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1. 雪の朝

朝なのか、まだ夜の続きなのか、よくわからない光だった。


カーテンの隙間から差し込む白が、部屋の輪郭をやわらかくぼかしている。

東京でこんなふうに雪が降るのは、年に一度あるかないかだと、誰かが言っていた気がする。


瑞希は目を閉じたまま、隣の気配だけを確かめていた。


小さく、規則正しい呼吸。


ときどき、ほんの少しだけ寝返りを打つ音。


触れていないのに、すぐそこにいるとわかる距離。


それだけで十分だった。

腕を伸ばせば届く。

でも伸ばさない。

触れたら起きてしまうかもしれないし、

起きてしまったら、この時間は終わる気がした。


だから瑞希は、ただ横にいるだけでいいと思った。


こんなふうに、何も起きない時間のほうが、あとに残ることを、なんとなく知っている。


充希の髪が、枕に少しだけ広がっている。

昨夜、乾かしきれなかったのか、毛先がわずかに重たそうだった。


顔は半分、布団に埋もれている。

目を閉じたまま、少しだけ唇が開いている。


起きているときはよく喋るのに、こうしていると、まるで別人みたいだと思う。

瑞希は、その横顔を見ていた。

見ているだけで、何かが満たされていく感覚があった。

理由はよくわからない。

たぶん、理由がないからよかった。


昨日の夜のことは、思い出そうとすれば思い出せる。

けれど、今はまだ思い出さないでいた。


言葉にすると、少しだけ形がはっきりしてしまう気がしたから。


その代わりに、今ここにあるものだけを確かめる。


部屋の温度。


シーツの皺。


窓の向こうで静かに積もっていく雪。


そして、隣にいる充希。


それだけでよかった。

——たぶん、こういう時間のために、続いていたんだと思う。


瑞希は、そう考えて、すぐにやめた。

考えてしまうと、どこかに辿り着いてしまいそうだったから。


ただ、横にいる。

それ以上のことは、まだいらなかった。


充希が、少しだけ身じろぎをした。

布団の中で、無意識に距離が近づく。

肩が、わずかに触れた。

ほんの一瞬だったけれど、それだけで十分だった。


瑞希は、息を整えるみたいに、ゆっくりと目を閉じる。


このまま、もう少しだけ。


そう思いながら、何も起きない朝の中に、静かに沈んでいった。




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