第1話 【検索数0】父さんな、小説家で(略)←完全にブルーオーシャンでワラタwww
55歳の会社員は、昔自作したPC(intel®Core(TM)i7-960@3.20GHz)の前で、キーを一生懸命に叩く。
「ッターン」
夢中になっているのは2ちゃんねるやツイッターではない。
AIが作り出す、今まで見た事もないエンターテインメントの世界だ。
会社で何の気なしに取引先のメールをAIに食わせて、
「めんどくさいのでお断りのメールを作ってよ、やんわりと」と入れた所、
ものの数秒で返信メールが完成してしまった。
「すごい! Copilotは神か!」
ちょっと前まではAIと言っても、どこから学習したのかわからないスパゲッティを食べる黒人の動画とか、
メタモルフォーゼしながら動く人間とか、
トンデモ映像を見て笑ったものだが、最近は実写なのかAIなのかわからないレベルになってきている。
音楽だってそうだ。
適当にプロンプトを打つだけで、歌入りの音楽まで一瞬でできる。
まぁ、intel®Core(TM)i7CPU 960@3.20GHzもあれば当然である。
時代は変わったものだ。そして昨今のアニメ事情である。
何でもAIを使用したオープニングだからと、映像を差し替えたとかなんとか。
そりゃ昔には、どこかの国のミュージックPVが日本のアニメを完全模倣したとか、オマージュとか色々あったけど、AIは違うだろ。
カタカタとネットを検索する。
ここでもまたAIの出番だ。「よろしくCopilotっターン」
どうやら小説が原作の異世界アニメらしい。「ふんふん、ほうほう」
ようつべに上がっている新旧のOP比較動画を画面に並べ、目を凝らして確認する。
「……どこが変わっているかよく分からん」
確かに判らない所が問題なのだろう。アニメーターはそれでなくても安月給と聞いている。
そこにAIを入れてしまうと本格的におまんまの食い上げである。
なんかよく判らないけど今開いている小説サイトだってそうだ。
問題の元となった小説のページを見ながら、職業作家ならともかく、インターネットにはこんなにも無数の作品があって、どれにAIが使われているのかなんてわかんないじゃないか!
AI使用には色々と賛否はあるだろうが、少なくともメール返信を作り出す能力は俺を超えている。
そう思っているうちに良からぬ思いがムクムクと頭をもたげ始める。
「メール返信が完璧なら、小説作っても完璧じゃん!」と閃いてしまった。
液晶画面の明かりに照らされた55歳の顔に、邪悪で、それでいて少年のようなニヤケ顔が浮かぶ。
今度はキーを叩く指に、さっき以上の力がこもる。
AIを駆使して小説サイトに投稿して人気が出たらどうなる?
アニメ化か? 映画化か? 声優は誰にしてもらおう。
主題歌はAIで作った曲を使えば、作詞作曲の印税まで丸儲けじゃないか!
会社なんて速攻で辞めてやる。
退職届の文面だってCopilotに「めちゃくちゃ円満かつ、引き止められないような文面を作ってよ、やんわりと」って頼めば一発だ。
湯水のように湧き出る印税で、まずはこのi7-960を最新のi9に買い換えて……いや、いっそ家ごと建て替えるか!
まだ1文字も書かせていないAIを前に、彼の頭の中ではすでに億万長者へのカウントダウンが始まっていた。
興奮で震える指をキーボードに添える。我が愛機が静かに佇む前で、彼は一攫千金の「呪文」を打ち込み始めた。




