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パソコンヒモ男  作者: ふじふじ
対決編
41/47

榊原

「榊原の話」


榊原はそういうと、話し始めた。


「そう、あれは発酵槽ぬかどこSH02の開発をついに終え、テスト漬けの毎日を過ごしている時だった」

「はぁ」

「クズ根菜、クズ根菜、緑黄色、緑黄色と来て、ついにその夜から一夜干しの大根へとシフトする。そんな時期に差し掛かっていたのだ」

「英子さん大変です」

「なに?サブローさん」

「おっしゃっていることが全然頭に入ってきません」

「いや、これは失敬失敬、簡単に言うと、ぬか床を作って本格的に漬けようと思っていたということなのだ。HAHAHAHAHA」

「ようやくわかりました」

「ある朝、早朝の天日干しを終え、会社に早めにいくと、会社の若手が目を充血させて私に訴えて来たのだ」

加藤ケイトーですね?」

「その通り、彼がなにやら奇声をあげて、私に近寄ってくると、話したいことがあるという。私はピンと来たね。彼は何かを作りたがっていると」

「ええ、私を陥れようとしていたんですよ。あの男」

「HAHAHAHAそうなのかい?でもなかなかいい案だったよ、英子くんと進めていたシステムの横展開の話を発展させ、その後の有利な運用へと結びつけようという妙案に思えた」

「榊原さん?」

「何だね?英子くん」

「それはおそらく榊原さんのお考えです。加藤の資料にはそんな文言、一つもありませんでした」

「そうかね?とにかく僕はサブプロジェクトとして彼のアイディアを採用し、プロジェクトの修正案を作りたいと思った。早急にだ」

「なるほど」

「そして、誰だったか、そのケイ、くんと徹夜で2日ほどかけてプロジェクト修正案を作成したのだ」

「彼はその前にも二日徹夜していたようです。1日は私の指示で資料を作って、そしてもう1日は私に復讐する怨念で」

「どうりで、若いわりには元気がないと思ったが、そういう事情だったかHAHAHAHAHA」

「で、資料を作ったその日に、私とばったりあってお話ししたんでしたよね。プロジェクトの修正案を」

「その通り、仕事の件はあとは君の知っての通りだ」

「ええ、あの修正案、その後の査定で評価をいただいて、決済されましたわ、いまでもSAE社は優位にシステムの運用をしているはずです」

「そうだろうな、案自体も良かったが英子くんのプレゼンが素晴らしかった、特にあの下着姿ランジェリー


「ぶっ」

サブローはお茶を吹いた


「そ、そんなことしてません!」

「ジョークだよ、英子くん。英子くんの弁舌は素晴らしくて、まるでこちらが丸裸にされるようだったがね。が!、しかし!!」


「が、しかし?」


榊原の気迫に英子とサブローは息を飲んだ


「常温の発酵槽は…」

「ぬ、ぬか床は?」

「撹拌が必要だと知っているかね?英子くん?」

「いえ、漬物はスーパーで買ったことしかないので」

「とにかく、英子くんのプレゼンに満足したその瞬間、私は思い出したのだ」

「な、なにをです」

「いや、だから家に帰ってないだろう?、連日の徹夜で」

「はい」

「その間、発酵…ぬか床はどうなっている?」

「ええ、多分おうちに」

「そう、家に常温で放置されてしまっていたのだ」

「なにが問題なのですか?」

「はぁ…。英子くん…」


榊原はため息をつくとちょっとした剣幕で


「か・く・は・ん・は、ま・い・に・ち!必要なのだよ!」


「ええっ〜!」


サブローは驚いたふりをした。さすがに上手だ。刑事物で勉強しているだけはある。ここでこの驚嘆がなければ榊原はさらに激昂しただろう。サブローは続けた。


「つまり、こういうことですね!、榊原さん!」

「ああ、そういうことになるな!」


「え?だからどういうことなのよ」


「いや、ちょっと言ってみたかっただけなので…」


榊原はその後の、カビさせてしまったぬか床を泣く泣く廃棄したこと、数日間は仕事が手につかなかったこと、そして漬かるのを楽しみにしていたろう大根、きゅうり、人参、カブが不憫であったこと。何日もカレーばかり食べて過ごしたことなどを大変な早口で喋った。そして続けてこう言った。


「そう、あいつさえいなければ」

「えっ」

「ケイトー!あの若造のせいで、私は今こんな気持ちに!と考えたのだ」

「自然な考えですわ」

「でもいい歳して若者に当たるというのもね、みっともないだろう?」

「その通りですね」

「そんなことで、私はちょっとしたイタズラを仕掛けたのだ」

「え?いたずら?」

「そう、彼の携帯のメッセンジャーに」

「メッセンジャーに?」

「会社に爆弾が仕掛けられる、とメッセージを送ったのだ、むろん、すぐにそれはジョークだから!と追送したのだが、きっと彼はそれを真に受けて…おおう、それがあんなことになろうとは…」

「な、なんてこと…」


その後、榊原は涙を浮かべながら懺悔を繰り返した。このことは警察にも話していないこと、3年間罪の意識に苛まれ、納得のいくぬか漬けは一度もできていないこと。そして、今日依頼を受けて打ち明けるチャンスが来たことを嬉しく思うことなど、ひとしきり話すと榊原は再び安らかな顔になり、英子に感謝の言葉を告げた。


「英子くん、ありがとう。君がこの事件を引き受けてくれたおかげで、ついにこの心の痛みを打ち明けることができた」

「はぁ、成り行きなので、あまり気になさらないでください」

「思えば君にも苦労をかける結果となってしまった、本当にすまない」

「榊原さん」

「なんだね?英子くん」

「私最近、思うんです、私はもともと今みたいな人間だったんだろうなって」

「まさか、あの才気溢れていた君が場末にいることが本当の君だというのかね」

「でもそうなんです。仕事をなくして仕舞えば、私の地位はなかったも同然。お金の使い方も、人との付き合い方もまるでわかりませんでした」

「そうなのかね?」

「ええ、ここにいるサブローさんと何人かの仲間と信頼を築くのさえ最近できるようになったっていうぐらいなんです」

「そうだったのか」

「ええ、だから私のことはどうかお気になさらずに」

「わかった、そう言っていただけるとありがたい」


英子とサブローは榊原の夕食の誘いを丁重に断ると、帰路に着いた。聞き込みの段階でいろいろと感情を左右されるのは良くない。二人は榊原と別れ駅に降りたった。


「英子さん」

「なに?サブローさん」

「榊原が犯人ですね!」

「なにその無能な助手アピール」

「そうですか、やっぱりダメですよね」

「そうね、彼が犯人である証拠も動機も薄いわね。しかしたしかにケイトーの行動のきっかけを作ったのは榊原、それは間違いはないわ」

「この事件」

「うん」

「奥深いですね、きっと」

「そうかもしれないわね、あー、面倒面倒、さて、タバコ吸いたいわ」


英子はポケットを弄ると、バージニアをくわえて、喫煙スペースに歩いて言った。その姿はまるで映画の探偵みだいだな。とサブローは思ったのであった。



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