台詞
「ほほう、あなたもあの事件について何か情報を?」
サブトローはバイト少女に話しかけた。
「ええ、私!見たんです!3年前、あのビルで!」
「あのビルで?」
しかし少女の話は聞くことは叶わなかった。
「すいませーん!、ビール追加!」
バイトに休む暇などなく、遠くの席から注文の声が上がる。
「はーい、お待ちください」
「またあとで話しますね」
バイト女子はそそくさと去ってしまい、何を見たのかは分からずじまいであった。まぁ少し暇になったらまた声をかけてみよう。
「しかし奇遇ね、あの事件について何か知っている人が一度機に二人も現れるなんて」
英子がそういうと、さよりは少し顔を背け
「そ、そうね。なんでかしらあははあはは」
絵美のヤツぅ、いい加減にしなさいよ〜。
「でね、さより、サブローさんのこのメモを使って、サブローさん、すごいことを考えているらしいのよ」
「へぇ…どんな?」
またカチンときてしまった。なんでだか分からない。もう病気である。自分の夫が他の女と自分の知らない事をしているのが、どうしても許せないのだ。おかしいことはわかっている。でも止められない。
「私もよく知らないんだけど、サブローさん、説明してよ」
「そうですね、コトの詳細が書かれた大量のテキストデータを僕のコンピュータにかけて、分析してみようと思っているんです」
「そんなことできるの?」
「…」
サブローは少し間を置いて興奮気味に話し始めた
「さよりん、英子さん、聞いていただけました?私の今のセリフ!」
「あなたのコンピュータがどうこうっていう?」
「そう、まさにそれです!一度言ってみたかったんですよ!”僕のコンピュータに聞いてみよう”。ほぼ憧れのセリフと同等のものが私から発生しました!」
「へぇ」
英子は全く興味なさげにうけ流そうとしたが、サブローはさらに食い込んできた。
「しかもですよ、英子さん、あなたは素晴らしい。その後の受け応え。”そんなことできるの?”。完璧です。いやぁ、すばらしい。よくもあんな自然に言えたものです。コンピュータ探偵団になって本当に良かったです!」
「誰がコンピュータ探偵団よ。勝手に名前変えないで」
「いやぁ、名セリフだったなぁ、よく言えたもんです。しかもあんなジャストなタイミングで」
勝手に盛り上がるサブローをよそに英子がビール片手にシシャモをくちゃくちゃやっていると、さよりはまた怪訝そうな顔をした。
醜い。醜いこの女と愛する夫がまた独自の世界を作っている。かつての親友も、いまやさよりにとっては忌むべき敵。そう、たたみかけるように作戦を遂行しなければ。捜査を混乱させ、報酬が入らないようにする。それで夫は自分の元に戻ってくるのだ。
「あーっはっはっはっはぁ」
二つ先の席から大声で会話する男二人が見える。IT企業に勤めているようなスーツ姿に大きいカバン。それにしても声が大きい。こちらに丸聞こえである。
「それでさぁ!、3年前のあのSAEビル爆破未遂事件なんだけどさぁ!!」
さよりはまたテーブルに突っ伏して額をテーブルの角にぶつけた。




