面会
6 面会
英子は東京の拘置所に面会を申し込み受理された。加藤も英子に会うという。
加藤と会うのは3年ぶりである。
あの爆破未遂事件では実質、加藤の顔は見ていない。英子の警察での証言も参考にはされたものの大きいのは現場に残された物的証拠類と、休日にビルにいたという加藤の不審な行動でほぼ、現行犯逮捕に近い形であった。
一旦は解決したかに思われた爆破未遂事件事件だが、加藤が一貫して容疑を否定していたのと、見掛け倒しで全く機械のことなど知らない技術弱者であるところ、警察の調査が不十分であること、加藤の動機がないことなど、さまざまな矛盾がここにきて発覚。
おそらく無罪判決が降るだろうというのが大方の予想だった。
SAE社爆破未遂事件は、当時新聞一面で大きく報道されていたので、裁判の関心度も高く、傍聴していたものも多かったことから、さよりのアカウントにも情報が届いたのだ。
「とにかく、何を話そうかしら。あいつには私が言ったから捕まったとかは…伝わってるわよね」
警察に提出するように言われた、LIMEのメッセージや、事情聴取記録などは当然残ってるはずであるし、加藤にも伝わっているはずだ。だが、語尾の感じとトチ狂った発言など、あの時の加藤であることは疑いようもなく、英子は思ったとおりのことを言ったにすぎない。
面接部屋に通されると、目の前に加藤はいた。
最後に見たときより、顔がすっきりして、髭もなかった。当然だろう。最後に見たときは徹夜に次ぐ徹夜をしていたのだから。正直、臭かった。
英子が何を話そうかとまごまごしていると、加藤の方から呼びかけてきた。
「伊澤さん、来てくれたんですね!有難うございます!」
「え、ええ、正直私、あなたにどう思われているか不安で、ここに来るのも相当悩んだのよ」
「そんなこと!いや嬉しいです。知り合いもいない中、ずっと孤軍奮闘していたので、伊澤さんがいてくれたら心強いです」
「そんな風に言ってくれるなんて安心したわ、それがわかっただけでも来てよかったかも」
「もっと早く来てくれればよかったのに、僕の無実を証明してもらうには伊澤さんが一番よかったかもしれません」
「私もいろいろあって、あの後、すぐ会社はやめることになってしまったし…今は小さい調査会社を経営してるの」
「そうだったんですね、いろいろと…たしかにいろいろありそうですね」
英子のスーツは3年前のもの。襟足はよれ、袖は少しほつれ、髪の毛もボサボサであった。
「いいのよ、それはいいの…。やめてあんまりジロジロ見ないで…。そう、そうなの、貧乏なの。お金がないの。今回だって前の事件が何かお金にならないか。そんな事で来てるのよ」
「伊澤さん、貧乏とはいえ、自由な生活。これに勝るものはありません」
「わかったわ。それは肝に銘じておく。そんなことより私が気にしていたのは、あなたが逮捕された時の言っていたこと」
「え?何か言ってましたっけ」
「え?ウソでしょ、はっきり言っていたわよ、’あいつの仕業’だって」
「ああ、それですか」
「そう、それ。誰のつもりで言っていたの?まさか私じゃないわよね?」
「まさかそんなこと。いやこれは確証のないことですし、名誉に関わることなので言っていいものか」
「私だけにでも言ってくれないとすっきりしないわ。当事者なんですもの」
「伊澤さんだけに言います。私はあの時榊原さんに嵌められたと思っていました」
「榊原ってあのシャイニングティースの?」
「ええ、サンダース榊原です」
「なんでそんな風に?」
「わかりません。ただし、ほぼ新人同然だった私が交流した人の中で思い当たるのは、伊澤さんか、サンダースさん。でも伊澤さんは…」
「あたしは?」
「なんか可愛いところがある、ビビリだと思ってたので爆弾なんか扱えないだろうと」
「な、なん」
「泣いて大騒ぎしたとか伺っています」
「あの刑事…!」
「あと残るは榊原さん。でも別に恨みを買うようなこともしていないし、でもあの時は消去法で彼に違いないって思ったのです」
「なるほどね。たしかにあなたに何かなんてちょっとはあるかもしれないけど、そんな因縁があるとも思えないわね」
「そうなんです。実際、調査はされたと思いますけど彼に疑いがかかることはありませんでしたしね」
「じゃあ真犯人がわからないまま、あなたは釈放に?」
「そうなりますね、そもそもやってないのですから、それに実は私…」
「何?」
「こう見えて技術系のことはさっぱりで」
「それは知ってた」
面会を終えると英子はいささかがっかりした。あの時の調査で何かこちらができそうなことがあれば強引にでも首を突っ込んでやろうと思っていた。でも今のところ何もなさそうである。ただ、今回の面会で加藤が自分に危害を加えるようなことはなさそうだとわかって少し安心した。
しかしこのまま…空っぽの財布を眺め
「今止まったって何にもならないわ!とにかく行動しなきゃ」
英子は事件当時担当の刑事に会う手配をしていた。あの刑事に泣かされたので苦手なのだが。
「さ、サブローさんも連れて行こう」




