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山吹紅葉は生徒会長! ―前世は中世に生きた魔女―  作者: 冷水
第一章:生徒会長。二学期~
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自己嫌悪


 流した血の量に、価値なんてない。

 殺された命の数に、怨みの大きさは関係ない。


 八つ当たりだと分かっていても、復讐心が声を上げて主張する。

 あいつを殺せと。

 心が死んでしまうような痛みを与えて、体ではなく、精神を殺せと訴えてくる。


 そう考えると、私の心はとっくに壊れていて、正常な人間ではなくなっているのかもしれない。

 普通の生活に楽しみを見出せず、戦いに生きる者のように争いと剣戟(けんげき)を好み、復讐と殺戮にのみ愉悦を見出す。これを修羅と呼ばずになんと表現するのか。


 やはり私は、心が既に死んでいるのだろう。紅葉でもなく、かといって前世の―――でもない。

 私はいったい、誰なのだろう。


 不安と恐怖に押しつぶされそうだった。

 こんな嫌な感情を持つ自分が、とても嫌らしく思えてしまう。私はどうすればいいのだろうか。



挿絵(By みてみん)




----

 夜の十一時。私は家に帰る。


「……」

 今は柚希の部屋の前で、扉をノックするか迷っている。

 自分勝手なのは分かっているけど、誰かの温もりを感じたかった。ひとりでは押しつぶされそうな自己嫌悪に、妹に慰めてほしかった。



「……」

 けれど、できない。

 もう寝ているかもしれないし、こんな時間に訪ねるのは迷惑だと分かっている。姉妹とはいえ(わきま)えるべき礼儀というものはある。

 きびすを返すように、自室へ戻ろうとしたら唐突に扉が開いた。


「あれ? お姉ちゃん、どうしたの?」

 なんとタイミングが悪いことか、寝巻きに着替えた柚希が部屋から出てきた。

「何でもないよ。おやすみなさい」

「あ、待って。相談したいことがあったの。部屋に行って良い?」


 その言葉で振り返ると、屈託のない笑みを浮かべる柚希がいる。

「……?」

 じっと見ていると可愛い仕草で首をかしげて、純粋な瞳で見つめ返してくる。これは断れそうになかった。

「いいよ」


----

 三分ほど柚希はどこかへ行っていて、戻ってくると私の部屋に来た。


「どうしたのかしら?」

 二人でベットに座りながら、柚希が体をもたれて甘えてくる。頭を撫でながら、どうしたのかを尋ねると、おもむろに口を開き始める。


「あのね、お姉ちゃんと同じ高校に行こうと思う」

「そう」

 私が反対すると思ったのか、相談というよりは報告に近い内容が返ってくる。


「それは柚希が決めることだから」

 両親とも相談して、特に反対が無ければそれで済む話だ。私に遠慮することもない。

 

「それでね、お姉ちゃん。私に『魔法』を教えてくれない?」

「……なぜ?」

 高校に入学するまでは、魔法に関する試験なども存在しない。高校に上がってから覚える者も多いので、そこに差が付くとも思えない。

 即答できず、質問で返すことになってしまった。


「お姉ちゃんが時々、辛そうな顔をしてて。私ね、お姉ちゃんの事をもっと知りたいと思って」

「……」

 縋りつくように、私の服を掴んで離そうとしない柚希は、目を合わせながらそう言ってくる。

「お姉ちゃんが前世で使えた魔法をね、私も使えるようになりたい。記憶までは共有できないけど、思い出の一部を私にも教えて欲しい。もっと、お姉ちゃんの生きた時代のことを、聞かせて欲しいの」

 言葉を探すように柚希はうつむいてしまった。一途さは伝わってくるけど、知りたい理由にはなっていない。


「なぜ、教えて欲しいの?」

「お姉ちゃんが 寂しそうな顔をしてるから。過去の自分を語るとき、泣きそうな顔をしているから。手紙の紋章を見てたとき、辛そうにしてたから。私はお姉ちゃんの、力になりたいの」

 その方法にと選んだのが、私の魔法……魔術を教えて欲しい事に繋がると柚希は語る。

「たんさん共有した方が、きっとお姉ちゃんの力になれる。悲しいときには、相談にも乗れるかもしれない。私には、それくらいしか出来ないから」


 私は今、どんな顔をしているのか。柚希の瞳に映る私は、無表情で冷たく見つめていた。

 一方の柚希からは家族に対する愛情が伝ってくるのに、私からは暖かい感情は返せていない。思考が止まってしまい、何も考えられなくなっている。


 忌み嫌われることになった魔術、根絶してしまったそれを、今更のように現代へ復活させて何になるのか。

 残虐な使い方をすれば、他の魔術を凌ぐほどの精神的な苦痛を与えられる私の技術は、現代にあっていいものなのか分からない。死ぬまで私の中にとどめておいて、誰にも継承させずに消してしまう方が良い。


「駄目よ」

「私ね、考えたの。お姉ちゃんが前世の自分を好きになれないのは、辛い記憶もあるかもしれないけど、もっと違う原因があると思うの」


 柚希は腕を背にまわし、強く抱きしめて離そうとしない。反対に私は逃げ出したくなって、絡め取られた腕を解こうとする。

 その真っ直ぐな眼差しが、心に突き刺さって痛かった。この痛みから、逃げ出したかった。


「お姉ちゃんが魔法の事を語るとき、少しだけ誇らしそうだった。だから思ったの。お姉ちゃんにとって、その魔法の記憶はとても大切なものだって。それが皆から嫌われて、自分のことまで嫌いになってるんじゃないかって」

「……それ以上は、やめて!」

 その言葉で柚希と視線が合わせられなくなった。何も分かっていないのに、心の中まで見透かされるような感覚がして、それが堪らなく嫌だった。

 だけど同時に、素直になれないだけで分かってはいた。世界から嫌われた魔術が、この世に存在してはならないと迫害された技術が、心のよりどころだった事に。


「私は前世とか関係なく、お姉ちゃんの事が好きだよ。だから、私にも教えて欲しい。お姉ちゃんが誇りにしていた、魔法のこと」

 手には冷や汗が浮かんでいる。鳥肌が立って、寒さを感じてしまう。それでも、柚希と触れ合っている部分だけが暖かかった。


「……」

 もう一度、柚希の方を向いた。

「……」

 柚希に映る私は、口をつぐんで肌が青白くなっている。怯えたような表情をして、泣きそうな顔をしていた。


 逃げたい。柚希を追い返したい。

 言葉が刃物のように、私の首筋に突き立っている。傷つける為じゃないと分かっているのに、その切っ先が恐ろしい。

 柚希が向けてくれる愛情が怖い。

 私は私であって、紅葉ではないのかもしれない。それを本当の意味で理解した時、柚希は私から離れてしまうのが怖い。

 一度は語って聞かせた私の前世も、全てを打ち明けた訳ではない。


 中世という時代は、現代ほど綺麗事だけで生きていけるような甘い世界じゃなかった。人を殺した経験もあるし、貴族として後ろ暗い政治に関わったこともある。

 戦争だってあったし、貴族より下の身分である平民や農民の命は軽く、領主の所有物として扱われていた時代。奴隷という身分も珍しいものではなかった。


「……」

 柚希が見つめる先に居るのは、本当に私なのだろうか。それが信じきれない。

 それでも、ここで逃げ出してしまえば、永遠に誰かを信頼することは無くなる気がした。


「分かった。柚希を、信じる」

「うん」

 声が震えてしまった。それでも、気持ちが一線を越えたからか、寒さは感じなくなった。

 抱きしめ返すと、柚希はとても暖かかった。とても良い匂いがした。



----

 この日は、柚希に抱きしめられる形で眠りについた。

 いつも見る悪夢を、この夜は見なかった。記憶を焼きなおすかのような、強烈な前世の夢を。


 目覚めると、心の中にあった霧が晴れるように気分が良かった。


「ありがとう」

 抱き枕にされながら、それが不思議と嫌な気分ではなかった。子供ではないのだから、本来は姉妹でもここまで過剰なスキンシップは取らないだろうけど、今は心地好かった。

 引き剥がしながら、寝ている柚希の頭を撫でる。くすぐったそうに、身をよじる柚希が、とても可愛らしく感じられた。


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