役者
川崎の居酒屋。なんでも英子の行きつけの店らしい。しかし英子には飲み友達などいるのであろうか、それともオヤジのようにカウンターでアタリメでもしゃぶりながら飲んでいるのであろうか。絶対そうだ。
「なんだか、みんな揃って食事なんてずいぶん久しぶりなきがするわ、仲間だというのに」
「そうですね、ここのところ、ずっと仕事してましたからね、我々」
「そうね、二人仲良く”仕事”、してるみたいね」
サブローの充実した表情を見て、腹立たしくなったさよりはキッと英子を睨み付けると、歯をギリギリしながら言った。
「さ、さよりさん、その通り、仕事よ仕事」
「はぁ・・・、私はいつも通り、自分のやるべきことをやるわ。今日は、まぁたまたま?居合わせているだけ。仕事もあるし、あとは3人でやってくれるかしら」
絵美が珍しく空気を読んだ発言をした。
「あ、絵美、もう行ってしまうの?」
「これから”役者”との打ち合わせがあるのよ、ちょうど川崎で待ち合わせなの」
「役者?」
「ええ、これからの仕事の関係のね」
「ほう、ゲームの関係の役者さんですか」
「少し違うけど、まぁそのようなものね、終わったらまた合流するかも」
絵美はそういうと何も注文する前に、早々に席を立った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずい、なんだか最近さよりは怖いのだ。育児が忙しくなると、事務所になかなか来なくなり、サブローと聞き込みを開始したぐらいから、よそよそしくなってここ最近は殆どしゃべっていない。
英子は恐る恐る話を切り出した
「さよりさん?」
「何よ」
「む、娘さんは今日はどうしたのかしら」
「ベビーシッターに預けてきたわ」
「そう、残念…、会えるかと思っていたのに」
「いやよ、こんな騒がしいところに私の可愛い娘を連れてくるなんて(英子もいるし)」
「そ、それもそうね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ご注文は?」
いいタイミングで店員が注文を取りに来た。
「え…、あぁ、レ、レモンサワーで」
「あぁ、僕もそれで」
「っっ…ふん、私は中生」
「さよりん、当分お酒は控えるって…」
「何よ、いいじゃない」
「は、はい…」
どうやらサブローも怖いさよりにギスギスしているようだ。お互いそうであれば、まぁ二対一でなんとかなるかもしれない。英子はそう考えると仕事の話をすることにした。
「さ、さより、最近はアレね。三年前の爆破未遂事件でサブローさんを引っ張り回してしまって、ごめんねさいね、帰りも遅くなったりして」
「ああ、仕事なんでしょう?聞き込みは二人でやってるの?」
「あ、ああ、そうなんだよさよりん。英子さんが質問して、僕が記録係」
「ふん、そうなの。経過は順調なの?」
「それが、なかなか関係者や目撃者の見当がつかなくって、なかなかうまくいかないのよね」
「まぁでも、あの警察の方に聞けば少し洗い出せるかもしれません」
「そうね、あの男にまた会うのは嫌だけど、こうなったら背に腹は替えられない」
「ふーん、大変なのね…」
さよりは興味なさそうに二人のやりとりをジト目で見つめた。
「あのぉ…」
「そうそう、そういえば、サブローさん今までのメモは持っている?」
「ええ、全てを克明に記録してあります」
「あ、サブローくんのメモね」
「え?さよりは知ってるの?」
「ええ、私の夫なのよ。当然知ってるわよ、めちゃくちゃ細かいでしょう?」
「そう、そうなの目配せしたとか、左手でカップを持ったとかどうでもいいこともたくさん」
「ええっと…」
「どうでもいいねぇ、どうでもいいいなんて、ふふふ草生えるわ。英子、まだあなたはサブロー度が足りないと言わざるを得ないわね」
「なによ、そのサブロー度ってw」
「先程から聞いていると」
「そう、今はメモの細かさの話をしているところなの。あのメモに私の本もだいぶ助けられたわぁ、あの時なんだっけー?っていうと、全部サブローくんがまるで目の前に再現するように答えてくれるのよぉ」
「メモの細かさなら誰にも負けません」
あっはっはっは。そうなんだ、かわらないのか。
やっぱり共通の話題、サブローの話になると盛り上がる。少しさよりの機嫌も直ったようだ。ここはずっとこの話で引きずって。
「今、このままずっとこの話をしようと思ったでしょう!そうはいきません!」
「誰あんた?」
気がつくと、背の高い男が三人の前に立っていたのであった。




