来てから後の話であるが。


「おい、山村」


 いや、変化はあった。二つほど。


「なんだよ霧島」

「明日お前の家行ってもいいか?」


 一つは、この中二病が、ちょくちょく俺の家を訪ねるようになった事だ。


「いいけど……暴れんなよ」

「大丈夫だって。お土産もちゃんと持っていくよ」

「てかここ隣のクラス……」


 なんでも、勇者の力もだんだんと衰えてきて暇な上に、高校でここまで自然に話せるやつは俺くらいらしい(これはお互い様だが)。まあ最近はスケさん達とも喧嘩しながらも仲良くしてくれているし、悪い気分ではないが。多分真尾さんに色々言われたのだろう。


 いや、やっぱよく考えると、こいつがつぐみやチーと遊んでる様子は若干気分が悪い。


「山村くん、一緒に帰ろ」


 そんなこんなで午前のうちに学校が終わり、さて帰るかと校門を出た所で、俺はもうこの2週間ですっかり聞きなれた声――二つ目の変化――に呼び止められた。


「あ、真尾さん」


 初代魔王――もとい、真尾さんである。彼女もあれから、スケさん達のことをたまに見に来てくれている。魔王とは言え、滅茶苦茶かわいいクラスの美少女が家に来てくれるなんて、役得もいいとこだ。


 二人で並んで歩くアーケードはやや蒸し暑いが、そんな事は全然気にならない。


「三人の調子はどう?」

「いつも通り。うるさいしわがままだし熱いし……」

「ふふ、良かった」


 くすりと笑う不意のしぐさに、ドキっとする。本当にこんな子が魔王だなんて、いやはやまったく信じられない。


「私はね、ほんとは人間と仲良くしたくて、魔王になったんだ」

「え……」


 心の内を読むように、真尾さんが告げる。


「でもまあ、いろいろ失敗しちゃって……味方に裏切られてね、()()()()()()の命まで危険にさらしちゃってさ。彼らを守れて死ねたのは本望だったけど、霧島くんに聞いた限りでは、あの世界の未来に私の思いは全く通じてなかったみたいで、ちょっとがっかりしちゃったんだ」


 普段は見せない、弱気な顔をする真尾さん。そんな彼女に俺は


「でも、あの三人にはきっと、真尾さんの思い、伝わってるよ。あいつらが来たお陰で、俺もつぐみも毎日楽しいし、多分あいつらも――それなりに楽しく暮らしてるんだと思う。()はそれでいいんじゃない?」


 彼女が、そしてスケさんが、チーが、ラバが生きる世界は、今はもうこの世界だ。


 ここなら、彼女たちは堂々と平和を謳歌できる。刹那的な考え方かもしれないけど、俺は真尾さんやスケさん達に、今――願わくば、俺と一緒にいる今を楽しんでほしかった。


「……うん、そうだね」


 真尾さんが、これまた普段の明朗快活な笑いとは真逆の、柔らかい微笑みをこぼす。俺はそれを横目に見ながら、大切な人たちの待つ、我が家の鍵を開けた



「「「「おかえりー!!!!!」」」」




めでたしめでたし

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