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10「3番目の女」
「ということで、サブローさんのおかげってわけ」
「はいはい」
英子は軽いデジャヴを感じながら、自由が丘のカフェで電話をかけてきた女、青柳絵美と話していた。
「で、結局そのコミケの準備とやらでは、サブローさんは役に立ったのかしら」
「そうね、結局仲間のPCにはありとあらゆるトラブルが起こり、私たちはその後、私のうちで三日三晩寝ずに、ありとあらゆる作業をしたわ」
「そうなのね」
「三日三晩、あらゆる作業をしたの、私の部屋で」
「ええ、ええ」
「三日三晩、あらゆることを、私と」
「何度も言わなくてもわかります」
「ここは大事なとこなの」
では、その大事なサブローとなぜ別れてしまったのか。
「サブローさんとはその後?」
「ええ、一緒に暮らしたわ、3年間」
「3年も…それはそれは、あらゆることをしたのね?」
「ええ、私はクリエイターの仕事を、サブローさんは主に…」
「パソコンの面倒を?」
「ええ、そこで決定的な溝ができてしまったのよ。私はパソコンのメンテナンスよりも仕事が大事だと考えはじめてしまった」
「"普通に"考えそうなことね」
「でもサブローさんはそうは考えていなかった。私がサブローさんに仕事を斡旋し始めた頃から、二人の間には溝が深まってしまって…ついには」
「別れたと」
「でも失って気づいたのよ、"パソコンと人"、そして"その間に立つ人"ってとてつもなく大事なんだわって」
「いやーあ??そこはよくわからないけれども?」
「ねぇ、彼は今どこに?この間、私のお父さんのPCを直したんでしょう?知ってるなら教えてよ…。」
こんな世迷いごとではなく、サブローは私たちが見えてない何かを見ているに違いない。それが何なのか…、直接サブローに聞いてみたい、彼のことだからはぐらかして、なにも話さないとは思うが。
「絵美さん、サブローさんに会ってどうするつもりなの?、もう、彼には新しいパラサイト先…もとい、恋人がいるのよ」
「そうね、たしかにそう。今はできる事などないのかもしれないわ。恋人、最初はあなたかと思ったのだけれども。どうやら貴方は…」
「私は?」
「あなた、恋愛スイーツみたいだし」
「スイーツ?」
「仕事一辺倒のように見えて、録り溜めた流行りのドラマを週末一気見して、ブログに泣きながらセリフ引用して感想を上げるような人…」
「なによそれ、見たの?見たの?あなた、私の週末を」
「どうせ、私が電話をかけた時もサブローさんと何かしてる夢でも見てたんだしょう」
「じょ、冗談じゃないわよ、なんで私がそんな夢を」
「やっぱりそうなのねw。いいわ、今は3番目の女でいてあげるわ。私はあなたと、そのサブローさんの今の恋人とやらが、破滅していく様をじっくり眺めてから、満を持して現れることにするわ」
「破滅なんて。しかも何で私まで」
「あなたたちには絶対に訪れるわ、私のように、いつか”パソコンより仕事が大事”と思う瞬間が、ふふふふ」
「いや、瞬間て言われても、今までも今でもずっとそう思ってるし」
「その時にはもう遅いわ、あっはっはっはっは」
絵美はそのまま立ち去った。勘定も置かずに。
「困ったわ、面倒な女と知り合いになってしまったわ」